2016年2月28日日曜日

燃える招き猫、火を噴くヘヴィ・ジャズ。凄腕ぞろいのハイパーインストバンド ― MUMPBEAK『Mumpbeak』(2013)

Mumpbeak
Mumpbeak
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Mumpbeak
Rarenoise Records (2013-12-03)
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 イギリス生まれ、現在はオスロに在住するキーボーディスト/コンポーザーのロイ・パウエル。彼はパット・マステロット(Drums / ex.KING CRIMSON)とロレンツォ・フェリシアーティ(Bass)らとのジャズ・ロック・バンド NAKED TRUTHや、ヤコブ・ヤング(Guitar)らとのオルガン・トリオ InterStaticでフェンダーローズやハモンドオルガン、プリペアードピアノを弾き倒し、これまでに数枚のアルバムをリリースしております。そんな彼が中心となって近年に新たに立ち上がったバンドが、このMUMPBEAK。招き猫が燃え上がるインパクト十分なジャケットからもうかがえるように、こちらはより強くヘヴィ・プログレに傾倒したサウンドを展開。とくにKING CRIMSONからの影響は顕著です。本作にはマステロットとフェリシアーティ(1曲のみ参加)のほか、トニー・レヴィン、ビル・ラズウェル、ジョン・ゾーンとのMASADAやABRAXASでも知られるシャミア・エズラ・ブルーメンクランツら凄腕ベーシストが参加。ラズウェルはアルバムのプロデュースとミキシングも買って出ております。ギンギンに歪ませたクラヴィネットはときに鋭角的トーンのギターサウンドも創出、ジェフ・ベックやアラン・ホールズワースのような唸りを上げるプレイの再現も果たしております。そこにインプロヴィゼイション込みのズ太いボトムが支え、時に激突する様はじつにスリリング。火を噴くインストゥルメンタルアルバムとして申し分のない内容です。



 現在、バンドは二枚目のアルバムのレコーディングを進めており、マステロットやフェリシアーティ、レヴィンのほか、チャド・ワッカーマンやトルステン・ロフトゥス(SHINING、Elephant9 etc)が参加するとのことで、これはまた一層白熱の度を増す予感がビンビンいたします。



http://www.mumpbeak.com/
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2016年2月26日金曜日

ジャンルを越境する、シンガポールの実験音楽集団 ― The Observatory『August is the Cruellest』(2016)



 シンガポールのエクスペリメンタル・ロック・バンド ジ・オブザーヴァトリー。2000年代初頭より活動を始め、デビューアルバム『Time of Rebirth』(2004)以降、現在に至るまで精力的なリリースや世界各国でのライヴを展開。現メンバーであり、シンセサイザー/エレクトロニクス担当のユエン・チー・ワイは、大友良英氏の呼びかけで結成されたインターナショナル即興グループFEN(Far East Network)のメンバーとしても名を連ねております。現在進行形でジャンルの越境を続けており、その実験的な作風はアルバムごとに変化。『Gezeitentümpel』(2013)ではフィールドレコーディング/ドローンを、『Oscilla』(2014)では長尺のヘヴィ・ロックを、『Continuum』(2015)ではガムランからの影響を色濃く投影したサウンドスケープを展開してきた彼らですが、本作『August is the Cruellest』では、ポストロックのメロウな興趣にも富んだ内容。また、レコーディングの大部分はノルウェーで敢行されており、MOTORPSYCHOなどの北欧ヘヴィ・ロック勢にも近いドライヴ感が生まれています。タイトルは「四月はもっとも残酷な月だ」という有名な一節ではじまるエリオットの長編詩「荒地」に共鳴したもの。彼らは八月がもっとも残酷な月だと掲げており、公式サイトでは「残り火は輝くかもしれないが、燃焼の悪夢は決して終わらない。破壊を調査し、突破口を形成するときが来ている」という一文が添えられております。これは、シンガポールやマレーシアが焼畑農業を介して長年被っている越境大気汚染問題が根っこにあるものと思われます。


http://www.theobservatory.com.sg/
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https://soundcloud.com/observatorysg

2016年2月23日火曜日

「フロントミッションシリーズ ガンハザード」 発売20周年を祝して



http://www.square-enix.co.jp/fm/gh/
https://www.nintendo.co.jp/wii/vc/vc_fmg/


 機動兵器「ヴァンダー・パンツァー(ヴァンツァー)」を駆る戦略シミュレーションRPG〈フロントミッション〉シリーズ第一作目は1995年2月24日に発売されました。そして、シリーズ開始から一年後の1996年2月23日に、「フロントミッションシリーズ ガンハザード」が発売。つまり、今年で20周年を迎えます。「そうですか、それはよかったです。今日はお祝いですな」(by ホセ市長)。大手ゲーム情報系サイトでこのフロントミッション異端の存在のアニバーサリーを取り上げるところは、おそらくどこもないでしょう。「もうガマンならん!」(by オーウェン大統領)ので、わたしが独自に祝わせていただきます。ところで、「ガンハザードで好きなヴァンツァーは?」 と聞かれたら、シルバーファングやドラグーン……と、いいたいところですが、ルークのファイアツォークですね。超火力特化、いいじゃないですか。ロマンですよロマン。初回プレイ時にラスボスで詰んでどうしようもなくなり、数年後にリベンジしてようやくエンディングにたどり着いたというありさまでしたが、今となってはいい思い出です。

「フロントミッション ファースト」に次いでリリースされたガンハザードですが、ヴァンツァーは登場するものの、世界観や歴史はまったく異なるため、外伝とも違う形のパラレルな存在として扱われております。これが、本作が孤高の存在たるゆえん。ゲームシステムがシミュレーションではなく、横スクロールアクションであるところも趣を異にしております。スクウェアから声がかかり、開発に携わった大宮ソフト(日本コンピュータシステム/メサイヤより独立する形で1993年に設立。ガンハザードは「ロードモナーク とことん戦闘伝説」(1994年/日本ファルコム)の次に手がけた二番目のタイトル)が、『重装機兵レイノス』(1990年)や『重装機兵ヴァルケン』(1992年)で培ったノウハウを活かしたというのもポイント。創立者である鈴木英夫氏はガンハザードのプログラマー/ディレクターとしてクレジットされています。

「ガンハザード」― 大宮ソフト


▼ガンハザード「ストーリー」
 軌道エレベーター“アトラス” 21世紀初頭に引き起こされた 世界的資源紛争の悲劇を教訓に大西洋上に建設された巨大な塔。人類はこのアトラスから得られる宇宙からの資源を共有することで恒久の平和を手に入れるはずであった。しかし……アトラスの完成を前に新たなるエネルギーを知り得た人類は 平和と協調のシンボルのはずだったこの塔から次第に目を離していく。時を同じくして、世界の各地で再び紛争や革命が頻発しはじめた。それはあたかも、見捨てられたアトラスが人類に雷を放ったかのようであった。そしてここベルゲン共和国にも、新たな戦火が上がろうとしていた……。

軌道エレベーター ― アトラス開発研究機構 (from 天網.net)




 ストーリーの主軸となるのは「アトラス」という軌道エレベーター。軌道エレベーター構想を扱ったもっとも有名な作品であり嚆矢となったものは、チャールズ・シェフィールドの『星ぼしに架ける橋』と、アーサー・C・クラークの『楽園の泉』(この二作はともに1979年発表)。その後、エンタメ作品でもポピュラーなガジェットとして扱われるのですが、わたしが初めて軌道エレベーターの存在を知ったのは本作でした。『公式ファンブック』のスタッフ座談会によると、アニメでは既にいくつかあったものの、ゲーム作品ではまだ扱っていなかったモチーフ、ということで軌道エレベーターの設定が選ばれたようです。アトラスはストーリー終盤でプレイヤーに牙をむくわけですが、突入前イベント・突入後イベントはともに屈指のアツさです。……後者の方はプレイ次第で別の意味でアツいことになりますが。


▼ガンハザード「キャラクター」
イカれたキャラクターたちを紹介するぜ!





 今なお根強い(一部カルト的なまでに)人気を誇るガンハザードを語る上でどうしても避けては通れないのが、敵味方キャラクター問わず妙に印象に残るセリフ回し。「ヒレツなマネばかりしおって もうがまんならん!」「爆撃しようか!」「ヒャア がまんできねぇ 0だ!」「そんなことをすれば海が汚染されるぞ!」などなど、枚挙にいとまがありません。そして、ガマンが足りない人が多い。それは主人公のアルベルトも同様で、アルハリの地上戦艦ガレオンの長く苦しい構造をくぐり抜け、来た道をまた戻り、弾薬も尽きかけ装甲もボロボロの状態でようやく地上に出たと思えば、「いや、この艦をたたく!」と言い放ち、そのままボス戦に突入という流れに泣かされたプレイヤーも多いはず。かくいうわたしもこのときばかりはアルベルトの正気を本気で疑いました。そもそもアルベルト軍曹は生身でも強い。伝家の宝刀「しゃがみ」で敵ヴァンツァーのたいていの弾丸を避けてしまうため、下手しなくても強い。攻略次第ではジェットパックで軌道エレベーターに突入し、生身で大気圏を突破できてしまう最強のワンマンアーミーなのですから、主人公補正というレベルじゃないです。というか、プレイヤーが生身で攻略することを想定してイベントシーンをちゃんとつくった(セリフも用意してある)スタッフもスタッフですよ。『ガンハザード 公式ファンブック』のスタッフインタビューでは、そのあたりの経緯も少しばかりうかがうことができます。


▼ガンハザード「ウェポン」


 習熟度システムにより、メインウェポン、サブウェポンともに性能にちょっと難があっても、使っているうちにそこそこ使えるようになるのがイイところ。さらに妙な愛着まで湧いてくる。やりこみプレイのしがいがあります。真上にしか発射できないアッパーバルカンは習熟度マックスでとんでもない威力を誇るようになる(ラスボス戦でも大活躍)ので、熟練プレイヤーのあいだでは禁止されることもしばしば。また、生身状態でのデフォルト武器であるハンドグレネードは習熟度マックスになると「同時に二個ぶん投げる」ようになるという大きなメリットがあるのですが、冷静に考えるとトンデモないことしてますね……。


▼ガンハザード「プロモーション」


「――ドラマはいつも、最前線でつくられる」。ガンハザード発売前に流れたTVCM(30秒)。ナレーターは中田譲治氏。燃える実物大ヴァンツァー(下半身基礎部分だけで6メートルあったとのことなので、全長は10メートルくらいでしょうか)、そして実写アルベルト。けっこうお金がかかっております。撮影場所は、アメリカ・ネヴァダ州のトノパという、軍の演習場などがある広大な砂漠地帯。監督は、当時「ロマンシング・サガ3」などのCMも手がけられていた臺佳彦氏(近年は『The World of GOLDEN EGGS』のディレクター/プロデューサー、映画『Present for You』の監督なども務められております)。映像はMisha Suslov。美術は「ターミネーター2」や「ロボコップ」などを担当したClarence Major。放映期間は1996年2月11日、2月16日~25日の計11日間。また、50秒のトレイラー映像も存在します。


▼ガンハザード「関連書籍/CD」

「ファミリーコンピュータマガジン 1996年2月9日号(No.3)」



 カゲミツの存在に大きくスポットを当てた記事。彼(?)はゲーム本編である条件を満たさないと加入しない、いわゆる隠しキャラクターですが、ゲーム発売前に存在が明かされていたということがわかります。また、ガンハザードのTVCM撮影レポートが載っており、現場の写真は全く同じものが後述の『公式ファンブック』にも使用されています。


『フロントミッションシリーズ ガンハザード オリジナルサウンドトラック』
作曲:植松伸夫&光田康典(仲野順也・浜渦正志)
ポリスター(1996年2月25日発売)

ガンハザード ― オリジナル・サウンドトラック
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 二枚組サウンドトラック。メインコンポーザーは植松伸夫氏と光田康典氏のお二人。また、仲野順也氏と浜渦正志氏が数曲担当されており、メインコンポーザー、サブコンポーザー共に豪華な顔ぶれのもとに制作されております。植松曲の一部は、この翌年に発表される「ファイナルファンタジーVII」の楽曲の雰囲気に繋がるものがあり(のどかな村落のテーマ「Centkrich」や、焦燥感を煽る「Warning Two」あたりを聴くとそれがよく伺えます)。一方の光田氏の楽曲も、ファンファーレ調の「Emotion」や、他の楽曲の旋律のモチーフを重ねて徐々に盛り上がっていく「Trial Zone」は、前年に発表された「クロノトリガー」に、イベント戦闘などで流れる「A Running Fight」は同年にサテラビューで配信された「ラジカルドリーマーズ」の楽曲を髣髴とさせる雰囲気をそれぞれ持っています。両氏の作風の変遷や違いを味わうことができるという点でも興味深いですし、スクウェア黄金期の充実ぶりも感じられる一枚です。

GUN HAZARD Original Soundtrack - プロキオンスタジオ


『ガンハザード 公式ガイドブック』
編集:ファミ通編集部
アスペクト(1996年3月26日刊行)

FRONT MISSION ガンハザード公式ガイドブック (ファミ通)
ファミ通編集部
アスペクト
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 いわゆる「大丈夫。ファミ通の攻略本だよ」。「Characters」「Wanzers」「Playing」「Stageguide」「Other data」の五つのパートで構成された全160ページ(A5判)。各ステージ攻略の簡潔なコメントが付された「Stage guide」は読みやすく、大丈夫なことは大丈夫なのだけれども、可もなく不可もない内容ともいえます。それ以外のパートはゲーム説明書に毛が生えた程度のもので、いまひとつかも。とにかくサクッと攻略したいんだという向きへの一冊。でも、後ろのページにある「敵ヴァンツァー一覧」には、「リアカー引いて戦う石焼き芋型ヴァンツァー」「男気満点の体育会系ヴァンツァー」といった、気が利いているんだか利いてないんだかなライターの一言コメントがちょっと楽しかったりもします。


『フロントミッションシリーズ ガンハザード 公式ファンブック』
監修:スクウェア|執筆:有限会社ディラック
アスペクト(1996年4月8日刊行)



「ファミ通ファンブック」シリーズ。全128ページ。判型がA4ということもあり、ヴァンツァーのジオラマは本書が一番見ごたえあり。また、本書の執筆者のなかに作家としても知られる高橋敏也氏の名前があり、ジオラマに付されたショートストーリーは氏によるものと思われます。ファンブックということで種々の企画ページがありますが、作りは緩め。ページ数稼ぎのような企画(クイズとか)もそこそこあるものの、「ヴァンツァー搭乗禁止」「買い物禁止」「短時間で突っ切る」といった縛りプレイ/やりこみプレイレポートや、TVCM撮影こぼれ話、ラジオドラマCMのシナリオ(全10話/1995年10月末から9週間にわたりニッポン放送でオンエアされたそうな)サウンドチーム(植松伸夫・光田康典・赤尾実)各氏への三つの質問や、大宮ソフトスタッフ(鈴木英夫・神宮孝行・只隈圭介・斉藤智晴・小林功一郎・中井覺)の対談ロングインタビューが目玉。対談では「傑怪老」こと只隈氏が大宮ソフトの「飯炊き係」であるという話や、クラークで同人誌を一冊つくってくれないかなと斉藤氏がこぼすくだり、キャラクターのセリフづくりでやたらテンションが上がった話など、ニヤリとできるネタが満載。巻末にはポストカードもついております。さらに、表紙カヴァーを外すと……。

フロントミッションシリーズ ガンハザード スタッフロール
本作の後、大宮ソフトのスタッフ陣は「カルドセプト」の第一作目を制作。


『フロントミッションシリーズ ガンハザード ミリタリーガイド』
NTT出版(1996年4月25日刊行)



「基礎知識」「世界設定」「キャラクター」「ストーリー」「データ」の五章で構成された、全223ページ(A5判)。キャラクターやヴァンツァー、兵装・アイテムの設定画も網羅し、各ステージのシナリオ面でのフォローも十分。巻末にはプロデューサーの前田靖幸氏、音楽担当の植松伸夫氏・光田康典氏をはじめ、プログラマーやグラフィックデザイナーら十数名の制作スタッフコメントを掲載。隅から隅までガッツリ攻略したい向きに必携の、情報量満載な一冊です。


『ガンハザード 鉄脚の傭兵』
著:山口宏
アスペクト(1996年6月7日刊行)

ガンハザード―鉄脚の傭兵 (アスペクトノベルス)
山口 宏
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 アスペクトノベルズより刊行された、アニメ脚本家の山口宏氏によるノベライズ。「プロローグ」「鋼鉄の掟」「鉄壁の友情」「氷点下の追撃」「エピローグ」の五編を収録。ゲーム本編を見事に補完する理想的なノベライズ作品であり、アルベルトと、ゲーム本編冒頭のエルトダール港でミサイルの直撃を受けてあっけなく死んでしまうレロスのキャラクターを掘り下げ、彼とアルベルトの新兵時代の友情を描いた『氷点下の追撃』は随一の内容。エルトダール港のシーンへと繋がるというストーリーの趣向もニクい。「鉄壁の友情」は、ブレンダとサカタの二人のフレンドシップを描くというドタバタエピソード。「鋼鉄の掟」は、本編のアルハリでのミッション以前の出来事としてルヴェンがクリムゾンブロウのビショップと一戦を交えるエピソードで、一対六のヴァンツァー戦という構図もじつにスリリング。ビショップの戦闘狂っぷりもしっかり書かれており、全国一千万人のガマンできないビショップ ファンの皆様も必見。


『フロントミッションシリーズ ガンハザード』
画:松田大秀
アスキー出版局(1996年11月22日刊行)

フロントミッションガンハザード (アスキーコミックス)
松田大秀
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 コミカライズ版ガンハザード。〈月刊コミックビーム〉1996年4月号~9月号にかけて連載された六話をまとめた短篇集。作画はミリタリーイラストでおなじみの松田大秀氏。ブレンダ、ルヴェン、サカタ、アニタ、クリムゾンブロウ、ロイスの前日譚を収録。本編の主人公であるアルベルトの大きな出番はぶっちゃけカヴァー絵くらいにしかなく、徹底的にサイドキャラクターを掘り下げた内容で潔いです。とくに、ジェノスとロイスの兄妹の決裂のキッカケと和解を描いた最終話は、ジェノスが主人公と言っていいくらいの内容。また、サカタのエピソードでは、彼と因縁浅からぬ関係を持つ御手洗というオリジナルキャラと、オリジナルシールドヴァンツァー「暁」が登場。当然、どちらもゲーム本編には出てこないのですが、こういったのもまたコミカライズの醍醐味。楽しめる内容です。前述の『鉄脚の傭兵』ともども、この二冊はレロスを犠牲にしてでも入手していただきたい。


『楽しいバイエル併用 ガンハザード』
ドレミ出版社(1998年12月刊行)

楽しいバイエル併用 ガンハザード
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ドレミ楽譜出版社
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 ゲーム発売から二年半以上経ったころに刊行された、ガンハザード関連書籍のなかでも、かなりイレギュラーな存在。なおかつ、関連書籍のなかでもっとも入手難易度が高い超プレミアアイテム。わたしも現物はお目にかけたことがありません。「楽しいバイエル併用」はフロントミッションファースト、セカンドでも刊行されましたが、いずれもどれほど市場に出回っていたのでしょうか、とても気になります。


■①『スクウェア・エニックス バトル・トラックス Vol.1』
スクウェア・エニックス(2007年5月9日リリース)

スクウェア・エニックス バトル・トラックス Vol.1
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■②『クリスマス・コレクションズ II music from SQUARE ENIX』
スクウェア・エニックス(2013年11月27日リリース)

クリスマス・コレクションズII music from SQUARE ENIX
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■③『CURE SQ Vol.1 “Holiay”』特典CD
スクウェア・エニックス(店舗限定購入特典)

Cure SQ
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 上記三枚はコンピレーション。①には"Genoce"が収録。②には浜渦正志氏みずからによる"焦燥"のアレンジヴァージョンが収録。③はタワーレコード限定特典CD。NOVOISKIによる"碧空"のアレンジが収録されています。

スクエニクリスマスアレンジCD第2弾リリース記念 浜渦正志インタビュー!


▼Twitter「#ガンハザード20周年」ハッシュタグもご覧ください

2016年2月22日月曜日

謎多き日本人キーボーディストによる、クラシカル・プログレ&トイポップの珠玉 ― Netherland Dwarf

Moi Moi
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Netherland Dwarf
Musea Records France (2011-07-04)
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 ウサギの品種のひとつであるネザーランド・ドワーフをユニット名に冠した、日本のインストゥルメンタル・ユニット Netherland Dwarf。プロフィールは謎に包まれており、2008年ごろより活動をはじめたソロユニットであること、インタビューから、Electric Light OrchestraやVangelis、Emerson, Lake & PalmerやCOLLEGIUM MUSICUM、セバスチャン・ハーディーなどから影響を受けたということがわかるのみです。2010年にレコーディングしたアルバム『Moi Moi』を、2011年夏にフランスのMUSEA Recordsから全世界流通でリリース。作風はメロトロンのサンプリングも多用した、マルチ録音によるキーボード・プログレ&シンフォニック・ロック。多少の打ち込みっぽさはあるものの、全編を包み込むやわらかでファンタジックな雰囲気や、勢いのあるドラマティックな曲展開が十分過ぎるほどにフォローしており、とりわけポストロック meets シンフォニック・ロックといった趣でオープニングを飾る大曲"Alone In the Blizzard Dawn"や、シャープな爽快感に特化した"Salad Bowl" "Netherland Dwarf"の畳みかけは必聴。ミハイル・グリンカによるオペラ「ルスランとリュドミラ」序曲や、ヘンデルのオラトリオ 〈メサイア〉HWV 56 「ハレルヤ・コーラス」、カミーユ・サン=サーンスのオペラ〈サムソンとデリラ〉より「バッカナール」、ハイドンの交響曲第104番ニ長調〈ロンドン〉第四楽章のダイナミックなカヴァー・アレンジも収録されており、「バッカナール」には、スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンド KAIPAのフロントマン/キーボーディストのハンス・ルンディンがゲスト参加もしております。




 その後、ユニットは2012年に『may the piper』、2014年に『tortoise walks forever』という二枚のアルバムをそれぞれフリーダウンロードでリリース。こちらはどちらもメロトロンを中心にしたミニマル・トイポップ作品で、キュートで人なつっこい箱庭的世界観がより追求された仕上がりです。





Netherland Dwarf Interview
(from Progressive Rock Music Forum|2011.11.23)

https://www.facebook.com/netherlanddwarf
https://twitter.com/n_dwarf
https://netherlanddwarf.bandcamp.com/

2016年2月19日金曜日

惑星ゲイシャに集いし、匠のワザ。エレクトロ・プログレの超新星爆発 ― CARTOON THEORY 『Planet Geisha』(2016)



 フランスのエレクトロ・プログレッシヴ・インストゥルメンタル・ユニット カートゥーン・セオリーの、2012年制作のデモ音源集『CARTOON 1.1 THEORY DEMO』に続くデビューアルバム。これまでに二枚のアルバムをリリースしているエクストリーム・マスメタル・バンド QEstreのドラマーであるマクシム・ラティエールと、スペインの一人インストゥルメンタル・ユニット Chernobyl's Flowersフアン・カルロス・ブリセーニョ・サンチェスによるタッグ。実験的な活動を展開してきたフアン・カルロスの生み出すミクスチャーな作風に、マクシムのパワフルな推進力が加わったことで、空間的広がりのあるエレクトロ/アンビエント色と、細かくスクラッチしながらのdjent/グルーヴ感を融合させたユニークなサウンドが誕生。さらに、日本の「芸者と侍」「伝統とモダン」の二面性に惹かれたという彼らはジャパネスクなムードも織り交ぜており、それらはアルバムタイトルやヴィジュアル、「花見」「花街」「招き猫」といった楽曲名はもちろん、曲中のグルーヴやスキマからも感じ取ることができます。楽曲はフアン・カルロスがギターとベースを、マクシムがキーボード/プログラミングを担当。そして、元Periphery~現Darkest Hourのドラマー トラヴィス・オービンが全面的に叩いております(彼はプロデュースも兼任)。




 また、彼らはコラボレーションにも積極的で、同郷リモージュのメタルバンド LizZardのギタリストのマシュー・リコウや、女性ヴォーカリスト Zelie Tible。昨年に日本デビューを果たしたセルビアの気鋭 Destiny Potatoのギタリスト デイヴィッド・マキシム・ミシッチ。オーストラリアのギター・ヴァーチュオーソ Plini、そして彼の右腕的存在であるキーボーディストのルーク・マーティンといったゲストの顔ぶれが、アルバムの推進力をもう一段階高めております。デモ音源集にも収められていた"Hypnotic nova's dance""Wizardry Mind"の二曲のリメイクは、ともにPliniのメリハリ鮮やかなプレイでめざましく生まれ変わりました。そしてタイトル曲の"Planet Geisha"は、全五パートからなる大作。Pliniとデヴィッドの二大ギタリストが激突する第一パート"Sacred Geometry"では途中で三石琴乃さんの声が一瞬挿入されるのですが、「イルパラッツォさまバンザーイ!」と聞き取れるところからみると、これは『エクセル・サーガ』からですね。間違いない。第二パート"Hanamachi 花街"はZelieの蟲惑的なヴォーカル/コーラス(ちょっとケイト・ブッシュ風)をフィーチャーした、ゆるやかなエレクトロ・ポップ。ブレイクビーツ/ダブステップの傾向強めな第三パート"Maneki Neko 招き猫"をブリッジにして、煌びやかに流線型を描きながら第四パート"The Art"、第五パート"The Murmuring Of Tokyo's Anthill"と畳みかけ、宇宙的な余韻を残しながらフィナーレを迎えます。気持ちよくスパークする各人の才能の発露とともに、ぜひとも味わってみてください。ダウンロードは€2.99(約400円)と、非常にリーズナブルなのも嬉しい。


 「WORLD PREMIERE: “WIZARDRY MIND” 【CARTOON THEORY】」
(from Marunouchi Musik Magazine|2016.02.05)

https://www.facebook.com/CartoonTheoryBand/
http://cartoontheory.bandcamp.com/

2016年2月18日木曜日

コンポーザーとギタリスト、阿吽のテクニカル・フュージョン・デュオ ― 菊田裕樹&佐々木秀尚『ANGELICFORTRESS』(2015)


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『聖剣伝説2』『聖剣伝説3』『双界儀』『シャイニング・ハーツ』など、多数のタイトルの楽曲を手がけるコンポーザーであり、自身のサークル「メタファジックチャイルド」でのオリジナル作品リリースも精力的に展開されている菊田裕樹氏と、ジャズ・ギタリストであり、ギターインストラクター/ライター、sasakure.uk氏が主宰するバンド「有形ランペイジ」のメンバーでもある佐々木秀尚氏が組んだデュオ・ユニット ANGELICFORTRESSのデビューアルバム。全曲の作編曲を菊田氏、ギターを佐々木氏が担当した全5曲のインストゥルメンタル集です。




 メタファジックチャイルドでの近年の作品は、「人狼」ゲームの場へ供したイメージアルバム『人狼伴奏音楽集』(2013)。ミニマルミュージックへの追究により生み出されたアコースティック・インストゥルメンタル『スティーブ・ライヒの主題によるインテグラルポリフォニー』(2014)。JH科学のカードゲーム「真空管ドールコレクション」の世界観を40分越えのオーケストラルな大曲で表現した『女子真空管交響楽』(2014)。エピック/シンフォニックなインストゥルメンタル『死者の代弁者』(2014)、泉鏡花の同名作品に題をとった幻想コンセプトアルバム『夜叉ケ池』(2015)と、“攻め”のリリースが続いているのですが、そんな菊田氏が次に目指したコンセプトはズバリ、プログレッシヴ・ロックとフュージョンのミックス。





 ファンタジーRPG調の雰囲気を漂わせつつ、抜群のセンスとテクニックを兼ね備えた佐々木氏のギタープレイを主軸に構築されております。テーマ・メロディの反復の上を佐々木氏が縦横無尽にプレイする"Angelic Fortress"は、ユニットの方向性を象徴する一曲でもあります。"Neo Pragmatism" "Mission Field"は伸び伸びと開放感のあるオルガン・フュージョンを、"End of Assault"では、シリアスに引き締まったプログレッシヴ・ロックをそれぞれ展開。よりハードエッジな方向性の"Dark Schizophrenia"では、複雑かつトリッキーなフレーズがゴリゴリと仕込まれており、マゾヒスティックなまでの高密度の音空間におけるコンポーザーとギタリストの切り結びを聴いてとることができます。それだけにギターレコーディングは非常に難航していたようですが、見事やってのけた佐々木氏に頭が下がります。また、同曲は過日開催された東京ゲーム音楽ショー2016におけるANGELICFORTRESSのライヴでもプレイされておりましたが、これまた飛びぬけた安定感でガッツリと弾きこなされており、聴いていてとにかく気持ちよく、ただただ圧倒された次第。すごいものを目の当たりにしたという感嘆の一方で、この方向性で今度はリズム隊を迎えたバンドスタイルでも聴いて/観てみたいなという気持ちも頭をもたげてきました。実現はより大変なものになるでしょうが、今後のさらなる展開に期待したいです。

http://hirokikikuta.com/
https://www.youtube.com/channel/UCy6_LDI2edFlRCn9rlG7YQw
https://hirokikikuta.bandcamp.com/
http://hidehisa.syncl.jp/

2016年2月17日水曜日

復活を遂げた新世代ロシアン・プログレの雄。10年の時を刻む万感の第三作 ― Gourishankar『The World Unreal』(2016)



「ヒマラヤの頂」を意味する、ロシアのプログレッシヴ・ロック・バンド グリシャンカール。ギタリストのNomy AgransonとキーボーディストのDoran Usherを中心として2001年に結成され、ハードロック/ヘヴィメタル、ジャズ・ロック/フュージョン、シンフォニック・ロック、テクノ、デジロック、ニューエイジ、ワールドミュージックと、豊富な音楽要素とアイデアを盛り込み、新世代バンドらしい柔軟なセンスが発揮されたユニークなサウンドでシーンに話題を吹きこみました。2007年に2ndアルバム『2nd hands』をリリース後にヴォーカルとドラマーが脱退。2010年に新ドラマーのSvetoslav Bogdanovと英国人シンガー Jason Offenを迎えたものの、今度はオリジナルメンバーのDoranが個人的な事情により脱退と、相次いで大きな転機を迎えていたバンドですが、ついに本格的再始動。2015年にはbandcampアカウントを登録し、過去作のリマスターエディションもリリース。新作アルバムのレコーディングも着々と進められ、約10年ぶりに完成したのが本作『The World Unreal』。2016年2月時点ではデジタルリリースのみですが、後ほどCD/LPエディションのリリースも予定されております。




 アルバムはNomy、Svetoslav、Jasonのトリオを主体に、ヴァイオリンやトランペット、バッキングヴォーカルのパートなどでセッション・ミュージシャンを起用して制作。Doran脱退後は後任を迎えず、Nomyがキーボードパートも請け負う形になっています。そのぶん、楽曲はこれまでと比べるとだいぶソフトなつくりになったと感じるのですが、むしろJasonのジェントリーなヴォーカルを活かす路線にシフトしたと言えます。持ち前の抜けの良さはそのままですし、要所でのアレンジの妙も健在。いくつかの楽曲ではDoranのアイデアが組み込まれてもいます。穏やかなインストゥルメンタル"Intro - Fate"で開幕し、続く"Order And Chaos"ではエスニックなヴォーカリゼーションも交えたエレクトロ・ジャズ・ロックともいうべきサウンドで硬質さをアピール。そして、"First Rush" "Let It Go"と、ポストロック サイドに強くアプローチをかけた浮遊感のある楽曲が続きます。クリアーなテクニカル・ロック・チューン "Place For Everything" "Heartland"、そして本作最長の12分の長尺曲"Truth Stays Silent"は、バンドとコーラスアレンジの絶妙な間のある駆け引きが繰り広げられるユニークな一曲。万感の想いすら感じさせるミドルテンポのシンフォニック・ロック"World Unreal"と、スロウなドリーミー・ポップ"Time Follows"を経て、ラストは2パートで構成されたポストロック meets プログレ大曲"Pleasure And Suffering"。じっくりと構築を重ねるかのような聴き応えの「Part.1」、メカニカルなフレーズとピアノソロを満載した「Part.2」と、それぞれのパートの対比の妙とともに幕を閉じます。

http://gourishankar.com/
http://vk.com/gourishankar
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=2931

2016年2月14日日曜日

『オデッセイ』観て観て! おっぱい(・Y・)!!

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
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殺戮のオデッセイ〈中〉 (角川文庫)
ロバート・ラドラム
角川書店
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『火星の人』の映画化邦題がなぜ『オデッセイ』になるのか、それはマット・デイモンがジェイソン・ボーンだからである(殺戮のオデッセイ)。などという冗談はさておき、『オデッセイ』を観ました。うん、素晴らしかった。削るところは削ってある(原作後半のローバーでの長い長い冒険行の部分)わけだけど、それでも2時間半近かったし、映画ゆえの省略化はしょうがない。原作の魅力であるコメディな部分も、完全再現は無理にしても(かの「みてみて! おっぱい!」のくだりとか)、押さえるところは押さえていたので見ごたえ十分でした。序盤で刺さったアンテナの摘出シーンのくだり(ホッチキスパチンパチン)にやたら力が入っていたのもグッときた。そして、ダクトテープはやはり最強でしたね。あと、「エルロンド会議」のシーンでショーン・ビーンがいるという構図は含み笑いを禁じえなかった……と、小ネタもふくめていろいろありますが、とにかく私が言いたいのは、船長のディスコ趣味は最高ということです。挿入歌のナイスな使い方。ドナ・サマーの「ホット・スタッフ」がかかるシーンには思わずえびす顔だったし、やはり船長のディスコ趣味は最高ということになる。ところで、船長宛のビデオメールで彼女の夫が蚤の市から見つけたというレコードを見るシーンで一瞬だけ映ったのはABBAの『Greatest Hits』のUK/US版LPの見開きですね。四人の男女が映っていたし。




「オデッセイ」のサウンドトラックは、挿入歌メインのコンピレーション盤と、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズによるスコア盤と、そして挿入歌&スコアの両方をセットにした二枚組の三種類あり、スコアのみのものはCD盤は存在せず、ダウンロード販売だけ。日本のAmazonMP3にはないのだけど、iTunesにはある。また、向こうのAmazon MP3では、スコアのなかでも「Making Water」の単曲ダウンロード数がダントツで高い。Foo!(Bomb)





Songs from the Martian
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The Martian: Song and Score
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Harry Gregson-Williams
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『The Martian Original Motion Picture Score』
https://itunes.apple.com/jp/album/martian-original-motion-picture/id1043613134


Here’s what ‘The Martian’ author had to say about those book-to-movie changes
(from HITFIX|2015.10.03)
「オデッセイ」原作と映画版のちょっとした違いについて、原作者のアンディ・ウィアーへのインタビュー記事(ネタバレ注意)。「エルロンド会議」のシーンへの言及も。

Harry Gregson-Williams Interview: The Martian, Ridley Scott, Hans Zimmer
(from DEN OF GEEK|2015.10.01)
「オデッセイ」公開に際してのハリー・グレッグソン=ウィリアムズへの長めのインタビュー。

2016年2月13日土曜日

ヘヴィでメロウな次元上昇ドライビングミュージック ― 特撮『ウインカー』(2016)

ウインカー【通常盤】
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キングレコード (2016-02-03)
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 大槻ケンヂ率いるトラウマ・ヘヴィ・ロック・バンド 特撮の約三年ぶりの新作フルアルバム。本作のおおまかなテーマは「ドライビングミュージック」ということで、車にちなんだ楽曲が多め。なお、初回限定盤と通常盤でアルバムジャケットの車の色とナンバープレートの数字が異なり、各ヴァージョンの品番があしらわれています。「1093 TKS2」は、つまり「とくさつ」。映画「ヌイグルマーZ」の主題歌タイアップとして2014年1月にリリースされたマキシシングル収録の"シネマタイズ(映画化)" "ハンマーはトントン"の再録のほか、アニメ「監獄学園」への提供曲"愛のプリズン"、声優バラエティ番組「声優男子…ですが?」への提供曲"七人の妖"の各セルフカヴァーを収録。本作のキャッチーな側面はこの3曲が存分にカヴァーしています。アルバム曲はスタジオでのセッションを中心として肉づけしていったとのことで、ストレートにライヴ映えする曲が増えたなというのが第一印象。また、前作『パナギアの恩恵』に伴う2013年のツアーからサポートベーシストとして参加しているOBLIVION DUSTのRIKIJI氏がほぼ全曲("ハンマーはトントン"のみ高橋竜氏)のベースを担当しております。




 オープニングの"荒井田メルの上昇"は、バイク事故でアセンション(次元上昇)してしまった少女 荒井田メルが「ザ フューチャー」なるカリスマに覚醒するというストーリー。荒井田メルは終盤の"人間蒸発"にも登場し、本作のキーパーソンとなっています。そして、彼女の行く末は「どうなったのか分からない」。不条理展開とオチはオーケンの十八番ですね。心なしか歌メロが前作の"タイムトランスポーター2「最終回ジャンヌダルク護送司令・・放棄」"に似ているのですが、これが意図的なものなのか無意識的なものなのかはともかくとして、あの曲のストーリーも歴史改変の果てに渾然としたオチがついていたなあと、ふと思い出しました。"音の中へ"にはイヤホンズでも活動する声優の高野麻里佳さんが参加。『Agitator』の激重路線を想起させる、ARIMATSU氏作曲のヘヴィ・グルーヴ・チューン"アリス"は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と谷村新司のアリスのクロスオーヴァーを思いついたがゆえのムチャクチャな一曲。"富津へ"は、オーケンが車で富津(ここは疎遠だった兄が亡くなった地とのこと)へドライブへ行った際に詞が浮かんだという、ウェットなスロウバラード。前作に引き続き、声優の後藤沙緒里さんがウィスパーボイスを吹き込まれているほか、元オフコースのメンバーでシンガーソングライターの松尾一彦氏がハーモニカを吹かれております。ストリングスアレンジはNARASAKI氏の盟友 WATCHMAN。

 "人間蒸発"は本作のハイライトで、前述の荒井田メルの動向を描きながらアジったり啓蒙したり感極まったりするミクスチャーな詞のドライヴ感が、ズルズルとヘヴィに引き摺ったシャッフル・ビートのオルガン・ロックに妙にマッチ。どう控えめに言ってもこれは怪曲です。ラストの"ハザード"は、英詩のモノローグが載ったピアノ・インストゥルメンタル&ダークアンビエントという、いままでの特撮とはまったく趣を異にしたシリアスな一曲。訳詩を手がけたDaniel S. Burnstein氏のプロフィールは不明なのですが、一方のKenji Shimoda(下田健二)氏はCOALTAR OF THE DEEPERSのアルバムにエンジニアや作詞などのクレジットでみかける方ですね。とんでもないオチがついた感のある本作ですが、終わってみればなんだかんだでバランスが取れているなと。力の抜きどころを設けながらも手応えのあるものを提示しており、筋肉少女帯と同じく良好なコンディションが保たれています。


『特撮「ウインカー」インタビュー』
(from 音楽ナタリー|2016.02.03)

『約3年ぶりのニュー・アルバム『ウインカー』リリース!特撮・大槻ケンヂのインタビューを公開!』
(from リスアニ!|2016.02.06)

『特撮:大槻ケンヂ&NARASAKIに聞く「50代でロックやってもカッコいい」』
(from まんたんウェブ|2016.02.07)


特撮『パナギアの恩恵』(2012)

2016年2月12日金曜日

ニンジャとセックスのパーティー! アメリカのコメディポップデュオ ― NINJA SEX PARTY



 今年のMAGfestの出演者のラインナップを見ていて、ふと目に止まったのがこのユニット、「NINJA SEX PARTY」。一体、ニンジャセックスパーティーってなんなんだよといったところなんですが、デジタルゴリラミュージックばりのパワーのほとばしりを感じました。NINJA SEX PARTYは、Skyhillというロック・ユニットでヴォーカリストだったダニー・セックスバング(Leigh Daniel Avidan)と、音楽ディレクターとして活動していたニンジャ・ブライアン(Brian Wecht)の二人が2009年にニューヨークで結成したコメディ・ユニットです。だからニンジャ・セックス・パーティー。YouTubeでのPRやライヴはもちろん、SXSWやコンベンション、フェスなどへの参加も活発に行い、その出で立ちとパフォーマンスで着々とファンを獲得。『NSFW』(2011)、『Strawberries and Cream』(2013)、『Attitude City』(2015)と、これまでに3枚のアルバムをリリースしており、一作目/二作目はbandcampアカウントで聴くこともできます。やたらとキャッチー、そしてメロディアスなエレクトロ・ポップ/ロックであり、ふざけているようで行き届いたアレンジのイイ曲が満載されております。








 ちなみにダニーとブライアンの二人は、ゲームを肴に愉快なトークなどを繰り広げる番組「Game Grumps」のレギュラーでもあり、同番組の出演者で結成されたナードコア&シンセポップグループ Starbombでも活動中。2013年と2015年にアルバムをリリースしております(著名なゲームキャラがアホなやり取りを繰り広げるPVも必見)。また、ギンギラギンにグラムなハード・ロック・バンド Steel Pantherとのコラボレーションも過去に行っており、スタンド使いは惹かれあうのかなどと納得してしまいました。2015年には、ピーター・S・ビーグルの傑作ファンタジー『最後のユニコーン』のアニメーション映画(1982)の主題歌"The Last Unicorn"のカヴァーをbandcampにてフリーダウンロードでリリース。これがまたオフザケ一切なしの良カヴァーなのが心ニクイ。3月4日には同曲を含むカヴァーアルバム『Under the Covers』のリリースを予定しています。選曲が絶妙。





Under the Covers
Under the Covers
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Ninja Sex Party (2016-03-04)

《収録曲》
①Take On Me (A-ha)
②Everybody Wants To Rule The World (Tears For Fears)
③Subdivisions (Rush)
④Your Love (The Outfield)
⑤Misunderstanding (Genesis)
⑥Rock With You (Michael Jackson)
⑦Madrigal (Rush)
⑧The Burning Down (King's X)
⑨Jump (Van Halen)
⑩We Close Our Eyes (Oingo Boingo)
⑪The Last Unicorn (America)
⑫Wish You Were Here (Pink Floyd)


http://ninjasexparty.com/
https://www.youtube.com/channel/UCs7yDP7KWrh0wd_4qbDP32g

2016年2月11日木曜日

ベネズエラ製サイバーパンク・バーテンダーADV「VA-11 HALL-A」のサントラが、深夜都市へとその身を誘う


  ベネズエラのインディーズデベロッパー「Sukeban Games」が制作している“サイバーパンク・バーテンダー・シミュレーション”「VA-11 HALL-A」。2014年にプロローグ版がリリースされ、2015年9月の東京ゲームショウ2015では日本語版デモも出展されました。が、2015年内リリース予定だったスケジュールは現在も遅れております。少数での制作ということもあり、こればかりは気長に待つほかありません。制作進行ブログの更新頻度とpostをみるにつけ、なかなかテンパっていらっしゃる。



 体内に埋め込まれたナノマシンにより人々が完全に企業の管理下に置かれた近未来都市を舞台に、場末のバーテンダーとして客にカクテルを提供するというのが「VA-11 HALL-A」の大まかなコンセプト。カクテルのレシピによってシチュエーションやストーリー展開がさまざまに変化します。日本風のキャラクターデザインや、往年のPC-98のアドベンチャーゲームに強くインスパイアされたゲームシステムやグラフィックから、制作チームのジャパニーズカルチャーへの傾倒ぶりもうかがえます。公式サイトでは体験版を配布しているので、その世界観をぜひお試しあれ。





 ゲーム本編はTo be announced状態ではあるものの、同作のサウンドトラックは既にリリースされており、プロローグ版のサントラ『Sounds From The Future』(全18曲/2014年8月リリース)と、本編サントラ『Second Round』(全44曲/2016年1月リリース)の二つが、コンポーザーのGaroadことMichael Kelly氏のbandcampアカウントからそれぞれダウンロード購入できます。煌びやかなメロディが彩るシンセ・ポップ/アンビエント/AOR/フュージョンの宝庫であり、深夜の都市のイメージとアダルティーなムードを演出するインストゥルメンタルが、クレバーな雰囲気に浸らせてくれます。オススメ。




 『バーテンダーが主役のベネズエラ産ノベルゲーム『VA-11 HALL-A』TGS2015デモプレビュー、南米から「ニコ生」の暗さ突く』
(from AUTOMATON|2015.09.18)


http://sukeban.moe/
https://kiririn51.itch.io/valhalla-bar
https://soundcloud.com/garoadmusic
https://www.humblebundle.com/store/p/va_11hallaprologue_storefront

2016年2月10日水曜日

北斗の拳をコンセプトにしたメタルオペラアルバム『Fist of the Seven Stars』がイタリアからリリース

Fist of the Seven Stars, Vol. 1: Fist of Steel
Diamonds Prod. (2016-02-07)


 イタリアのメタル・オペラ・プロジェクト GABRIELSの新作アルバム『Fist of the Seven Stars Act1 - Fist of Steel -』が2日7日付けでデジタルリリースされました。CD盤は4月リリース予定。アルバムタイトルやジャケットの時点で明白ですが、同作は「北斗の拳」をコンセプトにした作品。公式サイトでは「This is a Rock-opera dedicated and freely adapted from "Hokuto no ken" by Tetsuo Hara and Buronson!!! 」と高らかに宣言しています。イタリアのメタルシーンでは過去にHIGHLORDが"TOUGH BOY"をカヴァーし、DGMが"愛をとりもどせ!"をカヴァーしていますが、北斗の拳そのものをコンセプトにしてアルバムを制作したのは彼らが初ではないでしょうか。ちなみに試聴トレイラーではいきなり「No Boy No Cry」「Keep You Burnin'」と高らかに歌い上げる曲を耳にすることができますが、もちろん"TOUGH BOY"へのオマージュです。「Vol.1」とついている以上、少なくとも「Vol.2」の制作が予定されていると思われるので、期待いたしましょう。




 GABRIELSはキーボーディスト/コンポーザーのゲイブリエルズ・シローを中心として2000年代半ばより活動を展開しているプロジェクト。2009年に三枚のシングル/EPをリリース。その後、DENIEDやMetaphysicsといったメタルバンドなどのスタジオワークの合間を縫って、2010年に1stアルバム『The Legend of a Prince』をリリース。一方、ゲイブリエルズが「Soundimension Records」という自身のレコーディングスタジオを立ち上げたことでプロジェクトとしての活動もより本格化し、2013年リリースの2ndアルバム『Prophecy』ではマーク・ボールズ(ex.YNGWIE MALMSTEEN、RING OF FIRE etc)をはじめ十数名が参加。約3年ぶりとなる3rdアルバム『Fist Of the Seven Stars Act1 - Fist of Steel -』ではレコーディングメンバーもより増員し、Bare Infinity、Darkest Sins、Drakkar、Platens、Metatrone、Dark Avenger、Metaphysics、Vision Divineのメンバーを含む六人のヴォーカリストと七人のギタリストが名を連ねています。





『Fist of the Seven Stars Act1 - Fist of Steel -』

《Line-up》
Gabriels(All the Keyboards, Piano, Synth, Hammond and background vocals)
Wild Steel 【Shadows of Steel】(Vocals)
Dario Grillo 【Platens】(Vocals)
Marius Danielsen(Vocals)
Ida Elena 【Bare infinity】(Vocals)
Dave Dell'Orto 【Drakkar】(Vocals)
Iliour Griften(Background Vocals)
Glauber Oliveira 【Dark Avenger】(Guitars)
Stefano Calvagno 【Metatrone】(Guitars)
Giovanni Tommasucci(Guitars)
Francesco Ivan Sante'Dall'O(Guitars)
Angelo Mazzeo(Guitars)
Tommy Vitaly(Guitars)
Dino Fiorenza 【Metatrone】(Bass)
Christian Cosentino(Bass)
Simone Alberti(Drums)


《Guest》
Andrea "Tower" Torricini 【courtesy of Vision Divine】(Bass and Guitars)
Davide Perruzza 【Metaphysics】(Guitars)



http://gabriels.altervista.org/sito/
https://www.facebook.com/Gabriels-149742851807267
http://www.metal-archives.com/bands/Gabriels/108721


「ベルセルク」にリスペクトを捧げる、イタリアのパワーメタルバンド ― BEJELIT『Hellgate』(2004)
直接の関連はないですが、同じイタリア勢ということで。こちらは2013年に解散しています。

2016年2月9日火曜日

爽やかに時空が歪み、淡い歌心が郷愁を誘うグラマラス・ポップ ― クウチュウ戦『Sukoshi Fushigi』(2016)

Sukoshi Fushigi
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クウチュウ戦
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 2008年に結成された歌謡ポップバンド クウチュウ戦。空飛ぶ円盤に弟が乗りそうなジャケットをあしらい、アルバムタイトルに『プログレ』の四文字を躍らせ、13分、9分、15分というロングレンジの楽曲を引っさげて2013年にシーンに登場。独特の立ち位置で繰り出される歌謡プログレなサウンドは、あらぬ方向へ展開したかと思えばスルっと元に戻ったり戻らなかったりするというただならなさ。確かな演奏力、詞をひっくるめてあふれだす70年代感、そしてヴォーカル&ギターのリヨ氏のキャラクターもあいまって、爽やかに時空が歪むような不思議なぶっ飛び方をしています。その独特の世界観はミュージックビデオにおいても発揮されており、ヤーチャイカや太平洋不知火楽団も手がける佐藤敬氏による"佐知子"のMVを観たときには度肝を抜かれました。インタビューによると、井上陽水、さだまさし、PINK FLOYD、KING CRIMSONの四組がリヨ氏のルーツとのこと。なるほど納得の面々と言えましょう。また、公式YouTubeアカウントには陽水の"夢の中へ"をカヴァーしたライヴ映像が上がっており、部分的にYESの"燃える朝焼け"に可変もするといったパフォーマンスを目にすることができます。また、キーボーディストのベントラーカオル氏は、テクニカル・インストゥルメンタル・バンド LAGITAGIDAのサポートメンバー 五十嵐馨としてもバリバリ活動中であることを付記しておきます。




 2015年5月に、クウチュウ戦はファーストミニアルバム『コンパクト』をリリース。レコ発ライヴをソールドアウトさせた勢いのまま新作のレコーディングに入り、二枚目のミニアルバムとして完成したのが本作『Sukoshi Fushigi』です。私事になりますが、今年の頭にラジオでふと耳にした曲が、急転直下のプログレ展開から“光の速さで動けばどこへも行ける 月までひとっ飛び 木星まで38分♪”などと歌い出しだしたので耳を疑ったのですが、それがこのアルバムの冒頭曲"光線"でした。同曲はMVもあり、キュウソネコカミやクリープハイプ、ゆるめるモ!なども手がける加藤マニ氏が制作を担当。とっちらかった遊び心も楽しい内容です。"青い星"では、主人公のフィーリングの高ぶりがトロピカルでスペイシーな楽曲展開に反映されております。続く"雨模様です"も、ユルユルと気持ちのよいポップソング。"台風"はゴリゴリなベースラインが引っ張る、疾走感に富むハードプログレチューン。途中で急カーブとストップ&ゴーな展開も炸裂しています。これまでとは毛色の異なる"にゅうどうぐも"は、リヨ氏のソロ曲をベースとしたインストゥルメンタル。ピアノトロニカにも近いキラキラとした小品です。ラストはゆったりとスロウな"エンドレスサマー"で〆。けだるげで、タメの効いた歌心がじんわりと身に染みてゆきます。どこか郷愁が淡くたゆたう、少し不思議でのっぴきならない世界に、アナタもぜひ足を踏み入れてみませんか?



「INTERVIEW:クウチュウ戦」
(from うたまっぷ.com|2016.02.03)

https://koochewsen.com/
https://www.youtube.com/channel/UCTVInKDUcoBrKJJgVLaoz2A

2016年2月8日月曜日

誕生、生命、死そして復活 ―「ホドロフスキーのDUNE」サントラ ― Kurt Stenzel『“Jodorowsky's Dune”OST』(2015)

ホドロフスキーのDUNE [Blu-ray]
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 アレハンドロ・ホドロフスキーが、フランク・ハーバートのSF叙事詩『デューン/砂の惑星』を壮大な構想と破格のスタッフ/キャストのもと映像化するべく70年代に制作に取り組むものの、ついに幻に終わってしまった経緯を追ったドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」(監督:フランク・パヴィッチ)。クルト・シュテンツェルの作曲による、同作の劇伴を収録したサウンドトラックが、昨年11月13日にLight in the Attic RecordsのCINEWAXレーベルよりリリースされました。クルト氏の来歴、そしてパヴィッチ監督とクルト氏の出会いについては、当ブログの昔のエントリもご覧いただければ幸い。映画公開(2014年3月)からサントラのリリースまでに一年半ちょっともの間が空いたのは、制作途中でクルト氏が脳梗塞で倒れ、リハビリに取り組んでいたこともあってのこと。氏の回復と、晴れてサントラがリリースされたことをまずは喜びたいです。LP(二枚組/ダウンロードコード付き)、CD、MP3の各種形式でそれぞれ販売されており、Amazonでも購入可能です。


 『ホドロフスキーのDUNE』のスコアには、クルト氏が若い頃から聴き親しんでいた冨田勲の影響が出たのだそうです。一方で彼はクラウト・ロックもいたく愛好しており、CLUSTERやハンス・ヨアヒム・ローデリウスをフェイバリットに挙げております。また、パヴィッチ監督はドキュメンタリーの制作にあたって、当初はTANGERINE DREAMタイプのサントラを構想していたとのこと。最終的に、心地よくたゆたうかのようなシンセサイザー主体のメディテーショナルなスコアに仕上がっております。レコーディングには、Casio CZ-101やCasiotone MT-60、YAMAHA TG-33、Roland JUNO-6などのヴィンテージシンセサイザーのほか、カシオトーンなども使用。サントラは全33曲、短いもので約20秒、長いもので約6分と長短様々なスコアを、「BIRTH」「LIFE」「DEATH」「RESURRECTION」の四部の章に配して構成されています。

《LP》
Jodorowsky's Dune [Analog]
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《CD》
Jodorowsky's Dune
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《MP3》
Jodorowsky's Dune (Original Soundtrack)
cinewax / Light In The Attic Records (2015-11-06)



「Kurt Stenzel & The Score To Jodorowsky’s Dune」
(from Synthtopia|2014.04.30)

「Meet Kurt Stenzel, Soundtrack Composer to ‘Jodorowsky’s Dune」
(from City Sound Inertia|2014.05.14)

「Kurt Stenzel shares three songs from his Jodorowsky’s Dune score ? listen」
(from Consequence of Sound|2015.11)

http://kurtstenzel.com/


「ドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』のサントラを手がけた男、クルト・シュテンツェル (Kurt Stenzel) 」


デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (上) (ハヤカワ文庫SF)
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デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (下) (ハヤカワ文庫SF)
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2016年2月7日日曜日

凝らされた技巧とハーモニーをユーモラスに包む、イスラエルのジャンルクロスオーヴァー集団「Project RnL」

 
 イスラエル・テルアビブのプログレッシヴ・ロック・バンド Project RnLのレコーディング曲が少し前にバンドのsoundcloudで全曲フリーダウンロードできるようになったのですが(要soundcloudアカウント)、コレがすんごくイイ内容です。フロントマンでありキーボーディストのEyal Amirは、現在コンポーザー/プロデューサーとしてニューヨークを拠点に活動中でもあるのですが、今から十年以上前に、彼がヴォーカリストのRay Livnatと組んだデュオがProject RnLの母体となります。その後、イスラエルで活動するセッションミュージシャンに声をかけ、強固なバンドアンサンブルを編成。2010年にプロジェクトとしての活動が本格化していきます。ちなみに、ベーシストのOr Lubianikerは、マーティ・フリードマンやロン“Bumblefoot”サール、元ORPHANDED LANDのヨッシ・サッシとの共演歴もある実力派です。




 DREAM THEATERなどのアメリカン・プログレッシヴ・ハード/メタル由来のハードエッジでフックのあるサウンドをベースに、ジャズ、フュージョン、エレクトロ・ポップ、オルタナティヴ・ロック、ヒップホップのエッセンスを惜しみなく投入。そして何より、GENTLE GIANT影響下のストレンジな多重コーラスハーモニーが強く押し出されており、とにかく耳を惹きつけます。「Rock n'LOL」を意味するバンド名からもわかるように、ユーモラスな抜けのよさもバツグン。スタジオライヴ音源や、Eyalのソロ曲、テイラー・スウィフトやBlurのカヴァーも交えながら、DREAM THEATERのジョーダン・ルーデスをはじめ、ブルックリンのポップマエストロのブライアン・スカリー、インディーロックユニットのThe Pomplamoose、エレクトロブロニーおじさんのThe Living Tombstone、ジャズ・ヴォーカリストのタミー・シェファーなど、ジャンルを越えたコラボレーション曲も満載しており、話題性にも富む内容です。とくにルーデスとは親交が深く、彼をフィーチャーしたヴァージョンの"Another One"は、ルーデスの開発したiPad用楽器アプリ「MorphWiz」を駆使して制作されており、いわゆるプロモーションも兼ねた楽曲なわけです。2011年に単独で配信リリースもされました。




 バンドは2月中旬から3月下旬にかけてOZRIC TENTACLESとのツアーが控えているほか、今年の春のリリースを目指して新作アルバムのレコーディングを進めているとのことで、今後ますます要注目のバンドです。


http://www.projectrnl.com/
https://www.facebook.com/ProjectRnL
https://www.youtube.com/user/ProjectRnL
https://www.youtube.com/user/EyalAmirMusic

2016年2月6日土曜日

ジェフ・ダウンズとクリス・ブレイド。二人のメロディメイカーの「イイ仕事」― Downes Braide Association『Suburban Ghosts』(2015)

Suburban Ghosts
Suburban Ghosts
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Downes Braide Association
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 ASIA、BUGGLES、ICON、YES、その他数々のプロジェクトに名を連ねる多忙なキーボーディスト/コンポーザーのジェフ・ダウンズと、トレヴァー・ホーンやロル・クレームらが名を連ねるプロデューサーバンド Producersに参加し、現在は同バンドのアッシュ・ソーン、IT BITESのリー・ポメロイと共にメロディアス・ポップス・トリオ This Oceanic Feelingを立ち上げ活動しているクリス・ブレイド(ブリトニー・スピアーズやビヨンセ、マーク・アーモンドなどへも楽曲を提供しているヒットメイカーでもあります)が2012年に結成したデュオ・ユニット ダウンズ・ブレイド・アソシエイションの2ndアルバム。ピアノ/シンセプログラミングに、クリスのヴォーカルを載せて仕上げられたメロディアスなポップ・アルバムです。あくまでシンプル、あくまでオーソドックス。しかし、「ふーん、よくあるサイドプロジェクトでしょう?」と思ってスルーしちゃあいけませんよ! 方や60代、方や40代と、年齢もキャリアもひとまわり異なれど、ともにメロディメイカーとして第一線での活動を続けている二人なだけに、どこをどうすれば聴き手の琴線に触れるのかということを熟知した音づくり/曲づくりが一切の気負いのない形で提示されており、たまらないです。




 前作でも組曲形式の楽曲を収録していましたが、本作でも三つのパートを設けたアルバムタイトル曲を収録。全体的にはよりコンパクトで、よりウェットなメロディを追求した仕上がりになっており、ニューウェイヴ・ポップ調の"Machinery of Fate"からマジカルなポップセンスが滲み出ております。切ないメロディーラインに往年のBUGGLESも浮かびますが、どこまでもポップ職人的な面でALAN PARSONS PROJECTにも通じるものがあります。全曲が珠玉であり、そのなかでも特筆すべきは前述の"Machinery of Fate"や"Suburban Ghosts Part.1~3"、甘酸っぱいメロディとヴォーカルラインが詰まった"Time Goes Fast"。そして2014年のレコード・ストア・デイに際してLPシングルとして限定リリースもされた"Dreaming of England"でしょうか。同曲はブリティッシュ・ポップの魅力全部載せといった感のある楽曲で、リー・ポメロイがベースで、元XTC~現Big Big Trainのデイヴ・グレゴリーがギターソロで参加し、興趣を添えています。




http://downesbraide.com/
https://www.facebook.com/Geoffrey.Downes.Official/

「Interviews:Chris Braide / Downes Braide Association」
(from Dutch Progressive Rock Page|2015.11)

2016年2月4日木曜日

4プロデューサー×5ヴォーカリスト×7アレンジャーの饗宴 ― Q-MHz(畑亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也)『Q-MHz』(2016)

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 畑亜貴田代智一黒須克彦田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、異なるキャリアを積んできた四名からなるプロデュースチーム Q-MHz【キュー・メガヘルツ】のデビューアルバム。2013年に放送されたアニメ「夜桜四重奏 ~ハナノウタ~」のキャラソン&サントラアルバム『桜新町の鳴らし方。』に収録された"かしましかしまっ!"で四名が共作を行った(作詞:田淵&畑/作曲:田淵&田代/編曲:黒須)ことがキッカケとなり結成。アルバムは各曲にセクションリーダーを立てつつ、全員がそれぞれ意見とデータの交換を密にしながら制作が進められ、メンバーがこれまでに楽曲を提供した鈴木このみ東山奈央南條愛乃LiSAの四名に、話し合いのもと白羽の矢が立てられた小松未可子を加え、計五名のヴォーカルをフィーチャーした楽曲を各二曲ずつ収録。「リスナーがそれぞれのヴォーカリストに期待する曲」と「プロデュースメンバーのカラーを反映した曲」という意図で一曲ずつ用意しているあたりも、実に抜かりがありません。また、滝善充、清水哲平、新井弘毅、齋藤真也、CHRYSANTHEMUM BRIDGE、牛尾憲輔、中西亮輔といった共同アレンジャーの顔ぶれも見逃せないところ。ライナーノーツには制作プロセスや各曲の詳細なコメンタリーが掲載されており、この豪華なプロジェクトについての知りたい情報がしっかりと網羅されているのも嬉しい。四人のコンポーザー、五人のヴォーカリスト、七組のアレンジャーがいずれも良好なパフォーマンスを発揮し、ゴージャスな化学反応を生み出したアルバムが本作なのであります。

 オープニングの"LiVE DiVE MHz !!"は、LiSAさんをフィーチャーし、共同編曲/ギターに滝善充氏(9mm Parabellum Bullet)を迎えた一曲。キレッキレのバンドサウンドとハイテンションなヴォーカルによるド直球のキラーチューン。畑さんの詞の言葉選びとフレーズとしての詰め方もめちゃくちゃ気持ちがよく、よりいっそうドライヴ感で「突き抜ける」仕上がりになっています。ベースは黒須氏、ドラムスは城戸紘志氏(ex.JUDE~フジファブリック、現.unkie)。もう一曲の"JURASSIC KiSS"は、SEKAI NO OWARIの共同編曲者としても知られるプロデューサーチーム CHRYSANTHEMUM BRIDGEを迎えたシュビドゥバなポップ・ジャズ・チューン。打って変わって艶っぽさに富んだ内容になっています。また、サックスソロは武田真治氏によるプレイ。




 小松未可子さんをフィーチャーし、元THYMEの清水哲平氏が編曲に加わった"ふれてよ"は、王道のスケール感にあふれたシンフォニック・バラード。対する"short hair EGOIST"は、ギターに三澤勝洸氏(パスピエ)を迎えたスカ調のロックチューン。城戸氏、田淵氏、黒須氏とのバンドスタイルで、小回りの効いたトリッキーなサウンドをこなしています。前述の"LiVE DiVE MHz !!"もそうでしたが、本作ではメンツ的にちょっとしたスーパーバンドになっている曲がチラホラあるので、人材フェチにはたまらないものがあります、ハイ。

 鈴木このみさんをフィーチャーした"星の名は絶望"は、メタリックなリフとドコドコした疾走感といい、クワイアコーラス風の挿入といい、頻出する「滅び」「荒野」のワードといい、完全にメタル。そもそも彼女の2012年のデビューシングル"CHOIR JAIL"からしてメタルでしたし(畑&田代コンビによる一曲でもありました)、キバオブアキバとのコラボや、Dragon Guardianのアルバムへのゲスト参加など、なにかとメタルやハードエッジな曲に縁のある彼女にピッタリなオーダー。ドラムスは城戸氏、ベースは田淵氏。そして、ギターと編曲を担当されたのは新井弘毅氏(ex.serial TV drama)なので、エッジの効いたサウンドはお手のものといったところ。対する"「ごめんね」のシンデレラ"は、幅広いフィールドと多岐に渡るジャンルで活動を展開している中西亮輔氏を編曲者に迎えた、バンドスタイルによるポップチューン。ギターは遠山哲朗氏、リズム隊は黒須氏と城戸氏。オーソドックスな曲ほどプロデュースの手腕が問われるわけですが、見事なトータルサウンドに仕上がっています。




 東山奈央さんは本作のヴォーカリストのなかで唯一、ソロでの活動を行っていない(キャラソンでの歌唱はありますが)ということで、他とは異なるスタンスがとられております。中川翔子、水樹奈々、玉置成美などの編曲も手がける齋藤真也氏を迎えての"手探りで今のなかを"は、ストレートに彼女を表現した一曲。ギターは齋藤氏と組むことが多い海老澤祐也氏。ストリングスアレンジは室屋“大先生”光一郎氏。そして"I, my, me, our Mulberry"は、一人二役のヴォーカル/コーラスという、彼女の声優の技能がフルに発揮された一曲。アップテンポで楽しく、さらに「両耳が幸せ」という、法悦の一曲。田代、黒須、田淵の三名による「リレー共作」というところもポイントでしょう。

 南條愛乃さんをフィーチャーした"La fiesta? fiesta!"は、畑さんが作曲を、齋藤氏が編曲を手がけ、バグパイプの音色やヒネりの効いたコーラスアレンジが効いた一曲。しかし、制作にあたっては「職業作曲家としての自信が一気になくなった」ほどの相当な難産だったようです。最終的に「チームに頼ればいい」ということに気づいたことで、なんとか吹っ切れたとのこと。そういったエピソードからみると、チームワークがキーワードである本作を象徴する曲なのではないかと思います。てらいなく明快なラヴソング"愛シカタナンテ知ラナイ"も、チームワークへの全幅の信頼がキーとなった一曲。共同編曲者は牛尾憲輔氏(agraph)。また、近年の森重樹一氏(ZIGGY)の右腕であり、先ごろ単独アーティストデビューも果たした気鋭のギタリスト 山本陽介氏がそれぞれ参加しています。


「畑 亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也の4人による最強タッグが誕生!Q-MHzの1stアルバムに迫るロングインタビュー!」
(from リスアニ!WEB|2016.01.27)

http://www.toysfactory.co.jp/artist/QMHz

2016年2月3日水曜日

牧歌的でユーモラスな魅力にも富む、ジャンルミックスなロシアのインストトリオ ― Мыс Луны『Мы с Луны』(2016)



 ミュージシャン、コンポーザー自由参加型の活動形態をとり、エレクトロ/アンビエントを中心とした多作なリリースを展開しているロシアの音楽集団「Tunguska Electronic Music Society(Tunguska EMS)」。同グループに参画するサウンドデザイナーであるニコライ・ペトロフスキーとオルガ・スコットランドの二人を中心として、2011年に結成されたインストゥルメンタルバンド Мыс Луны(Lunar Cape)のデビューアルバム。アルバムタイトルの英訳は“Just Lunatics”。フルートやリコーダーを主軸に、ワールドミュージック、ジャズ/フュージョン、ニューエイジなどのジャンルをミックスした楽曲集です。Tunguska EMSではシリアスなインストが多めですが、こちらは牧歌的でユーモラスな印象。アコースティック、室内楽スタイルなのかと思えば、ヘヴィな表情を垣間見せる"Southern Harbor"や、白熱のツバ吐きフルートプレイを交えた"The Realm of Sleep"、「擬似ライヴ」的趣向で加速度的なソロの応酬を繰り広げる"Blizzard"のように、ロックなスタイルにもフレキシブルに対応してくるのがまたユニークです。たとえばリコーダーアンサンブルの栗コーダーカルテットや、ニューエイジユニットの姫神、古楽の要素を交えたイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド GRYPHONが好きな人にも薦めたいサウンド。アルバムは$3よりダウンロード購入できます。


 
http://lunar-cape.ru/
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https://www.youtube.com/channel/UCU7sdkCkRwE1f63gzLRDw8w

2016年2月2日火曜日

ジョン・カーペンターのソロアルバム第二作『Lost Themes II』、4月15日リリース決定



 現在、三ヶ国でのフェスやライヴ出演が決定しているなど、とみに音楽活動が活発化しているジョン・カーペンター監督ですが、昨年2月にリリースされた「デビュー」ソロアルバムに続き、早くも二作目のアルバムのリリースが発表されました。タイトルは『Lost Themes II』Sacred Bones Recordsより4月15日にリリースされます。収録曲はボーナストラックを含む全12曲。本日(現地時間2月1日)より、iTunesでのプレオーダーが始まっています。






【収録曲】

1. Distant Dream
2. White Pulse
3. Persia Rising
4. Angel's Asylum
5. Hofner Dawn
6. Windy Death
7. Dark Blues
8. Virtual Survivor
9. Bela Lugosi
10. Last Sunrise
11. Utopian Facade
12. Real Xeno (Bonus Track)





http://www.theofficialjohncarpenter.com/
https://www.facebook.com/directorjohncarpenter/
http://www.sacredbonesrecords.com/

▼コンポーザーとしてのジョン・カーペンターのエッセンスを凝縮
John Carpenter『Lost Themes』(2015)
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/03/john-carpenterl2015.html