2016年12月31日土曜日

2016年ベストブック30選+α

 本年度の総決算オブ総決算、ブック編です。今年はちょっと増えて、30選+αの20選。計50選。ほぼ、今年刊行されたもの(再刊・文庫化・電子化などもふくむ)。今年一年思ったことは、「買ったらとにかくすぐに一度、とにかくなんでもいいから読む!」ということですね。積み本にして「あとに読むお楽しみ」感を味わい続けるのもいいんですが、積んだままにしちゃうと買ったときのエモーションがいくらか変質しちゃう気がしないでもないので、そのへんは自分との駆け引きです。

《過去のベスト》
2012年ベスト ▼2012年裏ベスト
2013年ベスト
2014年ベスト
2015年ベスト

---------------------------------

▼真藤順丈『夜の淵をひと廻り』

夜の淵をひと廻り
夜の淵をひと廻り
posted with amazlet at 16.12.31
真藤 順丈
KADOKAWA/角川書店 (2016-01-30)
売り上げランキング: 252,783


 本年度ベスト・オブ・ベストの一冊として挙げたい。町の住民のあらゆる情報を知り尽くしているという偏執的な巡査「シド」が主人公のサイコホラー/ミステリ連作。対する住民も内にドス黒いものを秘めており、エピソードを追ううちに顕現する真相も凄まじい。現実に北九州や尼崎で起こった「あの事件」をベースにしたエピソードもある。毒をもって毒を制するような内容であり、抜群のエグ味が容赦なくにじみ出る。ネタの盛り込み方も非常に贅沢で、粘性高めのミステリやドス黒く凶悪なサイコホラーをはじめ、変人勢揃いの異能アベンジャーズな警察小説にもなるし、書き下ろしのラストエピソードでは「さらにそこまで描くのかよ!」という凄みの効いたダメ押しまである。それでも読後感はかなりホロっとする。日々ノートに人の個人情報を延々と書き連ね続ける超ストーカー気質のお巡りさんという主人公なんて微塵も感情移入なんてできないのでは? ……と思いきや、ズルズル感情移入できちゃうんだなこれが。




▼ハーラン・エリスン/伊藤典夫[訳]
『死の鳥』

死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)
死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)
posted with amazlet at 16.12.31
ハーラン・エリスン
早川書房
売り上げランキング: 54,503


『世界の中心で愛を叫んだけもの』以来、じつに43年ぶりとなる日本オリジナル短編集(川名潤氏によるカバーがまた死ぬほどカッコイイ)。たとえばコードウェイナー・スミスの〈人類補完機構〉シリーズが年代を経てもさほど古びないのとは対照的に、エリスンの作品にはいくらか古びたところ、時代がかったところはいくらか感じてしまうのだけど(「「悔い改めよ、ハーレクィン! 」とチクタクマンはいった」や「鞭打たれた犬たちのうめき」あたりは特に)、エリスンの饒舌な筆力がそれをはるかに上回っているので、気づけばあれよあれよという間に圧倒され、叩きのめされてしまう。収録作一編一編が必殺級。「竜討つものにまぼろしを」はエリスン流異世界転生モノなんだぜと満面の邪悪な笑みを浮かべながら言いたくなる話だし、フィニッシュの決め方でアンブローズ・ビアスの「アウルクリーク橋の出来事」を思い出したりしたのだけど、あとがきによるとシオドア・スタージョンも同様の指摘をしていたようだ。猿の人形をわが子のように大事にしているホームレスのおばあちゃんがギャングの一団に目をつけられ、たった一人で渡り合う「ソフト・モンキー」は、一見すると痛快そうなのだけど、重い痛みがズシリとのしかかってくる。スレスレの狂気と痛々しさが増してきて、どんどん切なくなってくる。「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」は、長編にしてもいいくらいのアイデアを短編として凝縮しているのだからたまらないし、「プリティー・マギー・マネーアイズ」では、ギャンブル! 女! 巨万の富!の三拍子には、やはり破滅こそが相応しいということを再認識させられる。かと思えば、ノスタルジーの甘美さと痛切さを胸が締めつけられるようなタッチで描いた「ジェフティは五つ」も忘れ難い。そうそう、「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」は、その昔エリスンおじさん本人も制作に関与したゲーム版が出ているのだけど、ちょっと前にsteamで配信されたので今では手軽にプレイできるようになりましたね。よりによってこのタイトルをゲーム化してしまうのは、なんというかエリスンおじさんらしいよなと。

「I Have No Mouth, and I Must Scream」




▼オキシタケヒコ
『筺底のエルピス 3 ―狩人のサーカス―』
『筺底のエルピス 4 ―廃棄未来―』

筺底のエルピス 3 -狩人のサーカス- (ガガガ文庫)
オキシ タケヒコ
小学館 (2016-03-18)
売り上げランキング: 206,300

筺底のエルピス 4 -廃棄未来- (ガガガ文庫)
オキシ タケヒコ
小学館 (2016-06-17)
売り上げランキング: 225,508


 ハイパーSF異能伝奇バトルアクション。「どうなっちゃってんだよ!?」と「どうなっちゃうんだよ!?」の連続に継ぐ連続。もはやオキシ先生自身が鬼、いや鬼神なのではないかというくらいのブチ切れたページターナーっぷりで、興奮と恐怖と慟哭で読み手の神経がジリジリと焼き切れていく、狂おしく超超超高密度な読書体験が絶対的に約束されており、脳漿が黒い汁になって七つの穴から噴出する。なので、「一発キメよう」という劇薬みたいな薦め方もついしたくなってしまう。はい。ここはひとつキメましょう。今から1~4巻一気読みすれば節目までイケますよ、うへへ……(ドス黒く混濁した目で)。読み終えてわかる、3巻4巻のカバーイラストの趣向にもヤラれましたね。




▼ブラッドレー・ボンド[編]/本兌有+杉ライカ[訳]
『ハーン・ザ・ラストハンター アメリカン・オタク小説集』


「ハーンと名乗る偉丈夫が、黒い軍馬に乗って現れ、ノッペラボウや一つ目小僧などを次々に狩り殺してゆくのです」
「ヤーヘルはヤナギダという男の堕落と裏切りによって崩壊し、ハーンが最後のヨーカイ猟兵、最後のハンターとなってしまったのです」
『ハーン・ザ・ラストハンター アメリカン・オタク小説集』刊行記念 ブラッドレー・ボンド・インタビュー|webちくま)

 過去に「小泉八雲コレクション」を出している筑摩書房から同書がブッ放されるのは非常にエキサイティングだし、とてもジワジワくる。見事な補完的解説も含め余すところなくボンクラ粒揃いなオタク小説群。ハーンが妖怪を狩り謎の男ヤナギダを追うトレヴォー・S・マイルズの表題シリーズ二作はもちろん強力。久正人センセイの業が炸裂した緊縛シーンカットもある、フィーヒヒヒ。ほか、宇宙で豆腐なヴィーガンSFサスペンス「阿弥陀6」、架空の北日本での壮絶な惨劇「ジゴク・プリフェクチュア」、かつて焼肉屋の一家族を高解像度で描写した清水義範のごとく飲み会の一幕を暖かに写しだす〈隅田川〉二作、異世界縦断冒険活劇譚「ようこそ、ウィルヘルム!」もまことに印象深い。




▼ピーター・トライアス/中原尚哉[訳]
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ピーター トライアス
早川書房
売り上げランキング: 65,286


「味噌汁/ベーコン/かっぱ巻き」 「電卓ヤクザ」「肉電話」「水中芸者」「生体改造ポメラニアン」「トーチャラー級ハリネズミ號」「伊勢志摩でも正しい伊勢うどんを出す店は数軒しかない」などのアレコレがディストピア、拷問、人体改造などを交えつつモリモリ出てくる刺激的エンターテインメント。歴史改変要素やガジェットを散りばめつつも「石村」の物語として収束した内容で、結末の苦さが効いている。「メカ」の活躍は少ないけど、パイロット(関西弁で訳されてる)が大暴れする終盤は豪快の一言。日米逆転の改変世界の作り込みは割と浅めで、良くも悪くもプロットありきな感は強いのだけど、それを上回る熱量を感じるし、アンバランスであるがゆえに忘れ難い魅力も感じる。この世界設定は書き継げばいくらでも膨らませられそうだし、ピーター氏もいま続編を執筆中だそうなので、それなりに期待している。個人的印象としては『高い城の男』よりも、ボンクラオタクぶりや架空ゲームつながりで、D・B・ワイス(ドラマ版「ゲーム・オブ・スローンズ」のプロデューサー)の処女作であるゲーム幻想小説『ラッキー・ワンダー・ボーイ』に通じるものを感じた。ちなみに、ピーター氏はソニーピクチャーズイメージワークス出身で、ルーカスアーツ出身。キャラクターテクニカル周りのライター/ディレクターとして「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「フューリー」などにも関わられている。




▼稲葉圭昭『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(文庫化)

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白 (講談社文庫)
稲葉 圭昭
講談社 (2016-01-15)
売り上げランキング: 42,705


 今年観た映画で個人的に一番印象に残ったのは、白石和彌監督/綾野剛主演の「日本で一番悪い奴ら」でした。映画は、腹に鈍痛を見舞う悪徳&破滅のジェットコースタームービー&エンターテインメントとして成立しており、そのストーリーの原作となった稲葉氏の告白の書である本書も強烈な一冊でした。タガの外れた個人の行動すらも呑み込む、組織ののっぴきならなさ。元北海道警察釧路方面本部長 原田宏二氏の『たたかう警官(警察内部告発者 ホイッスルブロワー)』も併せて読むとさらに補完できます。北海道県警の一連の不祥事をベースに、悪徳警官とヤクザの「はみだし者」同士という面に焦点を当てて、惹かれあう人間模様を身をギリギリ削るようなセックス&ヴァイオレンスノワールとして描き切った梶本レイカさんのコミック『コオリオニ』も激烈に推したいですね。己を振り返ってみると、今年は本でも漫画でも映画でも「稲葉事件」がアツかったということにもなりますね。

映画『日本で一番悪い奴ら』雑感




▼宮内悠介『アメリカ最後の実験』

アメリカ最後の実験
アメリカ最後の実験
posted with amazlet at 16.12.31
宮内 悠介
新潮社
売り上げランキング: 255,663


 音楽に求める者/奪う者の対比を仕込みながらピースがハマっていくストーリーも素晴らしいし、文字を通しての音楽への接近という意欲も伝わる。場所もテーマも異なるのだけど、火星を舞台に精神の在り方を追った前作『エクソダス症候群』との共鳴もどこか感じる。謎のシンセサイザー《パンドラ》、ジャズとサウンドスケープ、謎めいた殺人の連鎖、「音を嫌う男のための演奏」「音楽のない街」などの随所のネタや挿話もそそられる。音楽の向こうにある情景をすくいとろうとする書き口は試行錯誤されているなと思うのだけど、「音が聴こえる」小説だと思いましたね。なかなかに盛りだくさんなのだけど青春小説や音楽小説として静かな熱さを伴いながら引っ張っていくし、スルスルと入り込まされる。ある種の閉塞感を書きつつも、爽やかな希望ももてるところがまた魅力的。今年は本書のほかに『彼女がエスパーだったころ』『スペース金融道』『月と太陽の盤~碁盤師・吉井利仙の事件簿~』と四冊の単行本が出たほか、来年初頭に刊行される『カブールの園』が芥川賞候補入りと、とてつもなく旺盛な活動を見せている宮内氏、ぜひとも賞を獲ってほしいですね。




▼奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』

ビビビ・ビ・バップ
ビビビ・ビ・バップ
posted with amazlet at 16.12.31
奥泉 光
講談社
売り上げランキング: 126,579


 過去の大作『鳥類学者のファンタジア』既読者へのちょっとしたくすぐりもありつつ、夏目漱石『吾輩は猫である』、筒井康隆『ジャズ小説』、ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』のマッシュアップとみせかけて奥泉流でブン殴ってくる大質量エンターテインメント。1960年代で21世紀末でヴァーチャルでジャズで落語でアンドロイドで新宿でアフリカでエリック・ドルフィーで大山康晴で立川談志でエドガー・アラン・ポーでetcetcなわけだけど、なによりも奥泉おじさんのガーッという熱気たっぷりのジャズセッション描写ほんとたまんねーですよ。言葉が乱れ飛ぶ狂騒話が好きならたまらないものがあります。




▼澤村伊智『ずうのめ人形』

ずうのめ人形
ずうのめ人形
posted with amazlet at 16.12.31
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 (2016-07-28)
売り上げランキング: 66,817


 デビュー作『ぼぎわんが、来る』は異視点三部構成の趣向も効いた、アラカルト的な趣向のエンタメホラーだったけど、こっちはミステリ的趣向がグッと増して、さらにサスペンスフルでこれまた素晴らしい。フックをかけてサクサク展開する読み心地。かつて山村貞子に戦慄した人へのくすぐりも込めつつ、都市伝説と呪いと創作ホラーが渾然となってじわじわクる。




▼法月綸太郎『挑戦者たち』

挑戦者たち
挑戦者たち
posted with amazlet at 16.12.31
法月 綸太郎
新潮社
売り上げランキング: 154,548


「読者への挑戦状」をレーモン・クノーの『文体練習』パロディで99通りカマすというオフザケの粋を尽くした禁断のネタで構成された一冊。やりたい放題で超楽しい。本人もさぞ楽しかったことでしょう。種々の文体模倣に加えて序文や総目録のパロディも連発していたかつての清水義範おじさんも想起させられる読み心地。アンサイクロペディアの「文体練習」の記事と一部ネタかぶり(片鱗を味わったポルナレフ/ソースコード/クランチ文体)なところも含めて微笑ましい。巻末の「プレミアム挑戦状」の“正解の書名”も、ああなるほど! といった感じで気が利いており、ほくそ笑みたくなることウケアイ。




▼町田康『ギケイキ 千年の流転』

ギケイキ:千年の流転
ギケイキ:千年の流転
posted with amazlet at 16.12.31
町田 康
河出書房新社
売り上げランキング: 25,054


 昨年の町田康訳「宇治拾遺物語」で培ったノウハウが今度は時空を越える義経を主人公とする小説で遺憾なく発揮された。しかも四部作だそうで、これはその第一部。マーチダさんの「はは、おもろ」グルーヴィーうどん文体はここでも健在。「かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう」「そこいらはもっと聞きたかったし、怪しい奴ではあるが、また、会おう、と言って別れた。最終的には菊門もやられた」などなど、義経の言動、とにかくパンチラインまみれ。ゆくゆくは現代編になると思うのだけど、義経はそこでいかような振る舞いをしまくるのか、生暖かく見守りたい。

★町田康『ギケイキ』試し読み 第1回第2回|Web河出




▼L・P・デイヴィス/矢口誠[訳]
『虚構の男』

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)
L.P. デイヴィス
国書刊行会
売り上げランキング: 44,874


 地味な序盤からのどんでん返しの出血大サービスで最後の最後まで押し切って楽しませてくれるので、これはもうエンタメ作家の鑑だと思いましたね。そして作中では「2016年」の未来が書かれるのでタイムリー。序盤は「プリズナー No.6」ぽいなとちょっと思ったが、この作品の方が二年早い(1965年)。中盤はP・K・ディックの『時は乱れて』みたいだけど、現実感はそんなに崩壊しない。と思いきや、ブレイク・クラウチの『パインズ』みたいなブン投げ方をしてくるので、もうなんだこれって感じ。いいものを読ませていただきました。国書刊行会の新しい海外文学紹介シリーズ〈ドーキー・アーカイヴ〉の今後のラインナップも楽しみです。




▼トロル[さく・え]『おしりたんてい ふめつの せっとうだん』

おしりたんてい ふめつの せっとうだん (おしりたんていファイル)
トロル
ポプラ社 (2016-08-01)
売り上げランキング: 1,837


 少年探偵団シリーズはもとより、翻案版ホームズ、ルパンも出しているポプラ社が臀部ヘッドな探偵シリーズを出すのは当然の帰ケツといえる。口からガスを噴くので戦闘能力も高い。「フーム、においますね」が口ぐせ、もとい尻ぐせであるおしりたんていのIQは1104(いいおしり)もの値を誇る。水野亜美の約3.7倍、江戸川コナンの約2.8倍、本郷猛の約1.8倍、メフィラス星人の約10分の1。顔がケツであることを無視すれば人類最強クラスである。謎解き絵本というだけあって、ちょっとしたゲームブック的趣向でカラフルにわちゃわちゃしていて楽しい。あと、おしりたんていの飼っている犬の名前はブラウンなのだけど、ブラウン神父というよりは●●●の色由来でしょうね、ウン。頭が尻というのはある意味で逆説的と言えなくもないけど。おしりたんていは顔がケツなので辛いものが苦手である。そして時にはガスで手……もとい尻を下すこともある。世に探偵は無数に存在すれど、口からガスを噴く探偵はたぶん初じゃないですかね。3~5歳児向けの絵本シリーズと、小学校低学年向けの読みものシリーズ「おしりたんていファイル」があり、前者はこれまでに六作、後者はこれまでに三作出ている。




▼一穂ミチ『きょうの日はさようなら』

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)
一穂 ミチ
集英社 (2016-01-20)
売り上げランキング: 166,084


 とてもよかった。2025年の夏に「1995年の女子高生」が入り込んでくる、少し不思議系青春小説。日常のなかの「非日常」。過去と未来の微妙な隔たりや感情の機微を抑えた筆致ですくい取っていて、さりげないし、うまい。本編から地続きのサブエピソードの余韻も含めて忘れ難い話ですよ。




▼木下古栗『グローバライズ』

グローバライズ
グローバライズ
posted with amazlet at 16.12.31
木下 古栗
河出書房新社
売り上げランキング: 57,950


 中編ではなく短編というフォーマットでもやっぱりこの人は変な汁が垂れてきてるし、都会小説的な筆致で人のうんこをスマートに食べてるだけな話がとくに素晴らしい。うんこの香気が漂っている。チャックに皮を挟んでしまい激痛で射精するシーンにはあざやかな感銘を受けた。シコシコと読め。
「フランス人」の場合、ズボンのチャックに皮がはさまってしまった男性がグッとやる瞬間と、射精の瞬間、この両者が痛みと快感という正反対のものであれ、股間に生じる強い感覚という点でシンクロするわけです。加えて、一方の場面は「休みも取れないで働いている人」、もう一方は「悠々とバカンスを愉しむ人」という対比にもなっています。
木下古栗さんインタビュー | BOOK SHORTS)





▼ジェイムズ・L・キャンビアス/中原尚哉[訳]
『ラグランジュ・ミッション』

ラグランジュ・ミッション (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ・L・キャンビアス
早川書房
売り上げランキング: 360,790


 凄腕にしてクズ野郎なハッカーの主人公と、彼を追いかける女傑空軍大尉を中心にして、意識高い系女子大生、古代戦士的人格天才少年、全裸中年男性、その他コワいおっさんたちが入り乱れるエンタメスリラーで面白く読んだ。主人公のライバル? を張る早熟少年のハーフダン。精神的に完全にファンタジー世界に生きている凄腕ハッカーという、まことに変な造形バリバリでよい。キャンビアス氏はTRPGなどのデザイナーでもあるということもあってか、キャラがテンポよく動いてて、それがそのままストーリーのエンタメ感にも寄与してるなと思った。




▼四方宏明『共産テクノ ソ連編』

共産テクノ ソ連編 (共産趣味インターナショナル)
四方 宏明
パブリブ
売り上げランキング: 75,828


 アーティスト情報もジャケット画像も豊富で情報情報また情報な濃い内容。適当にパラリとめくるだけでも愉しい。現代ならネットだけでもそこそこ掘ることもできるから、先立つものがあるとやはりありがたい。ロシアもののdigり方や情報サイトもちょろっと書いてある。つまるところ、掘ろうと思えば自分の好奇心次第でどこまでも掘れます。本書の参考文献のなかに挙がっていたアルテーミー・トロイツキー『ゴルバチョフはロックが好き?』(1991年/晶文社)も気になって読んでみた。ワードがポンポン出てくる割にはさほど網羅的ではなく読みづらいのだけど、貴重なロシア音楽史の訳書だと思いましたね。ロシア音楽ものの邦訳刊行では、現地のベテランジャズドラマーであるウラジーミル・タラーソフの自伝『トリオ』(法政大学出版局)も面白かったです。




▼東京エンニオ・モリコーネ研究所[編著]
『エンニオ・モリコーネ映画大全』

エンニオ・モリコーネ映画大全
東京エンニオ・モリコーネ研究所編著
洋泉社
売り上げランキング: 161,655


 今年、タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』の重低音でじっくりとアゲてくる劇伴でアカデミー賞作曲賞を受賞。その次作として手がけた、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ある天文学者の恋文』の劇伴ではピアノとストリングスの壮麗なスコアを縫うように13分越えのミニマル曲があったり、ギターが泣きに泣きまくっていたり、汲めども尽きないエネルギーの静かな迸りを感じさせ、作曲・指揮活動60周年記念グレイテスト・ヒッツ『Morricone 60』もリリースされるなど、御年88歳にしてなおも衰えることのない創作意欲を見せつける巨匠モリコーネの、あまりにも膨大な劇伴作品を網羅した圧巻のデータ本。手元に置いておきたい、頼もしい一冊です。




▼ピエール バイヤール/大浦康介[訳]
『読んでいない本について堂々と語る方法』(文庫化)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)
ピエール バイヤール
筑摩書房
売り上げランキング: 15,024


 よくあるハウツー本みたいなタイトルと見せかけて、という本。『読んでいない本について堂々と語る方法』は、あなたは何をもって「本を読んだ」としているのかということをほどよくつっついた本であり、本を読んだ/読まないはオールオアナッシングなものでもないということをそれとなく示した愉快な本であり、著者自身がこの本を通してある実践をしている。……といったちょっとしたコメントを口からこぼすだけでもう『読んでいない本について堂々と語る方法』を「読んでいる」感が不思議とドンドン醸されていくのがわかるだろう? あなたは『読んでいない本について堂々と語る方法』を読んでもいいし、読まなくてもいい。




▼平山夢明『ヤギより上、猿より下』

ヤギより上、猿より下
ヤギより上、猿より下
posted with amazlet at 16.12.31
平山 夢明
文藝春秋
売り上げランキング: 26,012


 前作『デブを捨てに』昨年のベストに挙げたのだけど、続編となる本作もまた面白さにあふれた内容だった。やはり、表題作の中編がとんでもない傑作。売春宿を舞台にした異形の人間模様が描かれるのだけど、〈睾丸チューニング〉〈マラカイボの灯台〉〈海綿ムニエル〉という強力性技ワードの数々や「尿道を履く」という超越的パワーワードで頭の中が瞬時に真黄色に染まってしまった。また、「陽気な蠅は二度、蛆を踏む」ではスパイスたっぷりのメンフィスBBQを喰うシーンがちょっとした飯テロ描写でたまらんものがあり、適当にメンフィスBBQの画像をググッたら追撃を喰らった。それをビールジョッキ二杯「使って」平らげたというくだりもシンプルながらすげえイイの。




▼S・クレイグ・ザラー真崎義博[訳]
『ノース・ガンソン・ストリートの虐殺』


ノース・ガンソン・ストリートの虐殺 (ハヤカワ文庫NV)
S・クレイグ・ザラー
早川書房
売り上げランキング: 245,498


 警察VS密売人のブッ殺し合い&ブッ殺し合い。女子供動物も無慈悲な暴力に晒される暴力&暴力&暴力&復讐譚。レオナルド・ディカプリオのプロデュースで映画化予定だそうだが、映像化デキるんかコレ!? ってくらい致死級の特濃。強烈極まる。最近トランスフォーマーから国内盤が出た、カート・ラッセルが出てる「トマホーク ガンマンvs食人族」の監督がそのザラー氏です。作詞家で脚本家でカメラマンでREALMBUILDERというデスメタルバンドのヴォーカルをやっていたりもする。バンドの三枚のアルバムがレーベルのbandcampアカウントで聴けるのだが、くっそショボかった。最高。




▼ジョルジョ・シェルバネンコ/荒瀬ゆみこ[訳]
『虐殺の少年たち』


虐殺の少年たち (論創海外ミステリ)
ジョルジョ シェルバネンコ
論創社
売り上げランキング: 1,446,824


 1968年の作品。少年犯罪モノかなと思いきや、けっこうなノワール的帰結と余韻もあって、とても好みだった。そして導入が強烈。主人公がくたびれて苦味走った、でも情に厚いオッサンなのもミソ。シェルバネンコは本国ではイタリアンノワールの父と呼ばれるくらいの作家だそうだけど、日本では1972年に世界ミステリ全集に作品が収められたくらいであまり知名度がない。イタリアンプログレ好きには、ルイス・エンリケス・バカロフとOSANNAがサウンドトラックを手がけた映画「ミラノ・カリブロ9」の原作者であるというと少しピンと来るかも知れない。「ミラノ・カリブロ9」は2006年になってようやく国内盤DVDが出たものの、今では廃盤プレミア。




▼ジョン・サンドロリーニ/高橋知子[訳]
『愛しき女に最後の一杯を』


愛しき女に最後の一杯を (ハヤカワ・ミステリ文庫)
早川書房 (2016-04-28)
売り上げランキング: 159,962


 タフな男の静かなるハードボイルドかと思いきや、交錯と抗争のオンパレードをエンタメ的にカマしてきて、例えるならローストビーフ丼を頼んだらカツ丼が出てきた感じ。おいしくいただいた。著者は現役パイロットで、主人公(フランク・シナトラと腐れ縁)も軍のパイロットあがりの航空運送屋というのがミソ。途中で主人公が出会うキャラに二人ほど印象深い男がいるのもよい。あとチャイニーズマフィアとかメキシカンギャングが出てくる。



▼ジョーゼフ・ヘラー/飛田茂雄[訳]
『キャッチ=22〔新版〕上・下』
(再刊)

キャッチ=22〔新版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ヘ)
ジョーゼフ ヘラー Joseph Heller
早川書房
売り上げランキング: 68,709

キャッチ=22〔新版〕(下) (ハヤカワepi文庫 ヘ)
ジョーゼフ ヘラー Joseph Heller
早川書房
売り上げランキング: 71,601


 出撃回数出血大サービス不条理戦争小説の傑作。やはりこの狂ったユーモア満載の不条理戦争悲喜劇の凄み、ハンパなし。兵士も上官も組織も狂っていて、理不尽な軍規の前では狂気こそが正気であり、主人公たちは出撃回数を延々と増やされ続ける。『キャッチ=22』は「死なない」ために「死ぬ」気でサボる話だ。(理不尽きわまる)ループをかちぬくぞ! って感じ。ムチャクチャなエピソードに事欠かない本作だけど、「7セントで仕入れたタマゴを5セントで売って儲ける」くだりはやっぱり最高だよ。キャッチ=22的状況は不朽なのです。たとえばアナタは心身のバランスを崩し、会社に休職を申し出る。会社は「心身のバランスを崩していると自覚できるうちはキミはまだ大丈夫だ明日も出社したまえ」と勧告する。アナタは明日も明後日も明明後日も出社する。キャッチ=22的状況は永遠なのです。




▼バリントン・J・ベイリー/中上守[訳]
『時間帝国の崩壊』
(1980年)

時間帝国の崩壊 (1980年) (SFノベルス)
バリントン・J.ベイリイ
久保書店
売り上げランキング: 1,938,657


 スペオペ&時間歪曲&狂信集団をベイリーおじさんのパワフルな説得力で炒め合わせて怪作ドン一丁上がり! な面白さ。『時間衝突』の翌年(1974年)の作品なので、本作も時間軸のせめぎ合いみたいなテーマ。主人公のアトンおじさんは宇宙艦の艦長なのだが、部下の裏切りに遭い、時流層にブッこまれる危険なお勤め「伝達囚」に堕とされるのだけども、なんだかわからんが覚醒して時流層を自由自在に行き来できちゃったので、まあいろいろあって銀河帝国をおびやかすカルト教団との戦いに赴く……わけだけど……ワイドスクリーンバロック特有の「収拾ついてるようで収拾がついていない」様式美はやはり炸裂していて、俺たちの戦いは(永遠に)これからだ! END。どうみても荒唐無稽なのになんだかわからんがとにかくスゴイ説得力でブン殴って成立させるパワーにはいつものことながらワハハ参ったなって感じ。風呂敷広げてナンボの世界で設定の殴り合いをブチかますのがワイドスクリーンバロック感。復刊してくだされ。




▼岸本佐知子[編訳]『楽しい夜』(アンソロジー)

楽しい夜
楽しい夜
posted with amazlet at 16.12.31

講談社
売り上げランキング: 65,027


 味わいたっぷりの愛くるしいアンソロジー。なんといっても、しょっぱなからご家庭にボブ・ディランを連れてくる話だ(ちなみに本書が編まれたのはノーベル文学賞受賞前だ)。個人的にはアリッサ・ナッティングの二編が超ツボだ。「アリの巣」は自らの全身の骨にアリを住まわせる女性の話。「亡骸スモーカー」は、遺体の髪の毛をタバコみたいに吸う葬儀場の彼氏の話。おめえ何言ってんだと言われそうだが、どちらもしみじみとした愛のお話じゃよ。素晴らしい読後感。




▼ヤン・ヴァイス/深見弾[訳]
『迷宮1000』
(復刊)

迷宮1000 (創元推理文庫)
迷宮1000 (創元推理文庫)
posted with amazlet at 16.12.31
ヤン・ヴァイス
東京創元社
売り上げランキング: 136,300


 チェコの作家による1929年のSFファンタジー作品。1000フロアという、ゴーメンガースト城もかくやという巨大な館の中で目覚めた記憶喪失の探偵が、一筋縄ではいかぬ輩が跋扈する猥雑な喧騒に満ちたフロアを彷徨い、館の主との権力闘争に巻き込まれていく。とにかくイマジネーション超先行型の作品という印象で、発表当時は批評家が当惑したというのもわからないでもないなと思うのだけど、「ウィザードリィ」や「不思議のダンジョン」のようなダンジョン探索型RPGに慣れ親しんだ現代の我々なら難なく著者の奔放な想像力を面白がれると思います。




▼デュ・フォルチュネ・ボアゴベ/長島良三[訳]
『鉄仮面 上・下』
(復刊)

鉄仮面(上) (講談社文芸文庫)
デュ・フォルチェネ・ボアゴベ
講談社
売り上げランキング: 541,019

鉄仮面 下 (講談社文芸文庫 ホC 2)
ボアゴベ 長島 良三
講談社
売り上げランキング: 533,804


「講談社文芸文庫といったらボアゴベの『鉄仮面』だよな!」と吹聴するも、まったく同意を得られたためしがないので涙と失意に暮れていたところ、村上春樹氏が「講談社文芸文庫 私の一冊」として本作を挙げていて、思わぬところから声が上がったときの顔をした。そしてめでたく復刊。改めて読み返してもやっぱり面白い。ご都合主義かよぉ! というツッコミすら片っ端からなぎ倒して有無を言わせずゴリゴリ読ませる歴史ロマン。 開始数十ページで青年貴族が男と新聞を読ませろ読ませないで揉めて決闘したら刺されて瀕死になってるし、ご夫人が侍女を「シーツでクルクル巻きにして窒息死させるマシーン」でウッカリ殺してしまい「やってしまいましたわ」みたいなこと言ってたりする。めっちゃ面白いです。復讐譚なのであまり細かいことを考えてはいけない。この深いふかーい恨みを晴らすには四十六人は殺さないとなーと言った矢先に何人か死んでるし、まことに調子がよい。




▼デヴィッド・スタッブス/小柳カヲルほか訳
『フューチャー・デイズ クラウトロックとモダン・ドイツの構築』

http://www.ele-king.net/news/005148/

フューチャー・デイズ──クラウトロックとモダン・ドイツの構築 (ele-king books)
デヴィッド・スタッブス
Pヴァイン (2016-06-22)
売り上げランキング: 284,389


 アモンデュール、カン、ファウスト、クラフトワーク、アシュ・ラ・テンペルなど、ジャーマン・ロックの主流を担ったバンドのバイオグラフィを追いながら、ノイ!とコニー・プランクの、ポポル・ヴーとヴェルナー・ヘルツォークの関係、デヴィッド・ボウイやポスト・パンクとシーンの関連も絡めつつ、ジャーマン・ロックとは何だったのかというところを浮かび上がらせてゆく、イギリスの音楽ジャーナリストによる大著。アモンデュールのヨーン・ヴァインジールがクラウトロックという言い回しを嫌悪していて「〈クラウトロック〉の定義は英米のミュージシャン風に挑戦したドイツ人ミュージシャンのことだ!」と泣き出したくだり、イイ話だと思いましたね。




▼ジェフ・ポッター/水原文[訳]
『Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ』

(第一版2011年/第二版2016年)

Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)
Jeff Potter
オライリージャパン
売り上げランキング: 1,877


 この作り方がなぜよいのか、なぜこの温度が最適なのかということを科学的・化学的知識で徹底的に解説していく料理本。「分子ガストロノミー」についても触れられている。「弱火で5分ってことは強火で1分なんじゃないの?」などというクソみたいな短絡的思考とは無縁であり、レシピを無批判に受け入れることはせずにレシピの行間を読みまくるし、ホットケーキやクッキーのレシピを複数集めて各材料の分量の平均値を出してから調理に臨むというのは彼らにとって序の口の口。ところで、2016年12月24日に本書の第二版が刊行されていたということに今さっき気づきました。なんてタイムリーな!

「――しかし、箱いっぱいのへらや泡立て器や砂糖を渡されると、調子がおかしくなってしまうギークもいる。硬直や恐怖、あるいは人前で話すときに感じる、あのいやな感じ。さらに「道化恐怖症」を発症する場合さえあるかもしれない。そういう人のために、この本は書かれている」   (第一版 まえがき)
「壊れたハードディスクがうなる音を聞くのは非常に不快だが、下手な包丁さばきを見るのはもっと不快だ。もし私が心的外傷後キッチン障害(PTKD)を引き起こしたとしたら、きっと下手な包丁さばきを見たことが原因だろう」  (第一版P47「包丁の使い方入門」)
「――定義上、レシピとは、著者にとってうまく行ったことを文書化したものだ。レシピを読む際には、それが単なるアドバイスであり、省略されていることもたくさんあることを知っておいてほしい。ソフトウェアの世界では、まったく同じコードをマシンに渡せば、(少なくとも理論上は)ハードウェアが何であろうと同じ実験結果を返してくれるが、料理の世界では、同じレシピを経験豊富なシェフ何人かに渡せば、シェフの数と同じ数の料理ができ上がることになるだろう」  (第一版P25「行間を読む」)



【+αの20冊】


飛浩隆『自生の夢』
胡傑『ぼくは漫画大王』
サンドリーヌ・コレット『ささやかな手記』
友成純一『邪し魔』
海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』
ヒグチユウコ『ギュスターヴくん』
前野ひろみち『ランボー怒りの改新』
チャイナ・ミエヴィル『爆発の三つの欠片』
川瀬泰雄『ニッポンの編曲家』
左右社『〆切本』
戸川純『戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ』
アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』
カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』(新訳)
J・G・バラード『ハイ・ライズ』(再刊)
イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(再刊)
深水黎一郎『大癋見警部の事件簿』(文庫化)
宮木あや子『官能と少女』(文庫化)
寺田寅彦『寺田寅彦セレクション1・2』(再編集)
コードウェイナー・スミス『人類補完機構全短編2 アルファ・ラルファ大通り』(再編集)
ベニー松山『風よ。龍に届いているか』(電子化)

0 件のコメント:

コメントを投稿