2010年10月7日木曜日
ザ蟹(三柴理/塩野道玄)『サウンドギャラリー』(2001)
映画、CM、アニメと、様々な方面に楽曲を提供している、ピアニストの三柴理とベーシスト/コンポーザーの塩野道玄の二人からなるユニット ザ蟹の、結成15年目にしてリリースされた初のアルバム。扶桑社刊行の「月刊ビジネスSPA!e+B」の付属CD-ROMにおける音楽連載企画「サウンドギャラリー」で作曲された7曲の楽曲を収録。この企画、毎月お題(サラリーマンの日常にちなんだものが多し)が出され、それを元にザ蟹が楽曲を作るというもので、ひと月1曲ペースで7ヶ月間連載されていたそうです。瑞々しさを放つピアノ&シンセフレーズ、小洒落たドラムンベースサウンドが、春の訪れやアンニュイな午後の昼下がり、フレッシュなおろしたてのYシャツといった数々のイメージを、落ち着いた一枚の絵画のような印象で見せてくれる良質のイージーリスニング系インストゥルメンタル。ほっとさせられます。
かと思えば、シンセと蠢くベースが絡みつき不穏なグルーヴを捻り出し、強烈な印象を残すアヴァン風味のジャズ・ナンバー「Pulsar」や、筋肉少女帯の楽曲「モーレツア太郎」(アルバム『仏陀L』収録)のイントロ部分「黎明」のエクステンデッドヴァージョンとも言える「黎明 第二稿」、同じく筋少曲「夜歩く」(アルバム『Sister Strawberry』収録、ちなみに同アルバムに収録されている「ララミー」の編曲者は塩野氏)のセルフカヴァーの存在に身を引き締められます。特に「夜歩く」は軽やかな打ち込みシーケンスの上をピアノがスタイリッシュに躍るという、筋少版よりさらに輪をかけてクールで、そしてちょっぴりヘヴィなアレンジになっており、非常に新鮮な印象を与えてくれます。そして「ホワイトチョコレート」は、筋肉少女帯の内田雄一郎氏の未発表曲。シンセのみで構成された小品で、どこか懐かしさを誘う音色でレトロな雰囲気を醸す曲調が何とも内田氏らしい。「戦闘妖精雪風」のサウンドトラックがユニットの"動"の側面を展開した作品とするなら、こちらは"静"の側面を追求した作品であると言えます。三柴氏、塩野氏のリリカルな魅力が満載です。
●三柴理:Wikipedia
●三柴理 ピアノのなせる業と神髄