現在はデッドボールPとして活躍する槙タケポン氏のサークル「5/4TAKEPOD」が2005年の末に発表(コミックマーケット69にて頒布)した、オリジナル・プログレ組曲を収録したアルバム。ケルト神話に登場する常若の国"ティル・ナ・ノーグ"をコンセプトにした、20分に渡る全七部構成の一大長編タイトル曲に加え、いくつかの小曲を収めた1枚。キース・エマーソンとリック・ウェイクマンとジョーダン・ルーデスと桜庭統を足して4で割ってさらにモダンな味付けを加えたようなパワフルなキーボード・プログレ・サウンドをブッ放す、変拍子あり、ポリリズムあり、シンフォニック・ロックあり、ダイナミズムありの、プログレのオイシイ所が全て味わえるストロングな一枚です。
風鈴の音にピアノが絡む静的なインスト「Land's dawn(地の誕生)」から、ハイテンションなキーボードサウンドが堰を切ったように雪崩れ込む「Manannan mac Lir(海神マナナーン・マクリル)」の繋ぎは非常にカタルシスを感じる流れ。赤子の鳴き声に導かれ、不気味なメロディラインと変拍子が満載の「Black Annis(人喰い妖婆ブラック・アニス)」。一転して落ち着いた穏やかな雰囲気の「Avalon(林檎の島アヴァロン)」。ポリリズムも絡めてミステリアスなムードの「Morgan le fay(妖精モルガン・ル・フェ)」。最高潮にテンションの高まりを見せる、RPGボス戦的イメージのダイナミックなキラーチューン「Midir(地下の神ミディール)」。そして最後を飾る「Mag Mell(歓びの野マグ・メルド)」にてバシッと大団円。風鈴の音が再び登場し、オープニングへと再び回帰する趣向も。これだけでもかなりの満足感が得られますが、組曲以外の楽曲もキャラの立った曲ばかりで、秀逸な内容。ツクツクボーシの鳴き声をサンプリングしてギターリフとガチンコの拮抗をさせる、疾走感と暑苦しさに溢れたプログレ・メタル・インスト「セミロック」。トロピカルな南国風インスト「暫く忘れないこの罪悪感」。タイトルとは裏腹に非常にシリアス&クラシカルなピアノ・インスト「ポケットの中でチョコレートが融けた」。シンセベースがバックでうねうねトグロを巻く洒落たインストゥルメンタル「こんなにも頼りない僕らの神」。半ば悪ノリ気味な妖しい先住民族儀式風インスト「急性胃炎」。フュージョン・テイストな「Neet1993」など、ユニークな曲が並んでおります。リリースから5年近く経ってもまだなお色褪せない同人プログレの傑作。
かなり昔からプログレ(特にイタリアン・プログレ)好きを公言しているタケポン氏ですが、氏のハイテンションなプログレ・アレンジは、『Tir-na-n-Og』と同時期、またはそれ以前に発表されていたスクウェア作品やアリスソフトなどのゲームミュージックのアレンジ・アルバムなどでも炸裂しております。クロノトリガーアレンジアルバム『Chrono Corridor』や、スクウェア作品アレンジ・アルバム『S II』は個人的にオススメの作品。特に後者の作品のハイライトとなっている、イタリアン・プログレ的解釈も交えて?大仰な一大組曲と化した「妖星乱舞」の高密度アレンジは必聴モノであります。
●『Tir-n-na-Og』:試聴
●5/4 TAKEPOD:公式
□ASCII.jp:「生まれたときからロックンロール」デッドボールPかく語りき