2015年3月30日月曜日

現在進行形のパフォーマンスで、AOR/プログレッシヴ・ハード・ロックの矜持も改めて示した入魂の傑作 ― TOTO『TOTO XIV』(2015)

TOTO XIV~聖剣の絆 [Blu-spec CD2]TOTO XIV~聖剣の絆 [Blu-spec CD2]
(2015/03/18)
TOTO

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 アメリカが誇るAOR/メロディック・ロックの最高峰 TOTOの、『Falling in Between』(2006)以来、9年ぶりとなる新作アルバム。スタジオ・アルバムとしては通産十二作目となるのですが、タイトルに掲げられた「XIV」は、アウトテイクやライヴ・トラックなどの未発表曲を収録した『TOTO XX』(1998)、カヴァー・アルバム『Through the Looking Glass』(2002)も勘定に入れた上での十四作目ということになるようです。邦題にも「聖剣の絆」とありますが、思えばここ数年のバンドの活動はまさに絆の強さを再確認させてくれるものがありました。『Falling in Between』リリース後、ベーシストのマイク・ポーカロが筋萎縮性側索硬化症(ALS)との闘病のためツアーを離脱し、それに伴って2008年7月にバンドは解散宣言をしますが、デヴィッド・ペイチの呼びかけで始まった2010年7月からのマイクのベネフィットのための期間限定再結成ツアーを経て再始動。2013年の35周年記念ツアーにおけるポーランド公演をシューティングしたライヴDVDもリリースされたほか、2011年と2014年には来日ツアーも行っております。再結成ツアーからは、『Fahrenheit』(1986)、『Seventh One』(1988)でメイン・ヴォーカリストを務めたジョセフ・ウィリアムズが正式メンバーとして復帰し、2014年には自身の活動をメインとしていくため脱退したサイモン・フィリップスに代わって、Steely DanやSTING、ジョン・メイヤーなどでプレイしていた実力派セッション・ドラマーのキース・カーロックが加入。さらに同年の夏のツアーからは、オリジナル・メンバーであるデヴィッド・ハンゲイトが、『TOTO IV』(1982)以来32年ぶりに復帰するという大きなトピックもありました。それぞれ十数年の歳月を経てのジョセフとデヴィッドの再合流もふくめ、感慨深いものがあります。


 
 レコーディングには十分な時間と相当の気合を入れて臨んだとのことで、スティーヴ・ルカサー「『TOTO IV』に続く『TOTO V』のつもりで制作した」というコメントもしております。そしてその言葉に違わぬ、傑作アルバムに本作は仕上がりました。アルバムジャケットに久々に掲げられた「剣」のシンボルからも、並々ならぬ想いがうかがえるというもの。プロデュースにはバンドメンバーのほか、ルカサーの近年のソロアルバムでも作編曲や演奏などで腕を振るうCJ ヴァンストンを迎えるなど、気心の知れた人選がなされております。参加ミュージシャンには、リーランド・スカラー(b)、レニー・カストロ(perc)、トム・スコット(sax)などお馴染みの面々。また、タル・ウィルケンフェルド(b)、ティム・ルフェーヴル(b)の二名は、キース・カーロックのセッション人脈からの参加であることを付しておきます。

 ジョゼフの存在もあって、『Seventh One』のころの空気を少しばかり感じますが、アルバムに詰めこまれているのは、正しく現在進行形のバンドとしてのパフォーマンス。ジョセフのヴォーカルも依然としてフレッシュな魅力を保っているのもたまらないものがあります。前作がファンキーなグルーヴとハードエッジな曲が揃ったロック作品だったことを考えると、バラエティに富んだ曲調と、コンパクトでありながら効果的なアレンジの妙味を効かせた本作は、王道のAORのスタイルを改めて提示した感があります。アルバムは、エッジの効いたイントロと歯切れのよいカッティングギターが冴え渡るプログレッシヴ・ハード・チューン"Running Out Of Time"で幕開け、続いてダイナミックなビートと雄大なヴォーカル/コーラスで魅せる"Burn"へ。ルカサーとヴァンストンの共作による"21st Century Blues"は、そのままルカサーののソロの延長のようなブルージーな仕上がり。ともに先行公開されていた"Holy War" "Orphan"の二曲は、本作における象徴的楽曲。ヴォーカルとコーラスがハードエッジな曲調を相乗的に高めていく、この安心感がもたらすカタルシスがTOTOのひとつの魅力なのですよね。"Unknown Soldiers(For Jeffrey)"のジェフリーとはもちろんジェフ・ポーカロのことで、万感の思いを込めて亡き彼の想いに捧げられた珠玉のパワーバラードです。"Chinatown" "All The Tears That Shine"、そして日本盤ボーナストラック"Bend"の三曲に共同作曲者としてクレジットされているマイク・シャーウッドは、かつてデヴィッド・ペイチとスティーヴ・ポーカロがプロデュースを手がけたプログレッシヴ・ロック・バンド LODGICのフロントマンです(ちなみに、同じくLODGICのメンバーであり、元YES、現CIRCAのビリー・シャーウッドは、彼の弟にあたります)。それだけに、ウェットな質感といいダイナミズムといい、実に「わかっている」楽曲だなという印象を感じました。ラストの"Great Expectations"は、TOTOのプログレッシヴな側面を追求した楽曲。尺も6分53秒と本作最長です。前作の"Hooked"などでもバリバリのプログレッシヴ・ハード・ロックを聴かせてくれましたが、この曲はいつになくドラマティックな構成に重点を置いた仕上がりになっています。意外な収穫でした。

 2015年3月15日、本作がリリースされる数日前に、マイク・ポーカロが長年の闘病の末この世を去りました。復帰を切望していた彼の無念を思うとやりきれないものがありますが、本作を聴くことでも改めて哀悼の意を表したいです。



http://totoofficial.com/

The making of the new Toto XIV album - Steve Lukather.com
【インタビュー】スティーヴ・ルカサー「TOTOでプレイするのは喜び」- barks.jp
WORLD PREMIERE:“HOLY WAR”“ORPHAN”【TOTO】 - Marunouchi Muzik Magazine
スティーヴ・ルカサーが語るTOTO 9年ぶり新アルバム制作秘話 新しい歴史の幕開け - ZAKZAK