2016年2月13日土曜日

ヘヴィでメロウな次元上昇ドライビングミュージック ― 特撮『ウインカー』(2016)

ウインカー【通常盤】
ウインカー【通常盤】
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特撮
キングレコード (2016-02-03)
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 大槻ケンヂ率いるトラウマ・ヘヴィ・ロック・バンド 特撮の約三年ぶりの新作フルアルバム。本作のおおまかなテーマは「ドライビングミュージック」ということで、車にちなんだ楽曲が多め。なお、初回限定盤と通常盤でアルバムジャケットの車の色とナンバープレートの数字が異なり、各ヴァージョンの品番があしらわれています。「1093 TKS2」は、つまり「とくさつ」。映画「ヌイグルマーZ」の主題歌タイアップとして2014年1月にリリースされたマキシシングル収録の"シネマタイズ(映画化)" "ハンマーはトントン"の再録のほか、アニメ「監獄学園」への提供曲"愛のプリズン"、声優バラエティ番組「声優男子…ですが?」への提供曲"七人の妖"の各セルフカヴァーを収録。本作のキャッチーな側面はこの3曲が存分にカヴァーしています。アルバム曲はスタジオでのセッションを中心として肉づけしていったとのことで、ストレートにライヴ映えする曲が増えたなというのが第一印象。また、前作『パナギアの恩恵』に伴う2013年のツアーからサポートベーシストとして参加しているOBLIVION DUSTのRIKIJI氏がほぼ全曲("ハンマーはトントン"のみ高橋竜氏)のベースを担当しております。




 オープニングの"荒井田メルの上昇"は、バイク事故でアセンション(次元上昇)してしまった少女 荒井田メルが「ザ フューチャー」なるカリスマに覚醒するというストーリー。荒井田メルは終盤の"人間蒸発"にも登場し、本作のキーパーソンとなっています。そして、彼女の行く末は「どうなったのか分からない」。不条理展開とオチはオーケンの十八番ですね。心なしか歌メロが前作の"タイムトランスポーター2「最終回ジャンヌダルク護送司令・・放棄」"に似ているのですが、これが意図的なものなのか無意識的なものなのかはともかくとして、あの曲のストーリーも歴史改変の果てに渾然としたオチがついていたなあと、ふと思い出しました。"音の中へ"にはイヤホンズでも活動する声優の高野麻里佳さんが参加。『Agitator』の激重路線を想起させる、ARIMATSU氏作曲のヘヴィ・グルーヴ・チューン"アリス"は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と谷村新司のアリスのクロスオーヴァーを思いついたがゆえのムチャクチャな一曲。"富津へ"は、オーケンが車で富津(ここは疎遠だった兄が亡くなった地とのこと)へドライブへ行った際に詞が浮かんだという、ウェットなスロウバラード。前作に引き続き、声優の後藤沙緒里さんがウィスパーボイスを吹き込まれているほか、元オフコースのメンバーでシンガーソングライターの松尾一彦氏がハーモニカを吹かれております。ストリングスアレンジはNARASAKI氏の盟友 WATCHMAN。

 "人間蒸発"は本作のハイライトで、前述の荒井田メルの動向を描きながらアジったり啓蒙したり感極まったりするミクスチャーな詞のドライヴ感が、ズルズルとヘヴィに引き摺ったシャッフル・ビートのオルガン・ロックに妙にマッチ。どう控えめに言ってもこれは怪曲です。ラストの"ハザード"は、英詩のモノローグが載ったピアノ・インストゥルメンタル&ダークアンビエントという、いままでの特撮とはまったく趣を異にしたシリアスな一曲。訳詩を手がけたDaniel S. Burnstein氏のプロフィールは不明なのですが、一方のKenji Shimoda(下田健二)氏はCOALTAR OF THE DEEPERSのアルバムにエンジニアや作詞などのクレジットでみかける方ですね。とんでもないオチがついた感のある本作ですが、終わってみればなんだかんだでバランスが取れているなと。力の抜きどころを設けながらも手応えのあるものを提示しており、筋肉少女帯と同じく良好なコンディションが保たれています。


『特撮「ウインカー」インタビュー』
(from 音楽ナタリー|2016.02.03)

『約3年ぶりのニュー・アルバム『ウインカー』リリース!特撮・大槻ケンヂのインタビューを公開!』
(from リスアニ!|2016.02.06)

『特撮:大槻ケンヂ&NARASAKIに聞く「50代でロックやってもカッコいい」』
(from まんたんウェブ|2016.02.07)


特撮『パナギアの恩恵』(2012)