ツィプレッセン (1996/02/25) ツィプレッセン 商品詳細を見る |
日本のチェンバー・ロック・バンド ツィプレッセンの(現時点での)唯一のフルアルバム。バンド名のツィプレッセンは、宮沢賢治の「春と修羅」の一節に由来するもの。'85年に今井弘文氏(ds)を中心として、高藤順氏(b,cello)、三宅信義氏(vln)の数名で結成され、'86年に山上晃司氏(p)、浅野淳氏(g)が加入したことでラインナップが固まります。その後、ライヴ活動や舞踏家とのコラボレーションを経て、'91年に、LACRIMOSAやIL BERLIONE、Soft Weed Factorと共に、ベル・アンティークの国内のチェンバー・ロック/レコメン系コンピレーションアルバム『Lost Years In Labyrinth』に参加。同CDでは、"Tangent" "Prelude"の二曲が収録されておりました。また、同年の京浜兄弟社のコンピレーションアルバム『誓い虚しく』に、ティポグラフィカやハイポジ、EXPOらと共に参加。ここでは"すべての縦縞は交差したがる"(後に"交差衝動"に改題)が収録されております。これらの三曲はいずれも再録のうえで、オリジナルアルバムに収められることとなります。ちなみに、さる2015年3月にリリースされた京浜兄弟社の10枚組BOXセット『21世紀の京浜兄弟者』のライナーノーツでの岸野雄一氏(コンスタンスタワーズ)のコメントでは、メンバーとの当時の交流について少し述べられております(今井氏は何度かコンスタンスタワーズの演奏に参加されたこともあったのだとか)。
一時の活動休止期間とレコーディングを経て'96年にリリースされた本作『Zypressen』は、チェンバー・ロック・バンド LACRIMOSAのChihiro.S氏のプロデュースによって完成した全8曲からなるアルバム。「ジュルヴェルヌ・タイプのしっとりとした夢幻的なサウンド」というCDの帯のキャッチにもあるように、"Tangent" "STR (Against the Wind)"などでは、ベルギーのJULVERNEのような、ストリングスや木管楽器の響きを活かした優雅なタッチのサロン・チェンバーを聴かせてくれます。しかしその一方で、"Prelude"や"交差衝動"のような、マリンバやシロフォンなどを交えた複雑な変拍子とポリリズム、そしてミニマリズムを強調したシリアスな展開にも非常に際立ったものがあります。技巧を凝らしつつも、ユーモラスな表情もあり、ストイックなようでストイックに行き過ぎない、この絶妙さが魅力を生み出しているのでしょう。そこかしこで脱臼"してるかのような"Etude"や、叙情的な雰囲気のなか、今井氏が亡き父の詩の一節を朗読する"HANA"では、独特の雰囲気を形成しております。アルバムは本作のみというのが非常に惜しまれますが、今なお色褪せない響きでもって、聴き手に驚きと愉しみを感じさせてくれます。
バンドの音楽性にも沿ったシュールレアリズムと幻想的な雰囲気を見事に伝えているアルバムのジャケットアートは、浅野淳氏の実弟 浅野信二氏によるもの。氏はその後、マーキー発行のプログレッシヴ・ロック情報誌「EURO-ROCK PRESS」の第一号から第二十号(1998年から2004年)までの表紙絵を手がけられてもおりました。定期的に企画展や個展なども催されているほか、近年では雑誌の挿絵や小説のカヴァーイラストなどで、氏の作品を目にする機会も多くなってきております。昨年新カヴァーで復刊されたマーヴィン・ピークの〈ゴーメンガースト〉三部作と、ついに刊行成った幻の最終巻『タイタス・アウェイクス』の一連のアートワークはまさに圧巻の一言でありました。
そして来たる4月24日に、なんとZYPRESSENが19年ぶりに再始動。バンドの公式サイトもつくられ、吉祥寺MANDA-LA2でライヴを行うというアナウンスがされました。これは観逃せないところでしょう。
http://zypressen.jp/
21世紀の京浜兄弟者 -History of K-HIN Bros. Co. 1982~1994- (2015/03/18) 京浜兄弟社 商品詳細を見る |
驚天動地の10枚組BOX。『誓い虚しく』に収録された"すべての縦縞は交差したがる"に、同コンピレーションのリリース直前、1991年8月に吉祥寺シルバーエレファントで行われたライヴで演奏された"すべての縦縞は交差したがる"、そして『Lost Years In Labyrinth』に収録されたヴァージョンの"Tangent"と、ツィプレッセンの楽曲が3曲収録されています。今井弘文氏のコメントも掲載。