2013年5月16日木曜日

たまこまーけっとDVD第3巻初回特典CD - Hogweed『Excerpts from “The Return Of The Drowning Witch”』(1978)

たまこまーけっと (3) [DVD]たまこまーけっと (3) [DVD]
(2013/05/15)
洲崎綾、金子有希 他

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アニメ「たまこまーけっと」のDVD第3巻が先日届きました。以前から下記のインタビュー記事で、アニメ本編で流れる架空のレコード曲の非常に細かな設定とレコーディングの徹底的なこだわりぶりを知って大いに驚かされただけに、また、DVDの3巻には本編に登場する喫茶店兼レコード屋「星のピエロ」のシーンで流れる、架空のプログレッシヴ・ロック・バンド「Hogweed」が唯一残したアルバムの楽曲が収録されたCDが初回特典として付属すると聞いていただけに、ニッチ大好きプログレ好き人間としてはこれは見逃せぬと、以前より発売を心待ちにしておりました。そして届いたものを見て/聴いて、改めてそのこだわりように舌を巻かされてしまった次第なのです。

「ニュータイプ4月号連動企画!
「たまこまーけっと」に登場するレコード曲の秘密に迫る」
(アニメNewtypeチャンネル) - エンタメ - livedoor ニュース

http://news.livedoor.com/article/detail/7482381/

インタビューでの"「星のピエロ」のマスターがプログレ好きであり、お客さんがいないときにはいつもこの曲をかけている"という裏設定や、"山田尚子監督の中のプログレ感に合わせていって、作曲や演奏の複雑さを追究したものではなくて、初期KING CRIMSONやPINK FLOYDのような情念系な楽曲に仕上がった"というくだりにも実にニヤリとさせられますが、そもそも"The Return Of The Drowning Witch(溺れた魔女の復活)"という曲のタイトルを聞いた時点で、スキモノならピクリと反応するのではないかと。恐らくこのタイトルは、GENESISの「The Return Of The Giant Hogweed」KING CRIMSONの「The Return Of The Fire Witch("The Court of the Crimson King"の一部)」、そしてFRANK ZAPPAの「Drowning Witch」の3つの曲から取られたものでしょう。ちなみに、第何話のどこで「溺れた魔女の復活」が流れたのかということについては、こちらのブログの記事でとても詳しく検証されております。

『たまこまーけっと』の劇中曲について(Hogweed) - la banane bruleeの日記
http://d.hatena.ne.jp/beaux25/20130314/1363268504




Hogweedのアルバムのパッケージはこんな感じです。紙ジャケットの仕様もさることながら、カヴァー・イラストが色合いといい構図といい、いかにも当時のプログレ・バンドらしいたたずまい。そしてライナーノーツがまた凄い。バンドの来歴や各メンバーの紹介に加えて、後身ユニットやメンバーのソロアルバムも含めたディスコグラフィーまで載っており、その凝りように脱帽です。以下、ライナーノーツの記述をいくつか要約して抜粋。

「Hogweedはミネアポリスの大学で知り合ったTon LundinとAlan Blancの二人が中心となって結成された。」
「1978年夏に唯一のアルバムがプレス数1000枚でリリースされたものの、流通が限られていたため業界では殆ど話題にならなかった。」
「アルバム発表直後にライヴを1度だけ行う(この時サポート・ギタリストが1名参加)が、直後にドラマーが脱退して活動を停止。」
「大学の先輩が所有するメロトロンをレコーディングに使用したが、誤って壊してしまったので修理して買い取った。」
「今回のCD収録を期にドラマー以外のオリジナル・メンバーが集まりバンドを再結成、アルバムの完全版と、新作を計画中。」


…などなど、架空のバンドとは思えぬほどに「それっぽい」「生々しい」記述が満載で、もしかしたら本当に実在したんじゃないのかしら、という気にさせられてしまいます。プログレッシヴ・ロック専門レーベルであるマーキー/ベル・アンティークが90年代に特に精力的に紹介していた世界各国の数多のマイナーなシンフォニック・ロック・バンドもかくや、といったところ。

また、「溺れた魔女の復活」のレコーディングに参加しているメンバーも見逃せません。EXPO、S.S.T.BANDの松前公高氏を筆頭に、トクマルシューゴバンドや栗コーダーポップスオーケストラ等のバンドをはじめ、CMや映像作品などで活動を行っているドラマーのイトケン氏。S.S.T.BANDや、畑亜貴さんが率いるプログレ・バンド月比古のギタリストである並木晃一氏。99.99(フォー・ナイン)、4-D、P-MODEL、After Dinner、メトロファルス等多くのバンドに参加し、フュージョン、テクノ、アヴァン・ポップ、ロックと多岐に渡るフィールドを渡り歩くヴァイオリニスト/ベーシストの横川理彦氏という顔ぶれは、その筋の音楽を好んで聴き漁っている人であれば、ピンとくるのではないかと思います(ちなみに松前さんと横川さんは、たまこまーけっとのアニメ本編の劇伴や主題歌を担当している音楽制作プロダクション"Manual of Errors"の所属アーティストでもあります)。

Hogweedのアルバム『Hogweed』は、A面に"The Swimming Witch" "The Drowing Witch"という、いくつかのパートを持つそれぞれ13分と12分の長尺曲を配し、B面には12のパートを持つトータル28分の大曲"The Return Of The Drowning Witch"(溺れた魔女の復活)を配した大作志向の1枚(という設定)。今回のCDには「溺れた魔女の復活」のパート1から9まで(トータル17分)が収録されています。断続的なベースの爪弾き、鳴り響くギターと覆いかぶさるメロトロンの音色が始まりを不穏に告げるパート1。一転して、ハードに弾きまくるギターと鋭く刺し込まれるヴァイオリンの絡みがエキサイティングな、9拍子のオルガン・ハード・ロックであるパート2。スペイシーなサウンドが場を支配する幕間的なパート3を挟み、気だるげなテンポの中でギターがむせび泣く、PINK FLOYD(またはそのフォロワー系バンド)を思わせる情念に満ちたパート4。短めの即興パートとメロトロンによるパート5から切れ目なく繋がる形で続くパート6は、初期のKING CRIMSONの叙情性を少なからず思わせる仕上がりで、「混沌こそ我が墓碑銘」とはいかないまでも、アコースティック・ギターとヴァイオリンが物悲しく響きます。パート7は、実験的趣向が強く現れたパート。冒頭からしばらく聴こえてくる鈍く不安定な音色は、ライナーでも書かれていた「回転数を下げたリコーダーの音」「逆回転のパーカッションの音」によるものなのでしょうか。パート8はKING CRIMSONの「RED」を髣髴とさせるヘヴィ・プログレ・チューン。攻撃性と叙情性を併せ持った、この大曲のハイライトと言えるパートです。そして、SEを交えた音響的なパート9で楽曲は(ひとまず)幕を閉じます。ちなみにパート10以降の展開ですが、ライナーの記述を読む限りではかなり即興的/実験的な内容が展開されているそうです(メンバー考案の"くすぐり奏法"で演奏されたというパート11が気になります…)。

いやあ、堪能させていただきました。重ねて言いますが、こだわりと気合の入り方が尋常じゃありません。気になった向きは(値は張りますが)是非とも特典付の初回版DVDを入手されてみてはいかがでしょうか。

たまこまーけっと - 公式
たまこまーけっと - Wikipedia
Manual of Errors Artists

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【余談】
架空ライナーノーツに散りばめられた、好きモノプログレリスナー向けへの小ネタあれこれ。


Hogweedのキーボードを担当するTon Lundin(トン・リンデン)のネーミングは、オランダのバンドKAYAKのTon Scherpenzeel(トン・シャーペンジール)と、スウェーデンのバンドKAIPAのHans Lundin(ハンス・ルンディン)、この二人のキーボーディストが元でしょう。また、ドラムを担当するChris Chatran(クリス・チャトラン)のネーミングの元ネタは、HENRY COWやART BEARSなどのメンバーであり、アヴァンギャルド・ミュージック・シーンの重要人物であるChris Cutler(クリス・カトラー)ではないかと思われます。ヴァイオリン担当のJean-Luc Sideliver(ジャン・ルック・サイドリバー)は、MAHAVISHNU ORCHESTRAやReturn To Foreverでの活動でも知られるジャズ・ヴァイオリニストのJean-Luc Ponty(ジャン=リュック・ポンティ)と、楽曲の演奏に参加されている横川理彦氏の苗字「横川」を英語読みしたものの組み合わせとみました。また、Hogweedの中心メンバーがバンド解散後、80年代に結成したユニット名が"Nektar Nerve""Fathers Marmot"というのですが、このネーミングはアメリカのアヴァンギャルド系ロック・バンドDoctor Nerveと、ノルウェーのフォーク/ジャズ・ロック・バンドFarmers Marketのパロディだと思われます。

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