2016年4月30日土曜日

原作・構成:大友克洋/音楽:伊豆一彦『コミックス・オリジナル・アルバム 童夢』(1984)



 1980年から1981年にかけて双葉社の〈アクションデラックス〉〈週刊漫画アクション増刊 スーパーフィクション〉に全四回にわたり連載され、100ページの描き下ろしを加えて1983年に双葉社より単行本が刊行。漫画界のみならずさまざまな方面へ絶大なる影響を与えた大友克洋氏の漫画『童夢』。団地での謎の変死事件をめぐって繰り広げられるサイキック・アクションであり、「AKIRA」の原点ともいえる傑作です。映像化とは今なお無縁の同作ですが、唯一、音楽作品が出ております。それが、この『コミックス・オリジナル・アルバム 童夢』。桜田淳子"ロープ・ダンサー" "シンガポール・ナイト"(1979)や、中森明菜"キャンセル!"(1982)などの作曲者であり、大友作品の熱烈なファンである伊豆一彦氏が1981年に本人に企画を持ち込んだことで制作がスタート。配給元のレコード会社さがしにはかなり難航していたようですが、1984年6月にキングレコードよりリリースされました。ジャケットは大友氏の描き下ろし。ライナーノーツには大友氏と伊豆氏の対談が収録されています。リリースに際して、予約特典ポスターや、イラスト入りの特製レコード袋プレゼント(抽選1000名)といったキャンペーンが当時行われていましたが、その後、再販やCD化などはされていません。原作単行本ともども、現在ではちょっとしたプレミアアイテムです。


童夢 (アクションコミックス)
大友 克洋
双葉社
売り上げランキング: 10,539


 アルバムは打ち込みとバンドスタイルでのロック、ポップス、ジャズ、ラテン、電子音楽と、バラエティに富むインストゥルメンタルが不気味なイメージを湛えながら収められています。子どもたちの声や、公園の遊具のきしむ音、ガラスの破砕音やヘリのローター音など、随所で挿入されている各種のSEは大友氏のディレクションによるもの。また、B面一曲目"Act6 Scene24"がオルガンハードロックなのは、「以前、ディープ・パープルに凝っていた」大友氏の意向を汲んでのものです。氏のDEEP PURPLEへの傾倒は、「ハイウェイスター」「Fire-ball」といった初期の短編タイトルからもうかがえます(そういえば『童夢』は、THE MOODY BLUESの同名のアルバム邦題からでしたね)。ヴァイオリンやサックス、フルート、パーカッションなどもふくめて多数のスタジオミュージシャンが迎えられているのですが、T-SQUAREの和泉宏隆氏や、NAZCAの土方隆行氏、FENCE OF DEFENCE結成前の北島健二氏、スペクトラム~AB'Sの岡本郭男氏、当時、実験的音楽ユニット「ラーゲル」で活動中だった濱瀬元彦氏など、かなり豪華な顔ぶれ。"Act6 Scene24"のギターとオルガンの白熱のソロバトルはまさに痛快の一言ですし、子どもたちのコーラスをのせた軽快なシンセポップ"Act4 Scene14"や、中西俊博氏が印象的なヴァイオリンソロをとるアコースティックな小品"Act3 Scene8"、濱瀬氏のウッドベースと和泉氏のピアノがウェットに奏でるジャズ"Act7 Scene23"など、楽曲単体としてみても見所が多いです。




 余談ですが、1983年1月に刊行されたSF雑誌〈SFイズム〉の第五号で組まれた大友克洋特集では、アルバム『童夢』についてのページがあり、伊豆氏の寄稿もあります。1981年の秋に大友氏にイメージアルバムの企画を持ち込んだ時のやりとりや、あちこちのレコード会社にたらい回しにされていたこと、大友氏の立会いのもとにレコーディングや編集を進めていた1982年の状況などが語られているほか、この時点では東芝EMIからのリリース予定であったこと。A面・B面ともに4曲ずつ収録した全8曲構成であり、曲名も「団地のテーマ」「女の子のテーマ」「殺人事件のテーマ」といったものであったこと。短編「Fire-ball」のイメージアルバムを1984年春に発表予定であったことが記事からわかりました(なお、このアルバムの企画は頓挫した模様)。


芸術新潮 2012年 04月号 [雑誌]
大友克洋
新潮社 (2012-03-24)


 LPのライナーノーツで大友氏はフェリーニの映画とニーノ・ロータの劇伴の関係について語っていましたが、アート雑誌〈芸術新潮〉の2012年4月号の大友克洋特集での大友氏と中条省平氏の対談インタビューでは、同名の短編の扉絵でマイルス・デイヴィスの「Round About Midnight」のジャケットパロディを描いた大友氏の初マイルス作品は『On the Corner』(1972)であったとか、「普通のロックやプログレより、どこか民族音楽っぽいものに惹かれていたんでしょうね。サード・イアー・バンドの『錬金術』っていう、ちょっと民族音楽っぽいLPなんかも聴いていましたし」といったことが語られており、興味深い内容でした。


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『コミックス・オリジナル・アルバム 童夢』

[K28G-7184(LP)/K28H-4204(CT)|1984.06.21|KING RECORDS]

【Side-1】
01. Act1 Scene7
02. Act2 Scene26
03. Act3 Scene8
04. Act4 Scene14
05. Act5 Scene10

【Side-2】
01. Act6 Scene24
02. Act7 Scene23
03. Act8 Scene11
04. Act9 Scene27

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原作・構成:大友克洋
プロデュース・音楽:伊豆一彦
ディレクター:高塚俊紀
ミキサー:福島良治
カッティング・エンジニア:牧野晃

伊豆一彦(acoustic & electric piano, synthesizer)
和泉宏隆(acoustic & electric piano, synthesizer)
土方隆行(acoustic & electric guitar)
北島健二(acoustic & electric guitar)
武藤祐二(electric bass)
浜瀬元彦(woodbass)
岡本郭男(drums)
横山達嗣(percussion)
片岡郁雄(sax, flute)
中西俊博(violin)
和智秀樹(mandolin)
森達彦(MC-4 & synthe operator)






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原作:坂田靖子/音楽:伊豆一彦『闇夜の本 オリジナル・アルバム』(1985)

2016年4月28日木曜日

異色のRPGを貫く濃厚なミクスチャーサウンド ― YAMANTAKA//SONIC TITAN&PANTAYO『Severed OST』(2016)





 カナダ・モントリオールを拠点とする「ヤマンタカ//ソニック・タイタン」は、中国とアメリカの血を引くアラスカBと、日本とスコットランドの血を引くルビー・カトー・アトウッドの二人が2007年にコンコルディア大学の芸術学科で出会い、「Lesbian Fight Club」なるユニットとして出発。その後バンドに発展し、2011年にアルバム『YT//ST』でデビュー。2013年には媽祖(道教における航海の守護神)をテーマにしたコンセプトアルバム『UZU』をリリース。また、2012年にはKlei Entertainment開発のニンジャアクションゲーム「Mark of the Ninja」にエンディングテーマを提供、同曲はデジタルEPとしてリリースもされています。“PSYCHEDELIC NOH(能) WAVE OPERA FROM THE BEAST ASIAN DIASPORE”を標榜し、サイケ、フォーク、ポップ、メタル、シューゲイザー、プログレ、ノイズ、仏教思想、漫画・アニメ、中国戯曲、歌舞伎を織り込み、東洋文化と西洋文化を渾然とさせたエクスペリメンタル・ロック・オペラを作り上げる音楽集団として、とみに注目を集めています。「パンタヨ」は、東南アジアの民俗楽器カリンタン(突起の付いた金属打楽器)を中心としたアンサンブルで、フィリピンの伝統音楽を演奏する、フィリピン系カナダ人女性からなるグループ。共にさまざまなバックグラウンドをもつこの二つのグループがコラボレーションを果たしたのが、今回ご紹介する「Severed」のサウンドトラックです。




 4月26日にリリースされたばかりの「Severed」は、カナダのデベロッパー「DrinkBox Studios」が開発した、PS Vita用ファーストパーソンアクションRPG。プレイヤーは片腕を失った女性戦士サシャとなり、切断した敵の四肢を身に着け、能力のアップグレードをはかりながら、行方不明となった家族を捜してダンジョンを探索していくというのが大まかなコンセプトです。サウンドトラックはゲームに先がけて4月11日付でリリースされており、ゲストを含めて十数名におよぶ大編成でレコーディングされております。ハードな世界観とシステムを備えたゲーム本編に呼応するかのように、サウンドトラックもギンギンな尖りっぷり。カリンタンのパーカッシヴなグルーヴ感を全面に押し出し、濃厚な民族色の立ち込めたミニマル/アンビエント&ミクスチャー・プログレッシヴ・メタルで構成されています。ステージBGMは探索時と戦闘時でアレンジが異なり、戦闘時ヴァージョンはYAMANTAKA//SONIC TITAN側のカラーが反映され、より禍々しくハードなエッジが効いてきます。両グループの化学反応が楽しめるのも、本サントラの醍醐味でしょう。



http://severedgame.com/


「Yamantaka//Sonic Titan Interview」
(from goldsoundzblog)

「Yamantaka//Sonic Titan:Identity politics should always be this fun」
(from NOWTORONTO|2012.01.26)

「Pantayo Bridges the Filipino Diaspora With Their Take on Kulintang」
(from NOISEY.VICE.COM|)

「四肢の切断が鍵を握るPS Vita向けの新作RPG「Severed」の発売が4月26日に決定」
(from doope|2016.04.12)


https://www.facebook.com/ytstlabs/
https://www.facebook.com/pantayo

2016年4月26日火曜日

アレイスタークロウリーグレーテストヒッツ ― Aleister Crowley『The Evil Beast』(1910-1914)

The Evil Beast [12 inch Analog]
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Aleister Crowley
Cleopatra (2015-10-16)
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 イギリスのオカルティストであり、20世紀最高の魔術師とも、邪悪なペテン師とも呼ばれ、いまなお毀誉褒貶激しきアレイスター・クロウリー。彼が1910年から1914年のあいだに吹き込んだという音源が存在します。この四年間のクロウリーの活動は、東方聖堂騎士団(O.T.O.)との接触を経ての、同イギリス支部(M∴M∴M∴)設立。リーラ・ウォドルを中心とした女性ヴァイオリニストのグループ「The Ragged Ragtime Girls」のプロデュース。儀式「グノーシスのミサ」の創出。また、パリでの作業を経て、アメリカに渡る時期と重なります。エジソンが初期に開発し、その後、改良が重ねられた円筒録音機「ワックス・シリンダー」に吹き込まれたスピーチの数々は、いつしか一枚のレコードにまとめられました。レコードは世界各国のアンダーグラウンドでごく少数ながらたびたび再プレスされており、音楽メタデータサイトのdiscogsに登録されている情報だけでもけっこうな数にのぼります。権利的なアレコレはもはや虚無の彼方に消えさっているような状態ゆえ、今後も延々と再プレスされ続けるのでしょう。いまではiTunes StoreやAmazon MP3(下記)でもダウンロード購入できてしまうというのですから、黄金の夜明けも近くなったものです(前者にいたっては複数のアルバムが登録されていますが、内容はいずれも同じです)。もしサマセット・モームが現代に生きていたら、彼もきっと苦笑することでしょう(


Order Of The Silver Star
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Red Cab Records (2011-06-06)


 収録音源はまったく同一のものなのですが、再発盤によってジャケットもタイトルも異なり『1910-1914 Black Magic Recordings』『The Great Beast Speaks』『666』『Order Of The Silver Star』『Original Wax Recordings』など複数混在します。なかには『Occult Box』という、オリジナル音源収録のレコード一枚+現代のミュージシャンによるトリビュートトラックやリミックスなどを収録したCD五枚組のボックスセットとして売り出したケースもあります。先ごろ私がタワーレコードでポチったヴァージョンは、2008年と2011年にも再発盤を制作し、前述の『Occult Box』のリリース元でもあるアメリカのレーベル Cleopatra Recordsからの2015年度再発盤『The Evil Beast』。シルクスクリーンカヴァー、180グラム重量レッドビニールで、シリアルナンバー付き666枚限定盤。ジャケットはクロウリーの有名なあのポーズの写真。ライナーノーツのような気のきいたものは入っておらず、レコード盤のラベルの貼りがかなり雑で、すぐに剥がれそうになります。製品としてはあまり期待してはいけません。エノク語と英語の二言語でそれぞれ収録されている"The Call Of The First Æthyr" "The Call Of The Second Æthyr"や、1912年4月に沈没したタイタニック号についての"The Titanic"など、詩や教義のスポークンワードが中心ですが、B面の最後に収録されている"Vive La France"は、クロウリーが作詞したフランス讃歌「La Gauloise (Song of the Free French)」を、Roy Leffingwellが編曲したものです。1942年にBBCラジオで流れたそうな。




https://cleorecs.com/store/shop/aleister-crowley-the-evil-beast-limited-edition-silk-screened-cover-colored-lp/

〈SIDE A〉
1. Introduction
2. The Call Of The First Æthyr (Enochian)
3. The Call Of The First Æthyr (English)
4. The Call Of The Second Æthyr (Enochian)
5. The Call Of The Second Æthyr (English)
6. La Gitana
7. The Pentagram
8. One Sovereign For Woman


〈SIDE B〉
1. The Poet
2. At Sea
3. Fingernails
4. The Titanic
5. Hymn To The American People on the Anniversary of their Independence
6. Excerpts From The Gnostic Mass
7. Vive La France












世界幻想文学大系 第9巻 魔術師
紀田順一郎 荒俣宏 ウィリアム・サマセット・モーム
国書刊行会
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モームは1900年代初頭にパリでクロウリーと対面したことがあります。「すぐに彼が嫌いになった」のと同時に、その人物像にはやはり忘れ難いものがあったようで、1908年に出版されたオカルティックな趣の強い長編小説『魔術師』で、クロウリーをモデルにした奇怪なキャラクター オリヴァ・ハドゥーを登場させています(作中ではホムンクルスの生成に熱を上げ、主人公のフィアンセを奪おうとする悪徳魔術師として登場)。それに半ば気をよくし、半ばあてつける形でクロウリーは1917年に『ムーンチャイルド』を書いたのだそうですが、それはまた別のお話。


ムーンチャイルド (創元推理文庫)
アレイスター クロウリー
東京創元社
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2016年4月25日月曜日

アルゼンチン伝説のヘヴィプログレバンド、三十八年ぶりに復活 ― BUBU『Resplandor EP』(2016)



 1978年に残したたった一枚のアルバム『Anabelas』で伝説と化したアルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・バンド BUBU。作編曲を手がけるダニエル・アンドレオーリを中心に、フルート、テナーサックス、ヴァイオリン奏者を擁した八人編成のもと、初期KING CRIMSON由来の叙情性とヘヴィなサウンドを長尺の展開にのせ、コッテリと濃厚な音世界を繰り広げていました。南米プログレものでも屈指のオススメアルバムの一枚として挙げられる同作は、EMI Argentinaより手ごろな価格で近年再発されております。そんなBUBUですが、先ごろ復活を果たし、なんと新作EPをリリース。まさか復活するようなバンドだとは思っていなかっただけに、青天の霹靂。マジでブッたまげました。バンド編成も当時と同じく、フルート、テナーサックス、ヴァイオリンを擁した編成(キーボーディストとフルート奏者はゲストとしての参加)。オリジナルメンバーはダニエルひとりだけですが、実力派の若手ミュージシャンでしっかりと固めています。2015年12月にレコーディングされたという3曲は、3分、6分、5分といずれもコンパクトな構成ですが、あのころの作風をキープしつつも、アップトゥデイトに成功しています。これはぜひとも、フルアルバムのリリースに期待したいところですね。



https://www.facebook.com/BubuResplandor
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=626





Anabelas
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Bubu
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2016年4月24日日曜日

「ミュージシャン ジョン・カーペンター」として、さらなる躍進を重ねる一作 ― John Carpenter『Lost Themes II』(2016)




 2015年2月にキャリア初となるオリジナルソロアルバム『Lost Themes』をリリースし、今年で68歳を迎えた御大ジョン・カーペンター。息子のコディと、名づけ子であり養子のダニエル・デイヴィス(父はThe Kinksのギタリスト デイヴ・デイヴィス)との楽曲制作やセッションをベースにして作り上げられた同アルバムは、大きな反響をもって迎えいれられました。それから約一年、早くも二作目の新作フルアルバム『Lost Themes II』が登場です。ボーナストラックを含む全12曲。本国アメリカでのレコ発ツアーみならず、ヨーロッパ各地でのライヴや音楽フェスへの出演もすでに決定しており、10月にはイギリスで書き下ろしの新曲披露も兼ねたプレミアムライヴも予定されているなど、今年は「ミュージシャン ジョン・カーペンター」としてさらなる躍進の年になりそうです。また、本アルバムは5月にHostess Entertainmentから国内盤でもリリースされることを付け加えておきます。





 前作同様、コディとダニエルとの共同作業によって制作されたシンセサイザー・ミュージック。おなじみの「ベンベン節」はもちろんありますが、それ以上に個々の楽曲のメロディが際立ってきており、ギターやリズム隊も前に出てきたことで「バンドっぽさ」も増しました。コディが近年ソロで精力的に展開しているプログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Ludrium」からの良好なフィードバックもうかがえますし、音楽的にもネクストステージに立った感があります。ベースとシンセがゴリゴリと支配する"Distant Dream"は、まさに「新生ジョン・カーペンター・バンド」と呼ぶにふさわしい仕上がり。ちなみに同曲のPVでは、ツインシンセサイザー、ツインギターの六人編成で演奏されており、ジョン(synthesizer)、コディ(synthesizer)、ダニエル(guitar)のほかは、TENACIOUS Dのサポートメンバーであるジョン・スパイカー(bass)、ジョン・コネスキー(guitar)、スコット・セイヴァー(drums)というラインナップ。CDのブックレットには演奏者クレジットがまったく記載されておりませんが、おそらくアルバムの他の楽曲の演奏にも三人が携わっている可能性があります。カーペンター流ヘヴィ・プログレともいえる"Dark Blues" "Virtual Survivor"や、ドラキュラ役で名を馳せたハンガリー人怪優を重厚なシンセサイザーサウンドでイメージした"Bela Lugosi"。やんわりとしたメロディが淡く光る"Hofner Dawn"や、シンフォニックな盛り上がりをみせる"Utopian Facede"もよいのですが、本作の白眉として推したいのが、"Angel's Asylum"。ジョンの奥方 サンディ・キングとの共著によるスーパーナチュラルものホラー・コミック「アサイラム」のイメージソングでもある一曲。エレクトリック・スタイルのダークな展開から一転してギターが静かにつまびかれる終盤の美しい「ダメ押し」には、ハッと息をのむ瞬間があります。



http://www.theofficialjohncarpenter.com/
https://www.facebook.com/directorjohncarpenter/
http://www.sacredbonesrecords.com/


「No Longer Lost: John Carpenter On Playing Live」
(from The Quietus|2016.02.15)

コンポーザーとしてのジョン・カーペンターのエッセンスを凝縮 ― John Carpenter『Lost Themes』(2015)

受け継がれる音楽的遺伝子。ジョン・カーペンターの息子コディ率いるプログレッシヴ・ロック・バンド ― Ludrium『Zeal』(2012)
ゲーム音楽、フュージョン、プログレの折衷をより推し進めた、コディ・カーペンターの二作目 ― Ludrium『Pleasure of a False Past』(2015)
コンスタントなリリース、コンパクトなグッドメロディ ― Ludrium (Cody Carpenter)『Unity』(2016)

2016年4月22日金曜日

広大な世界を音で描き出す、〈パンツァードラグーン〉シリーズコンポーザーの初ソロ作品 ― 小林早織『Terra Magica』(2016)




「AZEL -パンツァードラグーンRPG-」「パンツァードラグーン オルタ」「クリムゾンドラゴン」のコンポーザーとして知られる小林早織さん。海外のゲーム・ミュージック制作プロダクション「Brave Wave」に所属し、〈幻想水滸伝〉シリーズ、「オルタ」に参加されているヴォーカリストの高橋由美子さんとのエレクトロ民謡ユニット〈茜 -AKANE- 〉でも活動中の彼女ですが、以前よりアナウンスされていたソロアルバム『Terra Magica』が4月13日付でリリースされました。アルバムのカヴァーイラストは楠木学氏が担当。また、CD盤のライナーノーツには二木幸生氏がコメントを寄せています。両名とも、〈パンツァードラグーン〉シリーズに縁深い人物。アルバムは、〈パンツァードラグーン〉シリーズでも展開されていた、壮大なシンフォニック・サウンドと民族色にも富む多国籍シンセサイザー・ミュージックをさらに融合・発展させたともいえる内容で、広大な世界を躍動感たっぷりに描き出した、イマジネーションにあふれる楽曲集です。"Brave Hearted"では高橋さんがコーラスを、"Mother"では「AZEL」「オルタ」のエンディングテーマの歌唱でも知られる伊東恵里さんがヴォーカルをとられているほか、"Horizon"では両名によるコーラスが深い奥行きを与えております。また、〈悪魔城ドラキュラ〉〈幻想水滸伝〉シリーズのコンポーザーである山根ミチルさんと、「メタルギアソリッド4」「ベヨネッタ」などのコンポーザーのひとりであり、ヘヴィ・チェンバー・ロック・バンド Happy Familyのギタリストでもあるイズタニタカヒロ氏がそれぞれ"Mother" "Starlight Wanderer"のリミックスを提供。前者は荘厳なムードを湛えたアレンジ、後者はギターオリエンテッドなアレンジで、別角度のアプローチを展開しています。


http://www.bravewave.net/
https://www.facebook.com/BraveWaveMusic

茜 -AKANE-『茜道中譚 / Journey』(2014)

2016年4月18日月曜日

フリースタイル(自由生成)な「ガンジョン」を高めるエレクトロサウンド ― doseone『Enter the Gungeon OST』(2016)



http://dodgeroll.com/gungeon/

 Dodge Roll開発によるダンジョン探索型弾幕シューティングゲーム「Enter the Gungeon」が今月5日にリリースされました。天から降ってきた弾丸により大きな変貌を遂げてしまった、とある砦。プレイヤーはワケアリな過去を持つ冒険者〈ガンジョニア〉の一人となり、フロアがランダムで生成される、ダンジョンならぬ「ガンジョン」の最奥に眠る「過去を始末する銃」を求めて、アイテムや武器を集めながら階層〈チャンバー〉を攻略してきます。ゲームバランスにはかなりクセがあり、難易度も高め。また、4月20日はPS4版の日本版のリリースも控えているとのこと。また、ゲームと同日にbandcampでリリースされたサウンドトラックには、ビートやストリングスアレンジのギラギラに効いたハイなエレクトロ/ヒップホップを30曲にわたり収録しています。ダウンロード購入は$7より。トラックでは、"FORGE FIRE ROAR" "the FORGE FORGIVES YOU NOT" "BULLET HELL WILL EAT YOU ALL" "BEHOLD the BOSS EATER"あたりをオススメしたい。もちろん、ガンジョンのケイオスでのっぴきならない喧騒を伝えるテーマソング"ENTER THE GUN"/"ENTER THE GUNGEON"も。




 同作のコンポーザーであるdoseone (ドーズワン)は、個性派ぞろいのインディーズヒップホップレーベル「Anticon」の創設者の一人であり、自身のソロ活動はもちろんのこと、Anticonの盟友でもあるJelとのヒップホップデュオ Themselvesや、Why?&Odd Nosdamと組んだエクスペリメンタルデュオ cLOUDDEAD、オルタナ/サイケデリック・ロック・バンド Subtle、ドイツのThe Notwistとの合体プロジェクト13 & Godなど、数々の活動でジャンルを横断する多作多忙なラッパー/トラックメイカー/プロデューサー/詩人。コラボレーションにも非常に熱心であり、先ごろのトピックとしてはFAITH NO MOREのマイク・パットンと、TV on the Radioのトゥンデ・アデビンペと組んだミクスチャー・ポップ・トリオ NEVERMENで数年越しのデビューアルバムをリリースしたばかりでもあります。数年前よりインディーズタイトルのゲームミュージックコンポーザー/アレンジャーとしても活動しており、2Dガン=カタ対戦ゲーム「SAMURAI GUNN」(2013)では和風ミクスチャー・ヒップホップを、ダンジョン探索FPSゲーム「HEAVY BULLETS」(2014)ではアグレッシヴなADIEMUSとでもいうような無国籍電子ドラッグを、レトロスタイルのパズルゲーム「0RBITALIS」(2015)ではアンビエント路線のシンセサイザー・ミュージックを制作。単独コンポーズ作品としては「Enter the Gungeon」は四作目にあたります。フィールドをまたいでますます拍車をかけていくジャンルレスな活動から、目が離せません。






http://doseonesite.tumblr.com/
https://www.facebook.com/doseonedoseone


弾幕ローグライクシューティング『Enter the Gungeon』プレイレポ―高難度を潜り抜け過去を変えろ
(from GameSpark|2016.04.11)

Dose One (Subtle/Anticon)に直撃!
(from ローチケHMV|2006.06.14)

Interview:doseone
(from Pitchfork|2005.03.06)

Themselves
(from Clubberia)

2016年4月16日土曜日

失われし時を捜し求めるアクションRPGの、美しきアンビエント・サウンド ― Disasterpeace『Hyper Light Drifter』(2016)




 Heart Machine開発による「Hyper Light Drifter」は、失われた技術を求めるドリフター(放浪者)の主人公となり、鮮やかなドットで描かれた荒廃世界を旅する2DアクションRPG。2013年にkickstarterでキャンペーンが立ち上げられ、最終的に設定金額の27,000ドルを大幅に上回る640,000ドルという圧倒的支持を獲得。2014年中旬のリリースを目指して制作が進められておりましたが、諸々の事情で大幅に遅れ、さる2016年3月31日にようやくPC版が正式リリースされました。今夏にはPS4、Xbox One版のリリースも予定しているとのこと。「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」や「ディアブロ」、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」からのインスピレーションをモダンなセンスのもとに昇華させた同作は、その世界観もさることながら、作中のセリフはすべて絵で表現されるなど、ヴィジュアルに強く訴える仕上がりです。




 $5よりダウンロード販売されている本作のサウンドトラックは全28曲。多くを語らぬゲーム内容によりそった、イマジネーションを喚起させる、じんわりとリバーヴも効いたミニマル/アンビエントミュージックです。コンポーザーは、ニューヨーク出身の Disasterpeaceことリック・ヴリーランド(Rick Vreeland)。17歳のころより作曲活動をはじめ、「ボンバーマンライヴ:Battlefest」(2007)や、「High Strangeness」(2009)、「FEZ」(2012)など、ゲームのサウンドトラックを中心に、これまでに40枚以上のアルバムをリリース。音楽的には〈クロノ〉シリーズの光田康典氏や〈Samorost〉シリーズのFloex(Tomas Dvorak)からの影響を公言しているほか、90'sリスペクトなパズルアドベンチャー「Monsters Ate My Birthday Cake」(2014)のサントラは、スーパーマリオシリーズのコンポーザー 近藤浩治氏へ捧げられてもいます。また、2007年から2013年にかけて活動したチップチューンレーベル「II(PAUSE)」の共同創設者でもあり、自身のオリジナルや数々のコンポーザーのアルバムを世に送りだしました。2014年には、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督・脚本によるホラー映画「イット・フォローズ」にサウンドトラックを提供するなど、その知名度と活動領域も年々広がりをみせる、要・注目のクリエイターです。


http://www.disasterpeace.com/


 ▽インディーズゲームの小部屋:Room#426「Hyper Light Drifter」
(4gamer.net|2016.04.13)

Fine Tuning Interview: Rich Vreeland (Disasterpeace)
(from esperino|2012.07.05)

米国のチップチューン・プログレ・バンドによる、アクションADVゲームのサントラ ― Cheap Dinosaurs『High Strangeness』(2015)

2016年4月15日金曜日

『路傍のピクニック(ストーカー)』のTVシリーズ「Zona」、パイロット版制作資金のクラウドファウンディングを開始


アンドレイ・タルコフスキー監督による映画版も著名な、アルカジイ&ボリス・ストルガツキーのSF小説『路傍のピクニック(ストーカー)』。2014年9月には、同作のテレビシリーズ版制作プロジェクトがアナウンスされ、Alexey Andreev氏による見事なヴィジュアルイメージとともに一時話題となりました。しかし「2015年公開予定」とありながら、その後なにも目立った情報がないので、どうなったのかと気になって調べてみたところ、やはりというか、制作予算が足りていないようです。つい先日、クラウドファウンディングサイト「indiegogo」にて、パイロット版エピソード制作のためのキャンペーンを立ち上げていました。目標金額は$410,000。期限は二ヵ月後です。新しいヴィジュアルイメージも追加されています。


[ Zona - pilot episode | indiegogo ]
https://www.indiegogo.com/projects/zona-pilot-episode#/



Screenwriter Sergey Zharkovsky
Director Arthur Meer
Camera crew Ilya Kondratiev
Art Director Aleksey Andreev
Producer Petr Cherenkov
Stuntteam Startfilm STN
Makeup & Special makeup Ekaterina Shahvorostova
 
プロジェクトの公式facobook、公式vk.comアカウント。
https://www.facebook.com/pages/Zona/225195614343032
http://vk.com/public78652350


「Zona」のアートディレクター アレクセイ・アンドレーヴ氏の公式サイト。
http://alexandreev.com/
https://www.behance.net/gallery/19310523/ZONA


以前より公開されているティーザー映像。



Ronam Coopermanによる、「Zona」メインテーマ。サウンドトラックCDの構想もあるようです。



ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
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2016年4月13日水曜日

音楽制作集団「MONACA」 クリエイター陣の音楽的影響

リスアニ! Vol.4.1 アニソン クリエイターズⅠ (SONY MAGAZINES ANNEX 第 523号)
リスアニ! Vol.4.1 アニソン クリエイターズⅠ
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ソニー・マガジンズ (2011-03-31)
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http://www.lisani.jp/magazine/vol-4-1

 アニメ音楽雑誌〈リスアニ!〉のVol.4.1(2011年3月号)を最近手に入れて読みました。同号は「アニソンクリエイターズ」特集として、I've、Elements Garden、MONACA、IOSYS、八木沼悟志(fripSide)、R・O・N、前山田健一といった面々がフィーチャーされており、MONACAのページでは六人のメンバーがそれぞれが影響を受けたアーティストや、「Roots and Respect」なアルバムを三枚挙げており、各人の音楽的背景を知るうえで興味深く、また密度の濃い内容です。以下、抜粋いたします。



▼岡部啓一
(MONACA取締役/サウンドプロデューサー)

【影響を受けたアーティスト】
坂本龍一

【Roots and Respect】
①WHAM!『Fantastic』(1983)
②坂本龍一『音楽図鑑』(1984)
③PET SHOP BOYS『Please』(1986)

ファンタスティック音楽図鑑-2015 Edition-(紙ジャケット仕様)Please: Remastered



▼神前暁
(2005年入社/作編曲、サウンドプロデューサー)

【影響を受けたアーティスト】
フリッパーズ・ギター、Mr.Children、南野陽子

【Roots and Respect】
①千住明『機動戦士Vガンダム サウンドトラック』(1999)
②澤野弘之『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ サウンドトラック』(2007)
③菅野よう子『マクロスF VOCAL COLLECTION 娘たま♀』(2008)

機動戦士Vガンダム SCORE 1機神大戦ギガンティック・フォーミュラ オリジナルサウンドトラックマクロスF VOCAL COLLECTION「娘たま♀」



▼高田龍一
(2009年入社/作編曲)

【影響を受けたアーティスト】
ヴォイチェフ・キラール、エンニオ・モリコーネ、アンリ・デュティユほか

【Roots and Respect】
①Wojciech Kilar『Bram Stoker's Dracula(ドラキュラ)サウンドトラック』(1992)
②菅野よう子、溝口肇『天空のエスカフローネ サウンドトラック』(1996)
③Ennio Morricone『Nuovo Cinema Paradiso(ニュー・シネマ・パラダイス)サウンドトラック』(1989
※誌面では1999年となっているのですが、おそらく誤記でしょう。

Bram Stoker's Dracula天空のエスカフローネニュー・シネマ・パラダイス オリジナル・サウンドトラック【完全盤】



▼石濱翔
(2009年入社/作編曲)

【影響を受けたアーティスト】
THE BEATLES、capsule、光田康典、KiLA

【Roots and Respect】
①THE BEATLES『Revolver』(1966)
②THE BEATLES『Magical Mystery Tour』(1967)
③KiLA『Lunapark』(2004)

Revolver (the U.S. Album)Magical Mystery Tour (Dig)Lunapark



▼帆足圭吾
(2009年入社/作編曲)

【影響を受けたアーティスト】
DREAM THEATER

【Roots and Respect】
①Emerson, Lake & Palmer『Tarkus』(1971)
②菅野よう子『マクロスプラス オリジナルサウンドトラック』(1994~1995)
③DREAM THEATER『A Change of Seasons』(1995)

TarkusMACROSS PLUS ORIGINAL SOUNDTRACKChange of Seasons



▼田中秀和
(2010年入社/作編曲)

【影響を受けたアーティスト】
神前暁

【Roots and Respect】
①坂本龍一『戦場のメリークリスマス サウンドトラック』(1983)
②神前暁、高田龍一『涼宮ハルヒの憂鬱 サウンドトラック 』(2006)
※DVD限定版各巻付属のCDに収録
③imoutoid『ADEPRESSIVE CANNOT GOTO THECEREMONY』(2007)

戦場のメリークリスマス-30th Anniversary Edition- SHMCD涼宮ハルヒの憂鬱 1 限定版 [DVD]




 また、MONACAの公式サイトのスタッフプロフィールは、2013年ごろまではそれぞれの経歴や音楽的影響が詳細に書かれていました(現在は簡略化されています)。以下、当時の七名のプロフィール文を引用します。

http://www.monaca.jp/staff/


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▼岡部啓一

 幼少の頃から電子オルガンを習い音楽に慣れ親しむ。父親の影響でオープンリールテープを使った録音音楽に興味を持つ。16歳の頃に初めてシンセサイザーを購入し、本格的に作曲活動とバンド活動を始める。その後ドラム、ギターなどにも手を出し、ますます音楽制作に没頭していく。神戸芸術工科大学芸術工学部・視覚情報学科に入学。映像・CGアニメーションに音を付けることに面白さを見出し、株式会社ナムコ(当時)にサウンドクリエーターとして入社。「鉄拳」シリーズ、「エースドライバー」「太鼓の達人」シリーズなど業務用ビデオゲームを中心に数々のビッグタイトルに携わる。株式会社ナムコ退社後フリーランスとなり、河村隆一氏や大黒摩季氏の編曲、リミックス、CM・CG映像のBGM制作など、打ち込み音楽から生楽器をメインにした楽曲まで、幅広いジャンルで作編曲家として活動。有限会社モナカを設立、同代表取締役に就任。主にゲーム・映像を中心としたサウンド制作プロデュースを手掛ける。80'sダンスクラシックやハウスミュージックなどのダンサンブルなビートを得意としているが、抜群の作編曲センスと長年の経験によって培われてきたノウハウによって、どのような要望にも応え、そこに自身のスタイルを取り込んで昇華させる能力には定評がある。その楽曲はドラマチックかつ繊細で、美しいメロディーは聞く人を惹きつける。その仕事ぶりにはクライアントからの評価と信頼も厚い。

▼みすみ ゆり

 小学生よりクラシックピアノを何となく始める。12歳で社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA)ピアノコンクールにて金賞を受賞。西ドイツ(当時)ミュンヘン~ザルツブルク(オーストリア)への演奏旅行を行う。当時はソ連の国際情勢が芳しくなく、日本からアラスカ経由で24時間以上かけて渡欧。親元を離れた初の海外旅行に羽根を伸ばしまくり、異邦人との出会いの数々に感銘を受け、その頃から夢は「世界の冒険家」(小学校の卒業文集より引用)となる。そして世界を冒険すべく、高校からジャズをかじりはじめる。大学では”KMPニューサウンドオーケストラ”に所属し、ビッグバンドでの演奏活動を開始。数々のライブ活動のほか、六大学ピックアップバンドでは村田陽一氏(tb)と共演。山野楽器主催「山野ビッグバンドコンテスト」では、92年特別賞を受賞。一方、コンボでの営業活動も幅広く行い、結婚式場やライブハウスでの演奏を多数こなす他、近海郵船東京~釧路間フェリーでの演奏旅行にレギュラー出演。北は北海道から南はバリ島まで演奏旅行を経験したが、世界はまだまだ広かった…さらなる冒険をするべく、94年に株式会社ナムコ(当時)へサウンドクリエイターとして入社。業務用・家庭用作品の効果音・音楽を多数手がけ、「太鼓の達人」シリーズでは立ち上げ時よりサウンドディレクターとして参加。「塊魂」全シリーズにも携わり、PSP版では松崎しげる曲にて、Benny Diggs率いるゴスペルグループを”塊ソウルトレインズ”と称しNYレコーディングを敢行、世界の広さを思い知る。その他、ニンテンドーDS用ソフト「みずいろブラッド」「フコウモリ」等のサウンド開発、Flashアニメ「奥のデス道」等WEBでのサウンド制作など、愉快痛快系の作品に携わる。15年在籍したのち、世界の冒険家に飽き足らず、宇宙をめざすべく有限会社モナカに入社。豊富な音楽経験に基づく鋭い審美眼とその明朗快活な性格を活かし、現在は制作進行役としても、かげに日向にモナカを支えて邁進中。


▼神前暁

 幼少の頃からヤマハ音楽教室に通い、エレクトーンとピアノを習う。中学・高校時代は吹奏楽部の活動に没頭する。担当楽器はトランペット。京都大学工学部情報工学科に入学。大学では総合作曲サークル「吉田音楽製作所」に所属。ジャズ、ファンク、ロック、ポップス、テクノ、ノイズ、民族音楽など幅広いジャンルのバンド/ユニットに参加して作曲・演奏活動を行い、様々なスタイルの音楽に触れる。この頃に現在の音楽活動の基礎を形作る。株式会社ナムコ(当時)にサウンドクリエイターとして入社。「もじぴったん」シリーズ、「鉄拳」シリーズ、「アイドルマスター」シリーズなど、家庭用から業務用まで幅広いタイトルの音楽を担当する。また、社内トランペッターとして数々のタイトルで演奏する。有限会社モナカに入社。初めて担当したTVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」が記録的大ヒットとなる。その後「らき☆すた」では主題歌「もってけ!セーラーふく」がオリコンチャート週間2位という快挙を成し遂げ、アニメ界に衝撃を与える。作曲活動の傍ら、TVやラジオ、雑誌、イベントなどにも出演する。長年の心の師である田中公平氏とTV共演を果たし、「アニメ界に新風を巻き起こす新世代を代表する作曲家」と賞賛される。その音楽は、親しみやすくキャッチーでいながら不思議と耳に残る独特のメロディーセンスを最大の武器とし、主題歌から劇伴まで、ファンクからオーケストラまで、ジャンルを飛び越えた縦横無尽のサウンドメイクで聴く者を魅了する。


▼高田龍一


 スティービー・ワンダー、ビリー・ジョエル、ダリル・ホール&ジョン・オーツなど80年代洋楽チャートの影響を受けながら育つ。5歳よりヴァイオリンを、7歳からピアノを習い始め、クラシック音楽を学ぶ。また同じく5歳のとき、ビリー・ジョエルのような心地でピアノ曲を作曲し、以後12歳の頃(指揮者になりたかった)にラジカセ2台の多重録音、13歳(エンヤの影響を受けていた)にカセットMTRで多重録音を重ね、16歳のとき、01/wで念願の打ち込み環境を手に入れ、のめり込む。17歳まで独学だった作曲に関して基礎を身につけるために東京藝術大学を目指す。また、並行して続けていた弦楽アンサンブルではヴァイオリン、ヴィオラを担当する。東京藝術大学音楽学部作曲科作曲専攻に入学。デュリュフレ、デュティユーやメシアンなどフランス近現代の作曲家に私淑。主に現代芸術としての音楽を学ぶ。大学3年の夏にアメリカ・カルバーシティの映画制作スタジオでスコアリングを見学し、自分が映画やゲームなど映像に付随する演出音楽を作ることに憧れていたことを思い出す。株式会社ナムコ(当時)に入社。「ソウルキャリバー2、3」「鉄拳5、6」「リッジレーサー7」「太鼓の達人」シリーズ、「アイドルマスター」などで楽曲制作を積み重ねる一方で、社内ヴァイオリン奏者として演奏提供を行う。また、技術的な好奇心も高く、ロンドンで行われたAESのカンファレンスでは、日本のゲームオーディオに関する講演チームの一員として参加し、翻訳・講演を行う。その後、「スカイクロラ イノセン・テイセス」でのサウンドディレクターとしての経験や、「エースコンバット6」「鉄拳6」のカット・シーン用楽曲制作を通じて、より幅広い音楽制作へ挑戦することに惹かれ、有限会社モナカへ。アカデミズムに裏打ちされた緻密なオーケストレーションを得意とする一方で、テクノやジャズにも精通する。好きなアーティストは、ティアーズ・フォー・フィアーズ、ポリス、ニティン・ソーニー、スティーリー・ダンなど。

▼石濱翔

 父がバンドのベーシスト、母はフルート奏者という家庭にて、幼少の頃から自然と音に慣れ親しみ育ち、16歳の頃ビートルズのジョン・レノンに憧れギターと同時に作曲活動を始める。愛知県甲陽音楽学院に進学。在学中に観たキーラとカルロス・ヌニエスのライブをきっかけに、UKロックやケルト音楽に興味を抱く。主にヨーロッパ方面の音楽に傾倒し、60年代70年代のUKロック、ケルト音楽に加えて、ケニー・ドリューの影響からジャズ、ファンク、そしてクラシックのフランス印象派などへと音楽の幅を広げ、より作曲活動に没頭していく。有限会社モナカにサウンドクリエイターとして入社。自身が影響を受けた世界各国の民族的な音を織り込みつつ、幼少期から刷り込まれたセンスによって生み出される繊細でモダンなオーケストレーションを得意とし、聴く者を独自の世界へと惹き込む。吸収力と柔軟性もあり、今後より一層の成長と活躍が期待される若手のホープ。


▼帆足圭吾

 ピアニストである母親の影響で、3歳よりクラッシックピアノを始める。4歳から桐朋学園「子供のための音楽教室」に入学し、ソルフェージュ、和声、ピアノ演奏を学ぶ。15歳で同中等課程を卒業。17歳の時に初めてシンセサイザーを購入。ジャズやロック等、他の音楽ジャンルの興味を持ち始める。高校卒業後、かねてより興味のあった映画音楽やプログレッシブロックの世界へ。プログレッシブ・ロックバンドDREAM THEATERのキーボーディストJordan Rudessの演奏に惚れ込み20歳で渡米。アメリカ・ボストンのバークリー音楽院へ入学、映画音楽学科へと進む。在学中よりプレグレッシブ・ロックを中心としたバンド活動を開始。活動中、憧れのキーボーディストであるJordan Rudess主宰のフェスタでのキーボーディスト募集をきっかけにオーディションに合格。NY州White Plainsにて即興ピアノを演奏する。バークリー音楽院を卒業後も、アメリカ東海岸を中心にバンドでライブ活動を続ける。帰国後、有限会社モナカにサウンドクリエイターとして入社。作編曲・オーケストレーションはもちろんのこと、幼少期から培ってきたピアノに関しての技術、センスは社内で高く評価されている。作り出す音楽は、気品がありつつも誰もが親しみやすい心地よさを兼ね揃えている。ピアノという才能を武器に、今後の本格的な活躍が期待される若手。


▼田中秀和

 5歳よりピアノをはじめる。同時期より、電子ピアノの録音機能で遊びながら作曲を始める。13歳よりアコースティックギターをはじめる。吹奏楽部でパーカッションを担当していたこの頃、小遣いを貯め購入したシーケンスソフトで打ち込みをはじめる傍ら、独学で音楽理論を学ぶ。高校では軽音楽部に入部、ロックバンドを組む。担当はエレキギター。2004年の近畿地区軽音部コンテスト”We are Sneaker Ages”において、決勝大会に出場。メンバーと共作した楽曲を大阪厚生年金会館ホールで演奏、好評を博す。神戸大学発達科学部人間表現学科に入学。民族音楽や芸術音楽の基礎を学ぶ一方、音が美術や身体表現と組み合わされることによって生まれる新たな魅力に惹かれ、展示とパフォーマンスのコラボレーションイベントの企画、写真展や舞台の音響・音楽制作、サウンド・インスタレーションの制作などを積極的に行う。その結果、自身のバンド活動の場においても、「大勢の人が目にし、耳にするものの中に、どのように新たな魅力を作り出せるか」という、商業音楽にとっても重要な課題について、自然と考えるようになる。就職活動中、神前暁のアシスタント募集を知り自作曲のデモを送付。より幅広く活動できるようにとモナカを紹介され、入社の運びとなる。現在は、岡部、神前の厳しい指導のもと、歌もの、劇伴などの楽曲制作のみならず、録音・編集作業などのスタジオワークまで精力的にこなす期待の新人として、昼夜を問わず活躍中。親しみやすいメロディーと、豊かな感性に基づいたハーモニー感覚が最大の武器である。


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 余談ですが、帆足氏のプロフィールの「憧れのキーボーディストであるJordan Rudess主宰のフェスタでのキーボーディスト募集をきっかけにオーディションに合格。NY州White Plainsにて即興ピアノを演奏する」のくだり、これはおそらく2004年7月25日に行われた「Key Fest」のことではないかと思われます。ホワイトプレインズのパフォーミングアートセンターで行われた同フェスは、ルーデスの指導によるマスタークラスや、キーボードセッション、そしてルーデスのソロコンサートなどがプログラムに盛り込まれていました。

「DREAM THEATER Keyboardist To Present KEY FEST」
(from BLABBERMOUTH|2004.07.06)

 また、驚くべきことに、帆足氏のバークリー在籍時代の映像がYouTubeにいくつかありました。2003年にバークリーのカフェやセンターで行われた、とあるDREAM THEATERのカヴァーバンドのパフォーマンス映像。キーボードを弾いているのが帆足氏です。








2016年4月10日日曜日

フランス/エチオピア混合バンドが生み出す超高濃度プログレジャズエスノグルーヴ演歌 ― uKanDanZ『Awo』(2016)




 KOUMAPolymorphieなど、オルタナティヴ・ジャズロック系バンドでも活躍するフランス人ギタリストのダミアン・クリュゼルを筆頭に、ユーモア精神に満ちたアヴァン・ロック・トリオ POiLでも活動するドラマーのギレム・メイエール、ルイ・スクラヴィスやソフィア・ドマンシッチなどとの共演歴もあるテナーサックス奏者のリオネル・マルタン、パオロ・フレスとの共演歴のあるキーボーディストのフレデリック・エスコフィエといった若手のジャズ/ロック ミュージシャンと共に編成されたバンドに、エチオピア人歌手 アスナケ・ゲブレイエスが加わって2010年に結成されたフランス/エチオピア混合バンド ユーカンダンツ。グループ名は、マドンナの"Into the Groove"の詞の一節をオランダ訛りにしたもの。バンド自ら“Ehiopian Crunch Music”と呼ぶその音楽性は、フランス由来のアヴァン・ジャズ/ロックにエチオピア由来のグルーヴ感が高い濃度で融合したミクスチャー・ワールドミュージック。アスケナのコブシの効いた強烈なヴォーカルパフォーマンスと、自由自在の可変に富む強靭なジャズロックアンサンブルがシノギを削りあい、プログレッシヴジャズエスニックグルーヴ演歌ロックとでもいいたくなるような、血のたぎるハイテンションサウンドです。ブッ飛んだアレンジとパワフルなパフォーマンスでヘヴィにアップトゥデイトした土着の伝統曲や60~70年代のクラシックなエチオピア歌謡もふんだんに盛り込み、2012年にリリースされたデビューアルバム『Yetchalal』は、ここ日本でも好評をもって迎え入れられ、2013年には来日も果たしております。




 そして、約四年ぶりとなるアルバムが、本作『Awo』。5曲のカヴァー/アレンジと、バンドオリジナルの大曲を収録した全6曲(+ボーナストラック)です。また、前作発表後、フレデリックが脱退し、POiLとも交流のあるアヴァン・ロック・バンド「NI」のベーシスト ベノワ・ルコントが加入しています。キーボーディストの後任がベーシストというのも珍しいですが、これにより、サウンドのヘヴィプログレ度はより増しました。KING CRIMSONもかくやといったヘヴィなリフとサックス、ドゥームメタルにも肉迫せんばかりのアレンジが施された、60~70年代エチオピアンファンク歌謡の帝王トラフン・ゲセセ"Sèwotch Men Yelalu"のカヴァーにもよくあらわれています。続く"Tchuéten Betsèmu" "Lantchi Biyé"も、トラフンのレパートリーのカヴァー。オリジナルはクラール(エチオピアの民俗弦楽器)の弾き語り曲だという"Endé Iyérusalem"は、リズム隊のポリリズミックなグルーヴとヴォーカルの節回しがえもいわれぬ調和をみせるチェンバー・ロック・アレンジに。"Gela Gela"も、スロウなアヴァン・ジャズ歌謡とでもいうような妖しい仕上がり。ラストを飾る"Ambassel To Brussel 1 / Wubit / Ambassel To Brussel 2"は、ダミアンがバンドのために初めて書き下ろしたという、12分を越える意欲的な長尺曲。エチオピア土着の音階をフィーチャーしつつ、ベルギーのアヴァン・ジャズロックバンド AKA MOONにインスピレーションを得て制作されたということもあり、エチオピアのアンバセルとベルギーのブリュッセルが曲名に入っています。タイトなバンドサウンドと小気味よいミクスチャー感も味わえる、ユニークな一曲です。

 本作は2月にメタカンパニー/オルターポップより日本先行で国内盤がリリースされています。また、機を同じくして、1stアルバム『Yetchalal』が期間限定で、1080円の廉価再発盤として販売されています。この機を逃す手はないと思いますよ!!!


AWO アウォ
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ユーカンダンツ
オルターポップ (2016-02-07)
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イェチャラル
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http://www.ukandanz.com/
https://www.facebook.com/ukandanzband
http://damiencluzel.free.fr/

2016年4月9日土曜日

弦楽+ピアノ+ドラムが紡ぐ、凛としたアコースティック・インストゥルメンタル ― NEO RESISTANCE QUARTETTO『NEO』(2016)

NEO ネオ
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Neo Resistance Quartetto ネオ・レジスタンス・カルテット
Neo Records (2016-02-15)
売り上げランキング: 56,853

http://tempei.theshop.jp/items/2643022
http://tower.jp/item/4221266/NEO

 クラシック、ジャズ、プログレッシヴ・ロックからの影響を昇華させたしなやかなプレイを聴かせるガテン系ピアニスト 中村天平氏。2008年のデビュー以来、これまでに四枚のソロアルバムをリリース。ニューヨークと東京を拠点としながら世界各国での演奏活動を精力的に展開し、「あべのハルカス」、朝日放送「東京タイマー2020」などへのテーマミュージックの提供も行っている氏を中心として2014年に結成されたインストゥルメンタル・グループ「ネオ・レジスタンス・カルテット」のデビューアルバム。メンバーはドラマーの山本真央樹氏、ヴァイオリニストのYuiさん、チェリストの村中俊之氏。それぞれがクラシック、民族音楽、ロック、ポップス、フュージョンのフィールドで活動する実力者たちです。ピアノと弦楽によるアコースティックの響きを重視しながらも、ロック的ダイナミズムも交えた、強靭で凛としたサウンドがグループの最高の武器。クライズラー&カンパニーやG-クレフなどの登場で90年代に一世を風靡したクラシカル・クロスオーヴァーを、NRQはよりパワフルなアプローチでアップ トゥ デイトしています。タイトルから浮かぶ情景を颯爽と活写する"革命の夜明け"や、弦楽の哀切の響きとメロディが胸を打つ"戦場からの恋文" "Waltz of Bologna"。低音をふんだんに効かせた"Marianne"などのオリジナル曲のほか、"ロッキーメドレー"(〈ロッキー〉シリーズ)、"君をのせて"(「天空の城ラピュタ」)、マイケル・ジャクソン"Black or White""Smooth Criminal"のカヴァーも収めた全10曲。"ロッキーメドレー"では、ビル・コンティ作曲のメインテーマや、SURVIVORの"Eye of the Tyger"のみならず、「ロッキーIV」のヴィンス・ディコーラ作曲のスコア"War"と"Training Montage"も組み込まれているのも嬉しい。気品を帯びた躍動感みなぎるMJのカヴァーの大胆なアレンジにも注目です。




▽Extreme Duo plays "Phoenix" / Tempei&Maoki 天平&真央樹

"火の鳥"(天平氏の3rdソロアルバム収録曲)のピアノ&ドラム・デュオでのパフォーマンス映像、オリジナルよりさらにプログレ度が増している感も。


http://www.neoresistance.net/
https://www.facebook.com/NeoResistanceQ/

2016年4月7日木曜日

元UNITOPIAのキーボーディスト率いる豪州の新プログレハードバンド ― SOUTHERN EMPIRE『Southern Empire』(2016)

Southern Empire
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Southern Empire
Imports (2016-03-25)
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 ヴォーカリストのマーク・トゥルアックとキーボーディストのショーン・ティムズのデュオとして2000年代初頭に結成され、四枚のアルバム(カヴァーアルバムふくむ)と一枚のライヴDVDをリリースして2014年に解散したオーストラリアのプログレッシヴ・ロック・バンド UNITOPIA。バラエティ豊かでドラマティックな作風で知られたこのバンドのほとんどのメンバーはその後 新たなプロジェクト United Progressive Fraternityを立ち上げ、元TANGENTのメンバーやジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハケットなどを迎えた手厚い布陣でアルバムを制作していますが、このSOUTHERN EMPIREは、そこには加わらなかったショーンが新たに結成したバンドです。その他のメンバーは、QUEENやフランク・ザッパなどのトリビュートバンドで活動する若手ミュージシャンで固めています。UNITOPIAで展開していたあのスケール感はいささか減じてしまうのではと思っていましたが、フタを開けてみればキーボードアレンジを全面に押し出したAOR/プログレッシヴ・ハードロック路線を明確に打ち出しており、ヴォーカルもろとも予想以上にスカッとした仕上がり。また、依然として長尺志向であり、11分の楽曲二曲、28分/全9パートに及ぶ大曲"The Bridge That Binds"を中核に据えています。バンドは2017年にUK、ヨーロッパツアーを予定しているとのこと。





▽progstreamingにて、全曲ストリーミングで聴けます(※期間限定)
http://goo.gl/CguUG1

http://www.southernempireband.com/
https://www.facebook.com/southernempireband

2016年4月5日火曜日

90年代日本アニメへの愛を込めた、色彩豊かな一大ポップアルバム ― Wilbert Roget,II『Beyond Libra』(2016)




 ウィルバート・ロジェIIは、アメリカのゲームミュージックコンポーザー。2008年にルーカスアーツに入社し、 「Star Wars: The Force Unleashed」(2008)、MMORPG「Star Wars: The Old Republic」(2011)、「Monkey Island 2: LeChuck's Revenge」(2010)などの制作に参加。また、2013年にルーカスアーツ閉鎖による開発凍結で幻の作品となってしまった「Star Wars: First Assault」では、ロンドンシンフォニーオーケストラを起用し、アビー・ロード・スタジオ録音でスコアを制作していたようです。その後はフリーランスでの活動にシフトし、「ソウルキャリバーV」(2012 ※オーケストレーションで参加)、「ララ・クロフト アンド テンプル オブ オシリス」(2014)や、先ごろ別のデベロッパーに開発が引き継がれた「Dead Island 2」のサウンドを担当。オーケストレーションアレンジに定評があり、数々のゲームミュージックアワードへのノミネートもされるなど、近年とみに注目を集めるコンポーザーの一人でもあります。また、彼は海外のゲームミュージックコミュニティ「OverClockedRemix」でbustatunez名義でアレンジを投稿もしているほか、サウンドソフトフェア会社 Impact Soundworksの音源サンプルの制作に関わってもいます。




 久石譲、菅野よう子から多大なる影響を受けた彼は、プロのコンポーザーとして活動を始めたころよりアニメのサウンドトラックを制作したいという構想を抱いていたようです。作品として形にするべくクラウドファウンディングサイト kickstarterでCD制作のための一部資金を募り、目標の二倍の金額を達成。今年の3月にすべての作業を終え、「90年代日本アニメサントラへのラブレター」となる本作『Beyond Libra』のリリースと相成りました。アルバムは五つの言語でそれぞれ歌われたヴォーカルトラックを中心とした全13曲。楽曲ごとにVOCALOIDをふくむ複数のヴォーカリストやコーラス隊、バンドアンサンブル、室内楽アンサンブルを投入し、ウィルバート氏の持ち前のオーケストレーションはもちろんのこと、ワールドミュージックやニューエイジ・ミュージックのエッセンスをふんだんに盛り込んだポップミュージックに仕上がっており、アディエマスやパット・メセニーもかくやといった雄大で多様なスケールを感じさせます。長年の想いと持てるインスピレーションのすべてを吐き出しているといっても過言ではないほどに、どこを切ってもとてつもない熱量がこぼれだすかのよう。全曲、全力でオススメしたい作品です。



「Lara Croft composer unveils new anime-inspired original album」
(from VGMonline|2015.11.10)

「Will Roget Interview: From Transcribing MIDIs to Scoring AAA Titles」
(from VGMonline|2014.09.14)


http://www.rogetmusic.com/
https://www.facebook.com/RogetMusic/
http://vgmdb.net/artist/1057

2016年4月3日日曜日

日本通なオランダのマルチコンポーザーによる、絢爛華麗な甘口プログレポップ ― MAGLEV『Overwrite the Sin』(2016)

Overwrite the Sin
Overwrite the Sin
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FREIA Music Distribution (2016-03-28)
https://itunes.apple.com/jp/album/overwrite-the-sin/id1096148642



 オランダは古くよりプログレッシヴ・ロックのファン活動が盛んであり、それに応えるかのように、90年代からはIQやPENDRAGONをはじめとするイギリスのバンドが主拠点として活発にライヴを行い、現地に立ち上げられたSI MUSICレーベルは発信源として大きな影響力を持っていました。現在もプログレッシヴ・ロック豊作の地として良質なバンドがひしめくかの地は、一方でQUEENの遺伝子を色濃く受け継いだロビー・ヴァレンタインやヴァレンシア、AYREONのアルイエン・アンソニー・ルカッセン、The Black Codexのクリス・ブリューイン、EQUISAのセバス・ホーニングなど、一人で作編曲や演奏のほとんどをこなしてしまうマルチなポップ・ミュージシャンを続々と輩出してもいます。今回紹介する ジュースト・マグレヴも、そんなオランダで活動するマルチミュージシャンの一人。過去にはJ-POPカヴァーバンドのSlightly Springに在籍。GALANORというメタルバンドのベーシストとして大阪と東京で来日公演を行った経験もある彼は、大の日本音楽通でもあり、音楽的インスピレーションとしてQUEEN、YES、GENESIS、AYREON、ヴァレンシア、ティム・スミス(CARDIACS)のほか、Gackt、X JAPAN、VIENNA、菅野よう子、坂本真綾、冨田ラボの名を挙げています。なかでもGacktに対するリスペクトは並々ならぬものがあるようです。2002年よりミニアルバム『Prelude』をリリースし、ソロ活動を開始。これまでに『Voluntary』(2005)と『Unleaded Blood』(2008)の二枚のフルアルバムをリリースし、現在はプログレッシヴ・メタル・バンド EQUISAのメンバーとしても活動しています。





 8~12分の5つの長尺曲からなる本作『Overwrite the Sin』は三枚目のフルアルバム。ぶ厚いコーラスハーモニーがパワフルな求心力を伴った"Play the Game"、朗々たるヴォーカルを聴かせるパワーバラード"Song of a Dead Bard"を皮切りに、多重録音を施したスウィートなプログレッシヴ・ポップ・サウンドは徹底的に絢爛、かつダイナミックなインパクトに特化しています。また、レコーディングには長らく活動を共にしているセバス・ホーニングとスカーレット・ペンタがそれぞれギターとヴォーカルで参加しているほか、なんと大御所 ロビー・ヴァレンタインがピアノを弾いており、彼のまさかの参加には正直驚かされました。華やかなコーラスワークとストリングスサウンドでガンガン盛り上げる"Judith"は、ぶっちゃけてしまえば往年のヴァレンシアの作風をほぼ完コピした曲。過去にも"Gaia"をオマージュした曲を制作しているのですが、高音コーラスの挿入の仕方といい、サビで一気にバウンスする展開といい、よくぞここまでというくらいの高いテンションと再現度をキープしています。思わず笑ってしまうのですが、その研究ぶりには頭が下がります。続く"Confined"はアコースティック・バラードな前半から一転してメロディックスピードメタルになるのですが、サビ後のストリングスの切り込み方、そこからのツインギターのソロがX JAPANの"Silent Jealousy"へのド直球なオマージュであります。ラストの"The Hands of Time"は12分を越える本作最長の楽曲。GacktやX JAPANからの影響を昇華した、スローテンポの甘口シンフォニック・ロックで大団円を迎えます。一口にフォロワーといっても、ここまでいろいろなものを貪欲に取り込んでプラスに転化するフォロワーを前にしてしまうと、何かしらの音楽的パラダイムシフトが起こりえるのではという可能性すら感じてしまいます。




http://www.joostmaglev.nl/
https://www.facebook.com/joostmaglevofficial
https://www.youtube.com/channel/UChnp-VOTK7Nj0brd11rVS0w

2016年4月2日土曜日

MONACA(石濱翔/帆足圭吾/岡部啓一) 山本陽介『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~ オリジナルサウンドトラック』(2016)

TVアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』オリジナルサウンドトラック
帆足圭吾(MONACA),山本陽介 石濱翔(MONACA) ZAQ
ランティス (2016-01-06)
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 昭和によく似た架空の元号「神化」の時代を舞台に、往年の小説、映画、特撮、アニメのオマージュや、ジョージ・R・R・マーティン編のシェアードワールド〈ワイルドカード〉や、アラン・ムーア原作のアメコミ『ウォッチメン』などのテイストも織り込み、「超人」たちが繰り広げる活劇と葛藤を描くアニメ「コンクリート・レボルティオ」(原作:BONES、會川昇/監督:水島精二)第一期の二枚組サウンドトラック。劇伴担当は、音楽制作集団 MONACAの石濱翔氏、帆足圭吾氏、岡部啓一氏と、山本陽介氏の計四名。多種多様なキャラクターが入り乱れた作品内容ゆえ、幅広い音楽ジャンルに対応できるMONACAとの相性はやはり噛み合っており、ピアノ/ストリングス基調のスタンダードなアコースティック・スコアから、ブラスセクション入りのジャズ/ファンク、エレクトロ/ダブステップなど、新旧の要素がひしめき合い、混ざり合ったバラエティに富む内容に仕上がっています。




 DISC 1はMONACAによるスコアを収録。メインコンポーザーは石濱氏と帆足氏で、岡部氏はサブコンポーザーとして"ボクハタダノケイジ" "テッコツノヒト"の二曲のみ提供しています。これらは柴来人/鋼鉄探偵ライトのテーマであり、共通してトランペットによる黄昏たメインフレーズが組み込まれた楽曲。"マタヨビステ" "マジョリョク" "ハテシナキカゾクノハテ"など、星野輝子まわりのスコアは、辻純更さんのスキャット/ヴォーカルも入った、軽やかでしっとりとしたものが多い印象。また、華やかなストリングスが疾走する"メテオテール"は、某美少女戦士の変身バンクBGMのオマージュ(本編で使用されたシーンもまさにという感じ)ですし、低音のストリングスがバリバリに効いた"ワレワレガカイジュウダ"は、もちろん某怪獣映画のテーマのオマージュです。そのほか、ハリのあるブラスセクションがグイグイと引っ張っていく"テンキュウナイトヲダレモシラナイ"は、大野雄二オマージュなのかなと思わせつつダブステップに可変するというパンチの効いた一曲ですし、"チョウジンジャナイ ニンゲンダ"はストリングスとダブステップのコンビネーションが秀逸。日本語っぽいけど実際日本語で歌っていないパチモン演歌(ちょっぴりエレクトロ風味)"タイコウ"も妙に印象に残ります。ピッコロ/フルートをフィーチャーした"オトナニナリテーヨ" "ヤツラハイツデモワラッテル"は、石濱氏のルーツにあるケルト音楽の要素を伺わせる曲だなとも思いました。




 DISC2にはギタリストの山本陽介氏の楽曲を中心に収録。ロックンロールバンド ZIGGYの森重樹一氏のサポートギタリストやサウンドプロデュースを務め、宇都宮隆、OLDCODEX、茅原実里、遠藤正明など数多くのライヴサポートやレコーディング、作編曲を手がけてきた山本氏ですが、劇伴を手がけるのは本作が初。そしてエンディングテーマのインストゥルメンタルナンバー"The Beginning"は、氏のソロデビュー曲でもあります。アニメのOPテーマがギターインストだった例は過去に「TRIGUN」「はじめの一歩(第一期)」(今堀恒雄)、「ジーンシャフト」(高崎晃)がありますが、EDテーマで、というのはおそらく初ではないかと思います。ミドルテンポで力強い唸りをあげるギターのフレーズがまさに「歌って」いるかのようなアンセムたる直球勝負な一曲で、まことに素晴らしい。フルヴァージョンはサントラに先がけてリリースされたコンピレーションアルバム『神化・傑作曲集』に収録されているのですが、サントラにはTVサイズ版と、"-Individual Beginnings-"という、さらにテンポを落とした別アレンジが収録されています。また、ストレートなハード・ロック/デジロック チューン"FuzzY/Roid" "Too Fast For Love"や、トリッキーなマスロック/ジャム"Kiss Five Kill Six"、そして静かな叙情を感じさせるポストロック調の"Howling Cradle" "A Bittersweet Pill"といったスコアで、確かなテクニックと豊かなバックグラウンドを感じさせてくれます。また、オープニングテーマ"カタラレズトモ"(ZAQ)のギターも氏の演奏であることを付け加えておきます。そのほか、"カタラレズトモ"のTVサイズ版と二つのリミックス。先行公開トレイラーに使用された"Revolution"のエディット版。第三話で爾朗がギターで爪弾いていた"禁じられた遊び"のフルヴァージョン(ギター演奏は馬場一人氏)も収録されています。


http://concreterevolutio.com/

「目指すはキース・リチャーズ!29歳の骨太ギタリスト山本陽介とは。」
(from RollingStone日本版|2015.12.17)

「森重樹一&山本陽介 インタビュー」
(from OKMUSIC|2015.11)

「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」特集 水島精二×川本真琴×ZAQ鼎談
(from 音楽ナタリー|2015.09)

MONACA - Official Website
山本陽介 - Official Website

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『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~ オリジナルサウンドトラック』

[LACA-9432-3|LANTIS|2016.01.06]

【Disc1】
01. シンカヨンジュウイチネン
02. トウキョウノマジョ
03. マタヨビステ
04. メテオテール
05. フレッドアンドホイルコウカ
06. チョウジンカ
07. ウル
08. クロイキリノナカデ
09. オバケノホウリツ
10. マジョリョク
11. オトナニナリテーヨ
12. イインダ オマエハソノママデ
13. テッコツノヒト
14. チョウジンジャナイ ニンゲンダ
15. ジンゾウニンゲンメガッシン
16. ボクハタダノケイジ
17. カイジュウハイカリダ
18. カイジュウノシンリ
19. ワルイカイジュウ
20. ロック・ワン
21. ジロウセンパイ
22. ニホンカイジュウシ
23. ブロークンランス
24. ワレワレガカイジュウダ
25. ヤツラハイツデモワラッテル
26. タイコウ
27. ソラモホシモコエテイコウ
28. ココロノスキマ
29. ウソノアジ
30. テンキュウナイトヲダレモシラナイ
31. ルシファーノヒトミ
32. ギガンダーセブン
33. ハテシナキカゾクノハテ


【Disc2】
01. Revolution
02. Too Fast For Love
03. -Individual Beginnings-
04. FuzzY/Roid
05. Howling Cradle
06. A Bittersweet Pill
07. Kiss Five Kill Six
08. カタラレズトモ-Battle Remix1-
09. カタラレズトモ-Battle Remix2-
10. カタラレズトモ(TV-version)
11. The Beginning(TV-version)
12. Revolution -Trailer Edit-
13. 禁じられた遊び



[Disc 1]
作編曲:石濱翔(01~03、08~11、15、17~19、25、26、32)
作編曲:帆足圭吾(04~07、12、14、20~24、27~31、33)
作編曲:岡部啓一(13、16)

[Disc 2]
作編曲:山本陽介(01~07、11、12)
ZAQ(08~10)
ナルシソ・イエペス(13)

高桑英世(Piccolo, Flute & 篠笛)
室屋光一郎ストリングス(Strings)
佐々木史郎(Trumpet)
河合わかば(Trombone)
庵原良司(Alto & Tenor Sax)
鹿島達彦(Bass)
後藤貴徳、馬場一彦[disc 2-13](Guitar)
辻純更(Chorus)

Producer: 保坂拓也 (Lantis)
Recorded & Mixed & Pro Tool Operated: 近藤圭司 (SIGN SOUND LLC)
Assistant Recording Engineer: 石塚陽大 (SoundCity)

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