2013年2月8日金曜日

KINGSTON WALL『II』(1993) / 『III - Tri-Logy』(1994)

IIII
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Kingston Wall

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 北欧様式美系メタル・バンドが多かったゼロ・コーポレーションのカタログの中でも、とりわけ異彩を放っていたのがこのバンド。本作は、ヴォーカル&ギター、ベース、ドラムスのトリオからなる、フィンランドはヘルシンキ出身のサイケデリック・ロック・バンド キングストン・ウォールの2ndアルバム。ジミ・ヘンドリックスやLED ZEPPELIN、PINK FLOYDから多大なる影響を受けたペトリ・ワリ(Vo.Gr)をフロントマンに、87年に結成され、エスニックなムード漂う神秘主義的なサウンドを深く深く追求していったバンドであります。ヴォーカルはヘロヘロ、ギターは霞がかったトーンを響かせる一方で、リズム隊は手数の多さもさることながら確かなビートをキッチリとキープしており、トータルで見るとしっかりとした骨子のあるサウンド。よくある「雰囲気だけ」のなんちゃってバンドではありません。キーボード不在でも十分な雰囲気を醸しだすこの確固たるアンサンブルは素晴らしいケミストリーを生み出しており、今なおサイケデリック・プログレ・ハードの傑作と言われるのも納得の内容です。リフとコーラスがゆらゆらと螺旋を描いてゆく様が堪らないカタルシスを与えている「We Cannot Move」。程よい浮遊感が心地よいハード・ロック・チューン「Could It Be So」。デヴィッド・ギルモアやアンディ・ラティマーを思わせるブルージーな泣きの旋律に浸れる「And Its All Happening」。原曲のシーケンシャルなフレーズをギターが演奏し、トランシーなノリの良さはそのままにロック的な躍動感も加わった、ドナ・サマーの代表曲の好カヴァー「I Feel Love」。アツいインプロヴィゼーションがたっぷりと展開されるスリリングな長曲「You」。どこを切っても濃密な雰囲気がこのアルバムに詰め込まれています。また、ヴァイオリンをフィーチャーした「Istwan」ではアコースティック・ギターとの絡みで軽快なフォーク調のサウンドを展開し、サックスをフィーチュアした「Shine On Me」では、ブルージーで枯れた味わいを滲ませるなど、ゲスト・ミュージシャンの起用も実に効果的です。



III Tri-LogyIII Tri-Logy
(2010/04/01)
Kingston Wall

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 キングストン・ウォールの3rdアルバムにして、最終作。彼らのサイケデリック志向が頂点に達すると共に、大作主義、プログレッシヴ・ロック/ジャズ・ロック色も強め、エルドラドの遥か彼方を目指さんとするかのようなディープ極まりない作風に変貌したのが本作。今回はゲスト・ミュージシャンも多く、前作にも参加したサックス奏者のサカリ・クッコをはじめ、新たにディジュリドゥ奏者、口琴奏者、シンセサイザー奏者が名を連ねております。特にシンセのフィーチャー度は非常に高く(奏者/アレンジャーのキンモ・カジャストは、フィンランドのエレクトロ・ジャズのパイオニア的グループRinneRadioに在籍する人物でもあります)、従来以上に強めにエフェクトのかかったバンド・アンサンブルと相まって、純度の高いスペース・ロック・サウンドが徹頭徹尾貫かれております。イギリスのOZRIC TENTACLESに通じる面も多いと感じました。アルバム中盤からはレゲエ/ダブ要素も顔を出し、口琴の響きとペトリのささやくようなヴォーカルが一層どっぷりと酩酊を誘います。そして18分に渡って熱気の渦巻くラストの大曲「The Real Thing」は、まさに渾然一体となった音宇宙。バンドの集大成というべき内容になっております。アンビエントなムード、サックスの熱演も光ります。切れ目なく繋がっていく楽曲構成もあって、とっつきにくさはかなり増したものの、その密度の高いサウンドとイくところまでイってしまっている鬼気迫る勢いには息を呑むばかり。まごうことなき傑作アルバムを彼らは作り上げたわけですが、本作発表後、95年にペトリが飛び降り自殺により命を絶ってしまい、バンドの存在そのものにも終止符が打たれてしまいます。ペトリはこの三枚のアルバムの制作を経て、何を見出したのでしょうか? 本作を聴くたびに、酩酊感と共に一抹の寂寥感をおぼえてしまいます。



Freakout RemixesFreakout Remixes
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Kingston Wall

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 キングストン・ウォールの知名度は日本ではそこまで高くないのですが、本国ではかなり名の知られた存在で、同国のバンドに与えた影響も少なくなく、RASMUSやAMORPHISはキングストン・ウォールの楽曲(「Used to Feel Before」「And I Hear You Call」)をそれぞれカヴァーしております。また、2000年には本国のアーティスト達によるテクノ・リミックス・アレンジを収録した企画アルバム『Freakout Remixes』がリリースされており、アーティストサイドからの支持の厚さも伺えます。

再発・発掘リリースの動きも活発で、98年に3枚のオリジナル・アルバムのリマスター盤、2005年にライヴ音源をまとめた3枚組CD、2011年には2枚組のベスト・アルバムがリリースされております。バンド・メンバーのその後の活動ですが、ベースのユッカ・ジリ氏とドラムスのサミ・クォパマキ氏は、HANOI ROCKSのマイケル・モンローのソロ・バンド等でプレイしていた人物であるロッカ・マリアーティと共に2006年にZookというブルース・ロック・バンドを結成し、シングル1枚とアルバム1枚をリリースしております。現在も活動中とのこと。



KINGSTON WALL:Wikipedia