2016年5月2日月曜日

原作:坂田靖子/音楽:伊豆一彦『闇夜の本 オリジナル・アルバム』(1985)



 朝日ソノラマ〈DUO〉に1982年5月号~1983年1月号にかけて連載され、1983年~1985年にかけてサンコミックスより新書版全3巻が刊行(のち、1995年にハヤカワ文庫JAより再刊)された、坂田靖子さんによる珠玉のユーモア・ファンタジー短編集『闇夜の本』。本作は単行本第3巻の刊行に先がけてイメージアルバムがリリースされており、現時点で唯一の坂田作品のオフィシャルアルバムであります。インナーには、B2サイズの描きおろしポスターが付属していました。リリースから30年以上経った現在もCD化などはされていません。コンポーザーは、前年にリリースされた大友克洋氏の『童夢』のイメージアルバムを手がけられた伊豆一彦氏。坂田さんとの打ち合わせのすえ、楽曲は単行本に収録されたそれぞれの作品をイメージしたものではなく、「闇夜の本」というシリーズ自体のイメージで制作されたという、いわば番外編といえるユニークなものになっています。ライナーノーツの坂田さんのコメントには『「どうせレコードをつくるのなら、聴いた人が「何だっ?!これはいったい何なんだっ?!」と頭を抱えて町内一周マラソンをしてしまうようなのにして下さい」―――と私は作曲者の伊豆さんにお願いしました』ともありました。




『童夢』のイメージアルバムではスタジオミュージシャンを多数迎え、ハードロック調の楽曲なども収録されていましたが、本作はコンパクトな編成で制作された暖色系のシンセサイザー・ミュージック。ちなみに、ベースでクレジットされている小林まこと氏は、漫画家の小林まこと氏その人です(氏は昔からベーシストとしての顔も持っているのです)。時期的には、講談社の週刊モーニングで『ホワッツマイケル』を連載されてまもない頃ですし、〈週刊ヤングマガジン〉で『柔道部物語』を連載開始前ですね。アルバムは、風雨と遠来、モンキーシンバルと笑い袋のSEによるイントロダクション"ダークナイト(雨~日没の風)"で幕を開け、"DNAとRNA"の幻想的なムードで一気に引き込まれます。『童夢』のイメージアルバムより引き続き参加の片岡郁雄氏によるハリのあるサックスソロも印象的な"フライング・プレート"は、スタジオミュージシャンとしての活動まもない頃の宮路一昭氏がギターソロでシャープに弾きまくるシンセポップチューン。しっとりとした長尺曲"夜の窓"、メルヘンチックな小品"Dance"と続き、ここまでがA面の収録曲です。B面一曲目の"バンBUu(竹の音)"不気味なメロディの反復の上で竹笛の音色がこだまする異様な雰囲気の一曲。荒涼としたイメージただようエスニックなインスト"砂漠の星"、マイク・オールドフィールドにも通じる、ふんわりと牧歌的なミニマルミュージック"両手ひろげて"を経て、ラストは再び片岡氏のサックスソロをフィーチャーして都会的ムードを湛えたスロウなフュージョン"City Dream"。目覚ましのアラーム音がフェードアウトし、現実世界へと徐々に引き戻されていくという締めの趣向も素晴らしいのです。




 伊豆氏はこの後、片山愁『ブリザード★センセーション』のイメージ&ドラマアルバム(1987)や、山寺宏一氏のアルバム『SUPER GAP SYSTEM 快適な世紀末』(1994)のプロデュースや作編曲なども手がけられます。

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『闇夜の本 オリジナル・アルバム』
[K28G-7232(LP)/K28H-4252(CT)|1985.01.21|KING RECORDS]

【Side 1】
01. ダークナイト(雨~日没の風)
02. DNAとRNA
03. フライング・プレート
04. 夜の窓
05. Dance


【Side 2】
06. バンBUu(竹の音)
07. 砂漠の星
08. 両手をひろげて
09. City Dream


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原作・イラスト:坂田靖子
プロデューサー:高塚俊紀
サウンドプロデュース:伊豆一彦
ディレクター:川島章

演奏:伊豆一彦&パラレル・ワンダーズ

伊豆一彦(keyboard, programming)
宮路一昭(F & A guitar)
片岡郁雄(woodwind, lyryconIV, synthe sax)
小林まこと(E bass)
福田真司(lyryconIV program & product)
ペンギンドラム、モンキーシンバル(percussion)




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