2016年12月10日土曜日

福岡の魑魅魍魎がプロポーザルする、ビジネスの新しいフレームワーク ― マントラ『鼻とゆめ』(2016)

 福岡を拠点に活動を続けるマルチメディア創作集団にして、サイケデリック天狗ロックバンド マントラ。ヴォーカルの「h」氏、ギターの「r」「u」氏を中心に、多くのメンバーが名を連ね、ライヴでは六人編成で活動を展開している彼らのライヴを一度目にしたことがあるのですが、奇妙にして珍妙、そして異様な熱量のパフォーマンスに度肝を抜かれました。「なんじゃこのバンドは……」と。たちまちスキになってしまいましたね。





 2006年にラムシュタインのコピーバンドとして結成、2007年にMANTRAと改名してオリジナル曲の制作を開始したバンドは、2009年に1stフルアルバム『3匹の子豚』を発表。インダストリアル・メタル出自のエッジーなサウンドを押し出したミクスチャー/アヴァン・ポップ。朗々としながらもどこかユーモラスなくすぐりを感じさせるh氏の不敵なヴォーカルにのせて綴られる不可思議でどんよりとした幻想譚の数々は、すでに独特のマントラワールドを形成しています。アルバムの終盤を飾る"豚わらう" "豚になる" "豚になれ"の三連作の存在感はバツグン。2011年に発表された2ndフルアルバム『曼遊記』は、天狗と河童と坊主の三人のシルクロードの旅を描くおかしくも壮大なコンセプトストーリー作。軽快なサウンドにのせたはっちゃけぶりが楽しいキラーチューン"サンバーに乗って西へ" "カルカッタ狂走曲"を収録。和楽器や民族音楽の響きを取り入れ、h氏のヴォーカルの饒舌ぶりもさらに拍車がかかった快作です。2015年には7曲入りの1stショートアルバム『御池山の穴の中』を発表。「かごめかごめ」「でんでらりゅうば」「なべなべそこぬけ」などのわらべ歌を奇妙なうま味(あじ)たっぷりにアレンジしています。


鼻とゆめ
鼻とゆめ
posted with amazlet at 16.12.10
マントラ
POPS ACADEMY RECORDS (2016-11-23)
売り上げランキング: 98,736

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 以上、マントラのこれまでのディスコグラフィを簡単に追っていきましたが、そんな彼らが足掛け五年もの歳月をかけて完成させた3rdフルアルバムが本作『鼻とゆめ』。バンド初の全国流通盤であり、apple musicやspotifyなどのデジタル配信もあります。なお、勤労感謝の日発売。パッケージには「たいしょくとどけ」が封入され、ブックレット冒頭には株式会社MANTRAのCEO兼KOFのh氏がアジェンダやスローガンやコミットメントetcを掲げています。精神的にヤバい時期に制作された楽曲も交え、テーマはかなり現実世界に寄ってきており、「労働」と「ビジネスパーソン」の世知辛い境地や浮世のしがらみをおもしろおかしく……しかし時にはあまりにも切実に過ぎる迫力で描き出しています。





 h氏のパフォーマンスはさらに常軌を逸してきており、"営業日誌"は「聴く私小説」とでも形容したくなる鬼気迫るモノローグをまくしたて、"老婆の店"ではやたら三段高笑いをする妖しい店の老主人を怪演(セリフは一発録りだったとか)。クセになります。ドゥーワップチューン"木枯らし"や、ヴァイオリンとギターが焦燥感を煽り立てる"壷の中の悪夢"、そしてライヴの定番曲となっている愉快なヘヴィチューン"鼻男"なども、ノリにノった一曲。パーカッシヴなヘヴィファンクチューン"サーファーは海へ"は、メタリカの"The Call of Ktulu"や"The Thing That Should Not Be"のようなラヴクラフト作品テーマの一曲。なぜそんな歌詞にしたのかは本人曰く不明だそうですが、それこそまさに超自然的恐怖によるものではないでしょうか。




 歌詞が先に出来て、曲を後からつけたという"K市保健福祉局自我課お悩み相談センター"の珍妙きわまる展開と妙にぬめっとしたアレンジや、すっとぼけたようでかなりヤバいニオイをプンプン撒き散らしている"バラバラ"(もともとのタイトルは「ちんこ」だったとか……)に翻弄されたかと思えば、"渡り鳥の歌"の大サビの忘れ難いメロディーラインや、r氏が昔組んでいたバンドのレパートリーのリメイク"シクラメン"、「金曜ロードショー的雰囲気」のバラードチューン"日暮れ"のギターソロにグッときてしまう。また、本作はオープニング/エンディングをふくめ計四曲のインストが収められており、うち三曲はu氏の作編曲。オープニングの"鼻とゆめ"はアルバムで一番最後に出来た曲なのだとか。"空に溶けてゆく"は、"渡り鳥の歌" "シクラメン"の哀愁の二曲をよどみなくつなぐ一曲であり、"変身"はドタバタ映画のスコアのような小品。文字通りアルバムのエンディングを飾る"終幕"は混成コーラスを主体にした荘厳な仕上がり。触れ幅が妙に広いアルバムとしても聴きどころの多い一枚です。すべてのビジネスパーソンは道をあけろ


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