2012年12月28日金曜日

ぱっちりひつじ『ゆめにっき1』(2012)




「陽気でシリアス、まぬけでヘヴィ。
「無邪気」と「混沌」が交錯する不思議な音の絵本」


突如出現した非現実系テクニカルポップバンド ぱっちりひつじの1stフルアルバム。メンバーはイラスト担当も含めて7人、いずれもひつじA、ひつじB、ひつじCといったポジション?名がついております。コンセプトは、アルバムタイトルにもあるように「夢」。心地良く楽しいムードに溢れた夢から、身の毛もよだつ怖ろしい悪夢まで、メンバーが見た夢の世界の風景を分け隔てなく詞に描き出しております。その時にシュールで時にゾッとするテイストは、NHK「みんなのうた」や谷山浩子の作風を思わせます。イマジネーション豊かな詞もさることながら、プログレッシヴ・ロック、ハード・ロック、デスメタルの要素が仕込まれたサウンドも非常に面白いごった煮感があり、楽曲に盛り込まれた仕掛けと相まって一筋縄ではいかないものになっています。

メンバーによるコーラス、キース・エマーソンやフラヴィオ・プレモーリを思わせるシンセワークに導かれて始まる「アイガ・アピア・アッキーア」は、地層をテーマにしたというプログレ度の高い1曲。能天気な場面を一変させるデスヴォイス、突き進むフックのあるリフ、叙情的なソロなど、9分半に渡って次々に重なってゆく楽曲展開が、ワクワク感に満ちたアドヴェンチャーを味わわせてくれます。「ぶらぶらねこ」は、アルバムきってのストレートなロック・チューン。ひつじCことちさる嬢によるキュートな女性ヴォーカル、エッジの効いたバッキングの厚み、徹頭徹尾爽快感を重視した仕上がりです。頑張って作り上げた曲が既にあると何者かの手紙で教えられショックを受けるという内容の「もう、ありますよ」は、明るい曲調に安心していると後半でガクーンと落とされます。「むらさきのみず」は、アルバム中盤のハイライトと言える曲。迷子になった少年が家へと続く階段を上り下りするが、目的地にいつまでたっても辿り着けない、周りの風景はちぐはぐにズレている…。さながらディーノ・ブッツァーティの『七階』を思わせる不条理なたらい回しと深みへハマっていく様が展開されます。ピアノによる切なさ溢れる曲調から一転して、焦燥感と不安を煽るバンドアンサンブルの一体感が戦慄モノ。変拍子とポリリズム全開のインストパートは、"FLOOR(地上)"とかけて、ギターのFの音程が詞の階層に合わせた回数分出てくる、"BASEMENT(地下)"とかけて、オルガンがBの音程を基調にしているという趣向も凝らされており、解説を読んで思わず感心してしまいました。ウェットなニュアンスにエフェクトに富んだ「キノコがはえたら」は、キノコだけにトリップしてしまいそうな1曲。リズム隊の主張も光ります。

ここからはアルバム後半。二匹の貝が一人の男を翻弄するという、ブラックなユーモアに満ちた寓話「ヘイシロガイとヘイクロガイ」は、骨太のプログレ・メタルな演奏とちょっとシアトリカルな趣向も相まって、アルバム曲の中でも抜群のインパクトを誇ります。「かみのけがとれた」「あみずし」は共にシュールな妙味の極み。明るい曲調でのっぴきならない状況を歌っているという、そのギャップが魅力的なおかしさを生み出しています。ここではないどこかへ、エレベーターに乗って旅立つ「エレベーターにのって」は、強く琴線に触れる名曲。行き先に待ち受けるのは希望か、それとも哀しみか、情感たっぷりのギターソロが、切なげなピアノの旋律が、暖かみのあるシンセソロが、少年とエレベーターの前途をねぎらうかのように演出しています。ラストの「ひつじ」は、10分に及ぶ大曲。誰もが見たことがあるであろう嫌な夢、それも目覚めた後もダメージが尾を引く、クリティカルな悪夢、その様相が苛烈なデスヴォイスとシャウト、タガの外れた笑い声、変拍子の嵐のもと、これでもかと執拗に描かれております。破滅的、あまりにも破滅的。しかし最後の最後はちさる嬢による歌のおねえさん的なコメントで〆。ほっと一安心。とまあこんな感じでヴァラエティ豊かなイマジネーションがこの1枚にギュギュっと詰まっております。次はどんな夢の世界を見せてくれるのか、楽しみ楽しみ。ちなみに公式サイトのブログで、メンバーによる全曲解説がされてます。こちらも一読をオススメいたします。







ぱっちりひつじ:公式
『ゆめにっき1』販売ページ

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