2017年8月17日木曜日

ボトムズシリーズの作曲家が、ボトムズ以前に手がけたジャズ・ロックアルバム、本邦初CD化 ― 乾裕樹 & TAO『砂丘』(1979)

砂丘
砂丘
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Hiroki Inui & TAO
ワーナーミュージック・ジャパン (2017-07-19)
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https://wmg.jp/artist/hiroki-inui-tao/WPCL000012658.html


 2017年はカシオペアが結成40周年、PRISMと松岡直也のアルバムデビュー40周年ということで、ワーナーミュージックが国内フュージョンの廉価盤再発キャンペーン「J-FUSION 40th ANNIVERSARY SHM-CD COLLECTION 1300」を4月から7月にかけて四か月連続で展開しておりました。その第四弾にはヴァイオリニストの篠崎正嗣氏の『NASA=MASA』(1980)や、四人囃子の元キーボーディスト 茂木由多加氏の1980年の『フライトインフォメーション』(1980)などの初CD化作品がラインナップされております。この『砂丘』も本邦初CD化タイトルの一つ。70年代に『Sony Sound Adventure』『Space Fantasy』などのシンセサイザーのデモンストレーションアルバムに参加し、80年代にフュージョンバンドのカリオカに加入。EPOや谷山浩子などの編曲や、アニメ『まいっちんぐマチコ先生』『装甲騎兵ボトムズ』『蒼き流星SPTレイズナー』などの主題歌や劇伴を手がけたキーボーディスト/作編曲家の故・乾裕樹氏が、「TAO」との連名名義で1979年に発表したアルバムです。

 このTAO、ワーナーのサイトやCDの帯のインフォメーションには「『銀河漂流バイファム』を手掛けるTAO~」とあり、その記述をうっかり信じてしまったのですが、調べてみるとそのTAOとはまったく別であることがわかりました。……というのも、1983年に『銀河漂流バイファム』の主題歌「HELLO, VIFAM」「NEVER GIVE UP」を手がけたヴァイオリン・ロック・バンド TAOが結成されたのは70年代ではあるのですが、デヴィッド・マン、関根安里、岡野治雄、野澤竜郎の四人のメンバーの名前は本作のクレジットのどこにもありません。本作の演奏者にはシュガー・ベイブやバイバイ・セッション・バンドの上原裕(drums)、鈴木茂&ハックルバックの田中章弘(bass)、パラシュートの今剛(guitar)、そして本田俊之(sax)、村上秀一(drums)、佐藤正美(acoustic guitar)、ペッカー(percussion)、ヴァイオリン奏者、チェロ奏者などがクレジットされています。このTAOというのは、あくまでゲストミュージシャンも含めてのレコーディングバンドに便宜的につけられたものだったのでしょう。ワーナー側からはこの情報的な大ポカに対して今のところ特に何もアナウンスがないのですが、誤認させたままでは色々とマズいのではないでしょうか……。

 ともあれ、アルバムの内容はまことに素晴らしいの一言。ドビュッシーの「En Bateau(小舟にて)」のアレンジや、ピアノ&シンセサイザーによる透明感あふれる小品「砂丘」も含めた六曲の楽曲は、エキゾチックなムードをたたえたインストゥルメンタルの傑作です。カリオカのスムース・ジャズのテイストにももちろん通じますし、プログレッシヴなジャズ・ロックとしてもスリリングに仕上がっています。シンセサイザープログラミングに松武秀樹氏のクレジットが確認できるところもポイントでしょう。『Space Fantasy』(1978)収録の「エンジェルダスト」(「カンツォネッタ」原曲)や、カリオカの『DUSK』(1983)収録の「Never Ending」(「いつもあなたが」原曲)など、乾氏が別のところで手がけた楽曲がボトムズの楽曲としてリメイクされることがあるのですが、本作の一曲目「Solar Plexus」もそのケースに当てはまります。同曲は、ボトムズの「クメン編」の劇伴「Jungle Ride」の原曲でもあります。廉価盤とはいうものの、完全限定盤ゆえ、再プレスの可能性はほぼないといっていいでしょう。最低野郎はこの再発の機を逃さないように。