ウルトラマン同士でセックスしたり、プロレス馬鹿親父が大暴れしたり、いかに他者に悟られずにスキヤキの肉を沢山食うかあれこれ策を講じたりと、どれもこれも語りどころのある短編が詰まったいろんな意味で濃い一冊。中でもトレンチコートのハードボイルドなオッサンが夜行列車で駅弁を 異常なこだわりを持って食らう処女作「夜行」は飛びぬけて秀逸。弁当を食べる時、おかずとご飯の配分を間違えてどちらかを先に食べ切ってしまったり、肉だと思ったらタマネギのフライだったりといったことで苦い敗北感を味わってしまったということは誰しもあるかと思いますが、そういった何ともいえないむずが ゆさを、この「夜行」はそれこそ重箱の隅ならぬ弁当箱の隅をつつくようなみみっちいまでの細かい描写でもってジワジワと思い起こさせてくれます。普通の弁 当一つ食うことですらここまでドラマティックに出来るのだということを知ってしまったら、明日から弁当の食い方が多少ながら変わっちゃいます。実際コレ読 んでからどの順番で食ってやろうかニヤニヤ思案しながら弁当食ってますもん、自分(笑)。「孤独のグルメ」に繋がる久住氏のこだわりの原点がここにあるの で、井之頭五郎に惚れた方はこちらも是非。ちなみに「夜行」は2度映像化されており、1度目は原作に近い形での映像化で、玄田哲章氏が主役のオッサンにアテレコ、2度目は02年度の『世にも奇妙な物語』で「夜汽車の男」というタイトルで、アレンジが大きく入ってのドラマ化、主演は大杉漣。