bandcampに存在する謎のバンドというのはそう珍しいものでもないですが、なかにはビックリするくらいの求心力を持った手合いが紛れこんでいて、うっかり出くわしたりすると嬉しくなります。今回ご紹介するこのONYも、まさに驚きの存在。この謎のクリーチャーが描かれたアートワークもなんとも異様なのですが、プロフィールはワシントン州レッドモンドの出身であるらしいということしかわかりません。バンドなのかソロアーティストなのかも、どういうバックグラウンドを持っているのかも一切わからない。また、2012年6月に十曲の楽曲をアップロードしているのですが、一枚のアルバムとしてまとめるでもなく、すべて単体リリースという形をとっています。
サウンドはフュージョン・タッチのテクニカルなギタープレイとオリエンタルなムードたっぷりのプログレッシヴ・ハード・ロックで、まさに縦横無尽のドライヴ感に富んだシュレッドなプレイが一貫した痛快極まる仕上がりなので、そこから推測するに、確かな技量を持ったギタリストが中心人物であるのは間違いないのではと思います。90年代フィンランドの伝説のサイケデリック・ハード・ロック・バンドであるKingston Wallや、姿を消して久しいスウェーデンのネオクラシカルギター仙人 スティーヴン・アンダーソンに近いものを感じさせますが、こちらには彼らの孕んでいた神秘性のようなものはさほどなく、むしろカラッとした後腐れのなさに全振りしたかのようなたたずまい。先立つものは何もなくとも、楽曲の説得力のみで一気に引き込んでゆきます。以下に、ONYがこれまでリリースした楽曲を全曲掲載いたします(各曲ともname your priceでダウンロード可能)。まずは長尺シャッフル・チューンの"Free Radicals"や、オリエンタルな方向性を強く印象付ける"Dead Gods Dancing"、ピロピロせわしない疾走チューン"Ghost's Dance"あたりをとっかかりとしてどうぞ。ヘンリー・マンシーニの"ピーター・ガンのテーマ"の秀逸なカヴァーも、むわっとした暑さすら感じさせるスパイシーなアレンジで味わい深いものがあります。
先に挙げたKingston Wallやスティーヴン・アンダーソンにからめて、90年代のゼロ・コーポレーションのメタル系カタログにしれっと紛れ込んでいてもおかしくないなと思いましたし、往年のシュラプネル・レコーズ系のテクニカルギタリストの諸作を好む手合いなどにはまさにストライクど真ん中の方向を行く内容でしょう。