2014年8月20日水曜日

ペストマスクと黒衣、怪奇と幻想を身にまとった、英国の新鋭プログレッシヴ・ロック・バンド ― The Osiris Club『Blazing World』(2014)

Blazing WorldBlazing World
(2014/06/30)
Osiris Club

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https://itunes.apple.com/jp/album/blazing-world/id876480193

メンバー全員がペストマスクと黒いローブを着用しているという、何ともインパクトのある出で立ちのサイケデリック・プログレッシヴ・ロック・バンドが、イギリスから出てきました。その名もThe Osiris Club。怪奇小説やホラー映画に触発されたアヴァンギャルド・メタル・プロジェクトを母体としており、この五人編成のバンドの中核となっているのが、ツインギターの一角を担うChrisFullardと、ドラムスのAndrew Prestidge。シンセサイザーもプレイしているほか、ソングライティングも担当しています。さらに付け加えるならば、二人はNWOBHMの古参バンドのひとつであるANGEL WITCHの元/現メンバーであるということでしょうか。バンドが影響を受けたものとして挙げているものの中には、VOIVOD、KING CRIMSON、RUSH、CARDIACS、GOBLIN、ジョン・カーペンター、ダリオ・アルジェント、ジョージ・A・ロメロ、アラン・ムーア、マイク・ミニョーラ、H.P.ラヴクラフト、アーサー・マッケン、M.R.ジェイムズの名前があり、幻想怪奇小説/映画とプログレッシヴ・ロックがこのバンドの根幹を成す二大要素であることがわかります。

The Blazing WorldThe Blazing World
(2014/03/16)
Margaret Cavendish

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今回ご紹介するデビューアルバム『Blazing World』は、バンド結成から数年間の試行錯誤を経て完成した労作です。マスタリングを手がけたのは、サイケデリック・ロック・バンド Master Musicians of Bukkakeのフロントマンであり、SUNN O)))やBorisなどのプロデュースでも著名な Randall Dunn。アルバムタイトルや楽曲のコンセプトは、17世紀の英国の作家マーガレット・キャヴェンディッシュ(Margaret Cavendish/1623‐1673)が著したユートピア小説『The Blazing World(燃える世界)』からとられております。この作品はSF小説の源流とも言われており、アラン・ムーアやチャイナ・ミエヴィルといった当代髄一の作家が同作から少なからず影響を受けているようです。バンドが本作を制作したモチベーションのひとつには、半ば忘れ去られた作家となっている彼女の思想やヴィジョンを現代に伝えたいという思いも強くあるのだそうな。

公式サイトのバイオグラフィでは「70年代プログレッシヴ・ロックと、80年代のポスト・パンク、そして90年代のエクストリーム・ロックの最良の部分を抽出して作り上げたサウンド」とも形容されている通り、サウンドはなるほど温故知新な方向性の強いもの。結果的には、HAWKWINDのようなスペース・ロックや、PORCUPINE TREEなどのモダン・プログレにもつながるものも見出せます。スペイシーなシンセサイザーや、ゆらめくメロトロンの音色をバックに配した楽曲はミステリアスな雰囲気をまといながらも、基本的にはコンパクトでメリハリのある仕上がり。物憂げで暗示をかけるようなヴォーカルと、ヘヴィながらもユルめのギターに対して、リズム隊がハッキリとビートを刻んでいるのが大きいのだと思います。間違いなくKING CRIMSONからの影響下にあるヘヴィ・プログレの色合いを滲ませながら、サイケデリック・ロックとポスト・パンクを行き来するという、この妙なフットワークの軽さが彼らの味になっています。それが如実に出ているのが、どこかスウィートな味のある"Mystery Sells"や、アルバムのラストをめまぐるしく飾る"Miles and Miles Away"ではないかと。サックスも交えてよりルーズなハードロックとしての趣を醸す"Seize Decay"や、コズミック・チェンバー・ロック・バンド CHROME HOOFSarah Andersonが客演し、キレのあるヴァイオリン・プレイでアクセントを与えた"A Blazing World"も耳を惹く仕上がりです。



サウンド的にもコンセプト的にも夢幻境を目指すような姿勢があり、ペストマスクに黒衣という出で立ちも、決して奇をてらったものではないというのがよくわかります。また、アルバムのジャケットやライヴのフライヤーがまた退廃的な雰囲気を伝えるものなのも見逃せないところ。ジャケットのアートワークはAndrew自らの手によるものであり、彼の多才さが伺えます。



The Osiris Club - Official Site
The Osiris Club - facebook
Margaret Cavendish - Wikipedia
The Blazing World - Wikipedia