2017年12月25日月曜日

2017年ベストコミック20選

 《過去のベスト》
2016年ベストコミック 15選+α
2014年を振り返る~読んだ漫画ベスト二十選




野村亮馬『インコンニウスの城砦』
ガース・エニス[原作]、ジョン・マクリア[画]/海法紀光[訳]『ヒットマン』
沢田新[原作]/浅井蓮次[画]『バイオレンスアクション』
高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』
アンソニー・ボーディン/椎名ゆかり[訳]『GET JIRO!』
谷口トモオ『完全版サイコ工場 A線/Ω線』
ジェフ・ダロウ/椎名ゆかり[訳]『少林カウボーイ SHEMP BUFFET』
ジェントルメン中村『セレベスト織田信長』
黄島点心『黄色い悪夢』
佐藤将『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』
大今良時『不滅のあなたへ』
梶本レイカ『悪魔を憐れむ歌』
速水螺旋人『男爵にふさわしい銀河旅行』
稲垣理一郎[原作]/Boichi[画]『Dr.STONE』
ジュール・ヴェルヌ[原作]/倉薗紀彦[画]『地底旅行』
天原[原作]/masha[画]『異種族レビュアーズ』
意志強ナツ子『魔術師A』
星野茂樹[原作]/オガツカヅオ[画]『ことなかれ』
ツナミノユウ『ふたりモノローグ』
道満清明『オッドマン11』



▼野村亮馬
『インコンニウスの城砦』



 今年のド頭は、自主レーベル「馬頭電書」からkindleオンリーでリリースされた描き下ろしの本作にやられたといっても過言ではない。氷期の惑星を舞台に、比較的温暖な赤道地帯の領有権をめぐり終わりなき戦いを続ける科学技術の北半球と魔法技術の南半球。そのなかで起こった一つの出来事を切り取った、異世界スパイアクション。退廃的な世界観もさることながら、北球側のエネルギー事情は「魔術を失敗し続けること」で得ているというユニークさや、それをさらに逆手にとった、南球側の決死の戦法である「釜割り」の設定のケレン味も物語のスパイスとして効いている。南球側の密偵として潜り込む新入りの少年カロと、無骨な女性闘士ニネットの出会い、信頼関係、その先を通して描かれるドライな魅力も満載でたまらない。改めて読み返すことで別の表情が浮かび上がってくる。



▼ガース・エニス[原作]、ジョン・マクリア[画]/海法紀光[訳]
『ヒットマン』

ヒットマン5
ヒットマン5
posted with amazlet at 17.12.25
ガース・エニス ジョン・マクリア
KADOKAWA (2017-05-18)
売り上げランキング: 67,827


 したたかさで出し抜き生き抜くトミー・モナハンたちの活躍を描くボンクラハードボイルドの傑作、堂々邦訳完結。3冊同時刊行と聞いたときには正気の沙汰ではないと思ったものですが、読み終えた今となっては感謝の極みしかなく、ただただ全巻溶接マンとなるほかありませんでした。3~5巻はもう本当に一気に読んだ方がいいです。1、2巻の頃とはだいぶトーンが苦く重く変わってくるとともに、揺るぎない傑作へと邁進している。そして5巻は本当に「最期」の巻であり、セクション8の面々も再び出てくるのだけど……そしてシックスパックが……さらにはベイターまでもが泣かせるセリフを吐く始末。アンタら、輝いてないけど輝いてたよ。



▼沢田新[原作]/浅井蓮次[画]
『バイオレンスアクション』

バイオレンスアクション 1 (ビッグコミックススペシャル)

小学館 (2017-03-10)
売り上げランキング: 19,403


 女子専門学校生兼凄腕ヒットガールのゆるふわな日常と無慈悲なお仕事。端的にいうと、やべーやつらがたくさん出てくる。その先頭を切ったのが「みちたかくん」なのだけど、巻を追うごとに、どんどん「いいキャラ」のギアを上げてくるところも最高ポイント。「不明なアーティスト」をつっこんだiPodのくだりといい、「なごり雪」をバックに圧倒的パワーヴァイオレンスをブツける見せ場といい、アガる。「なごり雪」がこんなにもエキサイティングな使われ方する漫画、かつてあっただろうか(ねーよ!)



▼高橋寛行
『キャプテンハンゾーモン』

キャプテンハンゾーモン(1) (ヒーローズコミックス)
高橋 寛行
小学館クリエイティブ (2017-05-02)
売り上げランキング: 97,408


 スーパーヒーロー、しかし老齢、変身回数も残すところ3回しかない、それがキャプテンハンゾーモン。大丈夫か!? ってかコレ話数を重ねられるのか!? というコチラの心配なんておかまいなしに、大技で敵をブッとばす。前作『ドロロン!お国ちゃん』でもデフォルメの効いたキュートなキャラクターの一方で緻密な背景描写やド派手な構図がたびたび見受けられましたが、キャラもすべてリアル調にし、最初からフルパワーで高密度の画力をぶつけてきているのが本作。ものすごいダイナミックな見開きをカマしてくる。シリアスなようでギャグ、ギャグのようでシリアスという絶妙さもたまらない。第2巻が待ち遠しい。ハンゾーモンー! 早く来てくれー!



▼アンソニー・ボーディン/椎名ゆかり[訳]
『GET JIRO!』

GET JIRO!
GET JIRO!
posted with amazlet at 17.12.25
アンソニー ボーデイン
誠文堂新光社
売り上げランキング: 68,575


 街を牛耳る二大料理勢力を潰すスシ職人ジローの静かな活躍を描いたグラフィック・ノベルであり、暴力と料理のセットメニューである。ページをめくれば、「食文化によって完全に支配された世界 他にはほとんど何もない スポーツ、映画、音楽業界はすべて崩壊し、死に絶えた 国の主な産業はチーズバーガーを作って互いに売買すること」と、いきなりのご挨拶なのだが……チーズバーガーなのかよ! ちなみに原作者の一人であるアンソニー・ボーディンはリアルシェフであり、自分の冠番組も持っているという人で、ノンフィクション『キッチン・コンフィデンシャル』『クックズ・ツアー』が邦訳もされている。料理探求が高じて(?)、クライム/スリラー作家のジョエル・ローズと組んでかようなサツバツ料理漫画を生み出してしまった。面白すぎるだろ。邦訳版は、ラングドン・フォス作画による表題作に加え、アレ・ガルザ作画による「ブラッド・アンド・スシ」も併録。こちらは、ジローがヤクザからスシ職人になるまでを描いた“エピソード0”であり、冒頭から無慈悲なカチコミシーンが描かれる。料理よりも兄弟の確執を焦点に描いたガチのヤクザものの興趣が楽しめる。



▼谷口トモオ
『完全版サイコ工場 A線/Ω線』

《完全版》サイコ工場 A(アルファ) (LEED Cafe comics)
谷口トモオ
リイド社
売り上げランキング: 41,763

《完全版》サイコ工場 Ω(オメガ) (LEED Cafe comics)
谷口トモオ
リイド社
売り上げランキング: 52,656


 鮮やかにブッ刺さるデザイン、行き届いた収録作の流れ、最高の仕上がりのリマスター&リミックス&リコレクション二冊。山本ニュー氏による、痒いところに手の届き尽くした濃厚な書誌データ&ネタの拾い上げがギッシリと詰まった「谷口トモオ/矢口順一全仕事」、谷口トモオ氏自らによる解題、そして今回のブチ上げ人である劇画狼氏による熱意の軌跡「完全版サイコ工場製造記録」の巻末三連発も超素晴らしくアガる内容。ところで個人的な話になるのだけど、小学生のころ、「段ボールを被った女生徒がもの凄い音を立てて血を吹き出す」ラストシーンのある漫画を読んでしばらく夢見が悪くなったことがある。その漫画のタイトルも作者の名前もすっかり失念してしまっていたのだけど、『Ω線』収録の「ATTACK OF KILLERダンボール」がまさにその作品であった(つまり、1995年刊の勁文社のアンソロジー『呪いの学校霊』を当時読んでいたらしい)。まさしく邂逅だった。異なる心象風景をさりげなく喚起させてくれる「さめない夢」と、文字通りスイッチが切れた終焉を迎える「ピーナッツバター」のラストの二編の美しい流れをもって、愛と情熱とサイコにあふれた新生プロジェクトが締めくくられたというのも感慨深い。



▼ジェフ・ダロウ/椎名ゆかり[訳]
『少林カウボーイ SHEMP BUFFET』

少林カウボーイ SHEMP BUFFET (DARK HORSE BOOKS)
ジェフ ダロウ
Graffica Novels
売り上げランキング: 64,003


 超高密度の視覚的暴力。ダブルチェーンソーでゾンビを斬り続ける描写が50ページぶっ通して続き、さらに徒手空拳でゾンビを屠り続ける描写が40ページぶっ通しで続く。狂った構成を異常な画力でブッチ抜き、血とモツが大サービスされる。地獄! 地獄! 地獄! 日本語で7000~8000字くらい(あるいはそれ以上)のあらすじ(?)がビッチリと詰まっているのも率直に言ってクレイジー極まる。要約すると、出てくるヤツらのほとんどが少林カウボーイとオバマケアの消滅を誓っている。以上! なお、今年はフランク・ミラー&デイブ・スチュアートとの『ザ・ビッグガイ&ラスティ・ザ・ボーイロボット』の邦訳も出たし、本国ではミラー&ダロウの傑作『ハードボイルド』の第二版が出た(つまり復刊である)。『ハードボイルド』は実写映画化の話もあるようなので、うまくいってくれることを願うばかり。



▼ジェントルメン中村
『セレベスト織田信長』

セレベスト織田信長 1 (SPコミックス LEED CAFE COMICS)

リイド社 (2017-09-22)
売り上げランキング: 22,346


 ホッコリの伝道師、ジェントルメン中村がスケール&グレードアップして帰ってきた! そして彼こそが、ワキに生えたキノコの描写が宇宙一うまい男である。男たちの裸体、体毛、体液率の異常な高さ。回を追うごとに常軌を逸してゆくルビ使い(冬虫夏草にマグナムとかキノコ・ボンバーとかルビが振られるのはセレベスト信長だけ!)。歴史上の英傑のヒゲに全身を愛撫されるという凶悪な絵面がある第2話、糞・尿・ローションと三拍子揃ったサービス回の第6話、第5話の卑弥呼のセリフ「臆病者(タマナシ)!! 帰って母(ママ)の陰核でもしゃぶっとれ!!」と第8話の北条早雲のセリフ「学級委員(マジメクン)は帰って祖母(バァバ)の大陰唇(ラビア)でもしゃぶっとれ!!」のコントラスト、などなど、キラーな個所を挙げればキリがない。しかし間違いなく言えることは、上のまた上(スカイズ・ザ・リミット)を目指す人間へ贈られた激読の書である。合言葉はもちろん「だろォ~~!!」でキマリ! 「だろォ~~!!」にはミーム力(ちから)がある。ミームの力が。来年春の新展開を鎮座して待つ。



▼黄島点心
『黄色い悪夢』

黄色い悪夢 (LEED CAFE COMICS)

リイド社
売り上げランキング: 17,368


「怪作」という言葉がこれほどふさわしい中短編集もないのではないかというくらい、ハイカロリーの奇想で全力でブン殴ってくる。真空密閉男のたどる運命をどんでん返し大回転で描いた「断末夢」に、人間のペルソナをでっかいカサブタにするという最高のアイデア爆裂の「人面葬」。極めつけは人間視点と蚊視点の双方で書いた「血に落ちる」二部作。描写と妄念が外へ内への大騒ぎであまりにも凄すぎてオーバーフローする。どうかしている。



▼佐藤将
『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』

本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇 (LEED CAFE COMICS)

リイド社
売り上げランキング: 15,470


 メチャクチャをやっている。「小説内小説」「漫画内漫画」というのは割とよくあるのだけれども、「漫画内小説」というのはあまりないケースだなあ、うーんメタだなあ、などとしたり顔をするのもそこまでである。思春期の娘のことを知ろうとする父親が娘の部屋に忍び込んでは蔵書の小説を盗み見るという、一見すると背徳的な大枠で傍若無人なネタの連発と高濃度のナンセンスに寝首をかかれる。板垣恵介風、コロコロコミック風、滝平二郎(モチモチの木)風、山本タカト風、池上遼一風になったりならなかったりする絵柄のメタモルフォーゼっぷりも暗黒っぷりに拍車をかけている。



▼大今良時
『不滅のあなたへ』

不滅のあなたへ(1) (講談社コミックス)
大今 良時
講談社 (2017-01-17)
売り上げランキング: 8,172


 形態を自在に変化させる超越的な「球体」が まったくの白紙状態から果てしのない彷徨を通して少しずつなにかを得ていくというトラベルファンタジー。田中光二『異星の人』のジョン・エナリー、梶尾真治『おもいでエマノン』のエマノン、伊坂幸太郎『死神の精度』の千葉など、知性や理性を持つ超越的存在が人間を見つめる話は色々あれど、『不滅のあなたへ』の(球)は理性も感覚もない「真っ白な」観察者なのがミソだよなあと。なるほど「獲得の物語」だと思った。




▼梶本レイカ
『悪魔を憐れむ歌』

悪魔を憐れむ歌 1 (バンチコミックス)
梶本レイカ
新潮社 (2017-05-09)
売り上げランキング: 28,216


 未解決猟奇連続殺人を追い続ける刑事、阿久津。危険な匂いを秘めた医師、四鐘。二人の関係を中心としたクライムサスペンス。四肢の折りたたまれた死体が発見される兇悪な幕開けから、「証明しろ お前のオペラを」と高らかにうたいながら殺しを遂行する四鐘のシーンが見開きでドンとブチかまされる第1話からもうすでにヤバいムードがムンムンであった本作。変わり果てた阿久津の元同僚の凄惨な顛末や、事件を嗅ぎまわるライター、現役とOBの一枚岩でない思惑、「ギガス写本」の苛烈な逸話、四鐘のいわくありげな掌の傷などがほのめかされ、トドメには阿久津、四鐘との三つ巴の構図を予感させる不穏なキャラクターも登場と、盛りだくさん。さらなる危険領域に突入しそうな雰囲気でじっくりとサスペンス度を高めていく。まったくもって目が離せない。隔月刊誌連載で年2冊の単行本刊行にこぎつけたゴーゴーバンチ編集部の英断と梶本先生の馬力にも改めて頭が下がった。スピード感、大事ですね。そして、第2巻と同日に発売したゴーゴーバンチ最新号でちょうど続きが読めるのだが、衝撃的な事実が明らかになっていた。そしていよいよ……。



▼速水螺旋人
『男爵にふさわしい銀河旅行』

男爵にふさわしい銀河旅行 1 (BUNCH COMICS)
速水 螺旋人
新潮社 (2017-12-09)
売り上げランキング: 4,651


男爵とヴィンテージロボット娘、そして吟遊詩人の惑星珍道中。宇宙版弥次喜多、あるいは宇宙版ノンシャラン道中記。宇宙的スケールで所帯じみており、トボけたアドベンチャー。



▼稲垣理一郎[原作]/Boichi[画]
『Dr.STONE』

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックス)
Boichi
集英社 (2017-07-04)
売り上げランキング: 7,333


 全人類が石化し壊滅状態となった地球で、超人的なスペックを誇る数人の人間たちがハイスピードで文明の復興を目指す……という、いたって単純明快なストーリーを、ドデカいスケール感とスピーディな展開、高い作画カロリー、そして科学監修をつけたうえで描くとこんなにも底抜けに明るく、底抜けに狂ったエンタ―テインメントになるのかという感動と興奮がある。1巻巻末に載っている参考文献 『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』 『人類が消えた世界』 『SASサバイバル百科大全』 『最新SASサバイバル・ハンドブック』 『SAS・特殊部隊式図解サバイバル・テクニック』 『新冒険手帳【決定版】』 『アウトドア・サバイバル技法』というのもなんとも明快。本作と並行して、ヤングマガジンのロボットSFアクション『ORIGIN』でも相当の作画カロリーを消費しているBoichi氏のバイタリティにも驚かされる。もともとA・C・クラークが大好きで、SF漫画を描くために物理学を専攻していたという人なので、水を得た魚といった感。



▼ジュール・ヴェルヌ[原作]/倉薗紀彦[画]
『地底旅行』

地底旅行 1 (ビームコミックス)
倉薗 紀彦
KADOKAWA/エンターブレイン (2016-03-25)
売り上げランキング: 54,583


 コミックビームのいわゆる「文芸コミカライズ」枠には頼もしさと楽しみを感じている。『地底旅行』は先ごろ全4巻で完結。ヴェルヌの想像力をじっくりヴィジュアル化していく一貫した丁寧さもさることながら、冒険小説でありビルドゥングスロマンな原作の要素も見事に汲んでいて、幸福な完走を果たしたコミカライズだと断言したい。



▼天原[原作]/masha[画]
『異種族レビュアーズ』

異種族レビュアーズ (ドラゴンコミックスエイジ ま 7-1-1)
masha
KADOKAWA (2017-09-08)
売り上げランキング: 3,331


 モンスターを食う漫画があるなら、モンスターと寝る漫画があってもよいだろう、ということで、エルフ、亜人、獣人、タコ娘、スライム、淫魔、有翼人、天使、サラマンダー、フェアリー、魔族、単眼娘、ウィルオーウィスプ、あらゆる種族としっぽりする。そしてレビューする。性癖のバーゲンセール? 性癖のデパート? 性癖の総合商社? いやいや、性癖の風俗店。



▼意志強ナツ子
『魔術師A』

魔術師A (torch comics)
魔術師A (torch comics)
posted with amazlet at 17.12.25
意志強ナツ子
リイド社
売り上げランキング: 25,463


 自意識と性をめぐる秘めやかでエグみの忍んだエピソード群。ワサワサモヤモヤするし、このワサワサモヤモヤな閉塞感が遅効性の毒のように効く。こびりついてくる。「チェコ国立芸術アカデミー卒」という帯文も眩惑的に試してくる感があって、えも言われぬ読後感。肌がたるんだおばさんの自慰シーンや、おじさんおばさんと少女の無味乾燥なまぐわいがサラリと描かれるのも逆にこびりついてきますね。



▼星野茂樹[原作]/オガツカヅオ[画]
『ことなかれ』

ことなかれ 1 (Nemuki+コミックス)
星野茂樹
朝日新聞出版 (2017-08-07)
売り上げランキング: 59,328


 正気と狂気、道理と不条理が反転し、事件は解決するとは限らず、宙に放り投げられるような感覚を味わった傑作短編集『りんたとさじ』の読み味はそのままに、ダメ押しとばかりに更なる怪異も描かれるのでザワザワすることしきりな都市型ホラー連作。理知的な解決を見たと思いきや……な第2話「立ち枯れ」と、ことなかれ課発足につながる第4話「引き寄せの法則」がベスト。第3話・5話のオオカワウソ回のような伝奇ホラー色もある。第1巻の最後は“引きの回”だった第6話なので、1巻だけ読んで「ことなかれ」とはいかないのが心ニクい。来年はオガツ先生の新たな短編集の予定もあるということで、楽しみが二倍に。



▼ツナミノユウ
『ふたりモノローグ』

ふたりモノローグ(1) (サイコミ)
ツナミノ ユウ
講談社 (2017-07-28)
売り上げランキング: 32,193


 ラヴをこじらせた非常識少女が常識的人外を執拗に追い掛け回す『つまさきおとしと私』に続いての新作は、切り出せないクールギャルと切り出せないネクラオタクガールのすれ違い百合コメディ。つくづくツナミノ先生は感情の暴走をコネコネするのがうまい。



▼道満清明
『オッドマン11』

オッドマン11 (メガストアコミックス)
道満 晴明
コアマガジン
売り上げランキング: 23,131


 ドーマン先生の約5年分の蓄積(2011年9月から2016年4月までのコミックホットミルク掲載分)が結実した。めちゃくちゃ面白いのだが、第2巻が出るのはどんなに早くても2022年予定ということになるので、少し泣いてしまった。




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 リイド社・リイドカフェの掲載媒体としての無差別的な強さ、傍若無人な攻めっぷりと、おおかみ書房の劇画狼氏のごんぶとな仕掛けっぷりのアツさにヤラれた一年でした。また、『GET JIRO!』や『少林カウボーイ』のみならず、ヒーローどものクレイジーでヴァイオレンシャルな日常を描く『ザ・ボーイズ』など、トンガったアメコミ邦訳を続々とぶっぱなしている誠文堂新光社さんのマッシヴな仕事ぶりにも感じ入った次第。来年早々にはハード百合コミック『Sunstone』の邦訳第一巻の刊行が控えており、楽しみでなりません。平松伸二先生の実録(?)外道マンガ自伝『そしてボクは外道マンになる』の異常なパワフルさもさることながら、こち亀を完結させた秋元先生の間を置かずしての精力的な作品発表(『BLACK TIGER』ほか)もすごいもんだなと。6月は殺し屋ものが豊作だった印象がある。小原愼司氏の『青猫について』は2巻完結で修羅の荒野を突き抜けたし、ゆりかわ氏の『DOG END』は禍々しい表紙の3巻で殺し屋バーゲンセールになって加速度的に面白くなってきたし、少女&ジジイのバディものである、井上智徳氏の『CANDY & CIGARETTES』も今後がますます楽しみ。主人公マッコイが古今の神々、魑魅魍魎たちと数々のドンパチを繰り広げる、久正人氏による幻想怪奇伝奇エキサイティングハードボイルドガンアクション『エリア51』が第15巻でフィナーレ。最後は「自分との闘い」であったということも印象深い。旅立った者、そして残された者たちに幸多からんことを願ってやまない、見事なラストでしたね。そのほか、田中相『LIMBO THE KING』、グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』、環望『ソウルリキッドチェインバーズ』、横尾公敏『仏像パンク』、佐々木順一郎『オオカミの子』、モンキー・チョップ『浪花任侠道』、櫻井エネルギー『サクライプレジャーストリート』、Boichi『ORIGIN』、施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』を挙げたいです。今年は個人的に思いがけないトピックが二つ。一つは《モーニング》2017年15号に掲載された、ひろき真冬氏の数十年ぶりの読切「風の花/Sky Flower」。至近未来と近未来の一瞬の邂逅を描いた、静かで、どこか懐かしいテイストの中編SFドラマ。氏のしなやかで緻密な描き込みも健在で、いいものを読んだなと。もう一つは、上山徹郎氏の傑作『LAMPO―THE HYPERSONIC BOY―』が20年ぶりに復刊を果たしたことです。

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