2012年12月22日土曜日

特撮『パナギアの恩恵』(2012)

パナギアの恩恵パナギアの恩恵
(2012/12/12)
特撮

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 大槻ケンヂ率いるトラウマ・ヘヴィ・ロック・バンドの、『綿いっぱいの愛を!』から7年ぶりとなるオリジナルフルアルバム。新曲、再録曲、「大槻ケンヂと絶望少女達」「水木一郎と特撮」名義のタイアップ曲で構成された、昨年リリースの『五年後の世界』はバンド復活の先鞭をつけた勢い十分の内容で、大いに次作への期待を膨らませられたわけですが、新作はその期待に見事に応えるものとなっています。キラーチューンはもちろん、それ以上にスルメ曲が多く、特に前半の楽曲は詞も含めて小粋な味わいの良曲揃いです。

 生意気不思議ちゃんの視点で語られるちょっとおかしな人たちを歌う「くちびるはUFO」、ジャンヌ・ダルクと逃避行の果てに起こるタイムパラドックスで世界が崩壊してゆく結末を迎えるSFラヴロマンス「タイムトランスポーター2「最終回ジャンヌダルク護送司令・・放棄」」を聴くにつけ、オーケンにこういう詞書かせるとやっぱり絶品だなと。アジテーション気味なAメロBメロから一転して爽やかなサビに至る「GO GO!マリア」のギャップも痛快。

 三柴理氏による情感たっぷりなピアノ・インスト「Arion ~ Hommage a Claude Debussy」からラストにかけての楽曲の流れはまさに息をつかせぬもの。『八つ墓村』と『悪魔の手毬歌を』足したタイトルからも横溝正史リスペクトであることが一目瞭然な「鬼墓村の手毬歌 (Short Edit Ver.)」は、ライヴDVD購入特典で配布された8分の楽曲を6分に短縮したヴァージョン。サックスを交えてのオーケンと後藤沙緒里嬢との掛け合い、子どもたちのわらべ歌、寸劇、即興演奏をバックにしての解決篇と、ミステリ仕立てのストーリーに盛り沢山なアレンジを詰め込んだプログレ風味の1曲。フル版の方だとNOVELA~Nuovo Immigratoのヴォーカリスト五十嵐"Angie."久勝氏のコーラスも入ってるそうなんですが、こちらではカットされております。三柴氏作曲の大仰な時代劇チューン「13歳の刺客 エピソード1」は、ボーイ・ミーツ・ガールなストレートな詞もさることながら、サウンドも直球の剛速球、ラストで唐突に"ダスヴィダーニャ!"のシャウトが入るのは恒例の趣向。別れ行く友へ中也の詩集をプレゼントする、底抜けにキャッチーな疾走チューン「じゃあな」は前作『綿いっぱいの愛を!』から地続きになってる感覚をおぼえる1曲。ラストは「ミルクと毛布」でほっこりと〆。いやはやスキがない。間違いなく、今の特撮の充実ぶりが如実に伺える傑作であることは間違いないでしょう。



●特撮:StarChild