2015年3月5日木曜日

受け継がれる音楽的遺伝子。ジョン・カーペンターの息子コディ率いるプログレッシヴ・ロック・バンド ― Ludrium『Zeal』(2012)



 コディ・カーペンターは、監督/プロデューサー/コンポーザーのジョン・カーペンターと、女優エイドリアン・バーボーとのあいだに生まれた息子。ジョンが監督・コンポーザーをつとめた「ヴァンパイア/最後の聖戦」(1998)のスコアにキーボーディストとしてクレジットされていたほか、ジョンが参加したオムニバス企画のテレビシリーズ〈マスターズ・オブ・ホラー〉の第一期作品「世界の終り」(2005)と、第二期作品「グッバイ・ベイビー」(2006)のスコアを担当。また、先ごろリリースされたジョンのキャリア初となるソロアルバム『Lost Themes』でも、共同作曲者/ミュージシャンとして深く関与しております。祖父のハワード・カーペンターが音楽家/ヴァイオリニストだったことを考えると、親子三代にわたって音楽的遺伝子が脈々と受け継がれてきているということにもなりますが、そんな彼は近年、Ludriumというプログレッシヴ・ロック・バンドでも活動を展開しています。バンドとは言いましたが、実質的にコディのワンマンプロジェクトであり、ギター、ベース、ドラムス、キーボード、そしてヴォーカルにいたるまで全て彼が担当するというマルチ・ミュージシャンぶりを発揮しています。



 2012年にリリースされた『Zeal』は、Ludriumのデビューアルバムにあたる作品です。父ジョンはプログレッシヴ・ロック・バンドのなかではGENESISが好きだそうですが、コディはプログレ全般の大ファンだそうで、本作ではGENESISやEL&Pなどのブリティッシュ・プログレや、IQやPENDRAGONなどの80年代ネオ・プログレッシヴ・ロックからの流れも色濃く汲んだ、ピアノ/キーボード主体の楽曲を展開しております。ところどころでフュージョンやゲーム・ミュージックからの影響も滲み出ているのもポイントでしょう。変拍子をソフトに織り込みながら派手に展開する楽曲構成と軽やかな演奏もさることながら、素朴ながらジェントリーな味のあるコディのヴォーカル/コーラスもじわりと効いていて、総じてクオリティの高い仕上がり。ラストを飾る九分のプログレッシヴ・フュージョン大曲"The Final Battle"はアルバムのハイライトとしても見事です。ハートウォーミングなピアノバラード"Your Indignation"や、キース・エマーソン影響下の流麗なインストゥルメンタル"The Wolf Goddess"も素晴らしい。




 おそらくは語学留学と思われますが、コディは最近まで日本に長期滞在していたようで、そのときには現地でメンバーを募り、四人編成のバンドとして演奏活動も行っていたようです。YouTubeの本人のアカウントで、昨年六月にアンスティチュ・フランセ(仏語学校)のコンサートで演奏したときの映像があがっております。また、同アカウントではアルバムに収録されていないプログレッシヴ・フュージョン系のインスト曲や、「F-ZERO」「アクスレイ」「ストライダー飛竜」「悪魔城伝説」「ウェーブレース64」などのゲームミュージックのリミックスや演奏動画なども投稿しており、彼のゲーム好きな側面がうかがえます……一時期話題になったカルトなクソゲー「チーターマンII」の曲をリミックスしていたのにはさすがに噴きましたが(笑)。そういえば、ジョンの『Lost Themes』のレコーディングは、ビデオゲームを遊びながら進められていたのですよねえ。また、“細江慎治氏の初期の楽曲にインスパイアされた” “80'sプログレッシヴ・フュージョン・スタイル”の楽曲を投稿しているところも非常に興味深いと思いました("Cyber Sloth"という楽曲なのですが、現在は削除されており聴けません)。bandcampやsoundcloudでここのところアップしているインスト曲もエレクトロ・フュージョン調でありますし、コディのルーツはプログレとゲーム音楽なんだなということがうかがえます。







https://www.facebook.com/ludrium

Cody Carpenter - Imdb
John Carpenter: 新たな世界 - Resident Advisor
John Carpenter『Lost Themes』(2015)
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