2010年2月20日土曜日

PSY・S『Emotional Engine』(1994)

Emotional EngineEmotional Engine
(1994/12/12)
PSY・S

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サウンド&プログラミング担当の松浦雅也氏と、ヴォーカル担当のチャカ嬢のコンビによるユニット サイズの通算9作目のオリジナル・アルバムにして最終作。トータルコンセプト的にもユニットの方向性的にもやりたいことを全てやり尽くしてしまったという89年の『ATLAS』を境にして(この時点で松浦氏はユニットの解散というヴィジョンをおぼろげながら持ちはじめていたのではないかとも思います)、以降ユニットはベスト盤、ライヴ盤、アコースティック・アレンジアルバムのリリースを交えつつ、比較的大人しめな仕上がりのポップスアルバムを発表してゆくのですが、そのまましぼむようにして後味悪く終わってしまうのかと思いきや、鮮やかな幕引きで印象付けたのが本作。チャカ嬢の伸びやかなシャウトで始まる1曲目のパワフルなナンバー「Power Stone」から既に確固たる意気込みが見えてきそうです。作詞陣には松尾由紀夫氏、森雪之丞氏、サエキけんぞう氏(パール兄弟)といったおなじみのメンツに加え、松本隆氏、小川美潮嬢(チャクラ)の名前も。"恋を知ると 誰も皆 超能力使いなの"という松本氏の詞が印象的なラストシングル「be with You」も流石ですが、「もうちょっとだね」においてコロコロと転がるオルガンサウンドに乗っかる小川嬢の自然体な詞もなんとも心地が良い。また、裕木奈江嬢に提供した曲のセルフカヴァーである「月夜のドルフィン」は、チャカ嬢の透き通ったヴォーカルが躍動的なビートと共に弾む極上のデジ・ポップス・ナンバー。"テクノ・ユーミン"という活動初期の頃にユニットが呼ばれていた形容を改めて彷彿させてくれる珠玉の名曲。そして、ラスト前の「Seeds」は、小粋で小粒なポップスナンバーが揃った本作の中で一際印象深い。ゆったりと落ち着いたスロウテンポのバラードかと思いきや、中盤で突然切れ味鋭いヴァイオリンと変拍子による中期KING CRIMSONばりのプログレじみた展開、さらにラップ調のパッセージが飛び出すという、意表を突いた1曲。続くインスト「Lotus」のしんみりとしたトーンでアルバムは終わりを迎えます。"このアルバムは本当に僕の中でのサイズ音楽の完成形に限りなく近いもので、明確な音楽的区切りになってくれたと思います。"という、ユニット解散に際しての松浦氏の本作へのコメントの通り、ユニットのこれまでの道のりを踏まえつつ、キッチリとした形で終わり(と始まり)を示してくれた1枚。後期カタログは賛否が分かれますが、本作に関しては全盛期の作品に負けず劣らずの傑作であると私は思います。ユニット解散後、二人は別々の方向へ、松浦氏はパラッパラッパーやウンジャマ・ラミーなどのプレイステーションソフトの楽曲を手がけ大ヒットを飛ばし、チャカ嬢はソロ・アーティストの道へと進みます。

PSY・S:Wikipedia
松浦雅也:Wikipedia