2013年4月27日土曜日
Keith Emerson 『IRON MAN Vol.1』(1994/2001)
プログレッシヴ・ロック界のみならず世界的なキーボーディストとして知られる大御所キース・エマーソン。彼が関わったアニメ劇伴作品と言えば、1983年に公開された『HARMAGEDON 幻魔大戦』(青木望氏との共作)が有名ですが、実はもう一つ、アニメ作品の劇伴を担当しております。それが1994年から1996年にかけて放送されたアニメ版「アイアンマン」のTVシリーズ。2シーズン、全26話に渡って放送されたのですが、エマーソンが担当したのは1994年の9月から12月にかけて放送されたシーズン1です。また、サウンドトラックは2001年にエマーソンの公式サイトの通販限定で販売されました。ジャケットには『Vol.1』の文字がありますが、『Vol.2』は今なおリリースされておりません。
サントラの内容ですが、シンセサイザーによる大仰なメインテーマとその別アレンジ・ヴァージョンの2つに、何曲ものインストをひたすら繋げて16分~19分にまとめた長尺トラックが4つ、計6トラックでトータル73分という、何とも大雑把極まりない形で収録されています。細かくトラック分けがされていないのは何か意図があるのか、それとも単に編集が面倒臭かったのかは知りませんが、何にしても聴きづらいです。しかも本編劇伴トラックの曲名は、第1話から第4話までの各エピソードのタイトルをそのまま流用しただけです。そんな構成も手伝ってか、お仕事で作りました感というか、手癖で弾いたものを片っ端から詰め込んだという印象を一層強く感じてしまいました。音色やテンポを変えたメインテーマのヴァリエーション→不穏で無機質なシーケンス、という流れが何度も繰り返されるので、聴き通しているとややウンザリしてくるのですが、ノリノリでシンセを弾き倒している様が垣間見えるかのような心躍る展開や派手なアレンジ、ピアノによる即興的なトラックなど、部分部分ではハッとさせられるものがあります。中には、かつてEmerson,Lake&Powellでもカヴァーしたホルストの「火星」や、エマーソンのソロ曲である「ピアノ協奏曲第1番:第3楽章」やEmerson,Lake&Palmer「Tank」のフレーズがほんの少し顔を出したりもしているのですが…これはまあご愛嬌と言ったところでしょう。また、メインテーマの別ヴァージョンはEmerson,Lake&Palmerが『Black Moon』でカヴァーしたプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」みたいなアレンジです。『Black Moon』が1991~1992年、アイアンマンのサントラが1994年、この二つの作品が制作時期的にそんなに間が空いていないことを考えればアレンジが似ているのもそこそこ納得が行くのですが、もしかしてアルバムの没アレンジを流用したのかしら?という気も少ししてきます。良くも悪くもお仕事的な作品なので、コアなエマーソン・ファンのための1枚ではありますが、レアなアイテムであることは間違いないので、運よく見かけたら入手しておきましょう。
ちなみに、1995~1996年に放送されたシーズン2では劇伴担当がウィリアム・アンダーソン(TV番組やCM、映画、ミュージカル、カートゥーン、ゲームなど多数の媒体に楽曲を提供している売れっ子コンポーザーであり、スパイダーマンやX-MEN、ファンタスティック・フォーのアニメ版TVシリーズの劇伴もこの人が担当していました。現在はMy Little Ponyの劇伴に携わっている模様)に代わり、オープニング曲はハードなギターが鳴り響く中でひたすら"I am IRON MAN"のフレーズが連呼されるという、シーズン1以上に単純明快なシロモノになりました。ロン毛で半裸な出で立ちのスターク社長が鍛冶職人めいたことをやっている映像もインパクト抜群です。また、1996年には日本にも輸入され、NHKの衛星アニメ劇場で放送されたのですが、そこではオープニング曲がプリティキャストの「永遠が愛に変わるとき」に差し替わっております。
●Progarchives - Keith Emerson『IRON MAN Vol.1』
●Wikipedia - Iron Man(TV Series)