2017年12月1日金曜日

Michael Mantler『The Hapless Child And Other Inscrutable Stories』(1976)

 ECMといえば、言わずと知れたジャズや現代音楽の名門レーベルですが、11月17日より同レーベルのカタログが一挙にspotifyなどの配信サイトで聴けるようになりました。近年になって違法アップロードが増加してきたこともあり、少しでも権利的にクリアーなかたちで聴いてほしいというのが、今回の解禁に至った理由のようです。すでにあちこちのサイトでレコメンドアルバムをピックアップした記事もあがっております。
https://www.ecmrecords.com/


「ヨーロッパの名門=ECMレーベルがストリーミング・サービスをスタート!」
(from Universal Music Japan)
http://www.universal-music.co.jp/jazz/news/2017-11-17-streaming/


 膨大にして充実のカタログ群へのアクセスが可能になったということはつまり、今ではなかなか入手が難しくなった作品に触れられる機会がグッと身近になったということでもあるので、みんなもっと思い思いのECMのオススメアルバムを推しまくるといいのではないでしょうか。というわけで、自分からも一枚、トランペット奏者/コンポーザーのマイケル・マントラーのプロデュースによる超強力なアヴァンギャルド・ジャズアルバム『The Hapless Child And Other Inscrutable Stories』を推したいと思います。


 マイケル・マントラーはオーストリア・ウィーン生まれ。1964年にニューヨークに移り、トランペッターのビル・ディクソンによって設立された「Jazz Composer's Orchestra」に参加し、そこで後に伴侶となるカーラ・ブレイ(1991年に離婚)や、スティーヴ・レイシー、ロズウェル・ラッド、アーチー・シェップ、セシル・テイラーらといった面々と知り合い、1965年に『Communication』を録音・発表。1966年にはレイシー、ブレイとの連名アルバム 『Jazz Realities』を発表し、ヨーロッパでツアーも行っています。その後、Jazz Composer's Orchestraは協会(Jazz Composers Orchestra Association Inc.)となり、ドン・チェリー、ラリー・コリエル、ファラオ・サンダース、ガトー・バルビエリらをフィーチャーした二枚組のセルフタイトルアルバムを第一弾作品としてリリースしています。1972年にマントラー/ブレイ夫妻はECM傘下のレーベルとして「WATT Works」を立ち上げ、以降、二人の作品は同レーベルを中心に発表されてゆくことになります。


The Hapless Child And Other Inscrutable Stories
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『The Hapless Child And Other Inscrutable Stories』は、そんなWATTの初期のカタログのひとつとして1976年にリリースされた作品。『うろんな客』や『ギャシュリークラムのちびっ子たち』などで知られる異色の絵本作家エドワード・ゴーリーのイラストと詩に題をとった、いわゆるイメージアルバムでもあります。オリジナル盤のインナーやジャケット裏にはゴーリーによるアートワークもあしらわれていました。ちなみに、本作より前の1974年には、ドン・チェリー、ジャック・ブルースを迎え、サミュエル・ベケットの作品に題をとった『No Answer』。本作より後の1977年には、ロバート・ワイアットやケヴィン・コイル、クリス・スぺディングを迎え、ハロルド・ピンターの作品に題をとった『Silence』をそれぞれ発表しており、マントラーの文学・アート作品への関心の高さを如実にうかがわせます(その後、2001年発表の『Hide and Seek』では、ポール・オースターを題材にしています)。




 録音は1975年7月から1976年1月にかけて行われ、マントラー/ブレイ夫妻を筆頭に、傑作ソロアルバム『Odyssey』を発表したばかりのテリエ・リピダル(guitar)、当時ゲイリー・バートンと共演していたスティーヴ・スワロー(bass)、Directions結成前夜のジャック・ディジョネット(drums)を擁する超強力なアンサンブルが編成されています。さらにロバート・ワイアットがヴォーカル、ワイアット夫人のアルフレダ・ベンジがナレーターでそれぞれ参加し、PINK FLOYDのニック・メイスンもマスタリングとナレーションで名を連ねているのもポイント。ダイアローグとヴォーカルの境界を行くようなワイアットの不敵な声の響き、ブレイの冷ややかなシンセサイザーが「うろんな」雰囲気を醸し出し、変拍子を刻むリズムの上をリピダルのギターがヘヴィにすすり泣く、半ばプログレといっても遜色のないアヴァンギャルド・ジャズロック・サウンドは今なおスリリング。全編にわたってほの暗い闇が広がり、凄味がほとばしっています。


『The Hapless Child And Other Inscrutable Stories』
Michael Mantler
WATT Works・ECM Records/1976

01. The Sinking Spell(「降りてくる魔力」)
02. The Object-Lesson(未訳)
03. The Insect God(『蟲の神』)
04. The Doubtful Guest(『うろんな客』)
05. The Remembered Visit(『思い出した訪問』)
06. The Hapless Child(『不幸な子供』)



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うろんな客
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不幸な子供
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補足。アルバム1曲目の「The Sinking Spell」は、雑誌《ミステリマガジン》の1978年2月号に「降りてくる魔力(もの)」として邦訳掲載されたことがあります。また、アルバム5曲目の「The Remembered Visit」は、2017年10月に河出書房新社から『思い出した訪問』として邦訳刊行されています。図らずもタイムリー。



Comment C'est
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 マントラーは2017年11月に最新アルバム『Comment C'est』をリリースしたばかり。ピーター・マドセンに師事し、エルメート・パスコアルとの共演でも知られる若手のデヴィッド・ヘルボックによるピアノ、MAGMAなどでの活動でも知られるヒミコ・パガノッティのヴォイスをフィーチャーした作品でもあります。

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