2018年10月21日日曜日

リック・ウェイクマンがライヴ中にカレーを食べた日



「元イエスのキーボード奏者、リック・ウェイクマン誕生(1949~)片手にキーボード、片手にカレーのスプーン?!」
(ヤマハ株式会社「おんがく日めくり」|2001.05.18)
http://www.yamaha.co.jp/himekuri/view.php?ymd=20010518

 ウェイクマンの超絶的なテクニックと、性格のわがままさを物語るエピソードに、“カレー事件”があります。最初の脱退直前、ウェイクマンは全くやる気を失いながらツアーをこなしていました。ある晩のライブの演奏中、ステージになぜかカレーの匂いが漂ってきたのです。異変に気付いたメンバーが辺りを見回すと、そこには片手で複雑なパートを弾きながら、もう片手で悠々とカレーを食べるウェイクマンの姿が。しかもキーボードの上には空のビール瓶が1ダースも並んでいたとか……。いくらやる気がないからといって、本番中にカレーを食べる神経もすごいですが、難しいので有名なイエスの曲なのに、匂いさえしなければバレなかったテクニックもまた恐ろしいものがありますね。


 リック・ウェイクマンが『海洋地形学の物語』ツアーのライヴ中にカレーとビールを飲食したエピソードは、上記のように有名な「伝説」として語り継がれているわけですが、2008年に初版が刊行されたウェイクマンの自伝本『Grumpy Old Rockstar』に当時の詳しい経緯が記述されていました(kindle版は550円で買えます)。また、Dailymail Onlineの2008年8月16日付の記事に、“ライヴ中カレー事件”への言及を含む『Grumpy Old Rockstar』の当該部分の抜粋が掲載されています。


Grumpy Old Rock Star: and Other Wondrous Stories
Preface Digital (2009-08-28)


「Yes, we were the original Spinal Tap, says Rick Wakeman of Seventies prog-rock supergroup」
(Dailymail Online|2008.08.16)
http://www.dailymail.co.uk/tvshowbiz/article-1045969/Yes-original-Spinal-Tap-says-Rick-Wakeman-Seventies-prog-rock-supergroup.html

In those days, I used to have my roadie actually lying underneath the Hammond organ throughout the set. If anything went wrong he could try to fix it. Also, he could continually hand me my alcoholic drinks.

We'd often have a little chat and on this particular evening in Manchester, I thought he said: 'What are you doing after the show?'

'I'm going to have a curry,' I replied. 'What would you order?' It seemed a strangely specific question but I didn't have much else to do so I told him. 'Chicken vindaloo, pilau rice, half a dozen poppadums, bhindi bhaji, Bombay aloo and a stuffed paratha.'

About 30 minutes later, I started to get this distinct waft of curry. I looked down and my roadie was lying there holding up an Indian takeaway. 'What's that?' I asked.

'You said you wanted a curry.' 'No. I said I wanted a curry after the show...' However, it smelled really good so he passed up the little foil trays and I laid this lovely spread out on top of the keyboard and ate it.

The rest of the band weren't best pleased - after all, there was a certain mystique surrounding Yes.


 ウェイクマンが「“ライヴ後に”カレーを食うつもりだよ」とローディーに言ったところ、“ライヴ中に”だと勘違いされ、気がつけばステージにテイクアウトのカレーセットが用意されていた。ライヴ後って言ったのに……と戸惑ったが、せっかくのカレーを無駄にするのも惜しいし、いい香りもしていたのでキーボードの上に置いて食べた。ということになります。ちなみにウェイクマンが食べるつもりでいたのは

chicken vindaloo(チキンビンダルー)
pilau rice(ピラフ)
half a dozen poppadums(パパド半ダース)
bhindi bhaji(オクラ)
Bombay aloo and a stuffed paratha(アル・プラタ)

……とのことなので、バンドにうんざりしていてライヴ中にカレーを食べたいと思っているミュージシャンは参考にしてください。そして、こちらはクリス・ウェルチが2003年に刊行(初版は1999年)したYESの評伝本『Close to the Edge: The Story of YES』『ザ・ストーリー・オブ・イエス』として邦訳版が2004年11月にストレンジ・デイズから刊行、小林薫/吉田結希子訳)での記述です。



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 リックのキーボードのための技術者、ジョン・クリアリーが助けにきた。故障に備えて、演奏中を通してステージに積まれた機材の下にいるのが彼の仕事だった。リックはこの忠実な協力者を見下ろしていった。「ジョン、これが終わったらカレーを食いに行こうぜ」だが、『海洋地形学~』の騒音が浴びせられるなかで、ジョンは"カレー"という一言だけしか聞き取れなかった。
 リックは続ける。「気がつけばジョンが俺にチキン・カレーとパパダムをいくつか、それにオニオン・バジを手渡してきたんだ。ホントに正直なとこ、カレーを買いに行かせるなんて考えたこともないよ。コンサートの後に行こうって言ったんだ。そしたら彼は消え失せてニ十分後に戻ってきた。実にすてきな匂いがするじゃないか。ジョンはキーボード群の下から全部、俺に手渡してくれた。それでオルガンの上に置いて……食べたってわけさ。ジョン・アンダーソンがやって来て……ヤツもパパダムを食べたんだぜ。けど、スティーヴ・ハウはまったく面白くもなんともなかったと思うよ。無害な余興ってとこさ、ホントに」

(『ザ・ストーリー・オブ・イエス』P228-229)


 また、以下はマーティン・ポポフが2016年に刊行したYESの評伝本『Time and a Word: The Yes Story』『イエス全史』として邦訳版が2017年8月にDU BOOKSから刊行、川村まゆみ訳)の1973年11月28日・29日の記述の引用です。さらに、マンチェスターの音楽シーンに関係する資料をアーカイヴしているサイト「Manchester Digital Music Archive」の情報も併せると、ウェイクマンがライヴ中にカレーを食べたのは1973年11月28日ではないかと考えられます。



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1973年
▼11月28、29日
 イエス、英マンチェスターのフリー・トレード・ホール公演。あるショウでは、ビールを数杯引っかけていたリック・ウェイクマンが、トラブルに備えてキーボードの下に待機していたテックのジョン・クリアリーに向かい、ショウが終わったらカレーを食べに行こうと怒鳴った。ジョンはその言葉を聞き間違え、20分後にサイド・ディッシュつきのチキン・カレーを持って現れる。リックはキーボードの上に皿を置き、料理を平らげた。この有名なエピソードから、当時のイエスに関してふたつのことがわかる。第一に、バンドの他のメンバーはベジタリアンだが、リックは肉食である。第二に、リックはすでにクビを申し渡され、ツアーが終わればバンドを脱退することになっていた。そのためこの日、仕事に対してやる気のない態度を見せたのだ。
(『イエス全史』P99)


Artefact|Ticket Free Trade Hall 28th November 1973
(mdmarchive)
https://www.mdmarchive.co.uk/artefact/16904/t
https://www.mdmarchive.co.uk/artefact/4438/t

Yes were promoting the then unreleased double album, 'Tales Form Topographic Oceans' which I now love but must have been a challenging 80 minute listen back then. This was said to be the gig where Rick Wakeman is alleged to have been bored enough to dispatch a roadie to buy him a curry - which understandably irritated other members of the band,