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2018/12/28

2018年ベストコミック20選

《過去のベスト》
▼2014年
▼2016年
▼2017年


「2018年ベストコミック20選」



▼マージョリー・リュウ[作]/サナ・タケダ[画]/椎名ゆかり[訳]『モンストレス』
▼水上悟志 『水上悟志短編集「放浪世界」』
▼徳弘正也『もっこり半兵衛』
▼篠原健太『彼方のアストラ』(全5巻)
▼高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』(全2巻)
▼榎本俊二『アンダー3』
▼崇山崇『恐怖の口が目女』
▼原田重光[原作]/初嘉屋一生[漫画]/清水茜[監修]『はたらく細胞BLACK』
▼オガツカヅオ『魔法はつづく』
▼黄島点心『黄色い円盤』
▼友美イチロウ『號鉄のジョニー』
▼阿部洋一『それはただの先輩のチンコ』
▼BLZ『カリオストロの魔女』
▼丸岡九蔵『陋巷酒家』
▼斎藤潤一郎『死都調布』
▼施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』(上下)
▼福島鉄平『ボクらは魔法少年』
▼窓『カニバリズム!』
▼成田芋虫『IT'S MY LIFE』(全11巻)
▼カルロ・ゼン[原作]/石田点[漫画]『テロール教授の怪しい授業』


モンストレス vol.1: AWAKENING (G-NOVELS)
マージョリー リュウ サナ・タケダ
G‐NOVELS
売り上げランキング: 57,334



水上悟志短編集「放浪世界」 (BLADE COMICS)
水上 悟志
マッグガーデン (2018-01-10)
売り上げランキング: 9,490


 マージョリー・リュウ&サナ・タケダ『モンストレス』は、美麗にしてグロテスク、そして緻密なグラフィックで亜人種と魔女の抗争を軸に多種族が入り乱れる世界を描き出し、最初から容赦なくハードモードで展開されるヘヴィなハイブリッド異世界ファンタジー。自らの内に魔神を宿すマイカ・ハーフウルフに安寧は訪れるのか。モブ顔双子姉妹、頭の上の宇宙人、中年ファンタジー、バケモノ喰い稼業などバラエティに富む、水上悟志 『水上悟志短編集「放浪世界」』。収録作の中でも、クローン、珪素生命体、AIの三つ巴の関係を移民船型巨大団地ロボを舞台に描く中編「虚無をゆく」は渾身の傑作。水上氏が原作・ネームを描き下ろし、今年の1クールロボット群像劇アニメの見事な傑作だった「プラネット・ウィズ」とも共鳴するものがあります。



もっこり半兵衛 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
集英社 (2018-01-19)
売り上げランキング: 10,791


彼方のアストラ 全巻合本版 (ジャンプコミックスDIGITAL)
集英社 (2018-12-11)
売り上げランキング: 10,408


キャプテンハンゾーモン (2) (ヒーローズコミックス)
高橋 寛行
ヒーローズ (2018-04-05)
売り上げランキング: 50,468


 徳弘正也『もっこり半兵衛』は抜群のチンポ、もといテンポの良さ。元・無双の人斬りで、今は夜回り稼業をしながら日々袴に夢精しまくる主人公といい、スキあらば滑り込むギャグといい、かなり稀有な読み味なのにしっかり人情ものに着地する。徳弘氏の長年の持ち味が最良のかたちで滲み出ております。篠原健太『彼方のアストラ』はあまりにも鮮やかな完結でした。5巻というヴォリュームでこれだけの謎と伏線と冒険を盛りこみ、鮮やかな大団円として畳んだお点前。新機軸に挑戦した篠原氏は、同時に金字塔を打ち立ててしまった。とにかく事前情報すら一切入れずに全巻一気読みを薦めます。高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』。昨年は第1巻をベストに挙げたのですが、完結を迎えた第2巻も文句なしのベストです。変身回数が残すところ数回しかない、最初からクライマックス状態の老齢のスーパーヒーローが、内外の危機にどう立ち向かうのか。高密度の画力をぶつけ、必殺の大技ともども真っ向から描き切っています。お約束、王道の力強さ。キャプテンハンゾーモンはガチ。ガチなんだ。



アンダー3(1) (アフタヌーンコミックス)
講談社 (2018-06-22)
売り上げランキング: 36,021


恐怖の口が目女 (LEED Café comics)
崇山祟
リイド社
売り上げランキング: 122,737


 榎本俊二『アンダー3』は、数年分の性欲(連載)がついに単行本として精……電子化。電子化オンリー作品なれど、コンドームの精液だまりが肛門から出てくる揺るぎない性教育マンガが読めるのは榎本先生だけだぞ! ジャスティスジャスティス。出たとこ勝負のグルーヴ感の一年十ヶ月分の集積と爆発がみられるのが、崇山崇『恐怖の口が目女』。しょっぱなの異様な「すずめ新聞」からフルカラーのラスト数ページまで一気読みすると、気分が宇宙までブチアガることうけあい。巻末の崇山氏と天久聖一氏との対談も面白く。2chのスレに約3年間、誰に求められるわけでもなくひたすらポプリが香るようなポエムを投稿し続けたというくだりは、これはもう修験道ではないかと感銘を受けました。



はたらく細胞BLACK(1) (モーニング KC)
初嘉屋 一生
講談社 (2018-07-09)
売り上げランキング: 5,840


魔法はつづく (LEED Cafe comics)
オガツ カヅオ
リイド社
売り上げランキング: 64,074


『はたらく細胞』スピンオフコミックの一つながら本家より容赦がない『はたらく細胞BLACK』(原作:原田重光/漫画:初嘉屋一生/監修:清水茜)。こっちもぜひアニメ化してほしいと思うんですけど……無理ですかね。原作は『ユリア100式』『ゆりキャン』などで知られる原田氏ですが、エロコメディを期待すると内臓に一撃を喰らいます。第3話の勃起不全回からの第4話の淋菌回の苛烈な流れは冷汗がドバーッと出る。ところで、月刊ヤングマガジンで連載中の原田氏原作の『女神のスプリンター』は射精管理トレーニング漫画なので、先に挙げたエピソードを読んでいると味わい深いものがあるのではないかと思います。オガツカヅオ『魔法はつづく』は、待望の短編集。雑誌(シンカン Vol.1/2009年)→WEB(エクストリームマンガ学園/2016年)→雑誌(ネムキプラス/2017年)という珍しい掲載(再録)歴を経てついに単行本に収録された「よふさぎさま」は、純粋さという怖さを描く傑作。登場人物と読み手にとっての「ひっかけ」になるポイントが交わったり交わらなかったりするのも絶妙です。三角関係の顛末、からの……というゴースト(生霊)ストーリー「しあわせになりましょう」。奇妙なラブコメ関係を描き、ラストのセリフが実にエモい「こくりまくり」は、じわりとくる“してやられた感”が味わえる――などなど、ぐるりと転回する瞬間の〈魔法〉にゾワッと戦慄、あるいはじわりと染み入る9編+α。



黄色い円盤 (LEED Cafe comics)
黄島 点心
リイド社
売り上げランキング: 118,948


號鉄のジョニー 1 (SPコミックス リイドカフェコミックス)
友美イチロウ
リイド社 (2018-07-05)
売り上げランキング: 235,734


それはただの先輩のチンコ
阿部 洋一
太田出版
売り上げランキング: 21,233


 黄島点心『黄色い円盤』は奇想短編集第二弾。やはり黄島氏の奇想とストーリーテリングのうまさに舌を巻いてしまう、そしてちぎれてしまう。「円盤」はトンデモな傑作で、双子の宇宙論とDJの二枚使いをダブらせ、A面B面と北半球南半球と物質反物質がごっちゃになるという超極大スケールのブッこみが炸裂、破滅的なカタルシスを爆笑とともに味わわせてくれる。友美イチロウ『號鉄のジョニー』は戦後闇市系アーティフィシャル・ヴァイオレンス。股間がチェーンソーで真っ二つになった瞬間、傑作だと確信しました。しかも2回! 蛇原は1話で死ぬには惜しいくらいのいいキャラだなあ。おちんちんが真っ二つになる傑作漫画といえば、山本英夫『殺し屋1』(タテに真っ二つになる)ですが、阿部洋一『それはただの先輩のチンコ』はヨコに真っ二つになる傑作おちんちん漫画です。だが本作はグロではない。ポップで、切ないのだ……。ところで、ボーイフレンドの切り離されたちんこに寄生される、というのもTSにカテゴライズしていいんでしょうか。













「カリオストロの魔女(書籍版)」(Booth)
https://blz.booth.pm/items/908900

 今年4月から9月にかけて放送されたアニメ最新シリーズ「ルパン三世 PART5」は集大成的で感慨深い内容でしたが、2014年10月末から2018年6月末にかけて発表され、8月に300ページの漆黒の造本でまとめられた、BLZによる「カリオストロの城」二次創作アフターストーリー『カリオストロの魔女』にも大いにシビれさせられました。35年の間にルパン三世とクラリスが歩んだそれぞれの道が再び交わり、カリオストロ公国の戦いの歴史にひとつの節目が刻まれるストーリーを、これでもかとキメと見開き構図のオンパレード&イカしたセリフ回しがシブく染めあげる。













「陋巷酒家 うらまちさかば」(Booth)
https://booth.pm/ja/items/966489

 コミティア125で初頒布された、丸岡九蔵『陋巷酒家(うらまちさかば)』は、現在2巻まで刊行されている、近未来終末バイオメカニカル人情立ち飲み屋連作コミック。まさに看板メニューの煮込みのように、世界観もキャラクターもじっくりと丁寧につくりあげられており、細かな描きこみも含めて楽しい。ポストアポカリプスな日常が活き活きと描き出されています。現在1巻は在庫切れ中であり、重版・通販再開は1月末~2月予定とのこと。



死都調布 (torch comics)
死都調布 (torch comics)
posted with amazlet at 18.12.28
斎藤 潤一郎
リイド社
売り上げランキング: 23,092





 斎藤潤一郎『死都調布』は、今年の夏のサグい真打ち。ストーリーは女陰を晒す女で動き出し、女陰を晒す女で締めくくられる。全貌が見えてきたかと思いきや、依然として迷宮の中にいるような異物感にガツンとやられてしまった。「ケツはちゃんと拭け」から始まる男と女の、そしてビーフタコスを介した父と子の、どこまでも擦り切れ切って乾き切ったやりとりを描く「CHAPTER.8 ILLSTREET」は一つの短篇としても完成されていて、決定的に素晴らしい。施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』は、不死の存在である子供たち(と、その母親)の長い長い歴史の中の日常、変わる者と変わらない者の邂逅と別離、死を選んだ者と死を選ばなかった者の物語を、家族愛とヒップホップ『最後にして最初の人類』『スターメイカー』(オラフ・ステープルドン)や『火の鳥』のような大いなるスケール感を交えて描いた上下巻。どこまでも澄んでいて、どこまでも胸に迫る。



ボクらは魔法少年 1 (ヤングジャンプコミックス)
福島 鉄平
集英社 (2018-09-19)
売り上げランキング: 18,298


カニバリズム! (ムーグコミックス)
窓
ジーウォーク (2018-09-28)


「アマリリス」で切ない少年同士の友情話を描いた福島鉄平が、そのポップでフェティッシュな作家性を余すところなく全力で叩きつけてきた『ボクらは魔法少年』。「We Gotta Power」の歌詞じゃないですが、夢中になれるモノが いつか君をすげぇ奴にするんだ――そんな内容です。KAWAIIが押し寄せて来る 泣いてる場合じゃない。サイボーグご飯マンガ「サイバネ飯」、そして現在、ギャルがバディを組んでヴァイオレンスなアクションを景気よくブッ放す『東京入星管理局』をCOMIC MeDuで連載中の窓口基が、同人誌でこれまで発表したウェルメイドな人肉食漫画の再録&商業単行本化が、窓『カニバリズム!』。淡々と、マニュアル的に、手際よく、人の肉を解体し、喰らう、あくまで淡々と。それが素晴らしくいい。余すところなく「人間味」にあふれている。



IT’S MY LIFE (11) (裏少年サンデーコミックス)
成田 芋虫
小学館 (2018-10-19)
売り上げランキング: 28,736


テロール教授の怪しい授業(1) (モーニングコミックス)
講談社 (2018-12-21)
売り上げランキング: 80


 裏サンデー、マンガワンで2014年12月から足掛け4年に渡って連載された、成田芋虫『IT'S MY LIFE』が全11巻で完結。全てのキャラクターと物語を有機的に描き切った万感のアットホームファンタジーでありました。キャラクターといいストーリーといい、成田氏は「積み重ねていく」のが本当にうまい人だなと思います。現在別冊ドラゴンエイジにて連載中の『KILLING ME /KILLING YOU』で描かれるメインキャラクター2人の旅路と積み重ねの行方にも期待です。カルロ・ゼン&石田点『テロール教授の怪しい授業』は画期的切り口のテロ&カルト論コミック。白熱教室ならぬ爆熱教室。これは10巻分くらい回を重ねていけばすごいものになりそうな予感がする。モリモリと重ねていっていただきたい。

2017/12/25

2017年ベストコミック20選

 《過去のベスト》
■2016年ベストコミック 15選+α
■2014年を振り返る~読んだ漫画ベスト二十選




野村亮馬『インコンニウスの城砦』
ガース・エニス[原作]、ジョン・マクリア[画]/海法紀光[訳]『ヒットマン』
沢田新[原作]/浅井蓮次[画]『バイオレンスアクション』
高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』
アンソニー・ボーディン/椎名ゆかり[訳]『GET JIRO!』
谷口トモオ『完全版サイコ工場 A線/Ω線』
ジェフ・ダロウ/椎名ゆかり[訳]『少林カウボーイ SHEMP BUFFET』
ジェントルメン中村『セレベスト織田信長』
黄島点心『黄色い悪夢』
佐藤将『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』
大今良時『不滅のあなたへ』
梶本レイカ『悪魔を憐れむ歌』
速水螺旋人『男爵にふさわしい銀河旅行』
稲垣理一郎[原作]/Boichi[画]『Dr.STONE』
ジュール・ヴェルヌ[原作]/倉薗紀彦[画]『地底旅行』
天原[原作]/masha[画]『異種族レビュアーズ』
意志強ナツ子『魔術師A』
星野茂樹[原作]/オガツカヅオ[画]『ことなかれ』
ツナミノユウ『ふたりモノローグ』
道満清明『オッドマン11』



▼野村亮馬
『インコンニウスの城砦』



 今年のド頭は、自主レーベル「馬頭電書」からkindleオンリーでリリースされた描き下ろしの本作にやられたといっても過言ではない。氷期の惑星を舞台に、比較的温暖な赤道地帯の領有権をめぐり終わりなき戦いを続ける科学技術の北半球と魔法技術の南半球。そのなかで起こった一つの出来事を切り取った、異世界スパイアクション。退廃的な世界観もさることながら、北球側のエネルギー事情は「魔術を失敗し続けること」で得ているというユニークさや、それをさらに逆手にとった、南球側の決死の戦法である「釜割り」の設定のケレン味も物語のスパイスとして効いている。南球側の密偵として潜り込む新入りの少年カロと、無骨な女性闘士ニネットの出会い、信頼関係、その先を通して描かれるドライな魅力も満載でたまらない。改めて読み返すことで別の表情が浮かび上がってくる。



▼ガース・エニス[原作]、ジョン・マクリア[画]/海法紀光[訳]
『ヒットマン』

ヒットマン5
ヒットマン5
posted with amazlet at 17.12.25
ガース・エニス ジョン・マクリア
KADOKAWA (2017-05-18)
売り上げランキング: 67,827


 したたかさで出し抜き生き抜くトミー・モナハンたちの活躍を描くボンクラハードボイルドの傑作、堂々邦訳完結。3冊同時刊行と聞いたときには正気の沙汰ではないと思ったものですが、読み終えた今となっては感謝の極みしかなく、ただただ全巻溶接マンとなるほかありませんでした。3~5巻はもう本当に一気に読んだ方がいいです。1、2巻の頃とはだいぶトーンが苦く重く変わってくるとともに、揺るぎない傑作へと邁進している。そして5巻は本当に「最期」の巻であり、セクション8の面々も再び出てくるのだけど……そしてシックスパックが……さらにはベイターまでもが泣かせるセリフを吐く始末。アンタら、輝いてないけど輝いてたよ。



▼沢田新[原作]/浅井蓮次[画]
『バイオレンスアクション』

バイオレンスアクション 1 (ビッグコミックススペシャル)

小学館 (2017-03-10)
売り上げランキング: 19,403


 女子専門学校生兼凄腕ヒットガールのゆるふわな日常と無慈悲なお仕事。端的にいうと、やべーやつらがたくさん出てくる。その先頭を切ったのが「みちたかくん」なのだけど、巻を追うごとに、どんどん「いいキャラ」のギアを上げてくるところも最高ポイント。「不明なアーティスト」をつっこんだiPodのくだりといい、「なごり雪」をバックに圧倒的パワーヴァイオレンスをブツける見せ場といい、アガる。「なごり雪」がこんなにもエキサイティングな使われ方する漫画、かつてあっただろうか(ねーよ!)



▼高橋寛行
『キャプテンハンゾーモン』

キャプテンハンゾーモン(1) (ヒーローズコミックス)
高橋 寛行
小学館クリエイティブ (2017-05-02)
売り上げランキング: 97,408


 スーパーヒーロー、しかし老齢、変身回数も残すところ3回しかない、それがキャプテンハンゾーモン。大丈夫か!? ってかコレ話数を重ねられるのか!? というコチラの心配なんておかまいなしに、大技で敵をブッとばす。前作『ドロロン!お国ちゃん』でもデフォルメの効いたキュートなキャラクターの一方で緻密な背景描写やド派手な構図がたびたび見受けられましたが、キャラもすべてリアル調にし、最初からフルパワーで高密度の画力をぶつけてきているのが本作。ものすごいダイナミックな見開きをカマしてくる。シリアスなようでギャグ、ギャグのようでシリアスという絶妙さもたまらない。第2巻が待ち遠しい。ハンゾーモンー! 早く来てくれー!



▼アンソニー・ボーディン/椎名ゆかり[訳]
『GET JIRO!』

GET JIRO!
GET JIRO!
posted with amazlet at 17.12.25
アンソニー ボーデイン
誠文堂新光社
売り上げランキング: 68,575


 街を牛耳る二大料理勢力を潰すスシ職人ジローの静かな活躍を描いたグラフィック・ノベルであり、暴力と料理のセットメニューである。ページをめくれば、「食文化によって完全に支配された世界 他にはほとんど何もない スポーツ、映画、音楽業界はすべて崩壊し、死に絶えた 国の主な産業はチーズバーガーを作って互いに売買すること」と、いきなりのご挨拶なのだが……チーズバーガーなのかよ! ちなみに原作者の一人であるアンソニー・ボーディンはリアルシェフであり、自分の冠番組も持っているという人で、ノンフィクション『キッチン・コンフィデンシャル』『クックズ・ツアー』が邦訳もされている。料理探求が高じて(?)、クライム/スリラー作家のジョエル・ローズと組んでかようなサツバツ料理漫画を生み出してしまった。面白すぎるだろ。邦訳版は、ラングドン・フォス作画による表題作に加え、アレ・ガルザ作画による「ブラッド・アンド・スシ」も併録。こちらは、ジローがヤクザからスシ職人になるまでを描いた“エピソード0”であり、冒頭から無慈悲なカチコミシーンが描かれる。料理よりも兄弟の確執を焦点に描いたガチのヤクザものの興趣が楽しめる。



▼谷口トモオ
『完全版サイコ工場 A線/Ω線』

《完全版》サイコ工場 A(アルファ) (LEED Cafe comics)
谷口トモオ
リイド社
売り上げランキング: 41,763

《完全版》サイコ工場 Ω(オメガ) (LEED Cafe comics)
谷口トモオ
リイド社
売り上げランキング: 52,656


 鮮やかにブッ刺さるデザイン、行き届いた収録作の流れ、最高の仕上がりのリマスター&リミックス&リコレクション二冊。山本ニュー氏による、痒いところに手の届き尽くした濃厚な書誌データ&ネタの拾い上げがギッシリと詰まった「谷口トモオ/矢口順一全仕事」、谷口トモオ氏自らによる解題、そして今回のブチ上げ人である劇画狼氏による熱意の軌跡「完全版サイコ工場製造記録」の巻末三連発も超素晴らしくアガる内容。ところで個人的な話になるのだけど、小学生のころ、「段ボールを被った女生徒がもの凄い音を立てて血を吹き出す」ラストシーンのある漫画を読んでしばらく夢見が悪くなったことがある。その漫画のタイトルも作者の名前もすっかり失念してしまっていたのだけど、『Ω線』収録の「ATTACK OF KILLERダンボール」がまさにその作品であった(つまり、1995年刊の勁文社のアンソロジー『呪いの学校霊』を当時読んでいたらしい)。まさしく邂逅だった。異なる心象風景をさりげなく喚起させてくれる「さめない夢」と、文字通りスイッチが切れた終焉を迎える「ピーナッツバター」のラストの二編の美しい流れをもって、愛と情熱とサイコにあふれた新生プロジェクトが締めくくられたというのも感慨深い。



▼ジェフ・ダロウ/椎名ゆかり[訳]
『少林カウボーイ SHEMP BUFFET』

少林カウボーイ SHEMP BUFFET (DARK HORSE BOOKS)
ジェフ ダロウ
Graffica Novels
売り上げランキング: 64,003


 超高密度の視覚的暴力。ダブルチェーンソーでゾンビを斬り続ける描写が50ページぶっ通して続き、さらに徒手空拳でゾンビを屠り続ける描写が40ページぶっ通しで続く。狂った構成を異常な画力でブッチ抜き、血とモツが大サービスされる。地獄! 地獄! 地獄! 日本語で7000~8000字くらい(あるいはそれ以上)のあらすじ(?)がビッチリと詰まっているのも率直に言ってクレイジー極まる。要約すると、出てくるヤツらのほとんどが少林カウボーイとオバマケアの消滅を誓っている。以上! なお、今年はフランク・ミラー&デイブ・スチュアートとの『ザ・ビッグガイ&ラスティ・ザ・ボーイロボット』の邦訳も出たし、本国ではミラー&ダロウの傑作『ハードボイルド』の第二版が出た(つまり復刊である)。『ハードボイルド』は実写映画化の話もあるようなので、うまくいってくれることを願うばかり。



▼ジェントルメン中村
『セレベスト織田信長』

セレベスト織田信長 1 (SPコミックス LEED CAFE COMICS)

リイド社 (2017-09-22)
売り上げランキング: 22,346


 ホッコリの伝道師、ジェントルメン中村がスケール&グレードアップして帰ってきた! そして彼こそが、ワキに生えたキノコの描写が宇宙一うまい男である。男たちの裸体、体毛、体液率の異常な高さ。回を追うごとに常軌を逸してゆくルビ使い(冬虫夏草にマグナムとかキノコ・ボンバーとかルビが振られるのはセレベスト信長だけ!)。歴史上の英傑のヒゲに全身を愛撫されるという凶悪な絵面がある第2話、糞・尿・ローションと三拍子揃ったサービス回の第6話、第5話の卑弥呼のセリフ「臆病者(タマナシ)!! 帰って母(ママ)の陰核でもしゃぶっとれ!!」と第8話の北条早雲のセリフ「学級委員(マジメクン)は帰って祖母(バァバ)の大陰唇(ラビア)でもしゃぶっとれ!!」のコントラスト、などなど、キラーな個所を挙げればキリがない。しかし間違いなく言えることは、上のまた上(スカイズ・ザ・リミット)を目指す人間へ贈られた激読の書である。合言葉はもちろん「だろォ~~!!」でキマリ! 「だろォ~~!!」にはミーム力(ちから)がある。ミームの力が。来年春の新展開を鎮座して待つ。



▼黄島点心
『黄色い悪夢』

黄色い悪夢 (LEED CAFE COMICS)

リイド社
売り上げランキング: 17,368


「怪作」という言葉がこれほどふさわしい中短編集もないのではないかというくらい、ハイカロリーの奇想で全力でブン殴ってくる。真空密閉男のたどる運命をどんでん返し大回転で描いた「断末夢」に、人間のペルソナをでっかいカサブタにするという最高のアイデア爆裂の「人面葬」。極めつけは人間視点と蚊視点の双方で書いた「血に落ちる」二部作。描写と妄念が外へ内への大騒ぎであまりにも凄すぎてオーバーフローする。どうかしている。



▼佐藤将
『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』

本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇 (LEED CAFE COMICS)

リイド社
売り上げランキング: 15,470


 メチャクチャをやっている。「小説内小説」「漫画内漫画」というのは割とよくあるのだけれども、「漫画内小説」というのはあまりないケースだなあ、うーんメタだなあ、などとしたり顔をするのもそこまでである。思春期の娘のことを知ろうとする父親が娘の部屋に忍び込んでは蔵書の小説を盗み見るという、一見すると背徳的な大枠で傍若無人なネタの連発と高濃度のナンセンスに寝首をかかれる。板垣恵介風、コロコロコミック風、滝平二郎(モチモチの木)風、山本タカト風、池上遼一風になったりならなかったりする絵柄のメタモルフォーゼっぷりも暗黒っぷりに拍車をかけている。



▼大今良時
『不滅のあなたへ』

不滅のあなたへ(1) (講談社コミックス)
大今 良時
講談社 (2017-01-17)
売り上げランキング: 8,172


 形態を自在に変化させる超越的な「球体」が まったくの白紙状態から果てしのない彷徨を通して少しずつなにかを得ていくというトラベルファンタジー。田中光二『異星の人』のジョン・エナリー、梶尾真治『おもいでエマノン』のエマノン、伊坂幸太郎『死神の精度』の千葉など、知性や理性を持つ超越的存在が人間を見つめる話は色々あれど、『不滅のあなたへ』の(球)は理性も感覚もない「真っ白な」観察者なのがミソだよなあと。なるほど「獲得の物語」だと思った。




▼梶本レイカ
『悪魔を憐れむ歌』

悪魔を憐れむ歌 1 (バンチコミックス)
梶本レイカ
新潮社 (2017-05-09)
売り上げランキング: 28,216


 未解決猟奇連続殺人を追い続ける刑事、阿久津。危険な匂いを秘めた医師、四鐘。二人の関係を中心としたクライムサスペンス。四肢の折りたたまれた死体が発見される兇悪な幕開けから、「証明しろ お前のオペラを」と高らかにうたいながら殺しを遂行する四鐘のシーンが見開きでドンとブチかまされる第1話からもうすでにヤバいムードがムンムンであった本作。変わり果てた阿久津の元同僚の凄惨な顛末や、事件を嗅ぎまわるライター、現役とOBの一枚岩でない思惑、「ギガス写本」の苛烈な逸話、四鐘のいわくありげな掌の傷などがほのめかされ、トドメには阿久津、四鐘との三つ巴の構図を予感させる不穏なキャラクターも登場と、盛りだくさん。さらなる危険領域に突入しそうな雰囲気でじっくりとサスペンス度を高めていく。まったくもって目が離せない。隔月刊誌連載で年2冊の単行本刊行にこぎつけたゴーゴーバンチ編集部の英断と梶本先生の馬力にも改めて頭が下がった。スピード感、大事ですね。そして、第2巻と同日に発売したゴーゴーバンチ最新号でちょうど続きが読めるのだが、衝撃的な事実が明らかになっていた。そしていよいよ……。



▼速水螺旋人
『男爵にふさわしい銀河旅行』

男爵にふさわしい銀河旅行 1 (BUNCH COMICS)
速水 螺旋人
新潮社 (2017-12-09)
売り上げランキング: 4,651


男爵とヴィンテージロボット娘、そして吟遊詩人の惑星珍道中。宇宙版弥次喜多、あるいは宇宙版ノンシャラン道中記。宇宙的スケールで所帯じみており、トボけたアドベンチャー。



▼稲垣理一郎[原作]/Boichi[画]
『Dr.STONE』

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックス)
Boichi
集英社 (2017-07-04)
売り上げランキング: 7,333


 全人類が石化し壊滅状態となった地球で、超人的なスペックを誇る数人の人間たちがハイスピードで文明の復興を目指す……という、いたって単純明快なストーリーを、ドデカいスケール感とスピーディな展開、高い作画カロリー、そして科学監修をつけたうえで描くとこんなにも底抜けに明るく、底抜けに狂ったエンタ―テインメントになるのかという感動と興奮がある。1巻巻末に載っている参考文献 『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』 『人類が消えた世界』 『SASサバイバル百科大全』 『最新SASサバイバル・ハンドブック』 『SAS・特殊部隊式図解サバイバル・テクニック』 『新冒険手帳【決定版】』 『アウトドア・サバイバル技法』というのもなんとも明快。本作と並行して、ヤングマガジンのロボットSFアクション『ORIGIN』でも相当の作画カロリーを消費しているBoichi氏のバイタリティにも驚かされる。もともとA・C・クラークが大好きで、SF漫画を描くために物理学を専攻していたという人なので、水を得た魚といった感。



▼ジュール・ヴェルヌ[原作]/倉薗紀彦[画]
『地底旅行』

地底旅行 1 (ビームコミックス)
倉薗 紀彦
KADOKAWA/エンターブレイン (2016-03-25)
売り上げランキング: 54,583


 コミックビームのいわゆる「文芸コミカライズ」枠には頼もしさと楽しみを感じている。『地底旅行』は先ごろ全4巻で完結。ヴェルヌの想像力をじっくりヴィジュアル化していく一貫した丁寧さもさることながら、冒険小説でありビルドゥングスロマンな原作の要素も見事に汲んでいて、幸福な完走を果たしたコミカライズだと断言したい。



▼天原[原作]/masha[画]
『異種族レビュアーズ』

異種族レビュアーズ (ドラゴンコミックスエイジ ま 7-1-1)
masha
KADOKAWA (2017-09-08)
売り上げランキング: 3,331


 モンスターを食う漫画があるなら、モンスターと寝る漫画があってもよいだろう、ということで、エルフ、亜人、獣人、タコ娘、スライム、淫魔、有翼人、天使、サラマンダー、フェアリー、魔族、単眼娘、ウィルオーウィスプ、あらゆる種族としっぽりする。そしてレビューする。性癖のバーゲンセール? 性癖のデパート? 性癖の総合商社? いやいや、性癖の風俗店。



▼意志強ナツ子
『魔術師A』

魔術師A (torch comics)
魔術師A (torch comics)
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意志強ナツ子
リイド社
売り上げランキング: 25,463


 自意識と性をめぐる秘めやかでエグみの忍んだエピソード群。ワサワサモヤモヤするし、このワサワサモヤモヤな閉塞感が遅効性の毒のように効く。こびりついてくる。「チェコ国立芸術アカデミー卒」という帯文も眩惑的に試してくる感があって、えも言われぬ読後感。肌がたるんだおばさんの自慰シーンや、おじさんおばさんと少女の無味乾燥なまぐわいがサラリと描かれるのも逆にこびりついてきますね。



▼星野茂樹[原作]/オガツカヅオ[画]
『ことなかれ』

ことなかれ 1 (Nemuki+コミックス)
星野茂樹
朝日新聞出版 (2017-08-07)
売り上げランキング: 59,328


 正気と狂気、道理と不条理が反転し、事件は解決するとは限らず、宙に放り投げられるような感覚を味わった傑作短編集『りんたとさじ』の読み味はそのままに、ダメ押しとばかりに更なる怪異も描かれるのでザワザワすることしきりな都市型ホラー連作。理知的な解決を見たと思いきや……な第2話「立ち枯れ」と、ことなかれ課発足につながる第4話「引き寄せの法則」がベスト。第3話・5話のオオカワウソ回のような伝奇ホラー色もある。第1巻の最後は“引きの回”だった第6話なので、1巻だけ読んで「ことなかれ」とはいかないのが心ニクい。来年はオガツ先生の新たな短編集の予定もあるということで、楽しみが二倍に。



▼ツナミノユウ
『ふたりモノローグ』

ふたりモノローグ(1) (サイコミ)
ツナミノ ユウ
講談社 (2017-07-28)
売り上げランキング: 32,193


 ラヴをこじらせた非常識少女が常識的人外を執拗に追い掛け回す『つまさきおとしと私』に続いての新作は、切り出せないクールギャルと切り出せないネクラオタクガールのすれ違い百合コメディ。つくづくツナミノ先生は感情の暴走をコネコネするのがうまい。



▼道満清明
『オッドマン11』

オッドマン11 (メガストアコミックス)
道満 晴明
コアマガジン
売り上げランキング: 23,131


 ドーマン先生の約5年分の蓄積(2011年9月から2016年4月までのコミックホットミルク掲載分)が結実した。めちゃくちゃ面白いのだが、第2巻が出るのはどんなに早くても2022年予定ということになるので、少し泣いてしまった。




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 リイド社・リイドカフェの掲載媒体としての無差別的な強さ、傍若無人な攻めっぷりと、おおかみ書房の劇画狼氏のごんぶとな仕掛けっぷりのアツさにヤラれた一年でした。また、『GET JIRO!』や『少林カウボーイ』のみならず、ヒーローどものクレイジーでヴァイオレンシャルな日常を描く『ザ・ボーイズ』など、トンガったアメコミ邦訳を続々とぶっぱなしている誠文堂新光社さんのマッシヴな仕事ぶりにも感じ入った次第。来年早々にはハード百合コミック『Sunstone』の邦訳第一巻の刊行が控えており、楽しみでなりません。平松伸二先生の実録(?)外道マンガ自伝『そしてボクは外道マンになる』の異常なパワフルさもさることながら、こち亀を完結させた秋元先生の間を置かずしての精力的な作品発表(『BLACK TIGER』ほか)もすごいもんだなと。6月は殺し屋ものが豊作だった印象がある。小原愼司氏の『青猫について』は2巻完結で修羅の荒野を突き抜けたし、ゆりかわ氏の『DOG END』は禍々しい表紙の3巻で殺し屋バーゲンセールになって加速度的に面白くなってきたし、少女&ジジイのバディものである、井上智徳氏の『CANDY & CIGARETTES』も今後がますます楽しみ。主人公マッコイが古今の神々、魑魅魍魎たちと数々のドンパチを繰り広げる、久正人氏による幻想怪奇伝奇エキサイティングハードボイルドガンアクション『エリア51』が第15巻でフィナーレ。最後は「自分との闘い」であったということも印象深い。旅立った者、そして残された者たちに幸多からんことを願ってやまない、見事なラストでしたね。そのほか、田中相『LIMBO THE KING』、グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』、環望『ソウルリキッドチェインバーズ』、横尾公敏『仏像パンク』、佐々木順一郎『オオカミの子』、モンキー・チョップ『浪花任侠道』、櫻井エネルギー『サクライプレジャーストリート』、Boichi『ORIGIN』、施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』を挙げたいです。今年は個人的に思いがけないトピックが二つ。一つは《モーニング》2017年15号に掲載された、ひろき真冬氏の数十年ぶりの読切「風の花/Sky Flower」。至近未来と近未来の一瞬の邂逅を描いた、静かで、どこか懐かしいテイストの中編SFドラマ。氏のしなやかで緻密な描き込みも健在で、いいものを読んだなと。もう一つは、上山徹郎氏の傑作『LAMPO―THE HYPERSONIC BOY―』が20年ぶりに復刊を果たしたことです。

2017/07/23

極道野球からの伝奇ヴァイオレンス野球で人間が死ぬ 『硬派!埼玉レグルス』(1986-1989)

ふと思い立って『硬派!埼玉レグルス』(滝直毅[原作]/山本コーシロー[作画])を一気読みしました。月刊少年ジャンプの1986年9月号から、1989年8月号にかけて連載された全9巻の野球漫画。ヤクザの若頭である主人公 歯車獅子太郎が弱小球団である埼玉レグルスのオーナーに見染められ、新監督として超人的体力と気合(そして暴力)でチームを牽引していく、というのが本作のあらすじです。





 当時の月刊ジャンプは、なかいま強の『わたるがぴゅん!』が連載3年目にさしかかろうとしていたころで、野球漫画がダブるのではと思いきや……埼玉レグルスは第1話のしょっぱな4ページ目で(フェイクとはいえ)指をエンコしてドスでメッタ刺しにするシーンが出てくるので、ハナからマトモな野球漫画ではありませんでした。相手の剛速球やスライディングを顔面で受け、長ドス持ちの構えでバットを持ち、ボールをその先端にブチ当ててホームランをカマす獅子太郎のポテンシャルは以降インフレし続けます。その一方で、鶴之丞という「男の娘」(元リトルリーグのエースピッチャーだったものの、母を亡くし、腕を故障したため女形の道へ進んだという設定)もおり、かれは完全に本作のヒロイン枠です。






 そんなこんなで、3巻までは「極道野球漫画」なのですが、4巻にさしかかり、地下プロ野球リーグ「レッド・ドラゴン」と、それらを統べる「赤龍」の存在が明らかになるあたりで伝奇ヴァイオレンスアクション野球漫画へと舵をきりはじめ、沢村栄治の魂を受け継ぐ9人の「光の獅子」という設定がメインになってゆきます。同時期の週刊少年ジャンプは『北斗の拳』『魁!!男塾』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』と、バトル漫画大全盛であり(さらに1987年に入ると『ジョジョの奇妙な冒険(第一部)』や『ゴッドサイダー』の連載も加わってきます)、それらと同位相の波動がレグルスにもみなぎりはじめるのです。そして、人間がどんどん死にはじめる(ココ重要)。ジャンプ野球漫画の系譜でも、70年代の『アストロ球団』と90年代の『地獄甲子園』と同じラインにあり、その間をつなぐ作品といえなくもないんじゃないかと。もうムチャクチャなケレン味です。





 アラーの呪い、もといサソリの猛毒で瀕死の重傷を負わせるチーム「アラーズ」(ピッチャーとキャッチャー以外の全員が“地中”で守備についている)や、ヨーゼフ・メンゲレの血を引くエースピッチャー アルラウネ(筋肉を伸長限界点まで伸ばして繰り出す「ハイドロサイエニック打法」で殺しにかかる)を擁するナチスドイツチーム「パニッシュナーズ」、ウェンディゴのパワーを得るために魂を売り渡したカナダチーム「カナディアン・ブレード」といった狂った強豪チームが出てくる6巻から8巻にかけての傍若無人っぷりも相当なものですが、最終巻に至っては、味方に謎の新キャラが出てくるわ、主要キャラがどんどん死ぬわとツッコミが追いつかなくなり、もはや完全に破綻してしまっています。それでも、全てを巻き込んでラストまで突き抜けてしまった。いろんな意味で記憶に残る怪作だと思います。……求む、電子書籍化。






吼!サムライ 1 (少年チャンピオン・コミックス)
山本 コーシロー
秋田書店
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 作画担当の山本コーシロー氏は1991年に週刊少年チャンピオンで異種格闘技漫画『吼!サムライ』を連載されましたが、その後の氏の消息は不明(ちなみに、『吼!サムライ』の連載終了から数週間後に同誌に登場した異種格闘技漫画が『グラップラー刃牙』です)。原作担当の滝直毅氏は埼玉レグルスと同時期にフレッシュジャンプで『ぶるどっぐ』(作画:双葉たかし)、モーニングで『凶獣よ荒野へ』(作画:湯浅ひとし)の原作を手掛けられていましたが、その後、『どっかん!』(作画:能田茂)、『ギラギラ 六本木不死鳥ホスト伝説』(作画:土田世紀)などの原作や、本宮ひろ志の『サラリーマン金太郎』『雲にのる』のノベライズなどを手掛けられています。