2015年2月5日木曜日
いかがわしくも甘美な悪徳の味。フレンチ・アヴァンギャルド・ギャングが見舞う邪悪な一発 ― 6:33『Deadly Scenes』(2015)
2008年に結成された、パリのアヴァンギャルド・メタル・バンド 6:33 (6h33)の通産3rdフルアルバム。同国のアヴァンギャルド・メタル・シーンにおける先輩格であるCarnival in Coal(昨年、七年ぶりに活動を再開したという嬉しいニュースも)との縁もあるバンドであり、同バンドのヴォーカリスト Arnaud Stroblは過去にはメンバーとして参加もしておりました(バンドを脱退した後も〈6:33&Arno STROBL〉名義でコラボレーションEPをリリースしております)。「インディー・ロックと邪悪なメタルの融合がテメエの脳ミソをファックする!」「ティム・バートン製フランケンシュタインがハロウィンの夜にデヴィン・タウンゼンドとマイク・パットンにレイプされる!」といった、アルバムに付けられたロクでもないコピーも雄弁に物語っているように、マイク・パットンが率いたMr.Bungleの人を喰ったおっかなびっくりテイストや、デヴィン・タウンゼンド・バンドのエクストリームな激情を受け継ぎつつも、さらなる闇鍋をこしらえてやろうという魂胆がモリモリ伝わってくる愉快痛快猥雑ミクスチャーサウンドが文字通り爆裂しています。前述の二者以外で同系統のバンドを挙げるならば、アメリカのSleepytime Gorilla MuseumやカナダのUneXpect、スウェーデンのDiablo Swing Orchestraあたりが出てきますが、殊に「いかがわしさ」という点ではこのバンドが抜きん出ている感もします。
十人ほどの編成によるハレルヤなバッキングコーラス隊に導かれて、やかましくもノリノリのシャッフル・チューンを決めこむオープニング・トラック"Hellalujah"からもうゴキゲン。映画「アメリカン・サイコ」にインスパイアされてできたという"Ego Fandango"は、複雑な構成を多彩な趣向と勢いでブチ抜いた一曲。アジテーションじみた牧師のスピーチが挿入され、チャーチ・オルガンが鳴り響き、スカ調のリズムでスラッシーなリフやブラス・セクションやエレクトロ・アレンジまでもが飛び交い圧倒するキラーチューン。聴き手を「ブッ殺しにかかる」という意味でもキラーチューンです。しかも曲の尺は6分33秒というのがまた心ニクい! パーカッシヴなリズムにインダストリアル調のアレンジ、ささやくようなヴォーカルも相まって、腹にドス黒いイチモツを抱えたような"The Walking Fed"を挟み、誰しもが内面に持つオタク性を描いた"I'm a Nerd"へ。ハッピーなコーラスと超脅迫的なヴォーカルがまくし立てる躁鬱ナンバーであり、エレクトロ・アレンジも効いた「踊れる」一曲に仕上げられていて、誇大妄想的なのにハッピーな高まりを味わわせてくれます。Mr.Bungleが描いたヴィジョンのアップ・トゥ・デイト版という趣も。"Modus Operandi"は、ティム・バートンとダニー・エルフマンのコンビへオマージュを捧げてきた彼ららしいシアトリカルな趣向とダークな雰囲気をたっぷりと含んだ仕上がり。PVトラックでもある"Black Widow"は、妬みの感情に取り憑かれた少女を描いたいかがわしくも蟲惑的なスウィング・メタル。変則的な展開のオンパレード。PVも秀逸な内容であり、必見です。アコースティック・ギターを主体したカントリー調の前半が徐々にエレクトリックでメタリックな様相を成してゆく"Last bullet for a gold rattle"は、どこかエンニオ・モリコーネっぽいなあと思ったら、やはりモリコーネを意識してつくった曲だそうです。マリンバ/パーカッションのせわしないパッセージが来たかと思いきやスロウになり、最終的にはダイナミックなロック・チューンへと収束してゆく"Lazy Boy"。そしてラストを飾るのは、三つのシーンを持った、トータル13分を越えるタイトル・チューン。善悪の拮抗を自由意志をコンセプトにしたエクストリーム&ミクスチャー・ロック組曲であり、一部は前作の楽曲の続編的な意味合いもあるとのことです。これまでの楽曲で提示されたエッセンスが混沌とした状態で一曲に投入されており、いかがわしくも甘美な悪徳の毒がたっぷりと盛られたアルバムを締めくくるにふさわしい濃厚な一品。毒を喰らわば皿まで!
2015年初頭に発表された傑作アルバムとして、個人的に全力でプッシュしてプッシュしてプッシュし通したい一枚です。いわゆる「変態メタル」が好きなら、もちろんマストです。
http://www.633theband.com/