2018年6月11日月曜日

V.A.(辛島美登里/溝口肇/梶浦由記/岩代太郎)『Interior Music Style/Afternoon Tea I』(1994)

Afternoon Tea Ⅰ - インテリア・ミュージック・スタイル
辛島美登里 (アーティスト), 溝口肇 (アーティスト), & 2 その他 インストゥルメンタル (アーティスト)
Fun House
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 1994年4月にファンハウスからリリースされた、知る人ぞ知るインストゥルメンタル・コンピレーション『Interior Music Style/Afternoon Tea I』。サザビー(現サザビーリーグ)の協力のもと制作された企画盤であり、後の〈Afternoon Tea Music〉コンピレーションシリーズの原点ともいえる一枚。辛島美登里さんが2曲、溝口肇氏が3曲、梶浦由記さん、岩代太郎氏がそれぞれ1曲を提供しているという、今にしてみればあまりにも豪華な顔ぶれによる贅沢なコンピレーションです。

 辛島さんは東芝EMIに移籍する前年の頃であり、「永遠の楽園」は、1994年3月にファンハウスよりリリースされた6thアルバム『Night and Day』のラストを飾った楽曲のフルート&キーボードによるアレンジ。もう一曲の「ルブニール~再会~」は、1997年リリースの9thアルバム『果実』に「家路」としてリメイクされます。

 溝口氏はドラマ「この世の果て」やOVA「ぼくの地球を守って」の劇伴を手がけられた頃。また、アコースティック・ピアノで演奏に参加されているのは、当時パートナーであった菅野よう子さんです(彼女がOVA「マクロスプラス」で初めてアニメ劇伴を手がけられたのもこの年)。チェロの旋律がリードするボッサテイストの「レモンとパラソル」、ふくよかに絡み合うアンサンブルが楽しめる「HEART BEAT」、そしてチェロとピアノのデュオによる「祈りの日」は、2002年にリリースされた溝口氏の二枚目のベスト・アルバム『Espace II』にも収録されています。

 梶浦さんはSee-Sawでデビューしてまだ間もない頃。「Camomile Tea」は、本コンピ盤のために制作した3曲のインストゥルメンタルのうちの1曲。ちなみに、同曲を市川準監督が耳にしたことが縁となり、梶浦さんは1995年公開の映画「東京兄妹」の劇伴を手がけることにつながったのだとか()。2010年にリリースされた『梶浦由記 The Works for Soundtrack』の1曲目を飾ってもいます。

 岩代氏の「Stairway to new moon」は、ジェイク・H・コンセプション氏のソプラノサックスがリードし、大石真理恵さんによるヴィブラフォンがアクセントを添えるムードジャズチューン。また、本コンピ盤と時を同じくして、デビューソロアルバム『It's』をリリースしており、氏の活動においても一つの節目となった時期でもあります。



「作曲家・梶浦由記さんが作品との関わり方や作曲方法について語る」
(from Gigazine|2013.11.08)

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V.A.『Interior Music Style/Afternoon Tea I』
[FHCF-2161|ファンハウス|1994.04.01]


01. 永遠の楽園(作編曲:辛島美登里)

エルトン永田、辛島美登里(keyboard)
相馬充(flute)
中山信彦(synthesizer programming)


02. レモンとパラソル(作編曲:溝口肇)

溝口肇(cello)
菅野洋子(A.piano)
吉川忠英(E.acoustic guitar)
古川昌義(A.guitar)
加瀬進(W.bass)
木村誠、梯橋郁夫(L.percussion)


03. Camomile Tea(作編曲:梶浦由記)

赤木リエ(flute)
栄田嘉彦(violin)
阿部雅士(cello)
小島久政(A.guitar)
木村誠(L.percussion)
梶浦由記(synthesizer programming)
安倍均(synthesizer operating)


04. ルブニール~再会~(作編曲:辛島美登里)

エルトン永田、辛島美登里(keyboard)
笛吹利明(A.guitar)
中山信彦(synthesizer programming)


05. HEART BEAT(作編曲:溝口肇)

溝口肇(cello)
菅野洋子(A.piano)
吉川忠英(A.guitar)
加瀬進(W.bass)
木村誠、梯橋郁夫(L.percussion)


06. 祈りの日(作編曲:溝口肇)

溝口肇(cello)
菅野洋子(A.piano)


07. Stairway to new moon(作編曲:岩代太郎)

Jake.H.Concepcion(soprano sax)
松下誠(E.guitar)
笛吹利明(A.guitar)
青木智仁(E.bass)
吉田弥生(A.piano)
大石真理恵(vibraphone)
菅原裕紀(L.percussion)


Producer:田靡秀樹

Engineer:
菅原伸行(②⑤⑥⑦)
加藤謙吾、木戸孝真(①④)
井上一義(③)



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2018年6月8日金曜日

山川恵津子『3丁目のタマ うちのタマ知りませんか? オリジナル・サウンドトラック』(1994)

3丁目のタマ/うちのタマ知りませんか? オリジナルサウンドトラック
TVサントラ 谷村有美 くま井ゆう子
ソニー・ミュージックレコーズ (1994-07-21)
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 今年、2018年で35周年を迎える「タマ&フレンズ」。いちばん最初のアニメ化は1988年制作のOVA「3丁目物語」。その後、1993年7月~8月にTVシリーズ第1期「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」として全9話が放送され、8月に劇場版「3丁目のタマ おねがい!モモちゃんを捜して!!」が公開。翌1994年4月~9月にかけて第2期として全26話が放送されました。その後、2006年に「タマ&フレンズ 探せ!魔法のプニプニストーン」、2016年に「タマ&フレンズ ~うちのタマ知りませんか?~」としてショートアニメが制作されています。なお、サウンドトラックCDは、劇場版(作曲:都留教博)と第2期TVシリーズ版のみリリースされており、今回ご紹介するのは後作。劇伴コンポーザーは山川恵津子さん。初期には谷山浩子や八神純子のバックバンド、山下達郎や竹内まりやのレコーディングへの参加で知られ、1983年に谷山浩子プロデュースによる「はみだしっ子」のイメージアルバムの編曲を担当。小泉今日子「100%男女交際」で1986年に第28回日本レコード大賞・編曲賞、1987年に立花理佐「キミはどんとくらい」で第29回同最優秀新人賞をそれぞれ受賞。現在に至るまで数多くのアーティストの作編曲や、TVドラマ、舞台などの劇伴を手がける大ベテランです。一方、活動はごく短期間ながら、メルティング・ポット(八神純子バンド)のバンドメイトであったギタリストの鳴海寬氏(2015年逝去)とのデュオ「東北新幹線」として1982年に唯一のアルバム『Turu Traffic』を日本フォノグラムよりリリース。ウェルメイドなシティポップの傑作として近年さらなる評価が進み、2007年、2017年に再発しています。



THRU TRAFFIC
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東北新幹線(NARUMIN&ETSU)
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 山川さん単独でのアニメ劇伴仕事では、OVA「レア・ガルフォース」(1989)以来となった本作。「タマのお散歩」「不安な夕暮れ」「おやすみなさい3丁目」など、ヴァイオリン/ストリングス系の音色をフィーチャーした、爽やかでどこか切なさも感じさせる軽音楽を基調に、ボサノヴァ・タッチの「タマとたけしくんと…」や、シブいカントリーブルース・タッチの「ノラの孤独」などを収録。エレクトリック/アコースティックギターで芳野藤丸氏、アコースティック/ガットギターで東北新幹線の鳴海氏も名を連ねているところもトピックでしょう。スタートル(来生たかおバンド)や山下達郎の1988年~1989年のツアーサポートギタリスト(ライヴアルバム『JOY』)で名をはせ、デイヴィッド・T・ウォーカー スタイルのプレイで知られた鳴海氏のギター原体験がエレクトリックではなくガットギターであった()ということを踏まえると、ちょっと感慨深いものがあります。また、「タマと素敵な仲間たち」はOP主題歌「元気だしてよ」(谷村有美)のインストアレンジヴァージョン。「元気だしてよ」とED主題歌「みつあみ引っ張って」(くま井ゆう子)はともにフルヴァージョンで収録されています。



「Something for T. #08 鳴海寛さん」
(Mr. David T ― Official David T. Walker Japan Website)

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『3丁目のタマ うちのタマ知りませんか? オリジナル・サウンドトラック』
(SRCL-2942|Sony Records|1994.07.21)


01. 元気だしてよ
(歌・作詞・作曲:谷村有美/編曲:小林信吾)

02. タマのお散歩
03. トラのテーマ
04. みんなは仲良し
05. 不安な夕暮れ
06. 3丁目の朝
07. タマとたけしくんと…
08. おやすみなさい3丁目
09. ノラの孤独
10. 哀愁のブル
11. 3丁目の昼下がり
12. タマと素敵な仲間たち (「元気だしてよ」アレンジバージョン)

13. みつあみ引っ張って
(歌・作詞・作曲:くま井ゆう子/編曲:大村雅朗)

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サウンド・プロデューサー:山川恵津子

プロデューサー:百瀬恵一
コ・プロデューサー:西村達郎
ミキシング・エンジニア:芳川勇人
レコーディング・エンジニア:中村辰也・市川高信
アシスタント・エンジニア:山下智子・木戸孝真・内田直之・平田岳史
マスタリング・エンジニア:杉浦和海
ミュージシャン・コーディネーター:宮田文雄(ミュージックランド)

ジャケットデザイン:加藤欣司
コーディネーター:三国屋博之


【ミュージシャン(01、13を除く)】
作編曲:山川恵津子
シンセ・オペレーター:中山信彦・根岸貴幸
アシスタント・オペレーター:北岡徹也・丸尾稔
エレクトリック・ギター:芳野藤丸
アコースティック・ギター:芳野藤丸・鳴海寛
ガット・ギター:鳴海寛

レコーディング・スタジオ:Z'd, nazz, Peninsula


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http://www.etsu-style.tv/

山川 恵津子 Etsuko Yamakawa(RAINBOW ENTERTAINMENT)

2018年6月3日日曜日

TWRP『Together Through Time』(2018)



 時間と空間を超越し、2008年ごろよりカナダ・トロントを拠点に活動するギャラクティック・エレクトロ・ファンク・バンド TWRP(Tupperware Remix Party)。サイエンス、カンフー、ビデオゲームから影響を受け、ディスコ・ファンク、チップチューン、グラム・メタルの要素がゴージャスに入り混じり、80年代オマージュ・スタイルをとる彼らは、あらゆる世界から退屈、悲しみ、そして抑圧をなくすために太古の昔から活動するキーボーディスト&トーキング・モジュレーター担当のドクター・サン(Doctor Sung)を筆頭とする四人組。ドクター以外のメンバーは、ヘルメットを被り、赤と金のカラーでキメたギタリストのロード・フォボス(Lord Phobos)、2012年に加入したライオン頭のベーシスト コマンダー・ミャオチ(Commander Meouch)、ロボット・ドラマーのハーヴ・ホーガン(Havve Hogan)。




 2007年に『Sex is a Machine that Likes to Dance』、2011年に『Poised to Dominate』という2枚の音源をリリースしていますが、公式的には2011年リリースのデジタルシングル「Lazerhorse」が実質的なデビューのようです。翌2012年には、二部作の表題曲を収録したEP『The Devices』をリリース。その後、3年ほどリリースが途絶えますが、2015年から2017年にかけて『2nite EP』『Believe In Your Dreams』『Guardians of the Zone』『Ladyworld』の4枚のEPをリリース。そのいずれにもコメディ・ギーク・デュオのNINJA SEX PARTYがゲスト参加しています。TWRPとNSPは盟友であり、一方でNSPのカヴァーアルバム〈Under the Covers〉シリーズのバックの演奏はTWRPが務めています。つかず離れずの関係。





 そして今年、待望の1stフルアルバム『Together Through Time』をリリース。今回はNINJA SEX PARTYのダニー・セックスバン(Dan Avidan)ほか、ロック・オペラ・グループ The Protomen、エレクトロ・ファンク・バンド Planet Booty、トロントのシンガーソングライター リディア・パーソード、コメディアンのJP Incorporated(JP Hasson)といった多彩なゲストが参加。The Protomenの演奏と、Starbombのアリ・ハンソンによるハイテンションなボイスオーバーを伴うシンセサイズド・ドライヴチューン「Phantom Racer」、スラップベースやサックスがリードするAORインストゥルメンタル「Our 4fathers」「Feels Pretty Good」、Planet Bootyを伴ってアース・ウインド&ファイアー感マシマシな「Tactile Sensation」、メロウなエレポップの小品「Disco Volante」など、これまで以上にキャッチーでリゾート感あふれるゴキゲンな楽曲や、トーキング・モジュレーターを駆使したセクシーな歌ものを連発。デビューから一貫してバンドのアートワークを手がけるLazerhorse(アーサー・ドイル)による、永井博 meets ロジャー・ディーンな趣のジャケットアートの爽やかさも素晴らしく、まさに最良のパッケージングとベストパフォーマンスな一枚。TWRPは本作を引っ提げて、6月と8月と10月という断続的日程でNINJA SEX PARTYとのジョイントツアーを行う予定です。





http://www.twrpband.com/
https://ja-jp.facebook.com/tupperwareremixparty/
https://www.youtube.com/TWRPtube


ニンジャとセックスのパーティー! アメリカのコメディポップデュオ ― NINJA SEX PARTY

2018年6月1日金曜日

リリース情報・備忘録 2018年5月















































































































































2018年5月28日月曜日

ミステリマガジン2018年7月号《おしりたんてい&バーフバリ特集》に「バーフバリ音楽ガイド」を寄稿しました&同号よりコラム新連載を始めます



【ミステリマガジン2018年7月号目次】
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013894/



 ミステリマガジン2018年7月号「特集:おしりたんてい&バーフバリ」が5月25日に発売されました。IQ1104を誇る当代随一の探偵尻紳士と、圧倒的なカリスマを誇る王をフィーチャーした驚天動地の二大特集号。バーフバリ特集ではインタビュー、レポート、座談会、エッセイの他、バーフバリ二部作の字幕翻訳を担当された藤井美佳さんのテキストや、バーフバリの前日譚小説『The Rise of SIVAGAMI』のレビューもあります。私は「バーフバリ音楽ガイド」を寄稿しております。以前よりブログで公開している「バーフバリ ヴォーカルアルバム&サウンドトラック徹底攻略の手引き」を誌面用に再編集した2ページのテキストです。これからバーフバリに触れる方はもちろん、よりディープにバーフバリに触れていきたい方の手引きにもなれば幸いです。ブログ版も引き続き公開しておりますので、併せてご活用ください(公式で公開されている劇中曲・劇伴曲へのリンクを一覧にしています)。
http://camelletgo.blogspot.jp/2018/01/baahubali-music-complete-guide.html


【訂正のお知らせ】
 ここで一つ訂正があります。誌面版「バーフバリ音楽ガイド」本文中の「四月十一日より、日本のiTunes storeやAmazon MP3でも「王の凱旋」のテルグ語版劇中曲集の配信が開始された」の部分は丸ごとスルーして下さい。つい先日、両ストアでテルグ語版の音源の配信が停止となりました。作曲者表記や(C)表記がM・M・キーラヴァーニやLahari Musicではないこと、また、「伝説誕生」のテルグ語版劇中曲集の方は配信されていないなどの不自然な点があり、正式な配信案件ではなかったものと思われます。改めてiTunes storeやAmazon MP3でテルグ語版楽曲の配信がされるのかは、現時点では不明です。以上、訂正申し上げます。


 そして同号より、ミステリ&音楽コラム「ミステリ・ディスク道を往く」の連載を始めます。連載第1回は「横溝正史作品を《聴く》」。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。



【honto】
https://honto.jp/netstore/pd-magazine_29066803.html

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【余談】







《過去記事》
エイドリアン・マッキンティ『コールド・コールド・グラウンド』のレビューを早川書房公式noteに寄稿いたしました

ミステリマガジン2018年1月号「特集:ミステリが読みたい!」に、2017年周辺ジャンル総括記事を寄稿しました

ミステリマガジン2017年11月号「幻想と怪奇 ノベル×コミック×ムービー」にコラムを三本 寄稿いたしました

ミステリマガジン2017年9月号「シャーロック・ホームズ & コリン・デクスター」特集にディスクガイドを寄稿いたしました

ミステリマガジン2017年7月号特集「このミステリ・コミックが大好き」のコミックガイドに参加&コラムを寄稿いたしました

ミステリマガジン2017年5月号【北欧ミステリ特集】に「北欧ミステリDISC SIDE A&B」を寄稿いたしました

2018年5月22日火曜日

映画「ピーターラビット」雑感


http://www.peterrabbit-movie.jp/


 映画版「ピーターラビット」を観ました。恨みはパワー! 憎しみはやる気! といわんばかりに動物と人間がガチで殺意をぶつけ合い、それでいて「破壊」と「再生」の物語でもある。家族で観るパワーヴァイオレンス映画としても、ピーターラビット映画としても申し分なく、期待に違わぬ面白さでした。実写&CG映画ですが、劇中の「爆発」はCGではなく、実際に火薬を使用したそうな。しかしエクストリームにブッ飛んでいるようで、原作への目くばせもしっかりと感じられる内容になっています。『ピーターラビットのおはなし』『ベンジャミンバニーのおはなし』のストーリーもある程度ベースにしているし、絵本シリーズで描かれているウサギ以外のキャラクターも数多く登場するし、ヒロインのビアには原作者であるビアトリクス・ポターが投影されています。どうかしていると思える凄まじいバランス感。興業的にも悪くないようなので、「ピーターラビット2」が2020年2月全米公開予定とのこと。





 ところで、トーマス・マグレガーがブラックベリーアレルギーだと知ったピーターラビットたちが口にベリーを打ち込んでアナフィラキシーショックを起こさせるシーンが海外で物議を醸して配給が謝罪したというニュースが2月にあり、カットがあるのではないかと気になっていたのですが、カットはなかったです。当該シーンに至るまでにエクスキューズがあり、その上で「だがヤツはマグレガーだから」と一線を超えるという展開になっています。とはいえ相当に凶悪なことに変わりはなく、抗議が出たのはもっともだと思いますが。その一方で、作劇的には人間対動物の倫理観をはるかに超越した抗争のエスカレートの途上のワンシーンであるのと、双方に決定的な展開が訪れる引き金ともなる重要な転機でもあるので、カットしようにもカットのしようがないとも思いました。ショック症状を起こしたマグレガーが、即座にエピペン(自己注射薬)を打ち込んで倒れこむくだりは、ドーナル・グリーソンの迫真の演技も相まってかなり生々しいです。劇中の台詞にもありましたが、「これはおとぎ話ではない」ので、あのシーンを通して「絶対に真似するなよ」と啓蒙へつなげることも含め、「家族で観るパワーヴァイオレンス映画」といえます。



愛蔵版 ピーターラビット全おはなし集(改訂版) (ピーターラビットの絵本)
ビアトリクス・ポター
福音館書店
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http://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=1084

 映画の副読本としては、もちろん『ピーターラビット全おはなし集』をオススメいたします。これ一冊で映画に出てくる輩をばっちり把握できます。ちなみに、ピーターラビットの1903年の第5刷で削除された数点の挿絵のうちの一つが、マグレガーおばさんにパイにされてしまったピーターのお父さんが食卓に出される図だったということが、あとがきに書いてあります。



映画劇中に出てくるウサギ以外のキャラクター。
http://www.fukuinkan.co.jp/search.php?series_id=85

『あひるのジマイマのおはなし』
『まちねずみジョニーのおはなし』
『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』
『ティギーおばさんのおはなし』
『キツネどんのおはなし』
『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』


 映画ではどの動物もそこそこに仲が良さげでしたが、原作ではキツネとアナグマはどちらも動物たちやピーターラビット一家にとっての天敵的存在ですし、『キツネどんのおはなし』ではキツネとアナグマが死闘を繰り広げています。また、電流フェンスを思いっきり齧っていたハリネズミのティギーおばさんは作中随一のエキセントリックなキャラクターですが、原作『ティギーおばさんのおはなし』では仕事熱心な洗濯屋さんです。


【インタビュー】『ピーターラビット』ウィル・グラック監督が明かす裏話 ─ 主演ドーナルやマイク・シノダにまつわるアレコレも
(from THE RIVER|2018.05.18)





 ピーターラビットの音楽について。まず、LINKIN PARKのマイク・シノダのヒップホッププロジェクトであるFort Minerが2005年に発表した楽曲「Remember the Name」が、この映画のための2018年版として使用されているというのは大きなトピックです。ハリウッド・ボウルで開催されたLINKIN PARKのトリビュート・コンサートで監督がマイクに会った際にオファーをもちかけ、快諾を得て、歌詞はマイクと監督の共作の形でリライトされています。また、日本語吹替版では元SOUL'd OUTのDiggy-MO'が歌っており、ラップ制作で大神:OHGAも参加しています。





 そして劇中曲リストがこちら。Fort MinerのほかにもVampire Weekend、RANCID、Basement Jaxx、Portugal the Man、Big Country、デイヴ・マシューズ・バンドなどが選曲されており、かなりイカしています。この部分を見ても、本作が単なるKAWAII映画ではないことがうかがい知れます。オムニバスアルバムとしてのCDリリースや配信販売はない(ジェームズ・コーデン「I Promise You」とドミニク・ルイスのスコア「Peter Rabbit Suite」の2曲のみしか配信販売されていない)のですが、実はspotifyのColumbia Recordsのプレイリストで、全曲ストリーミングで聴くことができます。






Peter Rabbit (Original Motion Picture Score)
Madison Gate Records (2018-04-13)
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 インストゥルメンタル・スコア担当のドミニク・ルイスは、最近ではドラマ「高い城の男」のメインコンポーザーを務める人物。ハンス・ジマーのリモート・コントロール・プロダクション周辺の仕事や、ヘンリー・ジャックマンとの仕事も多く、「シュガー・ラッシュ」「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」「ベイマックス」「キングスマン」などの追加スコアも手がけています。

2018年5月20日日曜日

vaporwaveを装うチリのDIYジャズ・ロック/フュージョン系マルチプレイヤー Varra



 ある日、bandcampで「progressive rock」タグで検索すると、vaporwaveめいた装いのチープなアルバムジャケットが出現。軽い悪ふざけかと思いきや、聴いてみるとこれが実にイイ感じのジャズ・ロック/フュージョンで見事にしてやられてしまった。制作者はチリ出身のVarraというマルチプレイヤー。彼がYouTubeで活動を開始したのは2015年5月。一番最初に投稿した楽曲が、ストリートファイターIIのサガットのテーマのカヴァーというあたりも印象的なものがある。その後、数曲のフュージョンデモ曲を皮切りに、瞬間芸、「Dat Boi」(2016年ごろに流行ったインターネットミーム。一輪車に乗ったカエル)やvaporwaveをネタにした小品、Smash Mouth「All Star」のジャズ・ロックアレンジ、ゼルダの伝説 神々のトライフォーストワイライトプリンセスの楽曲のプログレアレンジなどを好き放題に投稿している。オリジナル曲はコンパクトな習作と見せかけてメロディが光る瞬間がそこかしこにあり、CGアニメーションと独自のセンスを駆使した珍妙なMV(楽器がレースをしていたり、骸骨がドラムを叩いていたり、変なオッサンが踊っていたり、アライグマの雑コラがギターソロを弾いたりetcetc)といい、隠しきれない才能がジットリにじみ出ている。楽曲はこれまでに2枚のコンピレーションアルバム『Varra』『Varra II』にまとめられているほか、今年5月には4曲入りのEP『ROCC music (音乐摇滚) 』を投げ銭でリリースしている。生暖かく追いかけたい。patreonのアカウントもあり、サポーターを常時受けつけている。








https://www.youtube.com/user/penegordo666/
https://www.facebook.com/musicofvarra
http://www.patreon.com/varra

2018年5月14日月曜日

elmobo『Double Kick Heroes Vol.1 (Original Game Soundtrack)』(2018)

 海外で定期的に開催されている数日間のゲーム制作イベント「Ludum Dare」の2015年12月開催の第34回でプロトタイプが生み出され、好評とフィードバックを獲得したフランスのHeadbang Club開発によるシューティングゲーム「Double Kick Heroes」。荒廃した終末世界を舞台に、「ガンデラック」に乗り込んだメタルバンドが襲い来るゾンビ軍団をギンギンに演奏しながらガスガス撃ち殺しまくるという、パワーメタル(物理)なリズムシューティングゲームです(プレイヤーの好みの楽曲でゲームをプレイすることも可能)。同年末にSteam Greenlightでリリースされ、その後2017年8月にドイツのgamescomのインディーゲーム賞を獲得。2018年4月よりSteamで早期アクセスが開始されました。日本語ローカライズは架け橋ゲームズが担当しています。





 同作のコンポーザーであり、ギターとヴォーカルも自ら担当している「Elmobo」ことフレデリック・モッテ氏はゲームミュージックシーンとメタルシーンの双方で実績を残している才人。80年代より「Moby」の名でデモシーンに参加し、90年代よりゲームミュージックを作り続け、「パックインタイム」「ナイトメア・クリーチャーズ」「Bakugan: Rise of the Resistance」(爆丸バトルブローラーズの北米版ソフト)など多数のタイトルを手がけてきた大ヴェテランである一方、プログレッシヴ・メタル・バンド「Plun-In」でも活動を展開しており、Bumblefoot(ロン・サール)のフランスツアーのサポートメンバーに抜擢されてもいるテクニシャン。Plug-Inの2011年のアルバム『Hijack』ではバンブルフットのほか、アンディ・ティモンズ、FREAK KITCHENのマティアス・エクルンド、SOILWORK、SCARVEのシルヴァン・コードレー、MÖRGLBLのクリストファー・ゴディンなどのテクニシャンがゲスト参加した超強力盤です。2004年にはレコーディングスタジオ「Conkrete Studio」を構え、多くのバンドのミキシングやマスタリングも手がけてもおります。







 Steam Greenlightでのリリース時には5曲を収録したサウンドトラック(「Ludum Dare」の期間内に合わせ、作曲・レコーディング・ミキシング・マスタリングを72時間内で完了させています)が投げ銭でリリースされていましたが、このたびの早期アクセス開始に伴い、28曲(うちインストゥルメンタルver.が5曲)収録のサウンドトラック第一弾がシアトルのゲームミュージックレーベル Materia Collectiveよりリリースされました(正式リリース時には第二弾がリリースされることでしょう)。チップチューンメタルはもちろん、インダストリアル/エクストリーム/スラッシュ/グルーヴメタルもelmobo氏にとってはお手のものであり、まさにメタルジャンルのデパート状態。さらにPLUG-INをはじめ、LOKURAH、SAMSARA CIRCLE、HELL IN TOWN、ANTHEUS、GOROD、THE FUNDAMENTAL WISDOM OF CHAOSといった欧州メタル/ハードコア系バンドのギタリストやヴォーカリストが多数客演しているのも大きなポイント。elmobo氏の人脈の広さをうかがわせてくれます。ちなみに、SAMSARA CIRCLEのオッリ・サムサーラが作詞とヴォーカルを担当した「Die Untoten」は思いっきりラムシュタイン風であり、フランスのアヴァンメタルバンド THE FUNDAMENTAL WISDOM OF CHAOSのサブ・エルヴェニアが訳詞とヴォーカルを担当した「Don't Bite My Butt」は(妙な)日本語詞の楽曲になっています。



http://doublekickheroes.rocks/
http://www.elmobo.com/

2018年4月30日月曜日

リリース情報・備忘録 2018年4月