2010年8月31日火曜日
仙波清彦とはにわオールスターズ『イン・コンサート』(1991)
邦楽囃子仙波流家元にしてパーカッション奏者である、仙波清彦率いる大編成邦楽オーケストラ「はにわオールスターズ」の91年のコンサートを収録したアルバム。ジャンル超越集団といえば、それはこの人たちでしょう。まずメンツが凄い、紹介するだけで字数を喰う。デーモン小暮閣下(聖飢魔II)、奥田民生/阿部義晴(ユニコーン)、戸川純(ヤプーズ)、小川美潮/板倉文(チャクラ)、渡辺香津美、村上"ポン太"秀一、松本治(Tipographica)、斉藤ネコ・清水一登・Ma*To・Whacho(Killing Time)、植村昌弘(Bondage Fruit、MUMU他)、坂田明(山下洋輔トリオ他)、金子飛鳥、渡辺等、バカボン鈴木、矢口博康(FAIRCHILD)、れいち、青山純(山下達郎バンド)、久米大作etcetc...ヴォーカル8名、べース/サックス各3名、アコーディオン/クラリネット/トランペット各1名、ギター/トロンボーン/ヴァイオリン/キーボード/笛/琴/タブラ各2名、三味線4名、邦打、パーカッション、コンガ、ドラム合わせて17名、そしてコンダクターの仙波氏を含め以上総勢53名でお送りする大宴会アンサンブル。
和楽器をメインに押し出したリズム隊はバーバリズムとダイナミズムを擁してもはや地鳴りの領域に突入しており、まさに山脈大移動。「リボンの騎士(ヴォーカル:戸川純)」「大迷惑(ヴォーカル:奥田民生)」「シューベルトのセレナーデ」「ホーハイ節」「この胸のときめきを(ヴォーカル:デーモン小暮閣下)」「奇妙な果実」「ブンワガン・ソロ」といった具合に、クラシック、民謡、ポピュラーミュージックまで手広く網羅した選曲、いやあ実に節操ないなあと思わず微笑んでしまうことしきり(笑)。オリジナル曲は、チャクラのフロントマンである小川美潮嬢の独特のセンス溢れる歌詞と、仙波氏による崩し気味な和のフィーリングを掛け合わせたもの。テキトーなようでいて絶妙な印象を受ける溶け込み具合が大きな魅力。能天気にぶっ飛んだ「明るいテレンコ娘」、悠然とダイナミックな音が鳴り響く「体育祭」、そして10分に及ぶ「水」は、各パートのソロがはっちゃけつつもだんだんと絶頂へと導かれる、本ライヴのハイライトと言えるナンバー。いやはやドンチャンお祭り騒ぎという以外に何といえばいいのでしょう、スケールがデカ過ぎます。莫大なエネルギーがブチ込まれ発散するダイナミックなコンサートは、映像で見るとまた凄いのです。
●仙波清彦:公式
2010年8月25日水曜日
VERMILLION SANDS『Water Blue』(1989)
80年代に活動していた、故.蝋山陽子さん率いるフォーク・プログレ・バンド ヴァーミリオン・サンズが89年に発表した作品。RENAISSANCEやSANDROSEといった欧州のフォーク・プログレ系バンドのコピーバンドが母体であり、特にRENAISSANCEからの音楽的な影響は大きく、紅一点である蝋山さんによる母性溢れる包み込むような歌い回しはアニー・ハズラムを彷彿とさせられます。バンドアンサンブルはとりたててテクニカルというわけでもなく、シンフォニックなムードの演出でヴォーカルのサポートに回る場面が多いのですが、アコースティックの優しい響き、CAMELやGENESISを思わせる暖かみのあるキーボードサウンドが絡んで、どこまでも幻想的なトラッド・サウンドを形成していく様はしみじみとしたノスタルジーを感じさせてくれます。
木漏れ日の散歩道を踏みしめていくかのような展開が味わい深い大曲「時の灰」、日本的情緒を含みこんだアコースティックな小曲「北本」、伸びやかなヴォーカルが夢心地へと誘う「THE POET」等、スロウテンポのバラードの魅力がたっぷりと味わえる曲が多いです。一方で、吹き込む風のSEに導かれ、ヴォーカルとバンドアンサンブルが軽やかに駆け抜ける「CORAL D -THE CLOUD SCULPTORS-」、中期 (特に『Breathless』期の) CAMELへの愛も感じさせる牧歌的な雰囲気を持った「LIVING IN THE SHINY DAYS」は、このバンドの"動"の魅力を感じさせる仕上がりで思わず笑みもこぼれてしまいます。素朴ながら、じわりと琴線に触れる魅力の詰まったアルバムではないでしょうか。バンドは90年に活動を休止するものの、自主制作のソロアルバムやカヴァーバンドでの活動を経て、96年に元Deja-Vuの工藤源太氏(dr)やKBBの壺井彰久氏(vln)をサポートに加えて一時的に活動を再開(この時のメンバー編成でのライヴテイクが99年のリイシュー盤に2曲ボーナス・トラックとして収録されております)。その後、蝋山さんの出産・育児のため再びバンドは活動休止、99年にθ(theta)のメンバーとして迎えられ、00年にアルバムを1枚発表するものの、04年の8月23日に若くしてこの世を去られてしまいます。今年で蝋山さんの6周忌、数少ない国内フォーク・プログレの優れた歌い手であった彼女の早すぎる死は、改めて惜しまれます。
90年の吉祥寺シルバーエレファントでのライヴ映像。YouTubeでは他にもルネッサンスの「Prologue」やトラディショナルのカヴァー、アルバム未収録曲「Rosemary」の演奏映像も見ることができます。
●VERMILLION SANDS:試聴
●VERMILLION SANDS:公式
2010年8月20日金曜日
月読レコード『黄泉堂 - The HALL HADES -』(2010)
コンポーザー/アレンジャーの翡翠氏が主宰する同人音楽レーベル:月読レコードの夏コミ新作。翡翠氏が完全ソロ体制で制作した、全4曲収録のミニアルバムで、翡翠氏の作風の特徴のひとつである和のムードは勿論のこと、今回はハモンドオルガン、メロトロン、モーグの音色をいつになく大々的にフィーチャーしており、和洋折衷的プログレッシヴ・ロック作品に仕上がっています。1曲目の「滅紫渡り(けしむらさきわたり)」は、ピアノの響きとファルセット・ヴォーカルの独唱をメインとしたイントロダクション。アクセント的にメトロトンの音色も被さり、より静謐なムード感に溢れた1曲。2曲目「迦樓羅(かるら)」は、ファズがかったうねりのあるバッキングシーケンスに、竜笛/フルートをフィーチャーしたインストナンバー。軽やかに変拍子を交え、シリアスでありながらどこか飄々としたイメージも感じさせます。3曲目「とかげのしっぽ切り」は、前曲の流れを継いだような形で、再びうねりのある1曲。EL&P/キース・エマーソンを思わせるキーボード・プログレで、ジャジーな展開も織り交ぜつつ、ピアノとモーグのうねりに導かれる形で展開。楽曲後半ではコーラスもフェードインし、焦燥感を煽る曲調にますます拍車がかかり、緊迫したムードが高まりを見せてゆきます。そして高められた緊迫感は4曲目「夢、幻、現が境」で一気に爆発。ハモンド、モーグ、メロトロンサウンドに加え、和楽器類、多重コーラスを総動員し、粛々としたムードとダイナミックな厚みを演出。人によっては(…自分のことですが)イメージとしては源平討魔伝が浮かぶやもしれません。起承転結の"結"を強烈に印象付ける、本作のハイライトたる1曲でありましょう。ミニアルバムですが、この路線でフルアルバムも聴きたいと思わせてくれるほどに聴き所の多い一枚。濃ゆいです。
●黄泉堂:特設ページ
●月読レコード:公式
2010年8月3日火曜日
天地雅楽『天壌無窮 - Heaven and Earth Forever -』(2010)
天壌無窮( Heaven and Earth Forever) (2010/07/17) 天地雅楽 商品詳細を見る |
https://itunes.apple.com/jp/album/tian-rang-wu-qiong-heaven/id463703789
ニューエイジやフュージョン、ワールド・ミュージック、ポップスなど多彩な音楽性を織り込み、現代的なセンスを感じさせる活動を行っている雅楽フュージョン・グループ 天地雅楽(てんちがらく)の、通産4作目。1作目がマキシシングル、2・3作目がミニアルバム(いずれもほぼ廃盤状態)であったため、これが初のフルアルバム。メインの4人(篳篥[キーボード兼任]、笙×2、竜笛/リンベ[ドラムス兼任])に、ベース&ドラムス/パーカッションのリズム隊、ヴォーカル、フルート奏者、揚琴奏者、二胡奏者などが加わった「天地雅楽 HYBRID PROJECT」と称する大編成にて、雅楽をベースとしたバラエティ豊かなハイブリッド・サウンドを展開しています。また、08年に天地雅楽メンバー3人が結成したスピンアウトユニット 明日香の活動からのフィードバックもあり、本作収録曲のうちいくつかは明日香が08年に発表した『天地夢想』の楽曲のリメイクも含まれています。
今回はプログレッシヴ・ロック的エッセンスや趣向を盛り込んだ作風になっており、間あいだに挟み込まれたサウンドスケイプ的なインタールードもさることながら、ピアノとフルートをフィーチャーした鮮やかな変拍子インスト曲「Spiral Staircase」から印象付けられます。続く「天界への階段」は明日香でも演っていた楽曲のリメイク。明日香ではキーボード/シンセがメインでありましたが、こちらはフルート&二胡をフィーチャーしたことでより伸びやかさと躍動感が強まり、生っぽさもグッと増した印象。一体となったアンサンブルが雄大なイメージを抱かせる「Continent Of Spring」は初期のレパートリーのリメイク。「故郷の砂」「故郷の風」は、共にたおやかな女性ヴォーカル(恐らく中国語?)をフィーチャーした歌もので、オリエンタルでしっとりとしたムードながら、随所でしっかりとアクセントも効いており、2曲とも本作の目玉たる秀逸なポップスに仕上がっています。NHKの番組劇伴としても採用された「寺の小道」は、明日香では2分少々の小品だった楽曲ですが、ここでは5分近くまで拡大。穏やかな雰囲気の中展開される、ピアノと雅楽アンサンブルの静かな絡みが聴きもの。ピアノのフレーズがどことなくキース・エマーソンのピアノソロの作風を匂わせる場面も。暖かみのある二胡の音色で送る「とおりゃんせ」のアレンジを経て、「Yellow River」はそのタイトル通り中国をイメージした1曲で、躍動的でモダンなアレンジもさることながら、イメージに広がりを与える揚琴と二胡の響きも印象深い。ラストは毎アルバムに必ず収録されている(明日香でも勿論演っている)、豊かなニュアンスに溢れた彼らの代表曲「天地乃響」で〆。確かな自信に溢れているのが伺える、流石の演奏で幕を閉じます。彼らのこれまでの活動の集大成にして、新たな活動の一歩を踏み出す節目ともなる1枚。ワールドワイドな活動も行っている彼らですが、国内での認知度もより一層上がって欲しいものです。
●天地雅楽:Myspace
●明日香:Myspace
●天地雅楽:公式
2010年8月2日月曜日
明日香『天地夢想』(2008)
天地夢想(てんちむそう) (2008/07/18) 天地雅楽(てんちがらく) 商品詳細を見る |
https://itunes.apple.com/jp/album/far-east-fantasy/id285935591
雅楽フュージョン・グループ 天地雅楽のメンバー3人(全員が音大出身、またそれぞれが本職の巫女、神職、雅楽師)による雅楽ユニット 明日香の1stアルバム。祭典雅楽(神社の奉納や祝祭事などで演奏される民間的・民間信仰的雅楽)のスタンスを基盤に、笙や篳篥・筝・竜笛の音色をふんだんにフィーチャーしつつも、ニューエイジ的ななごみの要素やフュージョン的なしなやかさを取り込み、また曲によってはヴォーカルやバンドサウンドも加わる意欲的なハイブリッド・サウンド。雅楽器の力強いサウンドを堪能できる「時空の風」、祝詞の詠唱がより一層粛々とした雰囲気を持たせる「D.N.A」、YMOの名曲をしっとり・ゆったりとしたアレンジでカヴァーした「東風」、軽い変拍子が入り、プログレを意識した清涼感溢れるインスト「天界への階段」、雅楽器アンサンブルにシンセが大胆に切り込むアレンジが瑞々しくもエネルギッシュな「天地乃響」、琉球民謡と融合させた「琉球乃風」、しっとりと壮大に盛り上がってゆくミドルテンポの歌モノ「太陽神」、そのほか、「組曲「惑星」より木星」「韃靼人の踊り」といったポピュラークラシックのカヴァー、本隊である天地雅楽のレパートリーのリメイクなどを、曲間に風景的な小品を挟みつつ展開。アルバムのまとまりとしては結構雑多な印象があるものの、新鮮味や面白味は十分。単なるイージーリスニングでは終わらない魅力が詰まった幅広く巧みなアレンジ・センスは、プログレ/フュージョン系リスナーにもオススメできると個人的に思います。パッケージ版は現在廃盤状態で(リリース元のアルデンテ・ミュージックが消滅?)、アルバム楽曲はiTunesでの楽曲配信にて入手することができます。ユニットは世界十数カ国でのアルバム配信や海外公演なども精力的に行っているようです。
●明日香:Myspace
●BARKS:明日香 バイオグラフィー
●『天地夢想』:iTunes
2010年8月1日日曜日
Kokoo『Super Nova』(2000)
尺八奏者一人、17絃&20絃筝奏者二人という編成による和楽トリオ コクーの2ndアルバム。99年に発表された1stアルバム『ZOOM』はオリジナル曲をメインに、確かな経歴と技量に裏打ちされた三者による和楽アンサンブルを存分に展開していたアルバムでしたが、こちらは全編がカヴァー曲によるカヴァーアルバム。選曲はジミ・ヘンドリックス、LED ZEPPELIN、THE BEATLESのロック・スタンダードから、EL&P「Tarkus」、PINK FLOYD「吹けよ風、呼べよ嵐」といったプログレ系、デヴィッド・ボウイ「ワルシャワの幻想」、ピーター・ハミル「Dropping The Torch」、フランク・ザッパ「Peaches En Regalia」といった意外なところ、伊福部昭御大の「ゴジラのテーマ」といった全10曲。やや奇妙なヴァラエティ性を感じさせる選曲ですが、それら楽曲のアレンジャー陣も、ゲルニカの上野耕路、JAGATARAの村田陽一、アルタードステイツの内橋和久、流浪のコンポーザー高橋鮎生、大御所アレンジャー 井上鑑といった錚々たる顔ぶれであることも見逃せないところ。
いずれも和楽器演奏用に大胆なアレンジがなされており、さながら和製クロノス・カルテットというたたずまいも感じさせるのですが、和楽器アレンジ、しかもトリオ編成での演奏ということで、やはり多少無理が生じている部分もあります。とはいえ、原曲とはまた違った魅力や情緒を見せるカヴァーが多いのも確か。「ワルシャワの幻想」や「Eleanor Rigby」などでの和情緒醸しまくりの優美な調べも素晴らしいのですが、思いのほかヘヴィな筝の低音が効きまくったバッキングの上を身の引き締まるような尺八の音色が駆け抜け、倍音も相まって原曲以上にチェンバー色を強めた「ゴジラのテーマ」は本アルバムの白眉ともいえる非常に迫力のある仕上がりで、ライヴにおいて人気が高いのもうなづけます。純然たるカヴァーアルバムというよりは「カヴァー十番勝負」的な印象が強い内容ではありますが、そのアグレッシヴな姿勢は非常にプログレッシヴでありますし、前作で感じさせた敷居の高さを払拭するかのような内容になっているのは確かであります。1st、2nd共に既に廃盤となってから随分経ってしまっているのは残念に思います。思いがけず見かけたら、手にとって聴いてみてはいかがでしょうか。
●Kokoo:公式