ビッグ・ジェネレイター (2010/05/26) イエス 商品詳細を見る |
自分が一番最初に聴いたYESのアルバムは『こわれもの』や『危機』でもなく本作でした。もはや何度聴き返したかわかりません。今まで食ったパンの枚数くらい覚えておりません。そういうわけで非常に思い入れのある1枚であります。プログレッシヴ・ロック・バンドYESが87年に発表した12枚目のスタジオ・アルバム。メンバーは前作『90125』に引き続き、ジョン・アンダーソン(Vo)、クリス・スクワイア(b)、トレヴァー・ラビン(g.kbd)、トニー・ケイ(kbd)、アラン・ホワイト(dr)の5名。しかし、大ヒットを記録した前作に比べてセールスはガタ落ちし、ファンからは駄作というレッテルを貼られ、さらには本作以降またしばらくバンドが迷走を始めてしまうという、どうもツキに恵まれなかった不遇なアルバムです。しかし、だからといって本作をスルーしてしまうのはあまりにも勿体無い。
トレヴァー・ラビンのカラーが色濃く反映されたモダンな色合いと少々ヒネりの入ったプログレ・ハード曲の数々は、どの曲もドライヴ感が十分なこともあってとっつきやすく、粒揃い。サウンドこそハードながら、YESというバンドの持つキャッチーな側面を味わえる魅力的な仕上がりです。そう考えると、やはりタイトル曲「BIG GENERATOR」は象徴的であります。高らかに歌い上げられる機械賛歌な詞に、躍動的でありながら醒めたところもある曲展開、ここぞとばかりにギャンギャンと唸りを上げるハードなリフに、マシナリーなビート、と、従来のYESのイメージを覆す要素ばかりが揃っていながら、全てが堪らなくシビれる。ダイナミックな佳曲と言えましょう。
ラビンのしなやかなギタープレイが、ヴォーカルとコーラスの暖かみと絶妙に調和している「Shoot High,Aim Low」。テンポの良いヴォーカルに歯切れ良く攻めていくアンサンブルが耳に心地の良いポップス・ナンバー「Almost Like Love」。ダイナミックなメロディラインを持ったラヴソング「Love Will Find A Way」は、ストリングスによるイントロからギターへのバトンタッチする流れがあまりにも秀逸。ラテン調の「I'm Running」は、ゆったりムードに見せかけて、バリバリにテクニカルなプレイとめまぐるしい展開がこれでもかと詰まっているのが面白い。楽曲のメリハリをハッキリさせるラビンのアレンジはやっぱり諸手を挙げて支持したいです。個性派揃いのYESにあって、メンバー間のエゴに悩まされながらも何とかまとめ上げようと奮闘した彼の苦労は大いに労われてしかるべきでしょう。ラストはジョン・アンダーソン作曲による、ヘヴンリーなムードたっぷりの「Holy Lamb (Song for Harmonic Convergence)」で〆。こういった、聴き手に心の底から湧き上がってくるような多幸感を与えてくれる楽曲は、まさにジョンならでは。面目躍如であります。
…ここからは余談ですが、自分がこのアルバムを知ったキッカケは、当時愛読していた木城ゆきと氏の『銃夢』と、吉富昭仁氏の『EAT-MAN』の両作品からでありました。前者では主人公ガリィが酒場でこの曲を歌うシーンがあり(残念ながら現在入手できる単行本ではオリジナルの詞に差し替えられております。ゆきと氏のサイトの日記の2004年末の記述によると、YESの権利関係が複雑になり過ぎたがゆえに代理人がわからず、新装版刊行の際に歌詞の使用許諾がとれなかったとのこと。差し替え前のヴァージョンを見たければ、ヤングジャンプコミックス版の5巻(↓)を古本屋で探しましょう)、後者では単行本9巻の描き下ろしエピソードのタイトルに冠されておりました(吉富氏は作品のあとがきなどでYESファンであることを公言しております。氏の初期作品『ローンナイト』ではジョン・アンダーソンのソロアルバム『サンヒローのオリアス』と同名タイトルのエピソードがあったりも)。
●「Big Generator」- Wikipedia