2015年4月5日日曜日

TOTO、CHICAGOのメンバーらが参加した、良質なAORアルバム ― 『サイレントメビウス O.S.T Vol.2 “MELODY”』(1998)

サイレントメビウス ― オリジナル・サウンドトラック vol.2 MELODYサイレントメビウス ― オリジナル・サウンドトラック vol.2 MELODY
(2001/01/24)
TVサントラ、Warren Weibe 他

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 現在もシリーズが継続中の、麻宮騎亜原作のサイバーパンクコミック「サイレントメビウス」。テレビアニメは1998年4月から9月にかけて放送され、同作のサウンドトラックは三枚リリースされました。そのVol.2にあたるものが、本CDです。本編の主題歌を核としたヴォーカル・アルバムなのですが、マイケル・ランドウ(g)やラリー・ウィリアムズ(sax)などのアメリカのスタジオ・ミュージシャンや、CHICAGOのジェイソン・シェフ、TOTOのジョセフ・ウィリアムズといったAOR系シンガーを迎えた、かなり気合の入ったつくりになっています(そういうわけで、レコーディングは日本とアメリカの二カ国で進められております)。主題歌以外の楽曲は本作のために書き下ろされたオリジナル曲というところもポイントです。さらに帯には「AORの新しい風を吹き込むベスト・ボーカル・セレクション」という惹句があるところからしても、本作が目指したところは明白でありましょう。



 自らヴォーカルをとる"Gone"をはじめ、作編曲や演奏などでクレジットされているトム・キーンは、かつて兄弟ユニットのKEANE BROTHERS、そして「TOTOの弟分」として日本に紹介されたAORバンド KEANEのフロントマンを務めた人物。その後、大御所デヴィッド・フォスターに師事し、CHICAGOやチャカ・カーン、セリーヌ・ディオンなどのコンポーザー/アレンジャーとして活動し、グラミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされた経歴を持つ、本国では大物のひとりです。また、彼は'90年代には「超者ライディーン」の「機動新世紀ガンダムX」などの劇伴や主題歌などに携わっておりました(このあたりは、機会を改めて紹介したいと思います)。また、"Till the End of Time" "Love Can Never Be Erased"などの作編曲や演奏に関与しているブレット・レイモンドは、ジェイ・グレイドンや本田恭章や企業CMなどに楽曲を提供し、自身もソロアルバムを発表しているコンポーザー/シンガーです。



 "Can We Bring the Love in"を歌うウォーレン・ウィービーは、バート・バカラックとデヴィッド・フォスターに見出された実力派セッション・シンガー。'96年に放映された機動新世紀ガンダムXのエンディングテーマ"Human Touch"(作編曲:トム・キーン)でヴォーカルもとっていました。残念ながら、彼は精神疾患との闘病のすえ、本CDのリリースから数ヶ月後にこの世を去ってしまうのですが、ここでも、熱のこもった優しいヴォーカルを聴かせてくれます。セカンド・エンディングテーマである"Till the End of Time"は、CHICAGOのジェイソン・シェフと、現在はジャズ・シンガーとして活動されている奥土居美香さんのデュエットによるバラード曲。極上の絡みを聴くことができます。ちなみに、前述の"Human Touch"の日本語ヴァージョンを歌った“re-kiss”とは、奥土居さんのことです。ジェイソンがヴォーカルをとり、共同作曲者としても関与している"You Paint the Sky"は、CHICAGOよろしくホーンをフィーチャーしたAORナンバー。ジェリー・ヘイ、ラリー・ウィリアムズ、ゲイリー・グラント、ビル・ライヒェンバッハらSEAWIND組のホーンセクションがよい仕事をしています。"With Everything I Am"は実質的にジョセフ・ウィリアムスによる書き下ろし曲であり、ヴォーカルも演奏もすべて彼がひとりでこなしています。曲調としては、かなり『Fahrenheit』の頃のTOTOのアダルト・コンテンポラリーな感じが出ております。



 "Card Shark"はバリバリのハード・ロック・チューンで、本CDでも異色の一曲ですが、それもそのはず、作編曲と演奏すべてを手がけたマーク・フェラーリは、元STEELER(イングヴェイ・マルムスティーンもかつて在籍)のロン・キールが立ち上げたヘヴィ・メタル・バンド KEELのギタリストです。フェリシア・ソレンソンが歌う"Love Can Never be Erased"カレン・モク〔莫文蔚〕が歌うファースト・エンディングテーマ"Silently"は、それぞれ、エンヤのようなニューエイジ・ポップス、ゆったりとしたエイジアン・ポップスに仕上がっています。"禁断のパンセ""A Forbiddan Pansee"として英詞ヴァージョンで再録。オリジナル版の石塚早織さんに代わって、ここではテリー・ウッドなる女性シンガーが歌っております。編曲者はオリジナル版と同様に須藤賢一氏ですが、こちらはテンポ速め。アレンジはシンプルになった…というよりは、打ち込み感が強くて、なんだかデモ・トラックを使ったような印象がします。

 本当に、どっぷりとAORなつくりのアルバムです。アニメの視聴層にどれだけアピールしたのかはわかりませんが、こういう音楽面での力の入れ方はプロデュースを手がけた井上俊次氏らしいなというか、後のランティスの片鱗がうかがえます(当時は株式会社エアーズ)。なお、本アルバムは2001年にメルダックから再発盤がリリースされております。

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『Silent Mobius Original Soundtrack Vol.2:
International Vocals Version "MELODY"』


[1998.07.21/エアーズ AYCM-612]
[2001.01.24/メルダック MECB-28114(再発盤)]

Original Works by 麻宮騎亜
Produced and Directed by 井上俊次
U.S.Production Co-Produced, Recorded and Mixed by KAZ

01. Can We Bring the Love in(ヴォーカル: Warren Wiebe

作詞: Isabella Dante
作編曲: 須藤賢一
ホーンアレンジ: Jerry Hey
バッキングヴォーカルアレンジ: Tom Keane

須藤賢一 (keyboards)
Michael Landau (guitars)
Tom Keane (background vocals)
Jerry Hey, Gary Grant (Trumpets)
Bill Reichenbach (tromones)
Larry Williams (saxophones)
栗山善親 (synthesizer programming)


02. You Paint the Sky(ヴォーカル: Jason Scheff

作詞: Isabella Dante
作曲: Tom Keane, Jason Scheff
編曲: Tom Keane

Tom Keane (keyboards, synthesizer programming)
Jason Scheff (bass, background vocals)
Michael Landau (guitars)
Jerry Hey, Gary Grant (Trumpets)
Bill Reichenbach (trombones)
Larry Williams (saxophones)


03. With Everything I Am (ヴォーカル: Joseph Williams)

作詞: Amy Williams
作編曲: Joseph Williams

Joseph Williams (backing vocals, keyboards)



04. Card Shark(演奏: Marc Ferrari

作詞・作編曲: Marc Ferrari

05. Love Can Never Be Erased(ヴォーカル: Felicia Sorenson)

作詞: Isabella Dante
作編曲: Brett Raymond


06. Gone(ヴォーカル: Tom Keane

作詞: Isabella Dante
作編曲: Tom Keane


07. A Forbidden Pansee(ヴォーカル: Terry Wood

作詞: 田久保真見
英詞: Justin Mossimo
作曲: 井上大輔
編曲: 須藤賢一


08. Till the End of Time(ヴォーカル: Jason Scheff & 奥土居美香

作詞: Isabella Dante
作曲: Brett Raymond
編曲: Tom Keane

Tom Keane (keyboards, backing vocala, synthesizer programming)
Michael Landau (guitars)
Jason Scheff (backing vocals)


09. Silently(ヴォーカル: Karen Mok

作曲: BEGIN
編曲: 白井良明
バッキングヴォーカルアレンジ: 井上俊次

白井良明 (guitars)
Takazumi Kunimoto (synthesizer programming)
BEGIN (backing vocals)


10. Love Can Never Be Erased Reprise(演奏: Brett Raymond

作編曲: Brett Raymond


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Tom Keane - jvcmusic
Brett Raymond - jvcmusic