3月15日はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの命日であります。そういうわけで、bandcampに蠢くクトゥルー影響下のバンドや音楽作品を、私の独断と偏見でいくつか選んでみました。元ネタが元ネタだけに出てくるものはどうしてもダーク・アンビエントやドゥーム・メタルなどのソッチ系ジャンルが多いなという印象ですが、たまーにヘンなものがあったりするのがまた面白いのです。ここに紹介した以外にもまだまだ埋もれているので、独自に漁ってみてはいかがでしょうか。ただし、正気はほどほどに保ちましょう。
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クトゥルーとチェンバー・ロックは古くから非常に相性がよく、チェンバー・ロックの始祖であるベルギーのUNIVERS ZEROは前身バンドではARKHAM(アーカム)を名乗るなどラヴクラフトからの強い影響を公言しており、アルバムには"La musique d'Erich Zann(エーリッヒ・ツァンの音楽)"なる楽曲を収めております。そしてこちらに紹介するのは、ウクライナのチェンバー・ロック・バンド Cthulhu Rise。2007年結成で、2012年にアルバム『42』でデビューして現在に至ります。ジャズやマスロックの要素も強い新鋭であり、名状し難い感じに込み入ったアヴァン・プログレッシヴ・サウンドを聴かせる実力派でもあります。
イギリスのオルタナティヴ/ハードコアバンド(と思われる) The Men That Will Not Be Blamed For Nothingによる単発ものの楽曲。キュートなジャケットにダマされて聴くと、名状しがたい落差を備えた楽曲展開に鼻っ柱をヘシ折られます。
ダーク・アンビエント系レーベル Cryo Chamberよりリリースされた、ある種の極めつけともいえる作品。79分42秒の一曲のみが収録されたクトゥルー・コラボレーション・アルバムであり、このおぞましい大曲には13名ものアーティストの思念がグズグズに融合しています。
アイルランド・ダブリンで映画、TVスコアやゲーム、オーディオブックなどのスコアを手がけているコンポーザー Graham Plowmanによる、オーケストラルな「クトゥルーの呼び声」イメージ・サウンドトラック。エピックであり強迫的でもある三つのチャプターのスコアに、三つのボーナストラックを追加した全六曲。
主にスチーム・パンクコンセプトのアルバムを制作しているニューヨークのコンポーザー Paul Shaperaのユニット Mocha Labによる一作。Funk/AORな曲調でクトゥルーを歌うという、ユニークな切り口というか奇妙な組み合わせのアルバムなのですが、これが実にいい感じなのです。
シアトルの暗黒シンガーソングライター Erich Zannの最新EP(2015年1月リリース)。ヴィオラ、ではなくアコースティック・ギターとヴォーカルのみで暗く乾いた世界観へと誘う。name your price(投げ銭)にてダウンロード可能。
ラヴクラフト影響下のカリフォルニアのメタルクラスト/スラッシュメタル バンド Temple of Dagonのデビューアルバム。恐ろしくイキがよい。深淵まで突貫したサウンド。
ユタ州のラヴクラフティアン AKLOの二作目。「インスマスを覆う影」「狂気の山脈にて」「時間からの影」などにインスパイアされた楽曲で構成されるインダストリアル/ダーク・アンビエントなインストゥルメンタルアルバム。無機質なようで、非常な酩酊感をおぼえるサウンドです。
クトゥルーもののiOSアプリゲーム「The Moaning Words」のサウンドトラック。異郷感と密林感にあふれるスコア。コンポーザーはパリ出身のXavier Thiry。
イギリスのトラックメイカー Chris C'tanが主宰するエレクトロ・アクト Ion Plasma Incinerationの多数あるプロジェクトのうちのひとつ「Boron Division」による、クトゥルーコンセプトアルバム。シャウト入りのサイケデリック・トランス/ダークウェイヴを展開した一枚。アルバムタイトルの「Antikythera Of Azathoth(アザトースのアンティキティラ)」とは、デウス・エクス・マキナ的な意味合いなのでしょうか。
フランスのフューネラル・ドゥーム・プロジェクト Abysmal Growls Of Despair。「Lovecraftian Drone」というタイトル通り、クトゥルーコンセプトの長尺ドローン/フューネラルドゥームを全6曲90分に渡って展開した退廃的死臭ただようアルバム。name your price(投げ銭)でダウンロードできます。
ギリシャのゴシック/ネオクラシカル系コンポーザー William M. V. Dravenが、深きものどもの見る夢からの反響をサウンドに託した一枚。瘴気をまといながらもある種の神々しさすら感じさせるダークウェイヴ・サウンド。
ドイツのインディー・ロック・トリオ 7 Days Awakeの2011年作品。サイケデリック/クラウトロックのテイストをたっぷりと滲ませた、ヘロヘロな一枚。
ラヴクラフトのみならず、ロバート・E・ハワード、フランク・フラゼッタ、HAWKWIND、Black Sabbath、MOTORHEADからの影響も公言するミシガンのクトーニアン・ストーナー・ロック・バンド Blue Snaggletoothの1stフルアルバム。酒をかっくらいたくなるラフなグルーヴにあふれた良作。
ライターや俳優やコンポーザーとしてクトゥルーものの企画に携わり、「The H.P. Lovecraft Literary Podcast」のホストも務めるChad Fiferによる番組のサウンドトラックのVol.2。ちなみにチャド氏は「R.O.D」の海外版で玄奘三蔵役の吹き替えも担当されておりました。
ロシアの地のラヴクラフト馬鹿 Dig me no graveの2014年リリースの2ndフルアルバム。宇宙的恐怖をオールドスクールなデスメタルに託してぶつけてくるカルトなバンド。新鋭らしからぬ説得力のあるサウンドなのでオススメしたい手合い。
同じくロシアより。サンクトペテルブルグのエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト Cthulhu [Biomechanical]による2006年作。冷ややかで無慈悲きわまるインダストリアル/エレクトロ アルバム。
ブラジルのスラッジ/グルーヴ・メタル バンド Ape X and The Neanderthal Death Squadのデビューフルアルバム。コズミック・ホラーの強い影響下もとに、業の深いヴァイオレンスな音楽性を叩きつけてきます。"The Awakening Of Cthulhu" "At The Mountains of Madness"は、問答無用の疾走リフと無慈悲なシャウトですべてを呑み込むクトゥルー・スラッシュ。ダウンロードはname your price (投げ銭)にて。単体紹介記事はコチラ。
オーストラリア・シドニーのトラックメイカー Humanoidsによる、ラヴクラフトにインスパイアされたドープな三曲を収録したEP。“miskatronic”とは、誰がうまいことを言えと。そして テケリリ~♪ テケリリ~♪ コーラスの妙味。
1997年より活動を続けているフィンランドのコンポーザーによるワンマンプロジェクト Jääportitが、ラヴクラフトへのトリビュートオムニバスアルバムへ提供した約25分の大曲。コズミックな趣向で深淵へと誘われる一曲。ジャケットアートはバンドデシネ界の異端児 フィリップ・ドリュイエの「Yragael」「Lone Sloane」からの抜粋。
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クトゥルーと音楽について論じた書籍として、Gary Hillが著した「The Strange Sound of Cthulhu: Music Inspired by the Writings of H. P. Lovecraft」というものが2006年に出ています。
The Strange Sound of Cthulhu: Music Inspired by the Writings of H. P. Lovecraft (2006/08/30) Gary Hill 商品詳細を見る |
また、2002年に東京創元社より「歴史編」「現代編」の二冊にわたり刊行された、作家、評論家、アーティストが多数参加した書き下ろしのクトゥルー・アンソロジー〈秘神界〉の「現代編」には、霜月蒼氏による濃密なクトゥルー×ヘヴィメタル評論「異次元からの音、あるいは邪神金属」が収録されており、必見の内容であります。
秘神界―現代編 (創元推理文庫) (2002/09) 朝松 健 商品詳細を見る |