2017年2月20日月曜日

新居昭乃&保刈久明コンビとともに創りあげられた大傑作コンセプトアルバム ― 三重野瞳『23.4』(1999)

 近年は「赤尾でこ」名義でアニメの脚本家・シリーズ構成でおもに活躍されている三重野瞳さん。彼女の1995年のデビューアルバム『Ki Ra Ri Pi Ka Ri』については少し前にブログに書きましたが、その後のアルバムについても触れたいと思います。1stからわずか七ヶ月後にリリースされた2ndアルバム『All Weather Girl』は、引き続き根岸貴幸氏が全曲の編曲を担当し、前作とほぼ同じ演奏メンバーのもとに制作された作品。manzoこと坂下正俊氏によるハードポップチューンが二曲収録されてもいます。1997年リリースの3rdアルバム『ドラムカンサラダ』は、谷脇仁美、和田弘樹、高田耕至、立花瞳、中野礼翔、三保理を作曲陣に迎えた作品。1stの路線を踏襲したメロディック・ハード・ポップ・チューンであり、アニメ「超魔神英雄伝ワタル」のオープニングテーマとなった"ひとつのハートで"や、三重野さん自ら作詞作曲に挑戦した"バイバイ☆ダーリン"が収録されています。演奏では、過去二作でも参加されていた松原正樹氏とエルトン永田氏が本作では全面的に参加。1998年リリースの4thアルバム『ベリー☆ロール』では、三重野さんの作詞曲が四曲収録。作曲陣は高田耕至、水野雅夫、中野礼翔、谷脇仁美、立花瞳、Love Palette、泉川そら。ギタリスト陣は松原正樹、増崎孝司、土方隆行、梶原順、松下誠といった強力な顔ぶれが揃いました。そして、1999年にリリースされた5thアルバム『23.4』が、今回ご紹介する作品です。


23.4
23.4
posted with amazlet at 17.02.19
三重野瞳
ビクターエンタテインメント (1999-07-23)
売り上げランキング: 941,886


 初のコンセプトアルバムであり、全曲ノンタイアップ(先行シングル「ガリレオの夜」は自身のラジオ番組のテーマソングではありましたが)。通常盤と、三重野さんの絵と文がしたためられたミニ仕掛け絵本カード「それは甘い甘いつくり話」付き初回限定盤の二種でリリースされた本作。この仕掛け絵本もかなり凝ったつくりになっており、力の入りようがうかがえます。さらに、彼女が敬愛する新居昭乃さんが、保刈久明氏とともに作編曲や演奏で全面的に参加され、ガッチリとタッグ(トリオ)を組まれているところも本作の大きなポイントです。演奏陣では今堀恒雄、堀越信泰、鈴木智文(guitar)、宗秀治、渡辺等(bass)、佐野康夫、宮田繁雄(drums)、鶴来正基(organ)、坂元俊介(synthesizer operation)、桑野聖カルテットと、新居さんや菅野よう子さん/シートベルツ周辺メンバーが多数参加した、これまた超強力な布陣。




 アルバム冒頭を飾る"ウソの日"の詞は、三重野さんが高校三年のころに書いたものとのこと。能天気なようで闇を感じるキャラクターをドライヴ感のあるサウンドにのせて演じています。たっぷりとリードするファズギターと抜けと歯切れのよいドラムスとがヴォーカルと絶妙にマッチする"ドライブ ドライブ"は、「それは甘い甘いつくり話」に登場するキマグレ姫とワガママ王子のストーリーに基づく一曲。しっとりとした幻想的ポップ"花かんむり"のどこかアンニュイなムードや、"ビーシュ" "君を着て"のオルタナ・ポップ感など、新居さんが翌年に発表される傑作アルバム『降るプラチナ』に通じるところが多いのも興味深いところです。また、オルゴールアレンジ、リプライズをふくめて都合3ヴァージョンが収められる"ガリレオの夜"は、のちに新居さんのアルバム『Blue Planet』(2012)でセルフカヴァーされます。三重野さんの朗読が保刈氏の演奏/コラージュの上で淡々と進行するタイトルトラック"23.4"は、冒頭の「ごめんなさい、ずれてしまいました」の印象的な一文に導かれるように、甘やかで秘めやかで、そしてちょっぴり残酷な顛末が描かれた奇妙な味わいのストーリー。三重野さんのセンスが静かに滲み出ており、忘れ難い染みとなってこびりついてきます。ラストは桑野聖カルテットが物悲しい旋律を奏でる"最後の蜜"で幕を閉じます。コンセプト、楽曲、演奏、いずれもスキがなく、間違いなく彼女の最高傑作でありましょう。

 また、1999年は三重野さんにとって一つの節目の年でもありました。3月にはシングルコレクション『真空パック』がリリースされ、『23.4』のリリースと同月には主婦の友社からオフィシャル・ガイドブック『三重野本』が刊行されています。この『三重野本』はデータ面でもパーソナリティ面でも非常に充実した内容であり、彼女のバイオグラフィーやディスコグラフィー、デビュー前後のことなども含む語り下ろしのインタビューなど、彼女の多岐に渡る活動が俯瞰できる良書です。


三重野本―HITOMI MIENO VISUAL ARTIST BOOK
三重野 瞳
主婦の友社
売り上げランキング: 1,537,024


――シングルコレクションアルバムを作り終わって、なんとなく一段落っていうか。さぁ、次に何をしましょうかっていう時に、『ガリレオの夜』があって。それは去年録ったんだけど、そのレコーディングをした時に、その世界がすごく気に入っちゃったのね。それが新居昭乃さん作詞・作曲だったんだけど、昭乃さんの歌も前からすごい好きで、私、妖精とか妖怪とか鬼とか好きだから、昭乃さんの世界って結構そっち寄りだなと。だから実際、自分がその昭乃さんの世界に片足突っ込んだような感じの歌を歌うことが、すごい自分の中でピッタリはまったっていうか。“ああ、なんかちょっと、私の今、妖怪だとかなんとか言ってる世界に近いかも”っていうので、この曲の延長線上のアルバムが作りたいなぁと思い始めたのね。結構初めて、しっかりしたコンセプトで、企画っぽい、思いきりどこかの世界にドップリ浸かった感じのアルバムを作りたいなぁと思って。――

主婦の友社刊『三重野本』
三重野瞳ロングインタビュー「過去 現在 未来」より


------------------------------------
三重野瞳『23.4』


初回限定盤[VIZL-40|1999.07.23|ビクターエンタテインメント]
通常盤[VICL-60396|1999.07.23|ビクターエンタテインメント]


01. ウソの目
(作詞:三重野瞳/作編曲:新居昭乃)
新居昭乃(program)
坂元俊介(program & synthesizers operation)
佐野康夫(drums)
宗秀治(bass)
堀越信泰(guitar)
三重野瞳(backing vocal)


02. ビーシュ
(作詞:三重野瞳/作曲:新居昭乃/編曲:保刈久明)
保刈久明(program, guitar)
坂元俊介(synthesizers operation)
佐野康夫(drums)
宗秀治(bass)
堀越信泰(guitar)
新居昭乃、三重野瞳(backing vocal)


03. ガリレオの夜 (Orgel)
(作曲:新居昭乃)


04. ガリレオの夜
(作詞・作編曲:新居昭乃)
新居昭乃(program, piano, backing vocal)
坂元俊介(synthesizers operation)
宮田繁男(drums)
渡辺等(bass)
鈴木智文(guitar)
鶴来正基(organ)


05. 23.4 (Story)
(文:三重野瞳)
三重野瞳(sample materials)
保刈久明(all other instruments)


06. ドライブ ドライブ
(作詞:三重野瞳/作編曲:新居昭乃)
新居昭乃(program)
坂元俊介(program & synthesizers operation)
佐野康夫(drums)
宗秀治(bass)
堀越信泰(guitar)
三重野瞳(backing vocal)


07. 花かんむり
(作詞・作編曲:新居昭乃)
新居昭乃(program, keyboard, backing vocal)
坂元俊介(synthesizers operation)
佐野康夫(drums)
宗秀治(bass)
今堀恒雄(guitar)
三重野瞳(backing vocal)


08. 君を看て
(作詞:三重野瞳/作編曲:新居昭乃)
新居昭乃(program, keyboard)
坂元俊介(synthesizers operation)
宮田繁男(drums)
宗秀治(bass)
今堀恒雄(guitar)
保刈久明(backing vocal)


09. ガリレオの夜 (Reprise)
(作編曲:新居昭乃(mono))
新居昭乃(piano)
三重野瞳(scat)


10. 最後の蜜
(作曲:三重野瞳、新居昭乃/編曲:新居昭乃)
三重野瞳(cassette tape)
桑野聖Quartet(quartet)


------------------------------------

http://hitodama.info/

0 件のコメント:

コメントを投稿