架空原語であるコバイア語を操り、呪術的でスリリングな音楽性で唯一無二の存在として現在も君臨し続けるフランスのプログレッシヴ・ロック・バンド MAGMA。彼らが後身に与えた影響は小さくなく、世界各国にフォロワーが存在します。「ZEUHL(ズール)」とは、それらフォロワーの総称であり、また一つの音楽ジャンルであります。MAGMAのお膝元であるフランスには「Soleil Zeuhl」というレーベルが存在し、ZEUHL系バンドの過去の作品を発掘したり、アンダーグラウンドに蠢く新人バンドをデビューさせたりと、不定期なペースで活動を展開しております。レーベルの公式facebookページが数年ほど前から存在しているのですが、今年に入ってちょくちょく情報を更新するようになりました。
https://ja-jp.facebook.com/pages/Soleil-Zeuhl/523588237670181
Soleil Zeuhlはまた、soundcloudのアカウントも持っています。何とつい最近になって、4時間半に及ぶインタビュー&サンプラー音源をアップしています。最初の1時間は、レーベルの総帥であるAlain Lebon氏へのインタビュー、最後の約50分間は「Soleil Zeuhl Pige Kosmik」なるトークパート(多分ZEUHLについて色々しゃべってるんでしょう)で、残りの2時間40分はレーベルの所属バンドの楽曲を50曲以上に渡って聴くことが出来ます。太っ腹ですね。CAILLOU、BBIといったMAGMA人脈が絡むバンドから、XING SA、SETNA、NEOM、SCHERZOOといった最近のバンド。ESKATON、DÜN、NOAといった黎明期に活動したバンド。Ctuluhu×ZeuhlバンドSHUB-NIGGURATHや、米国から登場したフォロワーCORIMA、孤高の存在として異彩を放つ日本のAMYGDALAなどが聴けます。サンプラーは以下のリンクからリスニングできます。
https://soundcloud.com/zwenska-a/sets/soleil-zeuhl-soleil-mutant
この数時間に及ぶZEUHLサンプラーを編集したのは、元UNIVERS ZEROのロジェ・トリゴー氏が率いるチェンバー・ロック・プロジェクト PRESENTの現メンバーであり、ZEUHL系バンドのアルバムのエンジニアも多数手がける凄腕 Udi Koomran氏であるというのもまた見逃せないポイントでありましょう。氏がこれまでに手がけた作品については、こちらを参照のこと。
Udi氏はYouTubeにもアカウントを持っており、そちらでは色々と貴重な動画をアップロードされております。氏が所属するPRESENT関係の映像は勿論、吉田達也氏のドラムソロ動画や、FAUST、デヴィッド・アレン、そして知る人ぞ知るスイスのDebile Mentholのライヴ動画なんてのも。
https://www.youtube.com/user/UdiKoomran/videos
以下はサンプラーで聴けるバンドの簡単な紹介。アナタもZEUHL音楽の世界へ足を踏み外し…いや、踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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CAILLOU
OFFERING(MAGMAが活動休止していた80年半ばにフロントマンのクリスチャン・ヴァンデによって結成されたコーラス主体のプロジェクト)の近年の編成にドラマーとして参加もしているPhilippe Gleizes擁する4人組ジャズ・ロック・バンド「カイロウ」。アルバムデビューは昨年(2013年)。ヘヴィなボトムと共にうねり疾走する白熱のバンドアンサンブルがスリリングな新鋭です。
http://blasrudy8.wix.com/caillou
CORIMA
珍しいアメリカのZEUHL勢「コリマ」。MAGMAの流れを汲んでいるのはもちろん、ジャケット・アートワークや曲名(読めない)、そしてサウンドのユーモラスな味付けからは、日本の高円寺百景からの影響も強く感じさせる。つまり「フォロワーのフォロワー」とも言えるバンドです。ここからさらにこのバンドの流れを汲んだバンドが出て…という展開もありえない話ではないのがZEUHLというジャンルなのです。
https://www.facebook.com/CORIMAMUSIC
Shub-Niggurath
'83年にベーシストのAllen Ballaudにより結成され、クトゥルー神話に登場する神性の名を冠したアヴァンギャルド・プログレ・バンド「シュブ=ニグラス」。'95年にAllenが癌により死去したため、バンドは活動を停止するものの、90年代初頭に録音されたマテリアルを元に制作された『Testament』を'03年に、初期のデモテープ音源に、Udi Koomranによるリマスタリングを施した『Introduction』をそれぞれ発表しております。soundcloudのサンプラーには'87年の貴重なライヴ音源も収められており、"Yog Sototh"の凶暴な演奏を聴くこともできます。また、同バンドのギタリストであるFranck W. Fromyは、近年UNIT WEIL(ユニット・ヴェイル)というShub-Niggurathの作風を継いだ新バンドで禍々しい触手を伸ばし続けています。
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=810
https://www.facebook.com/unit.wail
BBI
MAGMAのベーシストであり、MAGMAから派生したジャズ・ロック・バンドONE SHOTでも活躍するPhilippe Bussonnet。クリスチャン・ヴァンデ率いるOFFERINGに80年代末期に参加していたドラマーのJean-Claude Buire。90年代にアルバムを2枚残したフレンチ・プログレ・バンドXAALの創設メンバー(ただし、2枚のアルバムにはクレジットされていない)でもあったというギタリストLaurent Imperato。以上3名のメンバーの頭文字をとったインストゥルメンタル・トリオ。'08年にアルバムを1枚発表しておりますが、録音自体は'96年に行われたものです。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/bbi/
SCHERZOO (François Thollot)
'00年代初頭に2枚のソロアルバムを発表(二作目ではONE SHOTのリズム隊であるPhilippe Bussonnet(b)とDaniel Jeand'heur(ds)を迎えて制作)しているマルチ奏者 François Thollot (フランシス・トロ)が'00年代末に結成したバンド「スケルズー」。MAGMA、UNIVERS ZEROからの強い影響下にあるジャズ・ロック/チェンバー・ロックを、変拍子をふんだんに盛り込んで聴かせる、歯応えのあるバンドです。
http://www.scherzoo.net/
SETNA
'04年に結成、MAGMAの「静」的な面に触発されたバンドで、オルガン/エレピとヴォーカルを中心とする穏やかなイメージで貫かれたジャズ・ロック・サウンドを聴かせてくれるのがこの「セトナ」。'07年のデビュー作ではMAGMA/ONE SHOTのギタリストであるJames Mc Gaw、'13年の二作目では全盛期MAGMAを支えたキーボーディストBenoit Widemannがそれぞれゲスト参加しております。
http://sesame7.free.fr/uk/setna/uksetna.htm
DÜN
'70年代末から'80年代初頭のわずかな期間に活動したバンド「デュン」。Rock In Opposition(R.I.O)の流れも汲んだ隠れた名バンドなのですが、あまりにも隠れすぎた存在。バンド名や曲名のコンセプトは、かのフランク・ハーバートのSF小説『デューン』からきているようです。アルバムは'81年に発表された『Eros』1枚だけですが、緊密な楽曲と演奏を繰り広げるZEUHL/チェンバー・ロックの傑作であり、今なおカルト的な人気を誇ります。
http://alain.lebon4.free.fr/soleil/dun-gb.html
ESKATON
'70年代半ばに結成され、'80年代に3枚のアルバムを残して解散した「エスカトン」。ゴリゴリとうねり反復されるヘヴィなアンサンブル、オペラティックな女性コーラス、MAGMAの「静」と「動」の双方を巧みに再現するパフォーマンスを展開したバンドです。オリジナリティはあんまりないですが、MAGMAフォロワー(むしろクローンと言った方がいいかもしれません)としてはトップクラス。疾走感は本家以上にあるので、その点では結構なカタルシスが味わえます。ある種、ZEUHLの体現者とも言えるバンドだなあと思いますね。
http://www.pleinlatete-plt.fr/groupes/eskaton-2-0/
NEOM
'09年にデビューした、ヴォーカル、ドラムス、ギター、そして作曲も手がけるマルチ奏者のYannick Duchene Sauvage、ローズ・ピアノを担当するCarole Duchene Sauvage、ベースのWilliam Pawelzikによるジャズ・ロック・トリオ「ネオム」。大作志向の楽曲を、フュージョン・タッチなところもあるサウンドで聴かせるバンドです。
https://www.facebook.com/pages/Neom-Zeuhl/320589168743
STRAVE (Serge Bringolf)
ジャコ・パストリアスのツアー・バンドや、初期ART ZOYDのメンバーであるAlain Eckert率いるカルテット、ヒュー・ホッパーとリチャード・シンクレアの連名アルバムへの参加歴もあるドラマー セルジュ・ブランゴルフが、ZEUHLからの影響を反映させたジャズ・ロック・バンドが、この「ストラーヴ」。ブラス・セクションやヴァイオリン、フルートも交えて、長尺志向の楽曲を息をつかせぬテンションで繰り広げる様は圧巻の一言です。
http://www.soleilzeuhl.com/fr/catalogue/reeditions/strave-3/strave/
THE ARCHESTRA
ベラルーシにRATIONAL DIETというバンドがおりまして、MAGMAというよりはむしろUNIVERS ZEROやHENRY COWの影響下にある超攻撃的なチェンバー・ロックを展開していた好バンドだったのですが、色々あって2012年に解散してしまいます。その後、バンドのヴァイオリン奏者兼フロントマンであったCyrill Christyaが、同バンドのドラマー Nikolay Semitko、管楽器奏者のVitaly Appowと、奥方であるNadia Christyaと結成したのがこの「ジ・アーケストラ」。うっかりしていると喉元をカッ切られそうな前バンドの鋭い音楽性はそのままに、奥方の甲高いヴォイス・パフォーマンスも交えてより妖しげで暗いムードに磨きをかけたサウンドを聴かせてくれます。
https://www.facebook.com/pages/The-archestra/104600349673111
AMYGDALA
日本のZEUHL系バンド「アミグダラ」。キーボーディストの中島芳雪氏と、ブラック・メタル・バンド TYRANTのギタリストである山路善広氏によるデュオ・ユニットで、UNIVERS ZERO影響下のヘヴィ・チェンバーという趣の多重録音インストを展開しておりました。アルバムはこれまでに2枚発表しており、'08年に発表された2ndアルバムではONE SHOTのドラマー Daniel Jeand'heurを迎えている他、KENSOのキーボーディスト 小口健一氏がゲストで参加しています。
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=3365
Alain Eckert Quartet
アラン・エッケールはART ZOYDの初期メンバー。ART ZOYDが'80年に『Symphonie Pour Le Jour Ou Bruleront Les Cites(都市が燃える日の為の交響曲)』('76年発表の1stアルバムの再録音盤)をリリースした後にバンドを脱退し、チェンバー・ロック・テイストのジャズ・ロック・カルテットを結成します。'81年に発表された唯一作には、Serge Bringolfがドラムスで、ART ZOYDのPatricia Dallioがピアノでそれぞれ参加しております。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/alain-eckert-quartet/
XING SA
SETNAのドラマー、ベーシスト、キーボーディストの3人により'00年代後半に編成されたシリアスかつスピリチュアルなジャズ・ロック・バンド「ズィング・サ」。SETNAのレコーディングの合間を縫って制作されたアルバムを'10年に発表しています。SETNAの母体となったジャズ・カルテットのフロントマンであるGilles Wolffや、SETNAの二作目に参加し、自身もNEOMのメンバーでもあるヴォーカル Yannick Duchene Sauvageもゲストとしてクレジットされています。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/xing-sa/
NOA
70年代後半に結成された、フルート/サックス奏者、ヴィブラフォン奏者を擁するジャズ・ロック・バンド「ノア」。アルバムは'80年に発表された1枚のみです。バンドの紅一点 Claudie Nicolasによるよく通るヴォーカル・パフォーマンス(SLAPP HAPPY、ART BEARSのダグマー・クラウゼからの影響もあったのかなあとふと思ったり)と、フリージャズ混じりの演奏を聴かせるアンダーグラウンドな内容。若干ペーソス混じり。
http://www.progarchives.com/album.asp?id=34598