2017年5月22日月曜日

愉快で豪快なレシピ集、十九年ぶりに邦訳版復刻。『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』

復刻版 ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本
ラフカディオ・ハーン
CCCメディアハウス
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『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』復刻版を入手し、久々に読み返しました。早々に絶版になり、古書価万単位がザラだった1998年刊行の阪急コミュニケーションズ版からじつに19年目の復刻。感慨深いものがあります。また、今回のCCCメディアハウス版は、電子版も同時刊行されていて、これまたありがたい。本書は、ハーンがニューオーリンズで新聞記者をやっていたころに、現地の人たちから聞き書きしたものをまとめたレシピ集。抄訳なので全てのレシピが掲載されているわけではないのだけれども、スープ、魚、獣肉、鶏、野菜、卵、デザートから病人食に至るまでのレシピが豊富に網羅されており、これらを編纂したハーンの力の入りようもうかがえます。ザリガニや亀、蛙料理なんてのもあったり、冷蔵庫なんてものがなかった時代ゆえに作り方が大雑把で回りくどく、用意する材料の分量も相当(ザリガニ50匹とか)なので、レシピ本として実践するにはやや難度が高い(むしろその通りにつくるとエライことになる)。でも、各家庭ならではのレシピといったところで、味わい深いものがあるし、パラパラとめくって読むぶんには楽しい内容。多様なクレオール文化の一端をほんの少し垣間見れた気にもなる。ちなみにタルタルソースのレシピのくだりでは、まずタタール人を暗殺してその臓物を取り出すところから始まる……のだけれども、これはハーンが記者をつとめる新聞の受け持ちコラムで書いたジョークレシピ。流石の購読者もこれには苦笑い……したのかどうかはともかく、スパイシーな書き口だなあと。



こちらは原典の『Lafcadio Hearn's Creole Cook Book』

Lafcadio Hearn's Creole Cook Book
Lafcadio Hearn's Creole Cook Book
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Lafcadio Hearn
Pelican Pub Co Inc
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以下は余談。



『怪談』以前の怪談―小泉八雲こと、ラフカジオ・ハーンの原稿選集
ラフカディオ ハーン
同時代社
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 ハーンの新聞の記者時代の記録集。実際に起こった血なまぐさい事件(マーダーケース)のレポートが多く、なるほど現実的な怪談を語っている。若干誇張はあるようには思うものの、子細に描かれる屍体の描写(カリカリになった焼死体の黒焦げの頭蓋骨からのぞく煮え立った両眼の残骸など)の名状しがたさに、ハーンの観察眼の非凡さの一端が窺えるようで興味深い。「皮なめし場殺人事件」の記事は、本書のハイライト。




カリブの女
カリブの女
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ラフカディオ ハーン
河出書房新社
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 来日以前にハーンが書いた唯二の中篇小説「チータ」「ユーマ」を収録。エキゾチックな島国の風俗や自然描写の美しさ、そして激しさをふんだんに絡めつつ、文化同士の間にある隔たり、そして異文化ひいては他者への理解を見据えたテーマは、来日後の彼の再話作品へのつながりをうかがい知る上でも興味深い内容ではないかと。クライマックスのシーンの鮮烈さや、結末の余韻もきわだっている。




文学における超自然の恐怖
大瀧 啓裕
学習研究社
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 かのH・P・ラヴクラフトはハーンの著作を読んでおり、「数多くのロースト・ビーフ型の作家には不可能な幻想をつくりだす」と、かなり好意的な評を残しており、ハーンへの言及ふくむラヴクラフトの一連の怪奇・幻想文学評論は『文学における超自然の恐怖』に収録されております。もしハーンとラヴクラフトが邂逅したら、と考えたことはあるのだけれども、ハーン(1850―1904)、ラヴクラフト(1890―1937)なので、生きた時代には数十年ほどの隔たりがあり、現実には邂逅する余地はなかったというのが事実(ちなみに、ラヴクラフトがプロビデンスで生まれた1890年8月は、ハーンが松江に教師として着任した月)。しかしながら、両者のブードゥーへの興味やアウトサイダーとしての視点には共通点を見出せるのではないかなと。

2017年5月6日土曜日

「スクランブルド・ロック」の魅力と真髄 ― デーモン閣下『EXISTENCE』(2017)

EXISTENCE(初回生産限定盤)(DVD付)
デーモン閣下
アリオラジャパン (2017-03-15)
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 デーモン閣下、五年ぶりとなるオリジナルソロアルバム。プロデュース(と演奏)は、2007年から2010年にかけてのカバー三部作〈GIRLS' ROCK〉シリーズ。ヒダカトオル 、小柳ゆき、赤飯らとコラボした2012年作『MYTHOLOGY』に引き続き、北欧のメロディック・ハード・ロック・バンド GRAND ILLUSIONのフロントマン アンダース・リドホルム。バッキングヴォーカルで同バンドのペア・スヴェンソンも参加。ドラムスはほぼ全曲グレッグ・ビソネットが叩いています。「小暮伝衛門」名義の1stソロアルバム『好色萬声男』(1990)はもちろん、スクーデリア・エレクトロのプロデュースのもと「!」名義で発表した『ASTRODYNAMICS』(2000)、岡村靖幸らのプロデュースによる『WHEN THE FUTURE LOVES THE PAST ~未来が過去を愛するとき~』(2003)、森岡賢、石黒彰ら五人のアレンジャーを迎えた『SYMPHONIA』(2002)など、デビュー時から一貫してバラエティに富んだ「スクランブルド・ロック」な楽曲と積極的なコラボレーションを展開し、如何様なアレンジでも対応できるスタイルを確立してきた閣下が、北欧の仕事人アンダースとともにメロハー、ポップチューン、ロックオペラ、そしてメタルで魅せたのが本作。『テラフォーマーズ』原作者である貴家悠、作家のブルボン小林(長嶋有)&羽田圭介ら、三人の「わかっている」ゲスト作詞家の参加もトピックとなっています。


EXISTENCE
EXISTENCE
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デーモン閣下
アリオラジャパン (2017-03-15)
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 先行トラック"ゴールはみえた"は、GRAND ILLUSIONよろしくの北欧メロディック・ハード・ロック・マナーたっぷりで、そこに閣下の歌唱力が合わさるともう無敵たる仕上がり。表題の「EXISTENCE」と繋がる"Just Being ―ここにいる そこにいる―"は、エレクトロ・ハードポップな趣向。続く、"Shibuya Scrambled Crossing"は、"ゴールはみえた"と双璧を成す(閣下談)メロハーテイストの一曲にして、当初アルバムタイトル候補として構想されていた「スクランブル交差点」「渋谷」の名残ともなっています。アニメ第二期「テラフォーマーズ リベンジ」に聖飢魔IIが新曲タイアップをした縁から貴家悠氏が作詞提供した"地球へ道づれ!"は荘厳なコーラスに彩られたミドルテンポのシリアスな曲調にのっかる「生まれているぞ覚悟しろ」「親にも神にも感謝はしなくていいが取引先には感謝しろという」といった内容の身も蓋もない詞が秀逸。"てふのやうにまひ"はお約束のヘヴィメタル、聖飢魔II様式のキラーチューン。故.モハメド・アリの代名詞的フレーズ「蝶のように舞い 蜂のように刺す」をストレートにサビに持ってきて、朗々たる歌唱でキメこむあたり実に閣下。文字通り必殺の一曲。

 ブルボン小林氏の作詞提供曲"方舟の名はNoir"は本作随一の収穫かもしれない。ノアの方舟とノワールをかけた楽曲の当初のタイトルは「ほほえみ仏壇返し」。キャンディーズの"微笑がえし"と、相撲の決まり手「仏壇返し(呼び戻し)」の合体というナナメ上っぷりも可笑しいし、十万年生きてきた閣下のキャリアを描いた詞のマニアックさも髄一で、曲調はシンプルなビートとクリアーなコーラスに彩られたエレポップながら、ブルボン氏の愛がめちゃくちゃ重い(笑)。「緑色の軽いカメラ」は、かつて閣下がCM出演していた「写ルンです」、「先走るお前」が聖飢魔IIの"無冠の帝王"の詞、「十月の虹」が"ASTRODYNAMICS"の冒頭の詞から来ていると知ってアアッと腑に落ちた次第。

 一曲目の"序曲"から間を空ける形で配された"深山幻想記―能Rock―"は、アルバム収録以前より歌われていた楽曲。笛演奏家・能楽一噌流笛方の一噌幸弘氏との共作曲であり、元々はインストだったものが今回ヴォーカル曲としてリメイクされたわけです。杜甫の「君見ずや、蘇徯に簡するの詩」の引用を挟むのも閣下らしい(『好色萬声男』では李白「月下独酌」を歌っていましたし)。10分を越える大曲ですが、元は笛・小鼓・大鼓のソロ回しでトータル17分あったそうで、なんとか縮めてこの形までもっていったとのこと。能管の響きが存分にフィーチャーされたダイナミックな邦楽ロックオペラです。カラっと乾いた曲調に昨今の世相を反映した"Post Truth -青空が殺気立つ―"からの"Stolen Face"は、羽田圭介氏の作詞提供曲。閣下が久しく歌っていなかった「説教メタル」の詞の路線に回帰したブラスロックチューン。なお、羽田氏はワンセンテンスごとに字数をキッチリあわせてくる几帳面さを発揮したもよう。

"FOREST OF ROCK"は、映画「仮面ライダー×仮面ライダー ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム」の主題歌、"Heavy Metal Strikes Back ―血まみれの救世主たち―"は、仮面ライダーGIRLSの2013年のアルバム『alteration』への提供曲のセルフカヴァー。前者は、「メジャーコードは得意ではない」という閣下がつくった明快にしてキャッチーな一曲。編曲はおなじみの石垣愛氏(元 THE MAD CAPSULE MARKETS/現 Derailers)。後者はストレートなメタルチューン。聖飢魔IIの最後の大教典『LIVING LEGEND』(1999)収録の"Heavy Metal is Dead"で放ったのと同じスタイルのシャウトが盛り込まれているという「DEAD」からの「STRIKES BACK」なアンサー的趣向にもニヤリとさせられるところ。アルバムのキャッチコピーの「すべての曲に「愛」があり、すべての詩(うた)に「愛」がない」というのはまさにその通りで、愛という単語は本作の楽曲の詞には一つもないのだけど、一貫して「ヘヴィな」愛に貫かれた、スクランブルド・ロックの快作です。





デーモン閣下「EXISTENCE」インタビュー|熱狂的“信者”を迎えて放つ5年ぶりのソロ作
(from 音楽ナタリー)

千変万化・豪華絢爛の粋を尽くした、やりたい放題な傑作 ― 小暮伝衛門『好色萬声男』(1990/2016 remaster)

2017年5月1日月曜日

リリース情報・備忘録 2017年4月