『ロッキー4』『トランスフォーマー・ザ・ムービー』の劇伴で知られ、プログレ界隈とも関わりの深いヴィンス・ディコーラ氏の作品を年代を追って紹介していく企画の第二回。
【その1 80年代編】
【その2 90年代編】
【その3 00年代~】
【番外編】
(前回からの続き) 80年代後半に、ヴィンス・ディコーラ氏はKANSASのスティーヴ・ウォルシュ、JETHRO TULLのドーン・ペリーとのトリオ・バンドで活動する計画があったそうなのですが、ウォルシュ氏がKANSASに復帰することになったため、このトリオは幻に終わってしまったそうです。アルバムに収録される予定だった楽曲はデモ音源の形で3つ残されており、それらは"Suffer the Children" "Only Time Will Tell"というタイトルのオリジナル曲と、STREETS(ウォルシュ氏が83年にKANSASを脱退した直後に結成したバンド)の85年発表の2ndアルバムに収録されている"Broken Glass"の再録というものでした。"Suffer the Children" "Only Time Will Tell"の2曲は(何故か)YouTubeで聴けるのですが、特に前者はプログレ・ハード的な構築も光る7分半の佳曲で、お蔵入りとなってしまったのは非常に勿体無いと思います。ちなみに、"Only Time Will Tell"は、ヴィンス氏が2001年にリリースした、自身のキャリアを振り返るアルバム『IN-VINCE-IBLE』に収録されております。
90年代に入ると、ヴィンス・ディコーラ氏は自らがフロントマンとなっていくつかのバンドを結成します。まず、91年頃に結成されたSTORMING HEAVENは、名うてのセッション・ミュージシャンで構成された5人組バンド。ヴィンス(kbd.b)氏以外のメンバーは、前述のドーン・ペリー(dr)、ホイットニー・ヒューストンやニナ・ハーゲンなどのメジャー・アーティストのツアー・サポートに参加していたカーティス・テイラー(g)、THE BEST(ジョン・エントウィッスル、キース・エマーソン、サイモン・フィリップス、ジェフ・バクスター、ジョー・ウォルシュといったビッグ・ネームが名を連ねたスーパー・バンド)に参加したリック・リヴィングストーン(Vo)、『90125』期のYESのツアー・サポートを務めていたケイシー・ヤング(kbd)といった具合。数年間の制作期間を経て96年にメロディック・ロック・レーベルMTM Musicから発表された唯一のアルバム『Life In Paradise』(キングレコードから国内盤のリリースもあり)は、アメリカンなAOR/プログレ・ハードのイディオムを正しく継承しつつも、一本調子に陥らせない巧みなアレンジ・センスで貫かれたサウンドが全編に渡って展開された、まさに職人的な内容。各人の確かな手腕をバッチリと味わえる佳作です。
そして90年代半ば頃に、ヴィンス氏は新たなバンドTHREADを結成します。STORMING HEAVENにも参加したドーン・ペリー、元TOWER OF POWERのヴォーカリストであるエリス・ホールとのトリオ編成にて、STORMING HEAVENの発展型ともいえる、よりプログレッシヴな度合いを強めたサウンドを展開していました。エリス氏の熱のこもったソウルフルなヴォーカルを、ヴィンス氏の華麗にして壮大なキーボード・アレンジが盛り上げ、彩っていくというそのスタイルは、典型的なプログレ・ハード・サウンドとは一味違う趣向を感じさせてくれます。アルバム『Thread』はSTORMING HEAVENの『Life In Paradise』より1年ほど先駆け、95年にリリースされました。バンドはTHE FLOWER KINGSのフロントマンであるロイネ・ストルトをレコーディングに迎えるという計画のもと、2ndアルバムの制作を進めているそうなのですが、アルバムは今なお(2013年7月現在)リリースされておりません。各メンバーがいずれも多忙の身のため、スケジュールの擦り合わせがなかなかうまく行かないのが一番の要因なのでしょうが、2007年頃にフラワー・キングスのメーリングリストでロイネ本人からTHREADのレコーディングの進捗状況の報告があったそうなので、気長に待っていればそのうち発表されるのでしょうか…?期待したいところです。
【参照】
■ProgSheet - Roine Stolt Interview #2(2004年ごろのロイネ・ストルトのインタビュー)
http://progsheet1.hypermart.net/roine2.html
■フラワー・キングス・ファンクラブ・ウェブ 2007年02月01日付エントリ「THREAD進捗状況」
http://blog.livedoor.jp/theflowerkings/archives/50126357.html
他の活動としては、トムとジョンのキーン兄弟によるTHE KEANE BROTHERSを母体とする80年代アメリカのAOR/メロディック・ロック・バンド KEANEのギタリストであったマーク・モウリンが中心となって結成されたバンド「VISONARY」が、99年に発表したアルバムの一部楽曲にヴィンス氏がキーボードでゲスト参加しています。ちなみにこのアルバムにはドーン・ペリー、スタン・ブッシュも参加。他にもTOTOのスティーヴ・ポーカロ、AMBROSIAのバーレイ・ドラモンド、AIRPLAYのトミー・ファンダーバーク、CHICAGOのビル・チャンプリン、『機動新世紀ガンダムX』のエンディング・テーマ"Human Touch"を歌ったことでも知られるセッション・ミュージシャンのウォーレン・ウィービー(故人)など、往年のAORファンにはたまらない錚々たる顔ぶれが揃っています。
◆VISIONARY (MARK MOULIN)
http://www.geocities.jp/cruisinmusicjp/a_vision.html
また。1999年頃にヴィンス氏は実験的なマテリアルをレコーディングしており、これらはアルバムの形ではリリースされておりませんが、(これも何故か)YouTubeで聴けます。
【Track 1】
【Track 2】
【Track 3】