2010年12月19日日曜日

MOON SAFARI『Lover's End』(2010)

Lover's EndLover's End
(2012/06/05)
Moon Safari

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 スウェーデンの若手プログレッシヴ・ロック・バンド:ムーン・サファリの3rdアルバム。THE FLOWER KINGSのキーボーディストであるトマス・ボディーンの肝煎りで発表された2005年の1stアルバム『A Doorway To Summer』、30分の大曲も含め、トータル100分を越える意欲的な内容で若手バンドらしいエネルギーに溢れたシンフォニック・ロックを2枚組に渡ってガッツリと展開した2008年の2ndアルバム『blomljud』と、充実したリリースを続けている彼らの魅力は、美麗なコーラス・ハーモニーを軸に、テクニカルなパートやアコースティックなパートを効果的に織り込んだ楽曲作りにあります。今回のアルバムはそれらのセンスが前二作以上に満開の開花を見せ、まさに「化けた」といっても過言ではない内容です。

 楽曲が幾分かコンパクトな志向(といっても10分を越える楽曲はありますが)になったのと、シンフォニックな要素を抑えてとことんまでポップでキャッチーに振り切ったのが大きな要因と言えましょうが、それにしてもここまでの目覚ましい変化は正直ビックリ。同じスウェーデンのプログレ・ハード・ポップ・バンドであるA.C.T(最近活動がご無沙汰気味でちょっと残念)の3rdアルバム『Last Epic』に匹敵する、もしくはそれ以上にネアカなプログレの極致がここにあります。

 ハートウォーミングなコーラスとフレッシュなアコースティック・ギターの音色で彩られたオープニング「Lover's End,Pt.I」でいきなり至福の音世界にどっぷりと浸れること間違いなしですが、そこから切れ目なく繋がる14分近い大曲「A Kid Called Panic」がまた凄い。まだアルバム2曲目だというのに既にクライマックス級の盛り上がりを見せるのがこの曲。キーボード/メロトロンの厚みのあるフレーズに、これでもかと積み重ねられるコーラスワーク、テクニカルでダイナミックな展開の間を縫って、ここぞというところで気持ち良く炸裂する盛り上がり十分のギターソロ、そしてそれらが総動員して押し寄せる感動的な大団円と、大曲でありながらキラーチューンと呼んでも差し支えないほどにオイシイところが盛り沢山で、長い尺をよどみなく聴かせるバンドの力量が十二分に伺えるのはもちろん、持てる全てを惜しげなく投入するその姿勢に天晴れです。



 アカペラコーラスで魅せるアコースティックな小品「Southern Belle」や、サビで伸び伸びと歌い上げる「The World's Best Dreamers」はこのバンドのスイートな魅力が凝縮された歌物曲。とことんポジティヴなキーボード/シンセソロがまたいい味わい。「New York City Summer Girl」は、KESTRELやSTACKRIDGEといった往年のブリティッシュ・ポップ・バンドに通じるヒネリのある趣も感じる1曲。そしてキーボードを存分にフィーチャーした躍動感たっぷりのプログレ・ポップス「Heartland」は、加速度的なテンションの高さと抜けの良い展開が耳を惹きつけてやまない1曲。コーラスをふんだんに盛り込み、バンドの素材の持ち味を活かした贅沢な長尺曲「Crossed The Rubicon」と合わせて、本作第二のハイライトたる内容です。最後は「Lover's End,Pt.II」でさっぱりとシメ。ここまで聴き終えた頃には、骨の髄まで満足感に浸っていることでしょう。

 敢えて難点を挙げるとするならば、このアルバムジャケット。過去作もB級感溢れる地味なものでしたが、今回は一段と地味。楽曲は煌びやかな作風なだけに、凄くもったいない気がします。とはいえ、アルバムの内容は神懸かり的と言っても過言ではない素晴らしさであることは念を押して言いたいです。本年度のプログレ作品でもトップクラスの1枚。個人的には本年度のマイベスト1位に挙げたいウルトラ大傑作アルバム。この冬一番のヘヴィ・ローテーション作品。眩し過ぎるほどに突き抜けた爽やかさと多幸感に溢れた内容に、ただただ脱帽です。



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