Man on the Rocks (2014/02/27) Mike Oldfield 商品詳細を見る |
実に6年ぶりとなるマイク・オールドフィールドの新作アルバム。還暦を迎えてからの最初のアルバムでもあります。前作『Music of the Spheres(天空の音楽)』(2008)では元SOFT MACHINE~ADIEMUSのカール・ジェンキンスとの共同プロデュースにてニューエイジ/ヒーリング路線のサウンドを展開していましたが、本作はうってかわってバンドスタイルでの歌ものロック・ポップス路線を全面的に展開しています。また、今回はマイク自身のセルフ・プロデュースではなく、ステファン・リプソンにプロデュースを任せているのもポイントです(彼はトレヴァー・ホーン主宰のZTT Recordsとも縁の深い売れっ子プロデューサーであり、近年ではホーンと共にバンド「The Producers」を結成し、こちらでも活動中です)。主要演奏メンバーは、フィル・コリンズや松任谷由実、TOTOなどの仕事でも知られる髭仙人ベーシストのリーランド・スカラーをはじめ、ジョン・ロビンソン(ds)、マット・ローリングス(kbd)、マイケル・トンプソン(g)と、いずれも米国の一流どころのセッション・ミュージシャンを揃えた形になっています。
アルバムの制作はマイクが2009年から移り住んでいるバハマで殆どを進めたということもあってか、爽やかなアコースティック・ギターがいっぱいに広がる冒頭曲"Sailing"をはじめ、前半の曲はリゾート感もたっぷり。のびのびと、リラックスしたムードで作られたのだなということが伝わってきます。若手のUKロックバンド「The Struts」のヴォーカリストであるルーク・スピラー(どことなく若かりし頃のフレディ・マーキュリーを思わせるルックス)の、繊細な面から力強い面までカヴァーする艶のある歌声も、今回の開放感のあるアルバムの方向性に大きく寄与しています。タイトルチューンの"Man On The Rocks"や、"Castaway"では、特有の泣きのトーンを奏でるマイクのギターとの抜群の相性も聴かせてくれます。アルバム終盤はどっしりと腰を据えた曲調が多く、パワフルなサビが耳を惹くロック・チューン"Chariots"や、ブルージーな"Irene"、そして女性ヴォーカル/コーラスを伴ってじわじわと盛り上がる「Following The Angels Down」のフレーズのリフレインが、静かに多幸感を味わわせてくれる"Following The Angels"(ちなみに、この曲はマイクが演奏で出演した2012年のロンドン五輪の開会式について歌った1曲でもあります)。また、"Nuclear"は、ちょっとKING CRIMSONの"Epitaph"を思わせるド演歌調の1曲。「Confusion will be my epitaph…」と歌ってしまいそうなサビだなあと一瞬思ったりもしましたが、マイクのギターもほど良い泣きで魅せる、哀愁漂う秀逸なミドル・バラードに仕上がっています。ラストはゴスペル・ナンバーのカヴァー"I Give Myself Away"で〆。
プログレ的なものを求める向きには物足りなさを感じるという声も少なからず出てくるとは思いますが、それはまあ随分前から言われているので別に本作に限ったことではないですし、少なくとも、80年代のマイクの歌もの作品が好きなら今回の『Man On The Rocks』は十分琴線に触れるものがあると思います。個人的には、ここ数作のマイクのアルバムの中でも久々に手応えのあるものを聴いたなあと感じました。往年の作風に近いとはいえ、単なる焼き直しに終わっていないのがやはり良かった。月並みな言い方ですが、まだこれだけのものを作れるのだということに、嬉しくなった次第です。
●Mike Oldfield - Official
●Mike Oldfield - Wikipedia
【追記】
メタルギアソリッドVのトレイラー映像に、"Nuclear"が使われててビックリ。どうやら小島さんがひと目惚れならぬひと聴惚れしたことから採用されたのだとか。