アーバンギャルド
株式会社KADOKAWA (2015-12-09)
売り上げランキング: 32,675
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トラウマ・ニューウェイヴ・ロック・バンド アーバンギャルドの1年半ぶりとなる通産4thフルアルバム(インディーズ時代の〈少女三部作〉から通算すると七作目)。徳間ジャパンに移籍し、ポップでキャッチーなエレクトロ・ポップに寄った前作『鬱くしい国』は、会田誠によるカヴァージャケットや、大槻ケンヂのフィーチャリング曲といった強力な話題性もある一枚に仕上がっていたのですが、一方で「ソツのなさ」に物足りなさを感じたのも事実です。作編曲も手がけていたキーボーディストの谷地村啓氏が2013年9月に電撃脱退し、翌年9月にはドラムスの鍵山喬一氏が脱退、バンド編成が大きく変わったことも気がかりなところでありましたが、2015年4月にGSバンド ザ・キャプテンズのおおくぼけい氏がキーボーディストに加入。氏もさっそく作曲に参加した会場限定ミニアルバム『少女KAITAI』での、〈少女三部作〉の解体と新たな少女の懐胎を経て、リリースされたアルバムが本作です。本作の少し前に、松永氏の詩作や短編小説などをまとめた初作品集『自撮者たち』が刊行されたこともまた印象的なトピックでした。
いや、すごい。ここまでガッチリと緊密なコンセプトアルバムに仕上げてくるとは。過去と現在の事象を二重映しにしたヴィジョンを顕現させる「昭和九十年」のコンセプトもさることながら、混迷極める現代への大なり小なりのアジテーションを多彩な曲調で繰り出しています。種々雑多なオマージュや遊びが楽曲や詞に盛り込まれ、濃ゆいキャラクター性もろとも混ざり合うことで生み出される畸形じみたエネルギーをなりふりかまわずぶちまけていたインディーズ時代も一昔前のものとなり、震災、そしてバンド自身のメジャーデビューへ経たことで、「少女」の内面、「個人」の自意識から、「都市」「社会」の外側へより意識を向けるようになっていったバンドの姿勢が、ここで一つの形をみたと言っていいと思います。バンドの持っていた「痛々しさ」はだんだんと洗練されてきましたが、キャリアを積んできたがゆえの鋭さが研ぎ澄まされてきていますし、このバンドのもつ「何でもアリ」感は依然として健在であることが伝わってくるところも嬉しい。
「言葉を、殺すな」のフレーズを歌謡曲とEDMとサイレンのミクスチャーのもとに撃ち出す"くちびるデモクラシー"、苛烈なるラブソングにしてエレクトロ・ポップ"ラブレター燃ゆ"は、恋と戦争のダブルワードを巧みに絡めこむ二曲。対照的に、"新宿モナムール"は失恋ソング。歌詞にある「飛んでくれるなお嬢さん 背中の桜が泣いている」のフレーズは、60年代末に橋本治が打った東大駒場祭のポスターの一文「とめてくれるなおっかさん 背中の銀杏が泣いている 男東大どこへ行く」から。『少女KAITAI』にも収録されていた"コインロッカーベイビーズ"は、このタイトルで「子供をつくろう」というプロポーズソングという意表をついた一曲。とはいえ、70年代に社会問題にまでなったコインロッカー幼児置き去り事件も、今はもう完全に過去のものとなった感があります。作詞は浜崎容子さんと、ジャニーズをはじめJ-POPの作詞・作編曲家の大智氏の共作。クラヴィネットがハネる軽快な曲調で、言葉を紡ぎ出すことの葛藤を歌う"詩人狩り"は、詩人は、ともすれば死人でもあるという一曲。
瀬々信氏作曲のスピードチューン"箱男に訊け"は、言わずと知れた安部公房の傑作小説『箱男』のテーマ性を意識しながらも、別のベクトルを指向した一曲。社会から離脱し、帰属を捨て、ダンボール箱をかぶり街を彷徨っていたあちらの箱男とは違い、こちらの箱男はどこまでも現実のくびきから逃れられず、鬱屈した承認欲求が行き場をなくして爆裂した感。本作のコンセプトをもっとも打ち出した"昭和九十年十二月"は、演劇的趣向やエモーショナルなポエトリー・リーディング(松永氏曰く「ポエムコア」も多少意識したとのこと)込みの9分越えの大曲。作曲は、おおくぼ氏。EDMとハードエッジなギター、そしてストリングスサウンドが盛り上げる、本作のハイライトたる一曲です。エレクトロ・ポップ"あいこん哀歌"、ゾンビネタてんこ盛りでスウィングする"ゾンビパウダー"は、ともにポップな小曲。後者は少女とゾンビということで、おそらく大槻ケンヂ『ステーシー』へのオマージュも込みでしょう(松永氏、かなりのオーケン好きですし)。まだインターネットが黎明期であった90年代末に活動し、18歳で亡くなった実在のネットアイドルをモチーフにしたという"平成死亡遊戯"は、あの(ゆるめるモ!)、伊藤麻希(LinQ)、はのはなよ、白石さくらといった「現代の」「病んでる」アイドルの面々に吉田豪が行ったインタビュー音源からの抜粋や、ダイアルアップ接続音を随所に挿入するという趣向が耳を惹きますが、シンフォニックなバラードとしても絶品。おおくぼ氏の作曲センスはここでも光ります。個人的には本作の真のハイライトではないかと思うのです。ラストの"オールダウトニッポン"は、瀬々氏作曲のキラーなスピードメタルチューン。華麗なピアノの連打や「オールダウトニッポン!」のムサいシャウトなど、筋肉少女帯や特撮(バンド)のオマージュも込めつつ、浜崎さんと松永氏のツインヴォーカルでアーバンギャルドのカラーで染め上げています。エンディングは、両者によって交互につぶやかれる「昭和」「平成」のモノローグと、ガスマスク越しの呼吸音? で終わるという意味深な趣向。年は変わって2016年。今年は「昭和九十一年」のワードを配したツアーやミニアルバムのリリースが予定されているとのこと。「昭和」は、まだ終わりません。
http://urbangarde.net/
▼「アーバンギャルドの地下出版」
(from AllAbout|2015.05.12)
▼「あなたは既に病気。誰もがみんな病気です」
―松永天馬ロングインタビュー
(from ウレぴあ総研|2015.08.30)
松永氏の思想を知る上でかなり読み応えのあるインタビュー、オススメです。
▼「 INTERVIEW FILE 014 松永天馬 (アーバンギャルド) 」
(from 槙田さんのマキタジャーナル|2015.09.01)
▼「毎回違ったゲストを招いて新たな世界を学んでいく
実験的トークライブ「松永天馬脳病院」を開院!」
(from rooftop | 2015.10.01)
▼「INTERVIEW アーバンギャルド」
(from skream.jp|2015.12)
○アーバンギャルド『少女は二度死ぬ』(2008)