2017年6月18日日曜日

立山秋航『TVアニメ「けものフレンズ」オリジナルサウンドトラック』(2017)

TVアニメ「けものフレンズ」オリジナルサウンドトラック
立山秋航
ビクターエンタテインメント (2017-06-07)
売り上げランキング: 176


 2017年1月から3月にかけて放送されたアニメ「けものフレンズ」のサウンドトラック。もはや何度観返したかわからなくなるほど観返したアニメでした。そして今も観返し続けております。ストーリーもさることながら、第三話の山々を飛ぶシーンで遠くのほうに観覧車が映っていたり、第四話の地下迷宮で赤いセルリアンが壁を倒してくるシーンで床に非常口マークがあったり、第六話でのライオンによる合戦の図説は、彼女がいる部屋の壁にかかっていたものだったり、よく観てみればさりげなく情報が提示されていたというところも琴線をくすぐられるポイントでしたが、本サントラにもそういったくすぐりがあります。アルバムジャケットのロケーションは、第一話でかばんちゃんとサーバルちゃんが休憩した木陰とテーブルですし、手前に映っている蓄音機はリリース元であるビクター(現 JVCケンウッドグループ)の「蓄音機と犬(His Master's Voice)」のロゴマークにも引っかけているものと思われます。なかなか粋な趣。





 第一話の段階では「音楽制作 ビクターエンタテインメント」というクレジットのみ(第二話はクレジットなし)でしたが、第三話から立山秋航氏のクレジットが出るようになりました。同時期に放送された「アイドル事変」の劇伴も立山氏が担当されていますが、それ以前には「Wake Up, Girls!」(MONACAと共作)、「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」「くまみこ」の劇伴も担当されているほか。AKB48周辺やジャニーズ周辺のグループ/アーティストの編曲や、Mi、川本真琴、川嶋あいなどのサポートミュージシャンとしての経歴もあるほか、ポップスバンド LINDA LOU(現 THE LINDA!)のメンバーであるということも重要なポイントです。主題歌「ようこそジャパリパークへ」を手がけられたオーイシマサヨシ氏もSound Scheduleで十年以上にわたって活動されておりますが、立山氏も、もともとはバンドマンなのです。


立山秋航|HIGH KICK ENTERTAINMENT


「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」「くまみこ」のサントラCDはともにDVDの特典であったので、氏の担当作のサントラが単体流通の形でリリースされたのは「けものフレンズ」が初となります。「自然や広さを感じさせるもの」が けものフレンズの音楽の全体的テーマにあること、また、立山氏がバンドではドラマー兼アレンジャーであるということもあってか、パーカッシヴでリズムに特徴のあるスコアが多いのもポイント。頻繁に使用される"ジャングルの中で""とぼけた仲間達"のマリンバとオルガンの味付けや、"風を感じて" "楽しい仲間達" "けもの達のいきづかい"での変拍子など、ユルいようでけっこうトリッキーです。"スコールが来た!"は、軽快に変拍子を叩くマリンバとサスペンス調のストリングスが一体になっているユニークなスコアで、本編ではこの二つのパートを分離して使用しています。また、本編では未使用の後半部ではフリージャズめいた展開も切れ込んできており、かなりビックリします。同様に、アライさん&フェネック専用BGMといっても過言ではない"さわがしい2匹"も、本編未使用の後半部分は音で思いっきり遊んでおり、まさにどったんばったん大騒ぎといったところ。どちらも主張が強すぎたため未使用になったと思われますが、面白いです。一方で、"凪" "不安な瞬間" "けもの達の哀しみ"など、雰囲気の演出のみならず感情的にも訴えかける忘れがたいスコアも多く、さわやかなリズムとメロディで、しみじみとしたエンディングを演出した"フィナーレ"も外せません。

 本編では第三話でしか流れないレア曲ながら、とりわけ印象的な"サンドスター"がサントラの一曲目にきているというのは、タイトルもろとも象徴的に感じます。ヴァンゲリス(「南極物語」のころの)を思わせるエレクトロニック・ミュージック。エレクトロといえば、バリバリのEDMチューンである"セルリアン"も強烈きわまる一曲ですが、「思いっきり人工的でサイバーな曲をくれ」というオーダーで制作したとライナーノーツで立山氏がコメントされておりました。また、怪獣映画のテーマを彷彿とさせる低音バリバリの"強大な敵"では、後半部分でさりげなく"セルリアン"のイントロ部分が流れているのですよね。キユーピー3分クッキングの「おもちゃの兵隊のマーチ」、劇的!ビフォーアフターの「TAKUMI/匠」、「いい湯だな」のちょっとしたパロディである"けもの達のクッキング" "お家ができた!" "ほっこり温泉"といったお遊びもこういったサントラの醍醐味。めちゃくちゃ不穏な"けものおばけ"は個人的には「サスペリアのテーマ」っぽいと思います。第十二話の観覧車のシーンで流れた"ようこそジャパリパークへ(orgel ver.)"は、エンディングクレジットに「音楽協力:河口湖オルゴールの森」とあったので、録音などもここで行われたのでしょうか。





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『TVアニメ「けものフレンズ」オリジナルサウンドトラック』
[VIZL-1164|JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント|2017.06.07]


01. サンドスター
02. ジャングルの中で
03. 風を感じて
04. スコールが来た!
05. 凪
06. 洞窟の奥
07. 水辺のやすらぎ
08. とぼけた仲間達
09. 楽しい仲間達
10. けもの達のいきづかい
11. けもの達の哀しみ
12. セルリアン
13. 不安な瞬間
14. てんやわんや
15. 動物紹介
16. かわいい2匹
17. ほがらかな2匹
18. さわがしい2匹
19. お家ができた!
20. けもの達のたたかい
21. けもの達のクッキング
22. 一筋縄ではいかないミーティング
23. 自然の中で
24. ほっこり温泉
25. けものおばけ
26. 強大な敵
27. ようこそジャパリパークへ ~orgel ver.~
(作曲:大石昌良/編曲:立山秋航)
28. フィナーレ


音楽(作編曲):立山秋航


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 立山氏の在籍されている LINDA LOU / THE LINDA!について。2002年に結成され、2003年にLINDA LOUとして活動を始動したバンドは、2004年にビーイングと契約。系列レーベルのCULEから1stアルバム『Linda Lou』でデビュー。2005年に『Second Banana』、2006年に3rdアルバム『Third-Onyx』とコンスタントにリリースを重ね、その後、レーベルとの契約終了に伴いインディーズへと戻り、THE LINDA!に改名。2007年に自主レーベルから心機一転の4thアルバム『Four Tunes』を発表しています。同じくビーイング出身であるDEENやFIELD OF VIEWにも通じる爽やかさ、丁寧な歌心、芯のあるサウンドがたまらないグッドミュージックです。個人的には『Third-Onyx』『Four Tunes』を特にオススメいたします。


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 また、メンバーはそれぞれに活動を展開されており、現ベーシストの樫村智也(カシムラトモヤ)氏は、GAKU-MCや伊藤かな恵さんのライヴサポート、ももいろクローバーZやキング・クリームソーダのレコーディングなどに参加されています。ここ10年ほどTHE LINDA!としてのアルバムのリリースはないのですが、2012年末に新曲が発表され、公式YouTubeアカウントも開設されています。




http://www.thelinda.jp/

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みゆはん『自己スキーマ』(2017)