2016年12月26日月曜日

2016年ベストコミック 15選+α

 年間ベスト、コミック編です。去年はベスト本20選の中にコミックを二タイトル混ぜ込む形で、結局コミック単独では記事を立てなかった(後でTwitter上で10タイトル挙げてはいましたが)ので、今年はやります。


2014年度ベストコミック20選
こちらは二年前のベスト


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●梶本レイカ『コオリオニ 上・下』

コオリオニ(上) (BABYコミックス)
梶本レイカ
ふゅーじょんぷろだくと (2016-02-24)
売り上げランキング: 4,392

コオリオニ(下) (BABYコミックス)
梶本レイカ
ふゅーじょんぷろだくと (2016-02-24)
売り上げランキング: 6,554


 ぶっちぎりで今年のベスト・オブ・ベストです。上下巻一気読み必至。マジでトンでもねえ。地獄の深淵にどこまでズブズブと突っ込めるかという、ヤクザと刑事の文字通り身を削るハードコアBLノワール。どこまで、どこまで行ってしまうのか……というゾクゾク感をギリギリと噛み締めながら、心底、震えに震えた読書体験でした。悪徳の闇と踊るはみだし者同士の惹かれあう果てを高密度のセックス&ヴァイオレンス&ヴァイオレンスで描ききった、まごうことなき大傑作。130ページ以上にわたる描きおろしでの追加エピソードもまた素晴らしく、「参りました」と言うほかなかったです。惹かれあう正反対なメインキャラ二人を掘り下げながらも、テンションのまったく落ちないストーリー展開、描きおろしエピソード含めてこの構成のうまさはハンパではなく、興奮がさめやらない。熱に浮かされたように語りたくなるし、諸手を挙げて推したくなる。商業・同人活動の休止、そして再開、さらに新連載開始と、今年は梶本さんの動向から目が離せなかった一年でした。GoGoバンチで連載第一回が発表された「悪魔を憐れむ歌」は、まさにグランドオープニングと形容するにふさわしい、兇悪かつ最高の幕開けでした。未解決猟奇連続殺人を追い続ける北海道警察の阿久津。対するはハンニバル・レクター級の激ヤバ男 四鐘。邪悪な見せ場が見開きでブチかまされていて、超高まりましたね(30ページからの登場シークエンスはアドレナリンがドバドバ出ます)。今後も楽しみで仕方がありません。




●山本英夫[作]/池上遼一[画]『アダムとイブ 1~2[完]』

アダムとイブ 1 (ビッグコミックス)
山本 英夫
小学館 (2016-02-29)
売り上げランキング: 38,550

アダムとイブ 2 (ビッグコミックス)
山本 英夫
小学館 (2016-08-30)
売り上げランキング: 19,318


 一つの感覚にすぐれた五感ヤクザたちが結集。しかしそこに現れた謎の透明人間により、あれよあれよという間に人間が死んでいく、サスペンスフルでミステリタッチのデスマッチ。女性の髪の毛を燃やした匂いがどんなシャブやクスリよりも好きな男が「この女陰臭……極上の女!」「明らかな、発情。」といったキラーフレーズを飄々とカマしたりしつつ、ヤクザ VS 透明人間のスーパー五感バトルは最終的にイクところまでイク。超エキサイティングな興趣を味わえます。みなぎる奇妙な緊張感と壮大な大ネタへのブン投げっぷり、「やってくれたぜ!」としか言いようがなく、生きる理由を見出すにあまりあるほどにヤバすぎる面白さでラストまで持っていかれます。




●山田胡瓜『AIの遺電子 1~4』

AIの遺電子(1)(少年チャンピオン・コミックス)
山田 胡瓜
秋田書店 (2016-04-08)
売り上げランキング: 5,126

 ヒューマノイドが人工に膾炙した近未来社会で、種々の日常局面でのヒューマノイドの人間性や、彼らに相対する人間の感情の揺れ動きを、時に優しく、時にやるせないタッチで描いた一話完結型のSFコミック。ヒューマノイドによる落語や、ヒューマノイドによる“幻肢痛”など、印象的なエピソードが多く、粒ぞろい。掲載誌が週刊少年チャンピオンということもあってか「近未来版ブラックジャック」という形容がされているのだけど、切り口はむしろ岡崎二郎氏の『アフター0』に近いと個人的に思うんですよね。また、山田氏の前作であり、電子書籍オンリーで刊行されていた『バイナリ畑でつかまえて』が、今年書籍新版として刊行されたこともトピックでした。人工に膾炙したテクノロジーを毎話一つずつクローズアップして人間模様を描くショートショートであり、『AIの遺電子』は本作の発展型だというのが改めてよくわかりますし、優しいタッチと気の利いたオチの味も不変です。

「AIの遺電子」の山田胡瓜が選ぶ「バイナリ畑でつかまえて」5作品 - ITmedia PC USER




●浜岡賢次『ゾンビの星』

ゾンビの星 (ヤングチャンピオンコミックス)
浜岡賢次
秋田書店 (2016-08-08)
売り上げランキング: 50,726

 断続的に発表されたゾンビギャグ短編集。十数ものジョージとロメロが収録され、根っからのゾンビ狂であるハマケン先生の核の部分が激ユルな形で再確認できる。中学一年の時に封切られた「ゾンビ」を観てすっかり脳味噌を喰らい尽くされてしまったハマケン先生が、翌日その魅力を友人にしゃべりまくことに夢中になるあまり車に轢かれ、しかし俺はゾンビ化していて最強だったのでそのまま学校に行ったというムチャクチャな体験談がサラっと出てきていて笑ってしまう。表題連作以外だとナナメ上の和製ペット・セマタリー的4P短編「順平」が純粋に狂っていて好き。また、アンソニー・ホプキンス似のフランケンショタイン博士がウンコをはじく防糞スプレーの実験のために大男を生み出し、馬糞プールに叩き込もうとする「真説 フランケンショタイン」があまりにもしょうもなさすぎて最高。




●大石まさる『マーチャンダイス 1』

マーチャンダイス 1巻 (ヤングキングコミックス)
大石 まさる
少年画報社 (2016-08-30)
売り上げランキング: 26,973

 テラフォーミングされた火星の荒野を舞台に、住人たちがドタバタを繰り広げるオムニバス感もたっぷりなSF西部劇風群像劇。キャラクターがあちこちで動き回り、あっちこっちで繋がり、今後の伏線となりそうなものも散ちばめつつ(はてさて回収されるのか?)、とにかく色んな要素が惜しげもなく投入されているので一読しただけではとっつきにくく感じるところもありますが、キャラクターは誰も彼もイキイキしているし、さすがの画力で鮮やかに魅せてくるのがたまらない。




●アントンシク『恋情デスペラード 2~3』

恋情デスペラード 3 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
アントンシク
小学館 (2016-11-11)
売り上げランキング: 14,287

 荒野広がるウエスタン濃度高めのニッポンを舞台に、豪腕をブンまわしハデに野郎どもをたたっ斬る女風来坊(ただしイケメンには弱い)が主人公のミクスチャーサムライウエスタン豪快トキメキ爆裂痛快アクション。回を追うごとにドンドン面白くなってきており、現在進行形で目が離せないです。




●御免なさい『だから神様、ボクにしか見えないちいさな恋人をください。』


 八年ぶりの単行本。感慨と多幸感に堪えず、降り注ぐエロマンガ線バースト。死ぬほどエロいし、怖気が走るくらいの情念情念また情念で感無量というほかない。230ページ中、151ページを作画修正したというのも凄まじいのだけど、人間の尊厳を賭けた壮絶なるセックスバトルが繰り広げられる「脱出! ちびっ娘専用車両」前中後編連作の展開は圧巻。パッションのメーターが振り切れた瞬間のカタルシスとエロさでえらいことになっている。単行本刊行と時期を前後して、残虐さんとの関係性をガッツリ描き出した傑作同人誌『あの娘は都市伝説。』も復刊し、デビュー単行本『おませで御免!』も新装版で刊行され、まことにめでたい限り。新装版のほうも、現在の画風で100ページ以上の描きなおしが敢行されたと知り、頭が下がる思いと足をむけて寝られない思いが募ってわたしは球体になってしまった。




●叙火『八尺八話快樂巡り 異形怪奇譚』


 都市伝説&怪奇エロマンガ連作。八尺様、姦姦蛇螺、マネキン、くねくねなどのネット怪談系の定番が豊満、おねショタ、異種姦、石化と性癖のデパート的に襲い掛かってくるので端的に言って最高ですね。エロとしての見せ場はもちろん、ちゃんと怖~いくすぐりもあるし、最終話のオチのつけ方もベタながら好き。つい最近ピンクパイナップルからOVA版が出たようなのだけど、同時期に別のところからも八尺様のエロアニメが出ており、八尺様のセックスシンボル化が現在進行形で昂進しているという状況はまことに喜ばしい。バケモンにはエロをぶつけんだよ!




●江戸パイン『社畜! 修羅コーサク 1』

社畜! 修羅コーサク(1) (ヤングマガジンコミックス)
講談社 (2016-09-20)
売り上げランキング: 1,788

 修羅のはびこる無情の地「墓多(ハカタ)」に左遷されたサラリーマンの奮闘を描いたり、どうでもいいことを描いたりするビジネスパーソンコミック。「FUCKOKA」の文字列をよもや活字の形で(かつ、ルビ入りで)拝めるとは思わなかった。まず秀逸極まる第三話のバランス釜回だけでも読んでほしい。単行本だとさらにバランス釜の解説で「有事には風呂で豚汁を作ることができるなど高いポテンシャルを秘めている」などと書いてあり、腹筋がブッ壊れた。そして巻末には1ページ丸々使って20枚綴りの「弘兼憲史先生専用便利券」(ふとんほす券、愛人かくまう券 etc)が付いており、傍若無人の限りを尽くしているのもポイント。




●中川ホメオパシー『バトル少年カズヤ』

バトル少年カズヤ (LEED Cafe comics)
中川ホメオパシー
リイド社 (2016-09-28)
売り上げランキング: 69,314

 あらゆる意味で常軌を逸してしまっている一冊。これをまとめて脳にブチ込んだら間違いなく俺の気は狂ってしまうなと切実に精神と生命の危機を感じたので、細心の注意を払って複数回に分けて摂取したのだけれども、そもそもエピソードのひとつひとつがマキシマムに狂っているので精神が微塵に焼き切れた。抵抗のすべはない。SPARKLE……




●宮川サトシ[原作]/伊藤京[作画]『宇宙戦艦ティラミス 1~2』

宇宙戦艦ティラミス 2 (BUNCH COMICS)

新潮社 (2016-10-08)
売り上げランキング: 9,685

 人型兵器を駆る壮大なスペースオペラとみせかけてコックピット内での日常生活レベルのしょうもないハプニングに終始する四畳半ギャグ、もとい、四畳半未満ギャグ。全身にご飯をのせて食ったり、己の陰毛と対話したり、主人公(イケメン)のあられもない姿が目白押し。最近は新キャラも徐々に増えだしており、ワチャワチャ感がどんどん増していっている。

『宇宙戦艦ティラミス』原作者、宮川サトシ インタビュー! "宮川サトシの頭の中 ~ギャグ漫画は俺の聖域だ!!~" - CHATTERBOX



●小原愼司『青猫について 1』

青猫について(1) (ビッグコミックススペシャル)
小学館 (2016-11-11)
売り上げランキング: 36,823

 戦後闇市の無秩序下で少女がモツや手足首を撒き散らしたヤクザの屍の山を築き上げるなにもかも無情無惨な話。「神様の前で俺を殺せるのかよっ!」(斬)「主よ、私を呪いたまえ。」の第五話で第一巻がちょうど終わるのもシビれました。




●巻来功士『連載終了!』

連載終了!  少年ジャンプ黄金期の舞台裏
巻来功士
イースト・プレス (2016-02-07)
売り上げランキング: 30,122

 数々の強烈な作品を世に放ってきた巻来氏の少年誌での奮闘と、少年誌からの決別までを描いた自伝的漫画。作風が作風だけに、すわウルトラヴァイオレンスな実録が! と思っていたら、当時の状況を客観的に見つめて描かれており、抑え目ながら先生の人柄がにじみ出ているなーと。巻来氏の初代担当であり、元ジャンプ編集長であった堀江信彦氏との巻末対談も、自伝的な本編を補完する形にもなってて面白い。読み応えのある一冊。




●岡崎二郎『岡崎二郎SF短編集 ビフォー60』

岡崎二郎SF短編集 ビフォー60
岡崎 二郎
復刊ドットコム (2016-10-25)
売り上げランキング: 35,331

「アフター0 NEO」二本、「NEKO2」二本、「SUNちゃん」五本、「国立博物館」一本、「時の添乗員」一本、ほか読切二本――と、SF短編コミックの名手である岡崎氏の単行本未収録作を集めた一冊。もちろんクオリティはさすがの岡崎氏。雑誌掲載時にページ数の都合で書ききれなかったものは、加筆されてもいます。当時の雑誌の連載方針とのせめぎ合いなど、裏話もつまびらかにされているところも興味深い。




●日本橋ヨヲコ『G戦場ヘヴンズドア〔完全版〕1~3』

G戦場ヘヴンズドア 完全版 1 (ビッグコミックススペシャル)
日本橋 ヨヲコ
小学館 (2016-08-12)
売り上げランキング: 11,291

G戦場ヘヴンズドア 完全版 2 (ビッグコミックススペシャル)
日本橋 ヨヲコ
小学館 (2016-09-12)
売り上げランキング: 11,270

G戦場ヘヴンズドア 完全版 3 (ビッグコミックススペシャル)
日本橋 ヨヲコ
小学館 (2016-10-12)
売り上げランキング: 11,178


 個人的な話をしますが、十数年前に一、二巻を読んであまりの熱量にアテられ、第三巻を読むのが物凄く怖くなってしまい、ずっと距離を置いてきていました。なので、今回の完全版刊行を機に、意を決して十数年越しに最終巻を読んだわけなのですが、ああ、こんなにも見事なエンディングだったんだなあと。二人の激しい葛藤と泥臭いまでの愛憎に満ちた関係性、栄光と挫折が全三巻を通してぐるりと一回転しながら、それぞれの選んだ未来を描いてみせたというのは、本当にすごい。読むほうも相当のエネルギーを使いますが、掛け値なしに不朽の傑作。



【+α】

ジュール・ヴェルヌ[原作]/倉薗紀彦[画]『地底旅行 1~2』
小野中彰大『クミカのミカク 1~2』
器械『スクール・アーキテクト 2』
藤田和日郎『双亡亭壊すべし 1~2』
飯田ぽち。『姉なるもの 1』
櫻井エネルギー『櫻井超エネルギー』
雨山電信『雨山式雌穴マンゲ鏡』
panpanya『動物たち』
高橋ツトム『残響 2』
虚淵玄[原作]/七竃アンノ[漫画]
『アイゼンフリューゲル 弾丸の歌よ龍に届いているか 1』