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2015/04/22

幻想性と複雑性が交錯する、国産チェンバー・ロックの名バンドの今なお色褪せぬ唯一作 ― ZYPRESSEN『Zypressen』(1996)

ツィプレッセンツィプレッセン
(1996/02/25)
ツィプレッセン

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 日本のチェンバー・ロック・バンド ツィプレッセンの(現時点での)唯一のフルアルバム。バンド名のツィプレッセンは、宮沢賢治の「春と修羅」の一節に由来するもの。'85年に今井弘文氏(ds)を中心として、高藤順氏(b,cello)、三宅信義氏(vln)の数名で結成され、'86年に山上晃司氏(p)、浅野淳氏(g)が加入したことでラインナップが固まります。その後、ライヴ活動や舞踏家とのコラボレーションを経て、'91年に、LACRIMOSAやIL BERLIONE、Soft Weed Factorと共に、ベル・アンティークの国内のチェンバー・ロック/レコメン系コンピレーションアルバム『Lost Years In Labyrinth』に参加。同CDでは、"Tangent" "Prelude"の二曲が収録されておりました。また、同年の京浜兄弟社のコンピレーションアルバム『誓い虚しく』に、ティポグラフィカやハイポジ、EXPOらと共に参加。ここでは"すべての縦縞は交差したがる"(後に"交差衝動"に改題)が収録されております。これらの三曲はいずれも再録のうえで、オリジナルアルバムに収められることとなります。ちなみに、さる2015年3月にリリースされた京浜兄弟社の10枚組BOXセット『21世紀の京浜兄弟者』のライナーノーツでの岸野雄一氏(コンスタンスタワーズ)のコメントでは、メンバーとの当時の交流について少し述べられております(今井氏は何度かコンスタンスタワーズの演奏に参加されたこともあったのだとか)。

 一時の活動休止期間とレコーディングを経て'96年にリリースされた本作『Zypressen』は、チェンバー・ロック・バンド LACRIMOSAのChihiro.S氏のプロデュースによって完成した全8曲からなるアルバム。「ジュルヴェルヌ・タイプのしっとりとした夢幻的なサウンド」というCDの帯のキャッチにもあるように、"Tangent" "STR (Against the Wind)"などでは、ベルギーのJULVERNEのような、ストリングスや木管楽器の響きを活かした優雅なタッチのサロン・チェンバーを聴かせてくれます。しかしその一方で、"Prelude""交差衝動"のような、マリンバやシロフォンなどを交えた複雑な変拍子とポリリズム、そしてミニマリズムを強調したシリアスな展開にも非常に際立ったものがあります。技巧を凝らしつつも、ユーモラスな表情もあり、ストイックなようでストイックに行き過ぎない、この絶妙さが魅力を生み出しているのでしょう。そこかしこで脱臼"してるかのような"Etude"や、叙情的な雰囲気のなか、今井氏が亡き父の詩の一節を朗読する"HANA"では、独特の雰囲気を形成しております。アルバムは本作のみというのが非常に惜しまれますが、今なお色褪せない響きでもって、聴き手に驚きと愉しみを感じさせてくれます。



 バンドの音楽性にも沿ったシュールレアリズムと幻想的な雰囲気を見事に伝えているアルバムのジャケットアートは、浅野淳氏の実弟 浅野信二氏によるもの。氏はその後、マーキー発行のプログレッシヴ・ロック情報誌「EURO-ROCK PRESS」の第一号から第二十号(1998年から2004年)までの表紙絵を手がけられてもおりました。定期的に企画展や個展なども催されているほか、近年では雑誌の挿絵や小説のカヴァーイラストなどで、氏の作品を目にする機会も多くなってきております。昨年新カヴァーで復刊されたマーヴィン・ピークの〈ゴーメンガースト〉三部作と、ついに刊行成った幻の最終巻『タイタス・アウェイクス』の一連のアートワークはまさに圧巻の一言でありました。

zypressen.jpg

 そして来たる4月24日に、なんとZYPRESSENが19年ぶりに再始動。バンドの公式サイトもつくられ、吉祥寺MANDA-LA2でライヴを行うというアナウンスがされました。これは観逃せないところでしょう。

http://zypressen.jp/


21世紀の京浜兄弟者 -History of K-HIN Bros. Co. 1982~1994-21世紀の京浜兄弟者 -History of K-HIN Bros. Co. 1982~1994-
(2015/03/18)
京浜兄弟社

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驚天動地の10枚組BOX。『誓い虚しく』に収録された"すべての縦縞は交差したがる"に、同コンピレーションのリリース直前、1991年8月に吉祥寺シルバーエレファントで行われたライヴで演奏された"すべての縦縞は交差したがる"、そして『Lost Years In Labyrinth』に収録されたヴァージョンの"Tangent"と、ツィプレッセンの楽曲が3曲収録されています。今井弘文氏のコメントも掲載。



2014/07/24

「デューン」の名を冠したカルトなフレンチ・チェンバー・ロック・バンドの唯一作 ― DÜN『Eros』(1981)

エロス(紙ジャケット仕様)エロス(紙ジャケット仕様)
(2012/07/25)
デューン

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'70年代末から'80年代初頭にかけて活動したフランスのチェンバー・ロック・バンド DÜN (デューン)。アルバムは'81年に発表された『Eros』1枚のみですが、同作はRock In Opposition(R.I.O)の流れも汲んだ緊密な楽曲と演奏を繰り広げるZEUHL/チェンバー・ロックの傑作であり、オリジナル・リリースから約20年後の'00年にリイシューされたことでカルト的に注目が集まりました。バンドの母体となったのは、音楽学校の生徒を中心として'76年に結成されたVEGETALINE BOUFIOLなる五人組バンドであり、後に中核メンバーとなるLaurent Bertaud(ds)とPascal Vandenbulke(fl)の二人の名前があります。その後、しばらく活動を経てKAN-DAARと改名。このバンドはMAHAVISHNU ORCHESTRAやMAGMA、フランク・ザッパ影響下のジャズ・ロックを演奏していたそうですが、Laurentが大いに影響を受けていたHENRY COWのエッセンスが徐々にバンドにもたらされていくことになります。その過程で劇的なメンバーチェンジがあり、Jean Geeraerts(g)、Bruno Sabathe(kbd)、Alain Termol(perc)、Thierry Tranchant(b)、Philippe Portejoie(sax)の五名を加えた総勢七人の編成となります。それに伴い、バンド名も再度改名。フランク・ハーバートのSF小説「デューン/砂の惑星」を由来とするDÜNが晴れて誕生します。'78年から'81年頃にかけて、国内の様々な場所で40回ほどライヴを行ったそうで、その頃に、影響元のひとつであるMAGMAの前座を務めたこともあったとか。ちなみに、Pascal氏はライヴでは"gruyèrophone"という、スイスチーズのような形状をした? オリジナル管楽器を使用していたそうです。



Philippe Portejoieはほどなくして脱退してしまうものの、自主レーベルより1000枚のプレスで'81年の夏頃にリリースされたこの『Eros』は、7~10分ほどの楽曲を4曲収録した作品。そのうちの2曲は"Arrakis"(惑星アラキス)"L'epice"(香料メランジ)と、「デューン」に登場する事物にちなんだタイトルになっています。楽曲自体はKAN-DAAR時代に書かれたものであり、後の再発盤では'78年に録音されたプロトタイプ・ヴァージョンも聴くことができます(この音源ではPhilippeのサックス・プレイも聴けます)。フルートやマリンバも前面に押し出し、カンタベリー・シーンからの影響も伺わせる端整なジャズ・ロックから、おっかなびっくりで強迫的なチェンバー・ロックを行き来するDÜNのサウンドは、軽快ながらピリっとした緊張感が全体を覆っており、一瞬たりとも気の抜けないもの。とりわけ"L'Epice"の終盤や、"Arrakis"の中盤で聴くことができる、執拗な反復も交えての、堰が切れたかのような凶暴な豹変ぶりにはゾクゾクさせられます。ピアノやベースが反復フレーズを繰り出しながら加速度を増してゆくというのはまさにMAGMAのそれです。"Bitonio"は、全体を引っ張るヘヴィなベースと、ユーモラスな表情を見せるマリンバのプレイを中心とした1曲。ラストの"Eros"は10分を超えるアルバム最長の1曲。"L'epice"のリプライズも交えながら、ダイナミックなバンドアンサンブルで大団円を迎えます。決して大作志向ではありませんが、神がかった瞬間が何度も訪れる、そんな印象がいたします。



アルバムのエンジニアは、UNIVERS ZEROやART ZOYD、フレッド・フリス等も手がけたEtienne Conod。レコーディングはスイスにある彼のSunrise Studioで行われています(ちなみに、このスタジオはUNIVERS ZEROの名盤『Heresie』『Ceux Du Dehors』が生まれた場所でもあります)。2010年に、PRESENTのUdi KoomranがEtienne Conodへインタビューを行った記事がこちら。興味深い内容です。

「Etienne Conod Interview」
http://udi-koomran.blogspot.jp/2010/01/etenne-conod-interview.html

'82年にパーカッション担当のAlainとベース担当のThierryが脱退し、より即興ジャズ色を強めた音楽性にシフトしたそうですが、数回のライヴを行ったのみで、'83年に解散してしまいます。メンバーのほとんどはその後も何らかの音楽活動を続けており、Bruno Sabathe氏は、40年以上に渡って活動するブルターニュの重鎮フォーク・ロック・バンドであるTRI YANNの80年代中ごろのライヴ・アルバム『Anniverscène』でクレジットが確認できました。Jean Geeraerts氏は、現在は自身のジャズ・トリオや、ラテン・ミュージックのグループなどで活動されているようです。Pascal Vandenbulke氏は、80年代のMAGMAにギタリストで参加していたJean-Luc Chevalierが'85年にリリースしたソロアルバムにクレジットされております。現在はジャズ方面で活動中だそうで、幾度となく来日もしているピアニスト Didier Squiban率いるトリオのメンバーとしてフルートをプレイされています。Laurent Bertaud氏の動向ははっきりとわかりませんが、フランスで製作されたCGアニメ版「ガーフィールド」の劇伴を手がけたコンポーザーが彼と同姓同名であり、同一人物なのかが気にかかるところです(現在、50代半ばだそうなので、本人という可能性も否定できません)。また、DÜNのアルバム・エンジニアであったGilles Moinard氏は、この後ETRON FOU LELOUBRANのエンジニアとして、バンドが解散するまで携わることとなります。

Pascal Vandenbulke氏が参加しているDidier Squiban Trioのライヴ映像。


DÜN Biography (Soleil Zeuhl)
DÜN - Prog Archives
DÜN - discogs
デューン(小説) - Wikipedia

さて、「デューン」といえば、ディノ・デ・ラウレンティス/デヴィッド・リンチによる映像化のさらに前に、製作が頓挫してしまったアレハンドロ・ホドロフスキー版「デューン」がありますが、これがもし完成していたとしたら、劇伴をPINK FLOYDやMAGMAが手がける予定だったそうなので、そういう意味でも惜しまれますね。ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』は、先月から日本でも公開されていますが、公開が終了する前に一度は観に行きたいものです。

映画『ホドロフスキーのDUNE』公式サイト
http://www.uplink.co.jp/dune/

2007/08/17

UNIVERS ZERO『Ceux Du Dehors』(1981)

Ceux De DehorsCeux De Dehors
(1998/08/17)
Univers Zero

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 フランスのART ZOYDと共にチェンバー・ロックを代表するバンドとして筆頭に挙げられる、ベルギーのユニヴェル・ゼロの3rdアルバム。邦題「祝祭の時」。妖艶優美なる室内楽と力強く躍動的なロックの暗黒の異種姦が生み出すもの、それがチェンバー・ロックであり、中でも重量感と共にただならぬ雰囲気を醸しだす彼らのサウンドは、スタイリッシュにしてストイック。邪悪なイマジネーションをこの上なく掻き立てられ、お先真っ暗な洞窟の奥底で触手達によるエロティックな狂宴というような爛れたイメージも目に見えて浮かんできそうです。室内楽寄りかつダーク・ゴシックな大曲志向であった前作『Heresie』とは打って変わって、本作は大曲・小曲がバランスよく配された構成で、ロック度も増しております。粘液をしたたらせながらのたうつかのような変拍子のめまぐるしい展開と、腹の中で蠢くエイリアンが今にも腹を喰い破って出てきそうな緊張感を漲らせた冷淡な展開が表裏一体となった「Dense(濃厚)」。ヘヴィな唸りを上げるベースとオーボエ、鋭くも張りと艶のあるヴァイオリン、加速度と重量感を増してゆくアンサンブルが聴き手にゆるやかに興奮を促しつつも一抹の不安を抱かせる、美しくも危険な「Combat(戦闘)」。この2つの長曲は名状し難いほどに不気味なたたずまいで、本作のハイライトといえる楽曲の役割を担っています。もちろんその他の楽曲も容赦なく黒い瘴気を撒き散らしており、木管楽器が生み出すゴシックなムードがズルズルと楽曲を引き摺る「La Corne du Bois des Pendus(コルヌ・ドゥ・ボア・デ・ペンドゥス村)」。躁状態なアンサンブルがひっちゃかめっちゃかにかき回し、短いながらも強いインパクトを与える「Bonjour Chez Vous(こんにちは、諸君)」。H.P.ラヴクラフトの同名作品をテーマにし、最初は生理的嫌悪感を催すだけだった軋む様なヴィオラの音が、次第に巨大な戦慄へと変貌を遂げて文字通り聴き手に襲い掛かってくる、冒涜的にして狂気の極み「La Musique D'enrich Zann(エーリッヒ・ツァンの音楽)」……などの楽曲が、徹底的に得体の知れない闇の恐怖を味わわせてくれます。気を抜けば即喰われかねない、禍々しさたっぷりの作品。異形を孕む音楽。


UNIVERS ZERO:公式