2015年4月28日火曜日

「身体はプログレ。鼓動はミニマル。心はZeuhl。そしてゲーム音楽の愉楽」目の醒める大作エレクトロ・プログレ ― Stig『Velocity』(2015)




 ロシアのチップチューン・レーベルUbiktuneより先ごろリリースされた81番目のカタログである、Stig『Velocity』がとてもよいです。StigことStephen Patterson氏は2000年代初頭より活動を行っている、イングランドはニューカッスル出身のコンポーザー。bandcampではこれまでに十数枚の作品をリリースされております。facebookでのプロフィールに、「Zeuhl(※)の心臓とプログレッシヴ・ロックの身体、ミニマリストの鼓動とビデオゲームミュージックの愉楽」という一文が添えられているのがまたなんともユニークでありますが、そもそも活動初期の2004年にリリースしたアルバム『Trapezoid』からして、各種楽器を駆使してマルチ録音でつくりあげた四部構成のフォーキーなインストゥルメンタル作品であったというツワモノ。初期のマイク・オールドフィールドからの強い影響下にあるというのが如実にうかがえる良作です(name your price=投げ銭でダウンロードできます)。







 初期はピアノ・インストゥルメンタルのアレンジを得意としており、『In Indigo Lost』(2007)や『Biodiversity』(2008)などで、ゲーム音楽からの流れも汲んだ静謐な情緒のある楽曲をたっぷりと聴くことができます。一方でゲームのサウンドトラックや、イベント用の音楽も手がけており、2009年にUbisoftより発表されたレーシングゲーム「Monster 4x4 Stunt Racer」のBGMは彼の作曲によるもの。ここでは一転してハードなロック調のノリのよいインストが中心となっております。





 『arc of eleven』(2011)からは、作風に変化とさらなる主張が見えはじめ、ヴォーカルも入ってくるだけでなく、北欧バンドにも通じるドリーミーなムードを湛えたチップチューン/エレクトロニカが基調になってゆきます。あいだに9分の楽曲を挟んで17分のニューエイジな大曲2曲を擁した『Hydrocycle』(2013)、CDであれば二枚組のヴォリュームで10分越えの楽曲をいくつも収録した『Vital』(2014)と、楽曲の長尺化も目立ってきました。

※クリスチャン・ヴァンデ率いるフランスのバンド MAGMAを祖とする、プログレッシヴ・ロックの一ジャンル。世界各国に存在するMAGMAのフォロワーはいわゆる「Zeuhl系」と呼ばれ、本家よろしく執拗な展開と神秘・呪術的ムードをもったバンドが多い。




 以上、これまでのStig氏のバイオグラフィをざっと追ってみました、そこにきての本作『Velocity』です。やはり大作路線を踏襲しており、ヴィンテージ・チップサウンド(SID、YM2612)とエレクトリック・ドラムのコンポジションによる、それぞれ22分半と27分というのふたつのパートの表題曲からなる作品となっております。エレクトロ/アンビエント、ミニマル・ミュージック、プログレッシヴ・ロック、ゲーム・ミュージック、フュージョンがバランスよく溶け込み、入れかわり立ちかわりで高揚感をもたらしてゆく様は、まさにこれまでの活動の集大成といったところです。過去作ではあまりみられなかったメリハリも感じられるのが、本作を目の醒めるような印象にしているとも感じます。"Velocity, part one"の終盤では、MAGMAを思わせるウネウネとしたバッキングパターンも顔をのぞかせ、まさに「心はZeuhl」を体現してもいます。抜けのよさと求心力もたっぷりの意欲的な大作であり、お見事というほかありません。

Ubiktune: [UBI081] Stig - Velocity

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