2015年11月25日水曜日

ピーター・ワッツと音楽

ブラインドサイト〈上〉 (創元SF文庫)
ピーター ワッツ
東京創元社
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 カナダの海洋生物学者でSF作家であるピーター・ワッツの長編小説『ブラインドサイト』を改めて読み返していました。2006年に発表された作品で、邦訳されたのは2013年後半。ものすごく雑に説明すると「めっちゃ難儀なファーストコンタクト」「で、意識って、理解ってなんなのよ?」を描いた作品。かなり晦渋な文章なので、登場人物たちが作中で味わう未曾有の困惑よろしく、読むほうも状況描写などでかなりの困惑を味わうことになるのだけれども、書かれているテーマは非常に魅力的。かのテッド・チャンも「意識が知性にとって障害になる」という本書の主張には同意していないものの、それでも一読をオススメしたいという玉虫色な書き口で解説していることもふくめて面白い。そこにノレるかソレるかというところはあるとはいえ、再トライしがいのある作品なのです。本書には、「脳を半分切除した男」「吸血鬼」「四重人格の言語学者」「感覚器官を機械化した生物学者」といった、一筋縄ではいかない造型のキャラクターがチームで宇宙活動をしていくわけですが、この設定はただ奇をてらったわけではなく、本書のメインテーマを追求していく上で必要なものであったというのは読み進めるとわかると思います。2014年には本書の続編『Echopraxia』も刊行されており、こちらの邦訳も待たれるところです。


ブラインドサイト〈下〉 (創元SF文庫)
ピーター ワッツ
東京創元社
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 本書では各章の頭にアリストテレスや、アインシュタイン、ヘミングウェイ、オルダス・ハクスリー、テッド・バンディ、ジョージ・ゴードン・ロード・バイロンなど数多くの人物のコメントや、聖書、古い箴言、著作などからの引用が付されているのですが、その中にはJETHRO TULLの"Occasional Demons" "Reasons For Waiting"の詞の一部も含まれており、前者は上巻のP63、後者は下巻のP129でそれぞれ引用されています。ほかにスザンヌ・ヴェガの"Blood Makes Noise"(アルバム『99.9F°』(1992)収録)からの引用もありますが、同じバンドで二度にわたって取り上げているあたり、ワッツ氏は相当にタルが好きなんだなというのがよくわかります。


“All kinds of animals living here. Occasional demons too.”
― Ian Anderson, Catfish Rising


アルバム『Catfish Rising』(1991)収録


“If I can but make the words awake the feeling”
― Ian Anderson, Stand Up


アルバム『Stand Up』(1969)収録


■「Interview with Peter Watts」(IRoSF, 2008)
http://www.irosf.com/q/zine/article/10391

 海外SFウェブジン「IRoSF」が2008年2月に行ったワッツ氏へのインタビュー記事。ここで氏はお気に入りのバンド/アーティストを挙げています。JETHRO TULL、トーリ・エイモス、RUSH、LED ZEPPELIN、初期YES、R.E.M.、RADIOHEAD。やはりタルの名前を真っ先に挙げております。そして「最近のお気に入りはPORCUPINE TREE」とのこと。確かにスティーヴン・ウィルソンのサウンドは氏の気に入りそうだなという、妙な納得をおぼえました(ちなみに、ウィルソンは2011年から現在もJETHRO TULLのアルバムのリミックスを継続的に手がけております。おそらくワッツ氏にとってもこれは嬉しいサプライズだったのではないかと)。質問者がピーター・ワッツに対して「あなたはMOTT THE HOOPLEのベーシストと同名なんですけど、音楽的背景について教えてくれませんか?」などという切り出し方をしてるのがちょっと面白い。そうそう、確かにモットの創設メンバーでありベーシストのピーター“Overend”ワッツと同名なんですよね。そしてその質問に対してワッツ氏が「モット・ザ・フープルの方のピーター・ワッツは知らなかったけど、自分が知ってるのはPINK FLOYD『狂気』の頃のサウンドエンジニアのピーター・ワッツだね」と返しているのがまた。典型的な音楽マニア同士の会話じゃないですかもう。ちなみに、PINK FLOYDのサウンドエンジニア兼ローディーであったピーター・ワッツは30歳の若さで亡くなっております。





JGS: To continue the riff on your name, it's also the same as one of the bass players for the British glam-rock band Mott the Hoople, most popular during the 1970s (he was known as "Overend" Watts for a tumble he took over some band equipment). Do you have music playing in the background (besides Jethro Tull) when you write?

PW: I did not know that about Mott the Hoople. The only Peter Watts I know from that era is Pink Floyd's sound engineer, the guy who giggled maniacally on Dark Side of the Moon. In terms of background music, I used to listen constantly—Tull, Tory Amos, Rush, Zeppelin, Pre-Cheese-era Yes, REM, Radiohead—but not so much any more. I tend to like tunes that draw you in both lyrically and musically—but by definition, such tunes draw your attention away from the writing. Maybe I was better at dual-core processing in my younger days. More likely I just finally realized that I was tuning the music out of my conscious awareness anyway while writing, so what was the point? I still listen to music for inspiration (Porcupine Tree is a recent favorite), but that's an eyes-closed-get-lost kinda process without keyboard involvement. The only time music actively inspired my writing while I was writing, without intruding, would be Dead Can Dance's "Spleen and Ideal," which set the mood for my short story Nimbus.



 また、ワッツ氏が音楽に触発されて書いたという唯一の作品が、初期の短編「Nimbus」(1993)で、これはDEAD CAN DANCEのアルバム『Spleen and Ideal』(1985)の雰囲気に寄せているのだそうな。同様の言及はフランスのSF&ファンタジーウェブジン「actuSF」が2012年に行ったワッツ氏へのインタビュー記事にもありました。

■「Interview Peter Watts」(actusf, 2012)
http://www.actusf.com/spip/Interview-Peter-Watts-VO-2012.html





 ちなみに〈Rifters〉シリーズ第二作『MAELSTROM』の第二章のタイトルは、R.E.M.のアルバム『Fables of the Reconstruction』(1985)からの拝借である旨が著者あとがきで述べられています。ワッツ氏のサイトでは各著作がクリエイティヴ・コモンズのもと公開されており、PDFやテキストファイルで読むことができます。
http://www.rifters.com/real/shorts.htm






Catfish Rising
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Stand Up
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