2017年2月15日水曜日

高経験値に裏打ちされた、骨太の歌ものメロディック・ロック ― SEMISTEREO『Trans Earth Injection』(2017)

Trans Earth Injection
Trans Earth Injection
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FREIA Music (2017-02-09)


 古くよりファン活動が盛んであり、イギリスのネオ・プログレの薫陶を受けて多くのメロディック・ロック系バンドがデビューし、マルチな才能を発揮するポップ・ミュージシャンも次々と輩出。また、アルイエン・ルカッセン率いるAYREONはいまや本国で圧倒的な人気を誇り、世界的に押しも押されぬプログレッシヴ・メタル・プロジェクトにまで成長するなど、オランダのシーンは長きに渡って活況を呈しております。同国の中堅であるKNIGHT AREAやTHE AURORA PROJECT、ネオ・プログレ影響下にあるチリのバンド AISLES、セバス・ホーニングやジュースト・マグレヴといったマルチミュージシャン、ゲスト大量招聘型のプロジェクト ALARIONなどを抱える「FREIA MUSIC」は、そんな同国のシーンで最近グイグイきているレーベルのひとつ。そして、同レーベルと最近契約を交わしたバンドが、今回紹介するセミステレオです。2006年に結成され、これまでにレッチリやリヴィング・カラー、MARILLIONやRIVERSIDEなどの前座を務めてきたほか、『As The Pressure Drops』(2007)、『Re-Ignite』(2015)の二枚のEPと、『Welcome, You Knight!』(2009)、『Semistereo』(2012)の二枚のアルバムをリリースしています。

 SEMISTEREOのサウンドはポストロック、ポストメタルからの影響を昇華したオルタナ・プログレであり、アメリカのA Perfect CircleやイギリスのOCEANSIZE、ポーランドのRIVERSIDEなどが引き合いに出せそうですが、各メンバーはミクスチャーバンド T-NailedやTree Funk Concept、ロックバンド Salty Cheek、プログレッシヴ・メタル・バンド A Day's Work、テクニカル・デスメタルバンド Apophysなどでも活躍しており、各人の経験値の高さもポイントでしょう。ヴォーカルのポール・グランドルフはアルイエン・ルカッセンのライヴメンバーでもあります。ロケットエンジンを大写しにしたジャケットも鮮烈な本作『Trans Earth Injection』は、前作から曲数をさらに絞った全7曲。インストパートも充実した10分越えの"The Search" "Sin"、シネマティックな演出やホーンセクションを交えたポストロックチューン"35 Dollar Special"を配しつつ、じっくりとした作り込みの歌ものに磨きをかけた一枚。"Loneliness At The Door" "Your Drama"は丁寧に塗り重ねていくかのような展開で静かなるドラマを味わわせてくれる、本作の精髄ともいえる骨太の楽曲です。ミキシング/マスタリングはTEXTURESの元ギタリストであり、EPICAやCIRRHA NIVAやIzegrimなど、本国の数多くのバンドを手がけるヨッヘム・ジェイコブズによるもの。







http://semistereo.nl/
https://www.facebook.com/Semistereo
https://semistereo.bandcamp.com/
http://www.youtube.com/semistereochannel

2017年2月12日日曜日

鮮やかなる音のピュアイリュージョン ― TO-MAS(伊藤真澄&ミト&松井洋平)『フリップフラッパーズ オリジナルサウンドトラック』(2017)

フリップフラッパーズ 1 [Blu-ray]
Happinet (2017-01-06)
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 2016年10月から12月にかけて放送された、Studio 3Hz制作、押山清高監督によるオリジナルアニメ「フリップフラッパーズ」のサウンドトラック。アニメ本編は万難を排して全話一気見しました。めちゃくちゃ素晴らしかったです。うかつなことを書くとネタバレになるので書きませんが、オリジナル作品でここまでやってくれるのか! と。メインキャラクターのココナとパピカそしてヤヤカの関係性、怒涛の展開と情報量そして贅沢な音楽と何もかも極上であり、六話以降から最終話まで完全に釘付けになり、掛け値なしに大傑作という結論に至り、息を引き取ることをお約束いたします。数多のピュアイリュージョニストたちによる「とにかく第三話まで観てくれ」という言葉はまったく正しいのだけれども、個人的にはその倍欲張って「とにかく六話まで観てくれ」と、言いたくなります。六話を以ってアナタの感情は静かに爆発し――からの七話で背負い投げを食らわされ、アナタは最後まで視聴を止めることができなくなります……とにかく観てくれ、とにかく。
http://www.b-ch.com/ttl/index.php?ttl_c=5405
https://www.youtube.com/channel/SWrf_vKIW_JAs





 本作の劇伴を手がけるのは、90年代から数々のアニメ劇伴作品を手がけられている大御所 伊藤真澄さん、スリーピースバンド クラムボンのフロントマンであり、「スペース☆ダンディ」「心が叫びたがってるんだ。」など、アニメ劇伴方面での活躍も近年著しいミト氏、「ウィッチクラフトワークス」「トリニティセブン」などの劇伴を手がけてきたTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのメンバーであり、作詞家としても活躍されている松井洋平氏、以上の三人からなるユニット、TO-MAS (TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST)。同ユニットでの担当作品は「ももくり」(2015)、「彼女と彼女の猫」(2016)に続いて三作目となります。前二作はともにショートアニメであり、スコアもストリングスやピアノ主体の静かめのものでしたが、本作はユニット初の長編テレビシリーズかつ、動きに動きまくる活劇アクションモノで、「ピュアイリュージョン」といういわばなんでもアリの世界観であるため、楽曲のジャンルやヴァリエーションはこれまで以上に多岐に渡っており、三人の音楽的エッセンスをふんだんに投入した内容です。


TVアニメ『フリップフラッパーズ』オリジナルサウンドトラック
TO-MAS Chima
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 二枚のディスクはそれぞれ《Pure Side》 《Illusion Side》と銘打たれ、各楽曲には英語・イタリア語・フランス語・ドイツ語・チェコ語・ヒンディー語・フィンランド語・エスペラント語のサブタイトルが付されています。シンガーソングライターのChimaさんをフィーチャーしたエンディングテーマ"FLIP FLAP FLIP FLAP"も同ユニットが全面プロデュースを手がけており。伊藤さんの大本領といえるど真ん中のシンフォニック・ポップスが花開いた一曲。ストリングスアンサンブルを贅沢に使っているので、ヴォーカル入りで聴いても、インストヴァージョンで聴いても美味しい。「メビウスの輪」をイメージしたという同曲は、サントラではピアノソロによるスロウヴァージョンも収録されており、また違った表情を聴くことができます。同様に、"Serendipity"(オープニングテーマ)は"Serendipity (Emotion)"で、"OVER THE RAINBOW"(第十三話挿入歌)も、"虹の彼方へ" "側に…"で、それぞれアコースティック・アレンジがなされております。


TVアニメ『フリップフラッパーズ』OP主題歌「Serendipity」
ZAQ
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TVアニメ『フリップフラッパーズ』ED主題歌「FLIP FLAP FLIP FLAP」
TO-MAS feat.Chima
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 伊藤さんのスコアは、バッハ"ゴルドベルク変奏曲 BWV988"のアレンジや、"寂しさ"などのピアノスコア。本編にたびたび登場する「あるシーン」で耳にすることになる、寂寥に満ちた"遠い呼び声"。クライマックス感をこの上なく演出する"絶体絶命" "悲しき争い" "暴走"。ふんわりした曲調の"穏やかな朝" "空飛ぶ期待感" "ピュアイリュージョン"。軽い脱臼感のあるチェンバー・ポップな"ユクスキュル" "照れ笑い"など、21曲。また、メインテーマである"フリップフラッパーズ"や、"おしゃべりの時間"でのトイピアノの演奏は、伊藤真澄さん、良原リエさん、 コトリンゴさん、Babiさんの四人からなるグループ「toi toy toi」によるものです。

 松井氏のスコアは9曲。シリアスでシャープな"時の逆流" "別世界"、コミカルな"へんてこおばかさん"、テクノポップ、デジロックな"おかしな実験" "一進一退"など、エレクトロタッチなものが中心。また、作詞も手がけられた"LET'S FLIP FLAPING!"(第八話挿入歌)は、往年の特撮テーマソングよろしくド直球にヒロイックな一曲。川村ゆみさんのしなやかでパワフルなヴォーカルのアツさといい、そのインパクトたるや絶大で、本編での使われ方も(いろんな意味で)絶妙でしたし、サントラのなかでもこの曲の存在は(いい意味で)浮いています。

 mito氏のスコアは、キュートなポップ/ロックチューン"通学路" "愉快な日々"、アコーディオンとアコースティックギターによる"小さな友情"、アコギとパーカッションによる"素敵な思い出"、ブラスとエレクトロのハリのあるマッチングも楽しい"フリップフラッピング!"や、通称「勝利BGM」である"大逆転"などの躍動感たっぷりのポジティヴなものから、東京混声合唱団による荘厳で焦燥感のあるクワイアコーラスをフィーチャーした"悪夢"、ミニマルなピアノスコア"造られた友情"など、まさに八面六臂な19曲。第三話のマッドマックス&北斗の拳オマージュ回で流れたハード・ロック/ヘヴィ・メタル調のスコア"荒れ果てた広野" "ならず者"でのバリバリにエッジの効いたギタープレイは、ZIGGYの森重樹一氏のサポート、プロデュース、各アーティストのライヴサポート、最近では「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」の劇伴やEDテーマを手がけたことも記憶に新しい山本陽介氏によるもの。またとない人選です。

「ももくり」のサントラではヴォカリーズの入ったスコアがありましたが、本作では"あわてんぼ"「ズムズムズムズム……」というストレンジなスキャットや、"砂漠の村"でホーミーを聴くことができます。ホーミーの歌い手はヴォイスパフォーマンスユニット「倍音S」の尾引浩志氏、岡山守治氏のお二人によるもの。また、押山監督が口琴やディジュリドゥの音を入れて欲しいなどのオーダーをされていたとのこと。"亡霊"に参加されているディジュリドゥ奏者のアンディ・ベヴァン氏はジャズシーンで活躍されているオーストラリア出身のミュージシャンです。


TVアニメ『フリップフラッパーズ』ED主題歌「FLIP FLAP FLIP FLAP」 
TO-MAS インタビュー Vol.1&2 |リスレゾ
http://www.lisres.jp/0000003584/
http://www.lisres.jp/0000003606/


 ワクワク感を最大限に演出し、引き出してくれる、盛りだくさんの素晴らしいスコア。まさに、音による極上のピュアイリュージョンを体現した内容です。また、上記のリスレゾによるTO-MASインタビュー記事は、制作時における三者のケミストリーの絶妙さなど、いろいろと興味深い話が出てきており、必見です。「20~30代前半の子がこのスペックのプログラムを投げられたら、多分自爆すると思います。たまたま私たちみたいな中堅だからできる、無茶振りの遊びなんですよね」というミト氏のコメントが印象的です。それと、まさかミト氏の口から『宇宙海賊ミトの大冒険』の名前が出てくるとは。


http://www.flipflappers.com/
http://www.lantis.jp/artist/tomas/



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『フリップフラッパーズ オリジナルサウンドトラック

Welcome to Pure Illusion』』
LACA-94849485|ランティス|2017.01.18

DISC 1Pure Side》】

01Serendipity (Emotion) 
(作曲:ZAQ/編曲:伊藤真澄・mito

02.フリップフラッパーズ ~FLIP FLAPPERS
(作曲:伊藤真澄/編曲:伊藤真澄・松井洋平)

03.穏やかな朝 ~Rauhallinen aamu
(作編曲:伊藤真澄)

04.通学路 ~Route de l'école
(作編曲:mito

05.ちょっと憂鬱 ~Un peu mélancolique
(作編曲:mito

06.ゴルドベルク変奏曲 BWV988 ~Goldberg-Variationen BWV988
(作曲:Johann Sebastian Bach/編曲:伊藤真澄)

07.寂しさ ~Malinconia
(作編曲:伊藤真澄)

08.空飛ぶ期待感 ~Flying expectations
(作曲:伊藤真澄/編曲:伊藤真澄・松井洋平)

09.あわてんぼ ~Étourdi
 (作編曲:伊藤真澄)

10.アゼンボーゼン ~Il est décontenancé
(作編曲:mito

11.へんてこおばかさん ~Funny silly
(作編曲:松井洋平)

12.ユクスキュル ~Uexküll
(作編曲:伊藤真澄)

13FLIP FLAP FLIP FLAP (Slow-motion) 
(作編曲:伊藤真澄)

14.照れ笑い ~Le sourire embarrassé
(作編曲:伊藤真澄)

15.おしゃべりの時間 ~Temps pour bavardage
(作編曲:伊藤真澄)

16.愉快な日々 ~Ihana päivää
(作編曲:mito

17.優しい気持ち ~Sensazione di calore
(作曲:mito/編曲:伊藤真澄)

18.小さな友情 ~Poco amicizia
(作編曲:mito

19.素敵な思い出 ~Buon ricordo
(作編曲:mito

20.側に… ~Vicino a te
(作編曲:mito

21NEXT FLIP FLAPPING!
(作編曲:伊藤真澄)


DISC 2Illusion Side》】

01.遠い呼び声 ~Malproksima alvoko
(作曲:伊藤真澄 編曲:伊藤真澄)

02SerendipityTV SIZE
(作詞・作曲・歌:ZAQ/編曲:RON

03.研究室 ~Laboratory
(作編曲:松井洋平)

04Dr.ソルト ~Dr.Salt
(作編曲:伊藤真澄)

05.おかしな実験 ~Mad science
(作編曲:松井洋平)

06.時の逆流 ~Backward flow of time
(作編曲:松井洋平)

07.フリップフラッピング! ~FLIP FLAPPING!
(作曲:伊藤真澄/編曲:伊藤真澄・松井洋平)

08.ピュアイリュージョン ~Pure Illusion
(作編曲:伊藤真澄)

09.砂漠の村 ~Vesnice v poušti
(作編曲:mito

10.あわてんぼ ~ चक्कर
(作曲:伊藤真澄/編曲:伊藤真澄・松井洋平)

11.荒れ果てた広野 ~Pustá země
(作編曲:mito

12.ならず者 ~Tulák
(作編曲:mito

13.亡霊 ~Přízrak
(作編曲:mito

14.悪夢 ~Noční můra
(作編曲:mito

15.絶体絶命 ~Verzweifelte situation
(作編曲:伊藤真澄)

16.一進一退 ~Seesawing
(作編曲:松井洋平)

17LET`S FLIP FLAPPING!
(作詞・作曲:松井洋平/編曲:TO-MAS feat. 川村ゆみ)

18.別世界 ~Jiný svět
(作編曲:松井洋平)

19.暗躍の夜 ~Nuit des manœuvres secrètes
(作曲:伊藤真澄/編曲:伊藤真澄・松井洋平)

20.造られた友情 ~Gebaut freundschaft
(作編曲:mito

21.計算された双子 ~Berechnete Zwillinge
(作編曲:松井洋平)

22.迫り来る恐怖 ~Peur imminente
(作編曲:mito

23.崇高な目的 ~Edles ziel
(作編曲:mito

24.不安 ~Anxiété
(作編曲:松井洋平)

25.ノスタルジー ~Nostalgia
(作編曲:伊藤真澄)

26.悲しき争い ~Triste lotta
(作曲:伊藤真澄/編曲:TO-MAS

27.圧倒的な力 ~Überwältigende macht
(作編曲:mito

28.決意 ~Determinazione
(作編曲:伊藤真澄)

29.暴走 ~Perdo de kontrolo
(作編曲:伊藤真澄)

30.大逆転 ~Trading Places
(作編曲:mito

31.虹の彼方へ ~Oltre l'arcobaleno
(作編曲:mito

32FLIP FLAP FLIP FLAPTV SIZE
(作詞:松井洋平/作曲:伊藤真澄/編曲:TO-MAS TO-MAS feat. Chima


All Music Produced by TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST


Musicians

伊藤真澄(piano
mitobass
渡辺等(wood bass
高桑英世(flute
森川道代(piccolo
武井俊樹(fagotto
十亀正司(clarinet
遠山哲朗(electric & acoustic guitar
佐々木史郎、奥山晶(trumpet
河合わかば、佐藤洋樹(trombone
本間将人(alto sax
toi toy toi[伊藤真澄/良原リエ/コトリンゴ/Babi](toy piano
良原リエ(accordion & toy percussion
高田みどり(vibraphone
赤池光治、木村将之(contrabass
山本陽介(electric guitar
よしうらけんじ(percussion
尾引浩志、岡山守治(khoomei & karugura
アンディ・ベヴァン(didguridoo
東京混声合唱団(quire

真部裕ストリングス:

1st violin
真部裕、押鐘貴之、川口静華、石橋尚子、
森本安弘、漆原直美、石亀協子、亀田夏絵

2nd violin
執行恒宏、伊能修、納富彩歌、
城元絢花、梶谷裕子、高木祐香

viola
坂口弦太郎、城戸喜代、二木美里、金谷理絵

cello
堀沢真己、奥泉貴圭、村中俊之、友納真緒

Music Producer:佐藤純之介(Lantis
Music Director:萩原瑠唯(Lantis
Producer:吉江輝成(Lantis
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2017年2月9日木曜日

何回聴いたところで味はなくならない。あるいは左右というバンド ― 左右『スカムレフト スカムライト』『カンバセイション』(2015/2017)

スカムレフト スカムライト
左右
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カンバセイション
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 あなたは左右を知っているだろうか。いや、おれはまだ前後不覚になってはいないよとかそういうことではなく、バンドの左右である。花池洋輝(vocal, bass, drums)と桑原美穂(vocal, guitar)による男女デュオ、それが 左右。結成は2010年、5曲入りデモを2011年に発表し、これまでに突然段ボール、PANICSMILE、eastern youth主催のライヴや、パスカルズの石川浩司氏とのセッションライヴなどに出演している。花池氏はベースを弾きながらドラムをプレイすることもある(ふと、吉田達也が脳裏に浮かぶ)。2015年に1stフルアルバム『スカムレフト スカムライト』をリリース。通販&ライヴ会場限定シングル"イエローヘイト"、『左右-ep』からの"神経摩耗節" "箱のうた"の各新録も含む全11曲。2016年末リリースの『カンバセイション』は、再び新録された"神経摩耗節"を含む8曲入りミニアルバム。YouTubeにあがっている彼らのMVに対して海外の人が「オー! ジャパニーズホワイトストライプス!」とコメントしていたのを見かけたが、タイプはだいぶ異なる。ルインズやあふりらんぽ、HELLAなど、キレッキレのデュオは世に数あれど、左右のキレ具合は三歩進んで二歩下がるとみせかけて四歩進むような、形容し難いものがある。一見トボけていてシュールなようで語感は鋭く、ポストパンク/ノーウェイヴ/ミニマルなサウンドとの噛み合わせもズバ抜けているし、ときにお経のようでも、ヒップホップのようでもあり、音のスキマすら味方につけている。妙な気まずさ、えも言われなさ、ディスコミュニケーションその他もろもろを引っ掛けながら突き刺さってくる。たとえば"なくならない"では、「何回噛んだところで 味はなくならない」のリフレインや、「壊れたことばでつくった歌の 味はすぐになくなった」「壊れたフリしてうたった歌の 味はすぐになくなった」のフレーズが恐ろしくこびりついてくる。かと思えば、"平和なのか"では不安混じりのなかにほのかな詩情を感じさせ、panicsmileの吉田肇氏やZAZEN BOYSの向井秀徳氏が激賞した"ばれている"ではストレートにポップなセンスも覗かせる。"クラスタ" "アドバイス"では温度低めの展開が徐々にトランスへといざない、幾度となく再録される"神経摩耗節"では、ソリッドな言語感覚がジュクジュクしたギターと相まってあらぬ方向に目覚めさせてくれる。極限までシンプルで削ぎ落としているようで、一筋縄ではいかない心地に満ちております。さあ、これであなたは左右を知ってしまった。めくるめく左右ワールドへどうぞ。


https://sa-yuu.jimdo.com/
https://www.youtube.com/channel/UCsWjt-ChVTw3Jclia8sXdAg



2017年2月6日月曜日

メロディ際立つ、キャリア初の歌ものアルバム ― Cody Carpenter『Alternate Universe』(2017)




 昨今、本格的な音楽活動を展開している父 ジョン・カーペンターのサポートメンバーとして各国をめぐるかたわら、自身も精力的なソロ活動でコンスタントなリリースを続けるコンポーザー/ミュージシャン コディ・カーペンターの通算五作目となるアルバム。今回はシンセプログレユニットのLudrium名義ではなく、コディ・カーペンター名義でのリリース。自らがヴォーカルもとる、キャリア初の歌ものアルバムとなっています。これまでの作品でもシンセウェイヴ寄りのアプローチを展開しておりましたし、フランスのシンセウェイヴレーベル LASERDISCS RECORDSのコンピレーションへの楽曲提供や、イタリアのエレクトロユニット CONFRONTATIONALのアルバムへの客演などもありました。それらの活動を踏まえた上での、満を持しての一作です。マスタリングは前作『Through Sentinent Eyes』に引き続き、LASERDISCS RECORDSの筆頭アーティストであり、プロデューサーであるAbsolute Valentine。持ち前のニューロマンティック、ポップ・プログレのエッセンスもさることながら、太く煌びやかなシンセとシンプルなヴォーカルラインのマッチングは、身をゆだねたくなる心地よさ。ヴォーカルが入ったことでメロディのよさが改めて光っており、80年代のスウィートな旨味そのままに、AORサイドにも接近した好内容です。"Waiting For That Day" "Together"はその最たる一曲。ソフトなメロディにヴォーカルが寄り添う"A Note"は、彼のGENESIS愛もしたためられた一曲。途中のメロディラインにニヤリとさせられる「くすぐり」があります。




 一方で、Ludriumとしての新作アルバムを現在鋭意制作中とのこと。ゲストミュージシャンとしてYELLOWJACKETS、JING CHIなどの活動や、トミー・ボーリン、アラン・ホールズワースなどとの共演で知られるベーシストのジミー・ハスリップや、オーストリア/イタリア系シュレッドギタリストのP・J・ディアトリ、そして「シークレットゲスト」としてスペシャルなドラマーが参加予定とのこと。





「Interview : Cody Carpenter」
(from DriveRadio|2017.01.15)

「A New Kind of ‘Carpenteresque’」
(from vehlinggo|2017.01.20)


https://www.facebook.com/ludrium
https://soundcloud.com/john-cody-carpenter
https://www.youtube.com/channel/UC2hboJKaYwHLZQWWCyI9zOg
https://twitter.com/Ludrium


受け継がれる音楽的遺伝子。ジョン・カーペンターの息子コディ率いるプログレッシヴ・ロック・バンド ― Ludrium『Zeal』(2012)

ゲーム音楽、フュージョン、プログレの折衷をより推し進めた、コディ・カーペンターの二作目 ― Ludrium『Pleasure of a False Past』(2015)

コンスタントなリリース、コンパクトなグッドメロディ ― Ludrium『Unity』(2016)

今年第二弾のソリッド・プログレ・フュージョン ― Ludrium『Through Sentinent Eyes』(2016)


2017年2月4日土曜日

スムースジャズの第一人者ケニー・Gの息子マックス、プログレメタルバンドで颯爽デビュー ― THE MANTLE『The Mantle』(2017)



 スムースジャズ/フュージョン シーンの第一人者であるサックス奏者 ケニー・G(ケネス・ゴアリック)。彼の息子であるマックス・ゴアリック率いるツインギター+ドラムス編成のプログレッシヴ・メタル・トリオ ザ・マントルが先ごろデビューアルバムをリリースしました。父のライヴにギタリストとして客演することもあるというマックス。スムースジャズとプログレメタルの二つを並べるとギャップを感じますが、どちらも派生ジャンルであり、「クロスオーヴァー」な音楽性である、と考えれば差異はないのかもしれません。彼はさらに、ニューヨークのブラックメタルバンド Imperial Triumphantのメンバーでもあります(昨年の10月に正式加入したばかり)。2015年には、PS4のアドベンチャーゲーム「The Order: 1886」のプロモーションソングとして書かれた80'sヘヴィメタルスタイルの楽曲"Werewolf Slayer"の共同プロデュースに参加し、同曲のギターもプレイしていました。YouTubeの彼のアカウントをみると、楽器メーカー主催のYouTubeでのギターコンテストに投稿した動画や、WINTERSUNやENSIFERUM、ANIMALS AS LEADERSやPROTEST THE HEROなどをカヴァーしており、根っからの北欧メタルやプログレメタル好きであることが一目瞭然(そもそもアカウントが「IWishIWasFinnish」というあたりも微笑ましい)、もはや完全にわが道を行っております。バンドの楽曲は、ツインギターの相方であるジェイク・ミラーとの共作。最短3分、最長12分と尺に幅がありますが、どの楽曲においても往年のシュラプネル系を彷彿とさせる、快楽指数の高い弾きまくりスタイルを貫いており、多少の金太郎飴状態もなんのそのな過積載ぶりがむしろ潔い。キャッチーな爽快感でもっとも突き抜けた感のある"Sisu"や、djentとフュージョンの二つのスタイルが交錯する大曲"A Sense of Scale"など、「顔見せ」として十二分すぎるパフォーマンスです。アルバムのダウンロードは投げ銭。この期待の新鋭の楽曲を聴き逃す手はありません。




https://www.facebook.com/themantleband
https://www.youtube.com/user/IWishIWasFinnish
https://soundcloud.com/max-gorelick

2017年2月2日木曜日

高い切れ味と充実度を誇るロシアンヴァイオリンプログレ ― LOST WORLD BAND『Of Things and Beings』(2016)

 ユニークかつ実力派のバンドが数多くひしめくロシアのプログレッシヴ・ロック・シーン。そのなかでも、90年代から現在に至るまで継続的な活動を展開しているバンドというと、LITTLE TRAGEDIESLOST WORLD BANDの二つは外せません。リリースの二~三年前に録音を済ませ、一年の間をおいてリリースするという方式で演歌調のキーボード・シンフォニック・ロックの極みを聴かせるのが LITTLE TRAGEDIESなら、KING CRIMSONやJETHRO TULLなどからの影響をベースに、ヴァイオリンとフルートを前面に押し出したしなやかで颯爽としたクラシカル・クロスオーヴァーで魅せるのがLOST WORLD BANDです。






 フロントマンのアンドリイ・ディドレンコが、ヴァッシリ・ソロヴィエフ、アレクサンダー・アシモフとモスクワの音楽院で意気投合し1990年に結成。クラシック・ヴァイオリニストとしての活動と並行して自主制作でのリリースを続けながら、2003年に『Trajectories』でデビュー。当時は「LOST WORLD」名義であり、ヴォーカリストのアレクセイ・リバコフ擁する四人組バンドでした。その後、アレクセイが脱退。サポートキーボーディストやドラマーを迎えてインストバンドとしてのスタイルを強化します。アンドリイがニューヨークへ拠点を移すという大きな転機もあった2006年には第二作『Awakening of the Elements』をリリース。フランスのMUSEAレーベルから全世界流通となり、広く知られるところとなりました。

 2009年には第三作『Sound Source』をリリース。同作はバンド史上もっとも緊張感のみなぎったアルバムであり(最初に聴くならまずコレをオススメします )、バンド側もかなりの手応えを感じたのか、同年には三時間にわたるスタジオ・ライヴを行い、その音源は2011年にライヴアルバム『In Concert』としてパッケージ化されます。2013年にはアレクサンダーがプロデュースにまわり、ふたたびヴォーカル曲を交えながらトリオ編成で録音された第四作『Solar Power』を、翌 2014年には『Awakening of the Elements』の再録&リミックス盤や、アンドリイによるクラシカルなピアノ&ヴァイオリン作品集『Intervals』『Go 4 Sonatas』を相次いでリリースしています。

ちなみにiTunes storeでは750円という安価でダウンロード購入可能です。
https://itunes.apple.com/jp/album/sound-source/id339685175

【追記】Amazon MP3ではアルバム一枚300円です。安っ

Sound Source
Sound Source
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Musea (2009-11-02)
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 以上の活動を経て、2016年10月にリリースされた第五作となる本作『Of Things and Beings』では、四部構成の「Shapes And Objects」、三部構成の「Simple as」といった、得意とする組曲を中心に、二本のガット・ギターが爽やかな風を吹き込む小品"Intertwined"やトロピカルな興趣の"On Thin Ice"など、アコースティック曲やスロウなヴォーカルパートを随所に挿入。前作で拡幅された音楽性を踏まえたうえで、叙情性や暖色系のカラーにも目配りの効いた内容になっています。もちろん、スキあらばキレ味鋭いヴァイオリンが飛び込んでくる持ち前の痛快さはブレることなく、ヌーヴォ・メタル期KING CRIMSONを意識したような"The Structure Of Madness"では、とびっきりにヘヴィなアンサンブルで度肝を抜いてきます。





https://www.lostworldband.com/
https://www.facebook.com/lostworldband/
https://www.youtube.com/user/Andid74



オヴ・シングス・アンド・ビーイングス
ロスト・ワールド・バンド
マーキー・インコーポレイティド (2017-01-25)
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