2018年5月22日火曜日

映画「ピーターラビット」雑感


http://www.peterrabbit-movie.jp/


 映画版「ピーターラビット」を観ました。恨みはパワー! 憎しみはやる気! といわんばかりに動物と人間がガチで殺意をぶつけ合い、それでいて「破壊」と「再生」の物語でもある。家族で観るパワーヴァイオレンス映画としても、ピーターラビット映画としても申し分なく、期待に違わぬ面白さでした。実写&CG映画ですが、劇中の「爆発」はCGではなく、実際に火薬を使用したそうな。しかしエクストリームにブッ飛んでいるようで、原作への目くばせもしっかりと感じられる内容になっています。『ピーターラビットのおはなし』『ベンジャミンバニーのおはなし』のストーリーもある程度ベースにしているし、絵本シリーズで描かれているウサギ以外のキャラクターも数多く登場するし、ヒロインのビアには原作者であるビアトリクス・ポターが投影されています。どうかしていると思える凄まじいバランス感。興業的にも悪くないようなので、「ピーターラビット2」が2020年2月全米公開予定とのこと。





 ところで、トーマス・マグレガーがブラックベリーアレルギーだと知ったピーターラビットたちが口にベリーを打ち込んでアナフィラキシーショックを起こさせるシーンが海外で物議を醸して配給が謝罪したというニュースが2月にあり、カットがあるのではないかと気になっていたのですが、カットはなかったです。当該シーンに至るまでにエクスキューズがあり、その上で「だがヤツはマグレガーだから」と一線を超えるという展開になっています。とはいえ相当に凶悪なことに変わりはなく、抗議が出たのはもっともだと思いますが。その一方で、作劇的には人間対動物の倫理観をはるかに超越した抗争のエスカレートの途上のワンシーンであるのと、双方に決定的な展開が訪れる引き金ともなる重要な転機でもあるので、カットしようにもカットのしようがないとも思いました。ショック症状を起こしたマグレガーが、即座にエピペン(自己注射薬)を打ち込んで倒れこむくだりは、ドーナル・グリーソンの迫真の演技も相まってかなり生々しいです。劇中の台詞にもありましたが、「これはおとぎ話ではない」ので、あのシーンを通して「絶対に真似するなよ」と啓蒙へつなげることも含め、「家族で観るパワーヴァイオレンス映画」といえます。



愛蔵版 ピーターラビット全おはなし集(改訂版) (ピーターラビットの絵本)
ビアトリクス・ポター
福音館書店
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http://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=1084

 映画の副読本としては、もちろん『ピーターラビット全おはなし集』をオススメいたします。これ一冊で映画に出てくる輩をばっちり把握できます。ちなみに、ピーターラビットの1903年の第5刷で削除された数点の挿絵のうちの一つが、マグレガーおばさんにパイにされてしまったピーターのお父さんが食卓に出される図だったということが、あとがきに書いてあります。



映画劇中に出てくるウサギ以外のキャラクター。
http://www.fukuinkan.co.jp/search.php?series_id=85

『あひるのジマイマのおはなし』
『まちねずみジョニーのおはなし』
『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』
『ティギーおばさんのおはなし』
『キツネどんのおはなし』
『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』


 映画ではどの動物もそこそこに仲が良さげでしたが、原作ではキツネとアナグマはどちらも動物たちやピーターラビット一家にとっての天敵的存在ですし、『キツネどんのおはなし』ではキツネとアナグマが死闘を繰り広げています。また、電流フェンスを思いっきり齧っていたハリネズミのティギーおばさんは作中随一のエキセントリックなキャラクターですが、原作『ティギーおばさんのおはなし』では仕事熱心な洗濯屋さんです。


【インタビュー】『ピーターラビット』ウィル・グラック監督が明かす裏話 ─ 主演ドーナルやマイク・シノダにまつわるアレコレも
(from THE RIVER|2018.05.18)





 ピーターラビットの音楽について。まず、LINKIN PARKのマイク・シノダのヒップホッププロジェクトであるFort Minerが2005年に発表した楽曲「Remember the Name」が、この映画のための2018年版として使用されているというのは大きなトピックです。ハリウッド・ボウルで開催されたLINKIN PARKのトリビュート・コンサートで監督がマイクに会った際にオファーをもちかけ、快諾を得て、歌詞はマイクと監督の共作の形でリライトされています。また、日本語吹替版では元SOUL'd OUTのDiggy-MO'が歌っており、ラップ制作で大神:OHGAも参加しています。





 そして劇中曲リストがこちら。Fort MinerのほかにもVampire Weekend、RANCID、Basement Jaxx、Portugal the Man、Big Country、デイヴ・マシューズ・バンドなどが選曲されており、かなりイカしています。この部分を見ても、本作が単なるKAWAII映画ではないことがうかがい知れます。オムニバスアルバムとしてのCDリリースや配信販売はない(ジェームズ・コーデン「I Promise You」とドミニク・ルイスのスコア「Peter Rabbit Suite」の2曲のみしか配信販売されていない)のですが、実はspotifyのColumbia Recordsのプレイリストで、全曲ストリーミングで聴くことができます。






Peter Rabbit (Original Motion Picture Score)
Madison Gate Records (2018-04-13)
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 インストゥルメンタル・スコア担当のドミニク・ルイスは、最近ではドラマ「高い城の男」のメインコンポーザーを務める人物。ハンス・ジマーのリモート・コントロール・プロダクション周辺の仕事や、ヘンリー・ジャックマンとの仕事も多く、「シュガー・ラッシュ」「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」「ベイマックス」「キングスマン」などの追加スコアも手がけています。