物理学者にして大学教授、SF翻訳・評論家でもある菊池誠氏と、多くのバンドやセッションなどにも参加されているテルミン奏者の児嶋佐織さん、二人の奏者によるテルミン・デュオ・ユニット andmo'(アンドモ)の1stEP。活動歴は長く、結成は2005年にまでさかのぼります。当初は「theremin unit :and_more...」と言うユニット名でカヴァーを中心に演奏していたとのこと。数年ほど前に関西に住んでいた頃、チラリとユニットの名前を見かけたことがありましたが、なるほど、こんな音楽性だったんだなあと。菊地氏が解説を書かれたルーディ・ラッカー作品(『時空ドーナツ』は私のフェイバリットな一冊です)や、翻訳を手がけられたフィリップ・K・ディックのジュヴナイルSF『ニックとグリマング』に個人的に親しんでいたこともあり、何というか数年越しの感慨めいたものがありました。
楽曲にはギターやカリンバ、シンセサイザーも導入されていますが、基本は二台のテルミンを主体とした演奏であり、テルミンでメロディラインを奏でているというところがミソであります。テルミン特有のあのおどろおどろしさというか、スペイシーに揺らぐ音色で即興的にアンビエントな空間を創り上げる"Tsubutsubu"で、まずは異空間への小手調べ。続く"UMA2"は、アコースティック・ギターのフォーキーな響きや、エレクトリック・ギター&ベースのヘヴィな刻みも伴いながら、テルミンによるたっぷりとした郷愁のメロディをフィーチャーした1曲。親交が深く、たびたびライヴなどで共演もされているZABADAKの吉良知彦氏と小峰公子さんのご両人がそれぞれベース、ヴォイスで参加されています。そういうこともあって、この曲はZABADAKの作風に近い、異国情緒を感じさせる仕上がりになっています。"B.Rex"はエレクトリック・ギターによるリフの反復の上でテルミンの即興が繰り広げられるという、プログレッシヴ・ロック色の強い1曲。曲名はハシビコロウの学名であるBalaeniceps Rexから来ており、そう聞くと、なんだか虎視眈々としたイメージも感じます。"Tsubutsubu(Reprise)"は、1曲目の別アレンジ&リプライズ。まさに二台のテルミンの交信であり、あちこちに交錯する音色の響きの行く先を追っかけていると、こちらの意識もうっかりあらぬ方向に飛びそうになります。ラストは13分を越える大曲"Relenza In The Night"。枯れた情景をイメージさせるミニマルな展開が続いていくうちに、小峰公子さんによるエロティックなヴォイスや、各種SE、重苦しいピアノ、掻き毟るかのようなギターのフレーズが徐々に重なり、混沌としながら緊張の度合いを増してゆくという、実験的趣向の強い内容になっています。編成のユニークさもさることながら、即興性とメロディの双方を両立させているという点でも、非常に面白いユニットだと思います。
●andmo'
(CDの通販はこちらより)
【2015.07.13追記】
BRIDGEから7月25日より一般流通盤が出るそうです。
andmo’ 小峰公子
インディーズ・メーカー (2015-07-25)
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