2017年12月17日日曜日

Hevisaurus『Mikä minusta tulee isona?』(2017)



http://www.hevisaurus.com

 フィンランドが誇る“ジュラシック・ヘヴィメタル”の最高峰 ヘヴィサウルス。今年9月に新譜を出したので早速ポチったのですが、ひと月以上かかってようやく手元に届いたという次第。依然として日本でこのバンドの新作を入手するのはそれなりに手間と時間がかかるのがなんとももどかしいのですが、近年は北欧発のストリーミングサービス最大手であるspotifyの日本上陸もあり、彼らの曲を聴く敷居がグッと低くなったというのも事実。現地では子供たちを中心に圧倒的な人気を誇り、北欧ヘヴィメタル、ハードポップのキャッチーな旨味を継承した正統派サウンドも評価が高く、名実ともにトップクラスの北欧ヘヴィメタルバンドです。


Mika Minusta Tulee Isona
Mika Minusta Tulee Isona
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Hevisaurus
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「絶滅をまぬがれ、6500万年の眠りにあった5つの金属製の恐竜の卵が、2009年に魔女の力によって孵化した」という設定をもつヘヴィサウルスの創始者は、THUNDERSTONEやWARMENなどのドラマーであるミルカ・ランタネン。子供たちのための音楽をつくりたいと思っていた彼は、「それがヘヴィメタルだったらどうだろう」というふとしたアイデアを恐竜の着ぐるみバンドとして発展させました。しかし、2011年にリリース元であるソニー・ミュージック・フィンランドとの間で著作権や商標に関するゴタゴタがあり、渦中のさなかにミルカは「SauruXet」という、同じヴィジュアル、同じ「中の人」(ただしヴォーカルのみ別人で、パワーメタルバンド ENFARCEのリッキー・トゥルニーが参加していました)からなるバンドを立ち上げ、アルバムとライヴDVDをリリース。しかし当初の契約ではヘヴィサウルスのキャラクター権はソニー・ミュージック・フィンランド側が保有するというものであったため、最終的にミルカ側が法的使用料として10万ユーロを支払うかたちとなり、SauruXetも2012年5月に解散。ミルカはその後ヘヴィサウルスからも手を引くことになりました(2013年にはTHUNDERSTONEからも脱退)。オリジネイターのフェードアウトというのはかなり心中複雑な出来事ではありますが、キャラクター的にもサウンド的にも軌道に乗ったバンドの人気はまったく衰えることなく、ライヴDVDはもちろんのこと、絵本、Tシャツ、おもちゃなどの数多くのグッズが登場し、2015年にはバンドをフィーチャーした映画「Hevisaurus-elokuva」も公開されました。さらには海外展開も活発化し、ソニー・ミュージック・アルゼンチンのもとに始動した南米版ヘヴィサウルス「HeavySaurios」も好評をもって現地のファンに迎え入れられています。


「「恐竜ヘビメタバンド」に子どもたち大熱狂、フィンランド」
(from AFPBB NEWS|2010.05.03)

「Hevisaurukset löi Sauruxet käräjäoikeudessa」
(from MTV finland|2012.02.01)




 Herra Hevisaurus(vocal)、Riffi Raffi(guitar)、Muffi Puffi(bass)、Komppi Momppi(drums)、Milli Pilli(keyboards)の「五匹組」であるヘヴィサウルス。ヘッラ・ヘヴィサウルスの「中の人」は1994年から活動するThe Milestonesのヴォーカリストであるオラヴィ・ティッカ。リッフィ・ラッフィとムッフィ・プッフィの「中の人」はENFARCEのタイム・シュレイファーとエイデ・マニネン。バンドの紅一点であるミッリ・ピッリの「中の人」は不明ですが、2009年のデビューアルバム『Jurahevin kuninkaat(ジュラシック・ヘヴィメタルの王)』のレコーディングメンバーにはSTRATOVARIUSのイェンス・ヨハンソン、SONATA ARCTICAのヘンリク・クリンゲンベリ、THUNDERSTONEのユッカ・カリネンが名を連ねていたところをみると、流動的なポジションなのでしょう。なお、ミルカが去った後のコンピ・モンピの「中の人」も不明です。そもそも、ソングライティングを誰が担当しているのかもよくわかっていないのですが、プロジェクト的な制作体制がとられているのではないかと思います。





 2010年リリースの2ndアルバム『Hirmuliskojen yö』(ゲストでTHUNDERSTONEのニノ・ローレンネ、SONATA ARCTICAのエリアス・ヴィルヤネン参加)で、「Emma-Gaala」(フィンランド版グラミー賞)の子供向け音楽部門を受賞。2011年に3rdアルバム『Räyh!』(ゲストでFIREWINDのガス・G、AMORPHISのサンテリ・カリオ、NIGHTWISHのエムプ・ヴオリネン、STRATOVARIUSのマティアス・クピアイネン、AMORALのアリ・コイヴネンほか参加)と4thアルバム『Räyhällistä Joulua』(クリスマスアルバム)を立て続けにリリース。2012年リリースの5thアルバム『Kadonneen louhikäärmeen arvoitus』(ゲストでWINTERSUNのテーム・マンティサーリ、TRACEDOWNのヴィリ・イタペルト、GODASPLAGUEのエウゲ・ヴァロヴィルタほか参加)で初のフィンランドチャート第一位を獲得。2013年に6thアルバム『Vihreä vallankumous』(CD+DVDの二枚組)、2014年に『Jurahevin ikivihreät』(新曲2曲をふくむベスト・コンピレーション)をそれぞれリリースし、2015年リリースの7thアルバム『Soittakaa Juranoid!』で、再び「Emma-Gaala」を受賞。北欧メタルシーンのミュージシャンがズラリとゲストで名を連ねており、プロモーション戦略もふくめてソニー・ミュージック・フィンランドの総力が結集されております。





 そして通算8thアルバムとなる『Mikä minusta tulee isona?』は、6曲の新曲に、3rdアルバムより「Räyh!」(ガス・G 参加曲)と「Kyläluuta」、1stより「Popkornipulla」、5thより「Avaruuden autokorjaamo」、コンピ盤より「Aarrejahti」という5曲の既発曲からなる変則的な内容で、各曲間にはヘヴィサウルスメンバーのかけ合い的な一幕が挿入されています。デビュー8周年を迎え、新たなファン獲得のための再入門盤的な意味合いもあるのでしょうか(デビュー時にファンだったチビっ子たちはいい年齢になって「卒業」しているでしょうし)。新曲では計5人のゲストギタリストをソロパートで迎えており、先行シングルでもある「Mikä minusta tulee isona?」はMEGADETHのキコ・ルーレイロが参加した、北欧ハードポップマナーにあふれる一曲。続く「Maailmanpelastajat」は1stギターソロでWINTERSUNのテーム・マンティサーリ、2ndギターソロでBATTLE BEASTのヨーナ・ビョークロスが参加した、往年のSTRATOVARIUSばりのメロディックスピードメタルチューン。スラッシーなリフでキャッチーなサビに突入する「Hevikopteri」をはさみ、タメの効いたダイナミックなハードポップチューン「Pöllönsilmä」ではマルチメディア・デザイナー兼バカテクギタリストの“Mr. Fastfinger”ことミーカ・ティースカが参加(ちなみに彼はSaurusXetのアルバムにもゲスト参加していました)。トリッキーな趣向の「Ihmepähkinä」はプログレッシヴ・メタル・バンド STAM1NAのペッカ・オルコネンが参加。「Metsänkeiju」はミッリ・ピッリとヘッラ・ヘヴィサウルスのデュエットによるパワーバラード。抜群の安定感と、至れり尽くせりの無敵感。着ぐるみメタルバンドの最高峰の地位はまだまだ揺るぎないものとみて間違いありません。