2014年7月17日木曜日

いろいろあって、結成45周年 ― YES『Heaven&Earth』(2014)

ヘヴン&アース(初回限定盤)ヘヴン&アース(初回限定盤)
(2014/07/16)
イエス

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言わずと知れたプログレッシヴ・ロック界の重鎮バンド イエスの、結成45周年記念となる、通産21thスタジオ・アルバム。健康上の問題で2012年に脱退したベノワ・ディヴィッドの後任として加入したGLASS HAMMERのジョン・ディヴィソンを擁する編成での初のアルバム。プロデューサーは、全盛期のQUEENのアルバムを手がけたことでも知られる ロイ・トーマス・ベイカー。ライナーノーツには「YESとロイ・トーマス・ベイカーというこれまで接点がない組み合わせ」とありますが、実ははるか以前に一度接点があります。ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、クリス・スクワイア、リック・ウェイクマン、アラン・ホワイトの5人がアルバム『Tormato』リリース後の'79年にパリで行ったセッションの際に、プロデュースを請け負ったのがロイ・トーマスなのです(ちなみにこのセッションは失敗し、ジョンとリックはほどなくしてバンドを脱退。そしてこの時の音源の一部は、翌年のアルバム『Drama』の楽曲の原型となります)。ということは、今回のアルバムで実に35年ぶりの邂逅となったわけですね。また、YES本隊から離れた話になりますが、ロイ・トーマスは、YESフォロワーとして70年代に精力的に活動したアメリカのプログレッシヴ・ロック・バンド STARCASTLEの2nd、3rdアルバムのプロデュースを手がけてもいます。

ひょっとして、今作はSTARCASTLEのようなものになるのかしら…? と、ちょっと思ったりもしましたが、当然ながらそんなことはなく、クリスのゴリゴリなベース、ハウのとろけるギター、ヘヴンリーなメロディと、オリジネイターはオリジネイターでありました。名前もオックリなら声質もジョン・アンダーソンにソックリというジョン・ディヴィソンのヴォーカルは再現性という意味でもパフォーマンスという意味でもよくやっていると思いますし、一部の楽曲でアコースティック・ギターもプレイ。さらには作詞や、共同作曲者の一員として全面的に関わっており、クリスも彼の才覚と仕事ぶりとにはいたくご満悦のようです。"『Drama』の続きを!"だった前作『Fly From Here』で見られた気負いはすっかりないですし、シンプルでメロディの良い歌ものを揃えたという内容で、肩肘張らずに聴けるアルバムだなという印象を感じました。ヘヴンリーなヴォーカルとハウのギターに彩られた"Believe Again"は、アルバム冒頭にふさわしいフワフワとハートウォーミングな仕上がり。クリスとディヴィソン、かつてクリスが在籍していたThe Synの元メンバー ジェラルド・ジョンソンの三名による共作曲"The Game"は、90年代期のポップなYESを思わせる1曲。"To Ascend""Light Of The Ages"など、今回はゆったりとしたバラードナンバーが多いのも特徴的です。加えて、往年のブリティッシュ・ロックなテイストを感じさせる、スクワイア作曲によるウェットな歌もの"In A World Of Our Own"や、「大きな古時計」のメロディもさらっと織り込まれたハウ作曲の"It Was All We Knew"といった、親しみやすいメロディを軸にした楽曲も耳を惹きます。アルバムを通して、スロウな時間の経過を追体験しているような、そんな気分になります。ラストの"Subway Walls"は、90年代の『Aria』の頃のASIAみたいな曲だなと思いました。ジェフ・ダウンズはシンセのストリングスでのこういう盛り上げ方がホント好きだなと改めて感じた次第です。

当初はロイ・トーマスがアルバムのミックスの方も担当していたのですが、こちらは最終的にビリー・シャーウッドが担当しています。ロイ・トーマス版ミックスは破棄されたとのことで、交代の経緯は少々気にかかるところではありますが、シャーウッドのYESのオリジナルアルバムへの関与は いちメンバーとして参加した'99年の『The Ladder』以来となります(マルチプレイヤーゆえ、ちゃっかりバッキング・ヴォーカルでもクレジットされていました)。正直言ってシャーウッドの仕事はどうも没個性的という印象が否めないのですが、今回のこういうソフトに徹した方向性なら彼はなるほど適任ではないかなと。ライナーではしきりに『究極』や『トーマト』の名前が挙がっておりましたが、なるほど方向性としてはこの絶妙な時期の2枚の作風が今回の方向性に近いと思います。

全体的にソツはなく、決して悪い内容ではないのですが、もうちょっと手に汗握るものは欲しかったです。「ヴェテランらしい円熟味を見せたアルバム」という感じでお茶を濁すこともできるのですが、80年代の路線の踏襲とはいえ、手応えのある内容を聴かせてくれた前作の次ということもあり、「こんなもんだったっけ?」という気持ちの方が勝ってしまいました。バンド内の関係は良好のようですし、本作を通過点として、次の作品に期待したいと思います。11月には『こわれもの』『危機』の完全再現+『Haeven&Earth』というセットリストでの来日公演も決定しているということで、まだまだ元気な姿を見せていただきたいですね。



「An Interview with Chris Squire of YES - March 19, 2014」- Lithium Magazine

yesworld.com
YES - Wikipedia
Roy Thomas Baker - Wikipedia