http://www.message-movie.jp/
テッド・チャンの「あなたの人生の物語」をドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化した「Arrival」の邦題「メッセージ」を観た。邦題を「メッセージ」にしたのは無難な落としどころだとは思いつつ、観終わった今となってはやっぱり「Arrival」じゃないとしっくりこないな……という感情になったので、これから先もずっと「メッセージ」と言わずにテッド・チャンの「あなたの人生の物語」をドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化した「Arrival」の邦題である「メッセージ」と言うことが決定ずみの未来となった。小説の「あなたの人生の物語」では、《ボルヘスふうの寓話仕立てで異論を展開してみたい》ということで『三世の書』なるものが仕立てられるくだりがあったが、映画のほうを観ていても「アレフ」(「すべて」が内包された球体)みたいなものをやはり思い出した。円環・無限のモチーフ。
そして映画全体を通して「非線形言語」の造型は見事というほかなかった。原作の勘所も、ほぼ拾っている。ただ、映画的脚色としての「俗っぽさ」=軍事的緊張感が付け加えられているのは、そうしないと映画的山場にならないとは思いつつも、逆に浮いた感じがあって個人的にはあまり響かなかった。しかし、それをひっくるめても揺るぎのない大傑作。監督も脚本もヴィジュアルも音楽も素晴らしい仕事をしている。脚本担当のエリック・ハイセラーは、原作者のテッド・チャンからのOKを得るための脚本執筆に六年かけており、「自分のキャリア史上でもっともプレッシャーがかかった仕事」がテッド・チャンの「あなたの人生の物語」をドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化した「Arrival」の邦題である「メッセージ」になったのだという。ちなみに、ハイセラーが一番最初に触れたテッド・チャンの作品は「理解」だそうだ。彼はこれまで「エルム街の悪夢」「ファイナル・デッドブリッジ」「遊星からの物体X ファーストコンタクト」「ハリケーン・アワー」を手掛けてきており、2016年に手がけた「ライト/オフ」、そしてテッド・チャンの「あなたの人生の物語」をドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化した「Arrival」の邦題である「メッセージ」が、彼の名をさらに知らしめる決定的な作品になった。
【参考記事】
“How an Unfilmable Story Turned Into the Year’s Best Sci-Fi Movie”
(from GQ|2016.11.11)
“Eric Heisserer Interview, The Arrival”
(from MoviesOnline|2016.11)
処理不可能な〈言語A〉と解明できる〈言語B〉の考案については、ドゥニ・ヴィルヌーヴが語っているWIREDの2016年10月の記事でも少し触れられていたが、最初の出発点が禅の「円相図」だったというのはポイントだろう。悟りの境地を円の一筆描きで表現した「円相図」は禅画のスタンダードであり、ある意味、ここに「すべて」が詰まっているとも言える。
【参考記事】
“『メッセージ』『ブレードランナー2』監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが教えてくれた「オリジナルなSF」のつくり方”
(from WIRED Japan|2016.10.10)
劇伴では、ヨハン・ヨハンソンによる、感情移入を一切拒むかのような超抽象的なスコアと、それらとは対照的に、感情移入の余地が存分に用意された、マックス・リヒターによる「On The Nature of Daylight」がよいコントラストになっていた。流通しているCD盤のサントラはヨハン・ヨハンソンのスコアのみだが、ドイツ・グラモフォンからリリースされた二枚組のLP盤サントラには「On The Nature of Daylight」も収録されている(ちなみに、ヨハンソンもリヒターもドイツ・グラモフォンからソロ作品をリリースしている)。リヒターはスタニスワフ・レム原作の「コングレス未来学会議」のスコアを手がけた人、というよりも、アリ・フォルマン作品に欠かせない作曲家という方が通りはよいだろうか。アリ・フォルマンにとってのマックス・リヒター。ドゥニ・ヴィルヌーヴにとってのヨハン・ヨハンソンということで、ポスト・クラシカルな流れがあるのも興味深い。
ヨハン・ヨハンソン
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