2016年3月29日火曜日

「ガンデラック」に乗り込むメタルバンドがゾンビを殲滅する終末リズムゲーム ― Elmobo『Double Kick Heroes』(2015~)




 海外で定期的に開催されている数日間のゲーム制作イベント「Ludum Dare」でプロトタイプが生み出され、ゲームデザイン、サウンドともに多数の好評とフィードバックを獲得したフランスのHeadbang Club開発によるシューティングゲーム「Double Kick Heroes」。クエンティン・タランティーノ、スティーヴン・キング、ロバート・ロドリゲスなどにインスパイアされた作品であり、荒廃した終末世界を舞台に、「ガンデラック」に乗り込んだメタルバンドがギンギンに演奏しながら襲い来るゾンビ軍団をガスガス撃ち殺しまくるという、「Guitar Hero」を破壊的にアタマ悪くしたような(褒め言葉)リズムシューティングゲームです。これぞまさしくパワーメタル(物理)。2015年末にWindows/ブラウザ用ゲームとしてリリースされましたが、2016年冬にはsteamでグレードアップ版の配信リリースを予定しており、痛快なるバカゲー期待の一作に躍り出ました。プレイヤーの好みの楽曲でゲームをプレイすることも出来るとのこと。




 Windows/ブラウザ版の5曲入りオリジナルサウンドトラックが投げ銭でリリースされています。同作のコンポーザーであり、ギターとヴォーカルも自ら担当している「Elmobo」ことフレデリック・モッテ氏は80年代より「Moby」の名でデモシーンに参加し、90年代よりゲームミュージックを作り続けているヴェテラン中のヴェテラン。一方でPlun-Inというプログレッシヴ・メタル・バンドでも活動し、それがキッカケとなってウルトラバカテクギタリスト Bumblefootことロン・サールのフランスツアーのサポートメンバーに抜擢されてもいます。また、Plug-Inの2011年のアルバム『Hijack』ではバンブルフットのほか、アンディ・ティモンズ、FREAK KITCHENのマティアス・エクルンド、SOILWORK、SCARVEのシルヴァン・コードレー、MÖRGLBLのクリストファー・ゴディンなどのテクニシャンがゲスト参加した強力盤でもあります。2004年にはConkrete Studioというレコーディングスタジオを構え、多くのバンドのミキシングやマスタリングも手がけてもおります。そんな彼ですから、グルーヴメタル/チップチューンメタル/エクストリームメタルな楽曲もお手のものといったところ。しかも、「Ludum Dare」の期間内に合わせ、作曲、レコーディング、ミキシング、マスタリングを72時間で完了させており、なんたる仕事の早さかと、舌を巻くことしきりです。




http://doublekickheroes.rocks/
https://www.facebook.com/double.kick.heroes
http://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=650407962

http://www.elmobo.com/

2016年3月28日月曜日

フィリップ・K・ディックをオマージュしたアドベンチャーゲームの無国籍感あふれる楽曲集 ― Xavier Thiry『Californium』(2016)






 Darjeeling / Nova Production / ARTE Franceの共同制作による、フィリップ・K・ディックへのオマージュを込めたゲーム「Californium」。エディターのYann CoquartとライターのAriel Kyrouが制作し、ドイツ/フランス共同出資のテレビ局 ARTE TVで2014年に放送されたディックのドキュメンタリー『Les mondes de Philip K. Dick』をベースに、アートディレクター/イラストレーターの Oliver Bonhommeによるヴィヴィッドなデザインのもと、2016年2月にsteamなどでリリースされた同作は、架空の作家 Elvin Greenという作家の視点で展開されるファーストパーソンアドベンチャーゲームです。ヒッピー・ムーヴメント華やかなりし1967年のバークレーを皮切りに、数々の世界を目の当たりにします。また、ゲームのリリースと時を同じくして、エレクトロポップユニットやゲームミュージックなどで活動するフランスのコンポーザー/アレンジャー Xavier Thiryのbandcampアカウントにてサウンドトラックがアップされています。無国籍インストゥルメンタル。かつてクラウス・ノミらもカヴァーした、ヘンリー・パーセルのオペラ「アーサー王、またはブリテンの守護者」第三幕のアリア"what power are thou" (Cold Song)の秀逸なエレクトロ・ヴォーカルアレンジも収録。




「Interview 2015 : Ariel Kyrou sur Philip K. Dick」
(from actusf.com|2015.06)

http://www.darjeelingprod.com/portfolio/californium/
http://californium.arte.tv/fr/#/

https://soundcloud.com/xavier-thiry
http://www.lesmusiquesmodernes.com/
http://www.olivierbonhomme.com/

2016年3月26日土曜日

「レーザーハープ」の第一人者による、『砂の惑星』イメージアルバム ― Bernard Szajner『Visions of Dune』(1979)



 フランスのシンセサイザー奏者/コンポーザーであり、「レーザーハープ(Laser Harp)」の開発者、そしてメディア・アーティストでもあるベルナール・シャイネール(ベルナルド・ソジャーン)。ライティング・デザイナーとして、THE WHOやMAGMA、GONG、ツトム・ヤマシタなどの数々のコンサートの演出に関わっていた氏は70年代後半より音楽活動にも目覚め、「ZED」名義で1979年にアルバム『Visions of Dune』を発表します。フランク・ハーバートの大河SF小説『デューン/砂の惑星』に触発されて作り上げられた本作のレコーディングには、フランスを拠点に活動していたイギリス出身のサイケデリック・ロック・バンド BACHDENKELのギタリスト コリン・スウィンバーンや、プログレッシヴ・ロック・バンド MAGMAやNEMOなどに在籍していたドラマー クレメント・ベイリーの名前もあります。そのほか、MAGMAのクラウス・ブラスキとFONDATIONのアナンカ・ラゲルがヴォイスで、Pierre Moerlen's GongやGONGZILLAのハンスフォード・ロウがベースでそれぞれ一曲ずつゲスト参加もしており、彼がライヴ演出家時代に培ったアンダーグラウンドシーンとの繋がりも明らかな、興味深いラインナップとなっています。




 アルバムは“First Vision”と題されたA面、“Second Vision”と題されたB面ともに各6曲で構成されており、オーバーハイムとアープ・オデッセイを駆使し、プログレッシヴ・ロックやミニマル・ミュージックの流れも汲んだエレクトロ/ドローン・ミュージックを全編にわたり展開。冷ややかに潜航していくかのように、イマジネーションをゆっくりと喚起させてくれます。本作は1999年にフランスのSpalax MusicよりCD化されて以来、長らく廃盤でしたが、2014年にInFiné Musicより新装ジャケット&ボーナストラック追加でリマスター再発されました。


デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (上) (ハヤカワ文庫SF)
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 余談になりますが、1979年のシンセサイザー・ミュージック シーンでは、ドイツのシンセサイザー奏者 クラウス・シュルツェも、デューンに触発されたアルバム『Dune』を発表しておりました。TANGERINE DREAMの『Force Majeure』や、HELDON(リシャール・ピナス)の『Stand By』もこの年です。また、近年公開されたドキュメンタリー映画「ホドロフスキーのDUNE」のスコアが、『Visions of Dune』と同様にシンセサイザーによる長尺のエレクトロ/ドローン路線だったことも、実に興味深いなと思いました。スコアを手がけたクルト・ステンツェルのイメージには、シャイネールやシュルツェのアルバムの存在もあったのかもしれませんね。






『Visions of Dune』リリース後、シャイネールは実験的エレクトロニクス・アルバムを立て続けに制作。アムネスティ・インターナショナルの死刑廃止キャンペーンに共鳴し、1980年に制作された『SomeDeaths Take Forever』ではMAGMAのベルナール・パガノッティとクラウス・ブラスキが参加。後年、デトロイトテクノの重鎮 カール・クレイグがフェイバリットとして本作を挙げたことで、再評価のきっかけの一つにもなりました。1981年には、『Visions of Dune』制作時のマテリアルをベースにした『Superfical Music』を発表。1982年には、BACHDENKELなどのプロデューサーであったカレル・ビアーとのデュオ The (Hypothetical) Prophetsを結成し、数枚のシングルと、アルバム『AroundThe World With The (Hypothetical) Prophets』を残してもいます。1983年には、BUZZCOCKSやMAGAZINEのハワード・ディヴォートをヴォーカルに迎えた『Brute Reason』を発表。アルバムジャケットにはシャイネールとレーザーハープが写っております。1984年と1986年にはダークなエレポップを収録した12インチEP『The Big Scare』『Indécent Délit』(セルジュ・ゲンズブール"Flash Forward"のカヴァーも収録)をリリースするものの、これ以降、シャイネールは音楽活動から離れ、視覚芸術やロボット工学(!)の道に進みます。断片的な情報ですが、アインシュタインのオートマトンや、多関節ロボットなどの製作、「Zoo des Robots(ロボット動物園)」(1986~1991)なるインスタレーションに携わっていたようです。







 近年、カタログの再発が続々と進み、シャイネールの音楽的功績に改めてスポットが当てられているほか、2013年には、かつてルイス・キャロルの「スナーク狩り」に題をとって制作した楽曲をまとめた『The Lost Tracks - Snark Music』が、2015年にはScanner、Ghosting Season、Clara Moto & TylerPope、Irene Dresel、Siavash Aminiら新世代ミュージシャンとのコラボレーション・リミックスアルバム『Rethinking Z』がリリースされました。また、シャイネール自身も音楽活動を再開。2012年11月にはパリで開催された「Festival VISIONSONIC」に出演、映像と音楽のコラボレーションによるライヴを行いました。


SZAJNER / YRO from Yro on Vimeo.


 「レーザーハープ」について

 レーザー光線(弦)に触れる(遮断する)ことでしかるべき機器に信号が送られ、音を出すレーザーハープは、シャイネールの手により1981年4月に開発され、「シリンジ(Syringe)」と名づけられた第一号機は、まもなくして「6th Festival of Science Fiction and Imagination」なるイベントでお披露目されました。着想のヒントであり、ネーミングの元となったものは、アメリカのSF作家サミュエル・R・ディレイニーの長編スペースオペラ『ノヴァ』に登場する、聴覚だけでなく視覚や嗅覚にも訴える楽器「感覚シリンクス」。シャイネールが抱いていた視覚芸術や電子音楽への興味が、SF的イマジネーションと見事に融合を果たしたというわけです。


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 その後、ジャン・ミッシェル・ジャールがレーザーハープに目をつけ、シャイネールへコンタクトをとります。別のエンジニアによってデザインされたモデルがジャールの1981年の中国ツアーで初めて使用されて以降、その存在が広く知られたのはもちろんのこと、彼のコンサートの代名詞にもなり、複数のエンジニアによって改良が重ねられています。また、現在ではコントローラ/キットの販売や個人制作などの動きもあり、この画期的な楽器に興味を抱いた人々がそれぞれのレーザーハープを手にしています。そうそう、日本では平沢進氏が近年のライヴにおいてレーザーハープを使用していますね。

平沢進 INTERACTIVE LIVE SHOW 2013「ノモノスとイミューム」超接近! ライブ&機材レポート - イケベ楽器


【その他 参考】

SZAJNER mutant harmonies
Bernard Szajner/Biography
Bernard Szajner/[SYRINGE]
laserharp.org/[SYRINGE]

〔History of the Laser Harp〕
イギリスのレーザーハープ研究家であるスティーヴン・ホブリー氏のサイト。レーザーハープの開発の歴史がまとめられています。

BERNARD SZAJNER INTERVIEW by Andy Garibaldi
(from simplesoul.co.uk|2006.02 ※ Internet Archive)
照明家としての活動から音楽活動へ至るまでの話が中心。GONG、HAWKWINDのティム・ブレイクの名前がよく出てくるほか、音楽的に信頼のおける存在としてHELDONのリシャール・ピナスの名前も少し登場。

「On Second Thought Bernard Szajner」
(from Stylus Magazine|2007.07.24)

Interview Bernard Szajner
(from Stephen Hobley)
一般的質問、技術的質問、個人的質問の三つを行っており、氏のデザインしたレーザーハープの技術的な詳細、ジャン・ミッシェル・ジャール側とのコンタクトの話などが語られています。

Sound & Visions: Rockfort Interviews Bernard Szajner
(from The QUIETUS|2014.08.15)
『Visions Of Dune』リイシュー直後のインタビュー。カール・クレイグとの交流や、今後のヴィジョンなどを語っています。

Interview with Bernard Szajner
(from The Stranger|2015.06.03)
音楽的影響として、GONG、MAGMA、フランク・ザッパ、テリー・ライリー、KING CRIMSON、TANGERINE DREAM、KRAFTWERKなどを挙げています。

An Interview with Laser Harp Inventor/Dark Synth Prophet Bernard Szajner 
(from The Stranger|2016.03.15)
現時点(2016年3月)の最新インタビュー。

MAKE:PROJECTS Laser Harp
スティーヴン・ホブリー氏のディレクションによるレーザーハープ制作プロジェクト

Stephen Hobley - YouTube
ホブリー氏のYouTubeチャンネル。レーザーハープの概要やレクチャー動画などがアップされています。


2016年3月22日火曜日

軽やかな技量とセンス、変幻自在のツインキーボードプログレユニット ― NEO-ZONK『Luminous』(2015)

Luminous
Luminous
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Neo-Zonk
Neo-Zonk (2015-12-01)
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 大沼あい長﨑祥子の二人のキーボーディストを中心とするプログレッシヴ・インストゥルメンタル・ユニット NEO-ZONKのデビューアルバム。前身となったのは、2008年に大阪で結成されたZONK-MONK。現在と同様にツイン・キーボード&ドラムスのスタイルでライヴ活動を展開していましたが、各メンバーのスケジュールの調整の難しさから2014年6月に活動を休止。その後、大沼、長﨑の両氏が拠点を東京に移し再始動。吉祥寺シルバーエレファントなどを拠点にコンスタントなライヴ活動を続けながら、2015年の暮れに7曲を収録した本作『Luminous』がリリースされました。ドラムスには鎌田紘輔氏(溺れたエビの検死報告書、ストロベリーソングオーケストラ、ex CROSS VEIN etc)を迎えたトリオ編成でのレコーディングで、大沼さんが4曲、長﨑さんが3曲の作曲を担当しています。流麗なピアノ・インストから、変拍子バリバリのキーボード・プログレ、鋭い立ち回りのテクニカル・ジャズ・ロック/フュージョンはもちろんのこと、シンフォニックなアレンジも存分に効いており、プレイヤーとしての技量とコンポーザー/アレンジャーとしてのセンスを両面から追求するような作風です。また、ZONK-MONKが2011年にリリースした3曲入りEPの収録曲がすべて再録されてもいます。"U.T. - a hole in danger -"はオルガンが小気味よく転がるミドルテンポチューンかと思いきや、オーケストラアレンジのカットインで一転して激しい展開へとなだれこむ、意表を突いた仕上がり。"Into the Green World"は9分半にわたりじっくりと聴かせるオルガン/ピアノ ジャズ・ロック。 "Disorder - Out of the cosmos -"はもともとギタリストをゲストに迎えてのネオクラシカル調のプログレッシヴ・メタルでしたが、キメの多い展開はそのままに、キーボードとドラムの白熱のバトルが繰り広げられるスリリングな一曲。ギタリストのみならず、近時のライヴではヴァイオリニストを迎えた編成になることもあり、カラフルな音像が今後どのように発展していくのか、関心が注がれます。





http://neo-zonk.wix.com/neo-zonk-site

2016年3月21日月曜日

マイク・パットンの共同主宰レーベル「Ipecac Recordings」の公式bandcampアカウントが今年1月に開設


 1999年にグレッグ・ワークマン(Duh!)と、マイク・パットン(FAITH NO MORE etc)が設立したインディペンデント音楽レーベル「Ipecac(イピキャック)Recordings」今年1月28日付けのニュースリリースで、同レーベルのオフィシャルbandcampアカウントが開設され、レーベル所有のカタログのデジタルダウンロード購入が可能になりました。FAITH NO MOREやFANTOMAS、Tomahawk、Peeping Tom、tētēmaなどのマイク・パットン関連バンドや、マイクのソロ/サウンドトラックワークスをはじめ、MELVINS、Eagles of Death Metal、Le Butcherettes、ISIS(the band)など、2016年3月末現在、数十アーティスト/バンドがラインナップされています。以下にカタログの一部をウィジェットで貼り付けましたが、ほかにもこんなものやあんなものも聴けます。要チェックですよ!

https://ipecacrecordings.bandcamp.com/

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▼FAITH NO MORE


▼FANTOMAS


▼Tomahawk


▼Peeping Tom


▼tētēma


▼Mike Patton(Solo)


▼Le Butcherettes


▼ISIS


▼The Fantomas Melvins Big Band


▼Eagles of Death Metal


▼MELVINS


▼King Bozzo (Buzz Ozborne[MELVINS])


▼Zu


▼Mark Lanegan


▼Kaada


▼Hella


▼GUAPO


▼eX-Girl


▼Yoshimi and Yuka

Yoshimi P-We(BOREDOMS、OOIOO)と本田ゆか(チボ・マット)のユニット

▼Flat Earth Society


Aperture Science Psychoacoustic Laboratories(Mike Morasky) 『Portal 2: Songs to Test By (Collectors Edition) 』
『PORTAL』『PORTAL 2』サウンドトラックをセットにしたCD4枚組コレクターズエディション。Ipecacから2012年末にリリースされたのです。

▼Ennio Morricone『Crime and Dissonance』
エクスペリメンタル・ロック・バンド SUN CITY GIRLSのアラン・ビショップのセレクトによるCD2枚組ヴォリュームのエンニオ・モリコーネ作品集。

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 また、ノルウェーのコンポーザー ジョン・エリク・カーダと、マイク・パットンによるユニットKaada/Pattonの約12年ぶりとなる新作アルバム『Bacteria Cult』(4月1日リリース)のプレオーダーも受付中。冒頭曲も聴けます。



http://ipecac.com/

2016年3月19日土曜日

音の渾沌が全てを呑みこむエピックプログレッシヴメタル ― Mysterious Priestess『夢国ノ義士』(2015)

夢国ノ義士
夢国ノ義士
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MYSTERIOUS PRIESTESS
KICKSTART RECORDS (2015-08-05)
売り上げランキング: 82,171


 日本のハイブリッド・プログレッシヴ・メタル・バンド Mysterious Priestess。2010年に結成され、2012年にアルバム『Agency of Fate』でデビュー。その後、2013年に「Metal Battle Japan」で優勝を果たし、世界有数のヘヴィメタルフェス「ヴァッケン・オープン・エア」へ出演。さらにアメリカのThe Facelessのワールドツアーに帯同する形で台湾ツアーを行うなど、飛躍の年とします。その勢いのまま、二作目となるアルバムのレコーディングに突入。フロントマンである小金丸慧(g, vo)を筆頭に、山田友章(g)、藤岡久瑠実(kbd)、秋元修(ds)のラインナップのもと、2015年の夏に満を持してリリースされたのが本作『夢国ノ義士』。日本神話をベースとしたコンセプトはそのままに、シンフォニック・メタル、メロディック・デスメタル、プログレッシヴ・メタルをぶつけ合い、さらにポストロック、ニューエイジ、コンテンポラリージャズなどの要素も流し込まれた、まさに「渾沌」と形容するにふさわしい音楽性はさらに拡大の一途をたどっており、どこまでもスケールを押し広げるような姿勢は圧倒の一言です。

 メンバーそれぞれの音楽的影響元は、一部重なりあいながらも、異なる色合いをみせており、バンドのユニークな音楽性を裏づけてもいます。ライナーノーツのメンバープロフィールでは、小金丸氏はWINTERSUNやENSIFERUMなどのヴァイキングメタルを、山田氏はCYNICやMESHUGGAHなどのエクストリーム・プログレッシヴ・メタルを、藤岡さんはMr.SiriusやKENSOなどのプログレッシヴ・ロックを、秋元氏はティグラン・ハマシアンや菊地成孔などの新世代ジャズを挙げております。また、小金丸氏と藤岡さんの二人は植松伸夫氏の名前も挙げており、ゲームミュージックからの影響もやはり強いのだなと納得いたしました。ちなみに藤岡さんは、「フェアリーフェンサー エフ ADVENT DARK FORCE」「新次元ゲイム ネプテューヌVII」の一部楽曲にヴォーカルやアレンジャーとして参加されており、プログレッシヴ・ロック・バンド Mr.Siriusの元メンバーにして、現在は植松伸夫氏率いるEARTHBOUND PAPASに在籍されているドラマーの藤岡千尋氏の娘でもあります。





 アルバムは、音響的趣向と民謡的なヴォーカリゼーションによる"開闢""終焉"をイントロダクションとエンディングに配し、「ロールプレイング・ゲームのような雰囲気」(小金丸氏インタビューより)をもった冒険活劇世界を展開する全7曲。ヴァイオリンやフルート、ヴォーカリゼーション/モノローグも交えたポストロック調の"産霊ノ追憶"はツインドラム編成(O.P.P.A.I.の伊吹文裕氏が参加)での録音でもあり、終盤ではアンサンブルが一気呵成とばかりに爆発します。"満願ノ夜明"はグロウルと大仰なオーケストレーション&コーラスで大上段に突き抜け続ける勇壮な一曲。10分を越えるタイトル曲"夢国ノ義士"はプログレッシヴ・ロックを明確に意識した、浮遊感と叙情性の強い大曲。終盤の二曲は、メロトロンサウンドと和の旋律を大々的にフィーチャーした"八岐ノ大蛇"と、万感のこもったサビの爆発力がすさまじい"草薙ノ剣"。ハッと目の醒めるような美しさも伴ったダイナミックなキラーチューンの連発で、ガッチリとつかんで離しません。

 本作リリース後のバンドの動向ですが、全15都市ツアー後、2015年12月をもって山田氏が脱退。後任に國武晏吏氏(ex.isolutions、Cyclamen[support])が迎えられております。また、今年3月頭には、ミストウォーカー開発のスマートフォンアプリRPG「TERRA BATTLE(テラバトル)」のクエスト「囚われのゴーレム」に"夢国ノ義士"がタイアップ曲として使用され、間をおかずして、各国のiTunes Storeでのアルバムの配信も始まりました。今後のさらなる活躍から目が離せません。





Interview:Mysterious Priestess
(from 激ロック|2015.08.08)

http://mysteriouspriestess.web.fc2.com/
https://www.facebook.com/MysteriousPriestess/

2016年3月18日金曜日

強者そろい踏みの超次元テクニカルフュージョン第二弾 ― The Pitts Minnemann Project 『The Psychic Planetarium』(2016)

 
 90年代なかばから00年代初頭にかけてアヴァンギャルド・メタル・バンド SCHOLOMANCEで活動。ジャーゾンベク兄弟のSPASTIC INKや、SUPER STRING THEORYなどのバンドにも参加し、現在はSCHOLOMANCEのベーシスト ジェリー・トワイフォードと共にコラボレーションプロジェクト The Fractured Dimensionを展開するキーボーディストのジミー・ピッツ。テクニカル・トリオのThe Aristocratsを筆頭に、自身のソロのみならず数々のバンドへのゲストやツアーサポート参加でフル稼動するドラマーのマルコ・ミンネマン。歴戦のプレイヤー二人が中心となって立ち上げられた The Pitts Minnemann Projectの、2012年のデビューアルバム『2 L 8 2 B Normal』以来となる新作アルバムが先日リリースされました。アルバムの一部制作資金調達のためにIndiegogoで立ち上げられたクラウドファウンディングはすでに目標を達成しており、同キャンペーンページからCDのオーダーを受付中。また、ジミー氏のbandcampアカウントでアルバムのダウンロード購入も可能です。




 前作では数十秒~数分程度の短めの尺の楽曲が20曲以上にわたり収録されていましたが(おそらくマルコが録り溜めたドラムマテリアルを軸にしたものと思われます)、今回は20分を越える大曲をふくむ全7曲。前作のゲストの一人でもあり、フレットレスギター奏者であるトム“ファウンテンヘッド”ゲルトシュレーガー(その後、ドイツのプログレッシヴ・デスメタルバンド OBSCURAに参加。現代は脱退)がバンドメンバーとして全面参加し、一段と強力極まる布陣に。そのほか、ヴァイオリン、サックス、トランペット、パーカッション、オーケストレーションアレンジでゲストを適宜迎えたことで、幅も広がっています。超次元テクニカルフュージョンの世界へようこそ。



https://www.facebook.com/pittsminnemannproject/
http://www.thefractureddimension.com/

2016年3月15日火曜日

実力派チップチューン・プログレッシヴ・メタラーの面目躍如たるソロ二作目 ― Danimal Cannon『Lunaria』(2016)



 アメリカ出身のギタリストにしてChiptunerである「Danimal Cannon」ことダニエル・ベーレンス。彼は数多くのゲームミュージックのアレンジ企画アルバムに積極的に参加し、ArmcannonMetroid Metalといったゲームミュージックのヘヴィメタルカヴァーバンドや、プログレッシヴ・メタル・トリオ Weaponexのメンバーとしても活躍。2011年にはロシアのチップチューンレーベル「ubiktune」より初のオリジナルソロアルバム『Roots』でデビュー。2013年にはカナダのChiptuner「ZEF」ことクリス・ぺナーとのコラボレーションによる、 Little Sound Dj(ゲームボーイ用ミュージックエディタ)を駆使したチップチューンアルバム『Parallel Processing』をリリース。コンポーザーとしての才覚も広く知らしめました。その後もubiktuneの総帥であるC-jeffのアルバムにプレイヤーとしてゲスト参加しているほか、近年はアプリゲームの楽曲の制作/アレンジなども手がけ、ますますアクティヴな活動を続けています。virt (Jake Kaufman)、norg (George Nowik)、Norin RaddCheap Dinosaursなど、プログレッシヴ・メタルとチップチューンの融合をスタイルとするミュージシャンやバンドは枚挙にいとまがないですが、ダニエル氏は先の面々と並ぶ第一線アーティストのひとりなのです。





 そんな彼が約5年ぶりに放つ完全新作ソロアルバムが本作『Lunaria』。アルバムの大まかなコンセプトは、彼が以前より関心を抱いていたという「ジャイアント・インパクト説」(地球に別の天体が衝突したことで月が生まれたという説)をベースにして、「Luna」と「Aria」を複合させた造語であり、月の擬人化の意味合いもふくめた「Lunaria」を掲げることで形成されています。チップチューンのスキマを密にフォローするハードエッジなギターリフや、ここぞというところでのメロディアスなソロにも注目です。その見事な証左ともいえるのが、チョップ&スパークする音の渦でアルバムのオープニングを飾る"Axis"。チップチューン黎明期において恐るべき技術とセンスを発揮した早熟の天才にして伝説のコンポーザー/アレンジャー ティム・フォリンへのラブレターでもある、というあたりも感慨深い。もう一通のラブレターは、「サイバーパンク・フィクションとハッカー文化」に対して捧げられた、ストイックな展開が極まるプログレッシヴ・チップチューン"Red Planet"。また、ハード・エレクトロ調の"Lunaria"、ラウンジ調の"Postlude"の二曲で女性ヴォーカリストのエミリー・ヤンシーをフィーチャーしているほか、"Surveillance"では(おそらく)ダニエル氏自身がヴォーカルをとっており、歌ものへの興味・関心がうかがえるところもポイントでしょう。ラストに収められた"Axis"のピアノソロヴァージョンは、『Roots』にもゲスト参加していたチップチューンピアニスト Shnabubulaことサミュエル・アッシャー・ヴァイスによる演奏。彼もまた、技巧とセンスを兼ねそなえた素晴らしき才人であることを付しておきます。




「Behind Lunaria」
(from ubiktune.com|2016.02.09)

Armcannon : Interview
(from chronicles of chaos|2008.10.05)

https://www.facebook.com/danimalcannonmusic
http://vgmdb.net/artist/3845

2016年3月12日土曜日

戸城憲夫(ZIGGY)、角田英之(有頂天)、長内悟 他『ダークキャット オリジナル・アルバム』(1990)

ダークキャット
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イメージ・アルバム 杉田勉 吉井ふみ子 笑美
EMIミュージック・ジャパン (1990-03-28)
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 朝日ソノラマ発行の《月刊ハロウィン》で1987年から1992年にかけて連載された木村直巳原作の伝奇アクションコミック「ダークキャット」(ハロウィンコミックス全10巻/ソノラマコミック文庫全5巻)。1991年には鈴木行監督/井上敏樹氏脚本、日活の製作によるOVAがリリース(浅野穣氏、石橋“ZUN”強氏によるサントラ盤はメルダックよりリリース)されておりますが、本作はその一年ほど前、単行本第5巻刊行まもないころにリリースされたイメージアルバム。本作にはコンポーザーとして長内悟氏(編曲ふくむ)、ZIGGYのベーシスト 戸城憲夫氏、有頂天の後期(1988年~1991年)キーボーディスト 「シウ」こと、角田英之氏が参加した、ちょっと珍しい顔ぶれの一枚。戸城氏はZIGGYよろしくのストレートなハード・ロック・チューン"MAD WORLD" "humaniZm 19××"など3曲を提供。また、角田氏は爽やかなポップチューン"Crystal Revolution"と、ウェットな歌謡バラード"Lonely Generation"の2曲をそれぞれ提供。また、長内氏はスローバラード"季節のない陽炎"、ハデなアレンジがキマるハードロックチューン"聖霊の太刀"、そしてダークなムードのインスト2曲"蒼ざめた魂へのレクイエム" "魔性"でアルバムのバランスをとっております。ちなみに、長内氏と作詞の紅玉氏は、同時期に放送されていた「NG騎士ラムネ&40」のサウンドトラックやキャラクターソングに携わったお二人。また、戸城氏と角田氏の楽曲の編曲はHeart Of Klaxon(尾崎豊のバックバンド)の元ギタリストである江口正祥氏が担当されております。ヴォーカルで参加された杉田勉氏、吉井ふみ子さん、笑美さんの3人の本作以降の活動は不明です。




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『ダークキャット オリジナル・アルバム』
[1990.03.28|TYCY-5133(CD)・TYTY-5133(CT)|東芝EMI/Futureland]

01. 季節のない陽炎
02. 聖霊の太刀
03. MAD WORLD
04. 蒼ざめた魂へのレクイエム
05. humaniZm 19××
06. Lonely Generation
07. 魔性
08. Crystal Revolution
09. ぬくもりの翳に

【作詩】
紅玉 ①③⑤⑥⑧⑨

【作曲】
長内悟 ①②④⑦
戸城憲夫 (from ZIGGY) ③⑤⑥
角田英之 (from 有頂天) ⑧⑨

【編曲】
長内悟 ①②④⑦
江口正祥 ③⑤⑥⑧⑨

【歌】
杉田勉 ①⑤⑨
吉井ふみ子 ③⑧
笑美 ⑥

原作:木村直己
(連載:月刊「ハロウィン」朝日ソノラマ刊)
プロデューサー:高塚俊紀
ミキサー:小幡幹男/天童淳/倉本淳二
構成・解説:白楽かりや
デザイン:DESK



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2016年3月10日木曜日

「F.E.A.R」のコンポーザーがかつて在籍したオルタナプログレバンド ― CHAOTIC REGIME『Period Double』(1995)

 FPSシューティング「F.E.A.R」シリーズや、「Condemned」シリーズなど、おもにMonolith Productions開発のゲーム作品の楽曲を手がけるコンポーザー Nathan Grigg。彼のキャリアは1990年代初頭にはじまり、1992年に大学を卒業後、奥さんのエリザベスが立ち上げたORCA Gamesに参画。デベロッパーのAlexandria(1992年設立/1996年解散)の開発作品の作編曲などを手がけており、1993年にリリースされたルーニーチューンズの「シルベスター&トゥイーティー」のメガドライブ用アクションゲーム「Sylvester&Tweety in Cagey Capers」のメインコンポーザーは彼でもあります(ORCA Gamesとしてのクレジット)。




 ここからが本題なのですが、この時期、彼はCHAOTIC REGIMEというシアトルのローカル・プログレ・バンドにキーボーディストとして参加。バンドは1995年に自主制作でアルバムを一枚残しており、バンドの元ギタリスト Bill Wolford氏が設立した音楽制作会社「Vivid Sound Productions」のbandcampアカウントでダウンロード購入可能。作風は、女性ヴォーカルをフィーチャーし、カラっと乾いたサウンドでひねくれにひねくれた展開を構築した、いわゆるレコメン系。いかにも米国インディープログレ感たっぷりの一枚です。



Nathan Griggs - mobygames
Nathan Griggs - IMDb

http://www.cdbaby.com/cd/chaoticregime

2016年3月9日水曜日

冴えわたるアレンジで踊るミネアポリスのミクスチャーロックバンド ― SOAP『Piece by Piece』(2012)




 アメリカのミクスチャーロックバンド SOAP。もともとはシカゴ南部で結成され、2007年にミネアポリスに活動の拠点を移し、現在も各地のフェスをサーキットしながら活動中のバンドです。本作『Piece by Piece』は、2006年作『Lather』、2011年作『What's in the Box』に続く三作目のフルアルバム。バンド自ら“Dance Infused Rock”を標榜。「LED ZEPPELINとP-FUNKのツーマン昼興行をDREAM THEATERで観たあとにアムステルダムのディスコで朝まで踊るイメージ」という絶妙な例え方をしていますが、ジャズ、ファンク、ブルース、ジャム、カントリー、サイケデリック・ロック、エレクトロ・ポップ、プログレッシヴ・ロックなどからの影響をバンバン投射して懐を広げまくった音楽性は、べらぼうに巧いアレンジセンスと、ライヴ指向の貫禄たっぷりのパフォーマンスを伴っており、ハッタリではない納得力があります。結果的に一級のオルタナ・プログレとしても成立してしまっているのがなんともユニーク。鮮やかに手を変え品を変えて聴き通させるバンドマジックに魅了されました。その後、バンドは2015年10月に四曲入りEP『Just a Moment』をリリース。そして今年の4月26日には通算四作目となる新作フルアルバム『The Life We Live』のリリースを予定しております。





http://soaptheband.com/
https://www.facebook.com/Soaptheband
https://www.youtube.com/channel/UCpCP0R2EtWro_C92zG72jBA

2016年3月8日火曜日

Redemptionのドラマーがマルチな才能を発揮した秀逸な初ソロ作 ― Chris Quirarte『Mending Broken Bridges』(2016)



 ロサンゼルスのプログレッシヴ・メタル・バンド Redemptionの約四年ぶりとなる新作アルバム『The Art of Loss』が、さる2月26日付けでリリースされたのですが、同作に十日ほど先駆ける形で、Redemption(2002年より在籍)のドラマーであるクリス・キラルテのソロアルバムが出ました。これ、本隊に負けず劣らず出来がよいです。昨年2月にkickstarterでサポートキャンペーンを立ち上げ、目標資金を達成。アルバムは10分越えの大曲3曲(うち"Half Life"は16分)をふくむ全8曲。クリスは本作ではドラムのほかにキーボード、そしてヴォーカル(!)も担当。しかもこれがうまいのです。PRIMARY時代から楽曲を制作していたほか、自宅スタジオでもじっくりとマテリアルを書き溜めていたとのことで、ソロアルバムを出したくなったというのも当然の帰結でしょう。楽曲は全体的にメロディアスな展開を重視しており、聴き応えも十分。また、アルバムにはRedemptionのフロントマンであるニック・ヴァン・ダイク(g)&バーニー・ヴェルサイユ(g)、ショーン・アンドリュース(b)に、クリスがRedemption加入以前よりフロントマンとして在籍しているプログレッシヴ・メタル・バンド PRIMARYの盟友 ショーン・エントリキン(g)を迎えているほか、プログレッシヴ・ロック方面からはENCHANTのエド・プラット(b)、ニール・モーズのバンドの右腕的存在であるランディ・ジョージ(g)、エリク・ノーランダーのRocket Scientistsのドン・シフ(stick)が参加し、手厚くサポートしております。


2016年3月6日日曜日

新居昭乃、松浦雅也 他『XAZSA(ザザ)イメージアルバム Your Own Personal Number』 (1995)

XAZSA〈ver.1〉 (コバルト文庫)
若木 未生
集英社
売り上げランキング: 1,204,406


 ギタリストの京平と、ザザと呼ばれる国家機密の機械人間(マシノイド)、その製作者である少女 優亜の出会いとそれぞれの葛藤を描いた、若木未生原作のアーバンSFファンタジー「XAZSA(ザザ)」。集英社コバルト文庫より1992年に『XAZSA ver.1』『XAZSA ver.2』の二巻、2000年に続編『XASZA メカニックスD』がそれぞれ刊行(以上の三冊は、現在Jコミで無料配信中)。また、1994年から1996年にかけて田村純子作画によるコミカライズ版が全三巻で刊行されております。本作はコミカライズ版二巻の少し前にリリースされたイメージアルバム&ドラマCD。ザザ役に石田彰氏、京平役に関俊彦氏、真砂役に草尾毅氏、シグマ役に結城比呂氏、ゼロ役に一条和矢氏がそれぞれキャスティングされ、小説本編のワンシーンを演じております。ブックレットにはキャストコメントのほか、若木氏による書き下ろし短編と田村氏による描き下ろしコミックも収録。


XAZSA(ザザ)
XAZSA(ザザ)
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イメージ・アルバム 安田尊行 新居昭乃 松澤由実 石田彰 結城比呂 草尾毅 関俊彦
EMIミュージック・ジャパン (1995-09-27)
売り上げランキング: 413,158


 若木氏のデビュー作である「ハイスクール・オーラバスター」のイメージアルバムでは、GRASS VALLEYの本田恭之氏やFENCE OF DEFENCEの西村麻聡氏らが参加していましたが、本作ではメインコンポーザーにPSY・Sの松浦雅也氏と、新居昭乃さん(作詞・ヴォーカルも担当)が参加。PSY・Sのライヴサポートメンバーであった堀越信泰氏が"BLIND RAIN"で、新居さんの手がける三曲では保刈久明氏がギターを弾いています。"銀の少年"はギターのスクラッチが小気味良いポップチューン。また、"BLIND RAIN"では、のちにヴィジュアル系ユニット Zillion SONICを結成するYASUこと安田尊行氏(現 SPACEY MUSIC ENTERTAINMENT代表)が、"Alone in the Light"では、のちに『機動戦艦ナデシコ』の主題歌"You Get to Burning"の歌唱でヒットを飛ばす松澤由美さんがそれぞれメインヴォーカルをつとめております。バッキングのシンセサイザーのシーケンスをそのままドラマパートにも引き継いだり、間奏でキャストのモノローグを重ねたりするなど、音楽パートとドラマパートのよどみない繋がりに工夫が凝らされており、さながらミニアルバムのヴォリュームでミュージカルを展開しているような印象があります。これがじつに有機的な趣向で素晴らしい。とくに、京平と第三のマシノイド シグマのやりとりが新居さんのクリアーなヴォーカルとファンタジックなバックの合間をぬって展開される"Silent Stream"は、シーンとBGMの盛り上がりが完全にシンクロしており、鳥肌が立つほどにエモーショナルな相乗効果が生まれております。本作のハイライトといえる一曲です。



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『XAZSA Your Own Personal Number』
[TYCY-5453|東芝EMI/Futuraland](1995.09.27)

01. The Number Of Yours
(作編曲:Apologizz)

02. BLIND RAIN
(作詞・歌:安田尊行/作編曲:松浦雅也)
including sampling scene of “winona”
(関俊彦/一条和矢/石田彰)

03. Silent Stream
(作詞・作編曲・歌:新居昭乃)
including sampling scene of “silence”
(結城比呂/関俊彦/石田彰/草尾毅)

04. 銀の少年
(作詞・作編曲・歌:新居昭乃)
including sampling scene of “solid sense”

05. 天使たちの行進
(作詞・作編曲・歌:新居昭乃)

06. Alone in the light
(作詞:田中みほ/作編曲:松浦雅也/歌:松澤由美)
including sampling scene of “AM 4:00”
(石田彰/関俊彦)

07. Scene Sampling on Rainy Day
(結城比呂/関俊彦/石田彰/草尾毅)

《CAST》
XAZSA【ザザ】……石田彰
早水京平……関俊彦
CIGMA【シグマ】……結城比呂
早水真砂……草尾毅
ZEHRO【ゼロ】……一条和矢

《Musician》
松浦雅也 (All Instrument ①⑥ / bass, drums, synthesizer ②)
堀越信泰(guitar ②)
保刈久明(guitar ③④⑤)
新居昭乃(synthesizer, programming ③④⑤)
坂元俊介(synthesizer manupilation ③④⑤)

《Staff》
Executive Producer:藤田純二 (YOUMEX)
Director:長尾徳子
M1・6・2 Recorded, Mxed at Matuura's Home.
M3・4・5 Recorded, Mxed at YOUMEX STUDIO /at Cherry Island Studio
M3・4・5 Mixed by 馬場和彦 (group DONE)



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本田恭之、西村麻聡 他『ハイスクール・オーラバスター オリジナルアルバム』(1993)
本田恭之 他『ハイスクール・オーラバスター オリジナルアルバム2 END OF SILENCE』(1994)

2016年3月5日土曜日

チュニジアン・プログレッシヴ・メタルの至宝が、揺ぎなき姿勢と一つの完成を見せた傑作 ― MYRATH『Legacy』(2016)

Legacy
Legacy
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Myrath
Nightmare Records (2016-02-12)
売り上げランキング: 6,000


 アラビア語で「伝説/Legacy」を意味する、チュニジアのプログレッシヴ・メタル・バンド ミラス。2001年に前身バンド XTAZYで数年間の活動を経て、2007年にMYRATHとしてアルバム『Hope』でデビュー。当時は選任ヴォーカリストがおらず(キーボーディストのエルイェス・ブシュシャがヴォーカルを兼任)、複雑に練りこんだ楽曲展開と各パートのテクニックに重点が置かれたものでした。まもなく、当時25歳だったザヒール・ゾーガティがヴォーカリストとして加入。その後、2010年から2011年にかけてチュニジアでは大規模な民主化運動(ジャスミン革命)が起こり、高まりをみせる「アラブの春」への機運に呼応するかのように立て続けに二枚のアルバム『Desert Call』『Tales of the Sands』をリリース。フランスのメロディック・パワーメタル・バンド HEAVENLY、FAIRYLANDのドラマーであるピエール・エマニュエル・デフレを迎えた三作目のアルバムはここ日本でもキングレコードより国内紹介されました。さらに「オリエンタル・メタル」のさきがけ的な存在であるイスラエルのORPHANED LANDとのツアーも展開するなど、シーンの旗手としての存在感も年々増してきております。

 本作『Legacy』は約5年ぶりの新作にして、通産4thアルバム。バンド名と同義のアルバムタイトルを掲げているところからも、彼らの意気込みのほどがうかがえます。レコーディングはフランスで行われ、ミキシングは名手 イェンス・ボグレンが担当。また、ドラマーはピエール・エマニュエル・デフレからモーガン・ベルテに交代しています。彼はADAGIOのステファン・フォルテのサポートや、フランス/チュニジア/西アフリカのメンバーで構成された実力派プログレッシヴ・メタル・バンド THE MARS CHRONICLESなど、あちこちでキャリアを重ねてきた手練。そのテクニックは折り紙つきです。

 正統派のプログレッシヴ・メタル・サウンドに中東民族音楽のエッセンスを惜しげもなく盛り込んでいくバンドのスタイルはデビュー時から一貫していますが、本作でそれが一つの完成を見たと断言したいです。スキあらばストリングス隊が切り込み、エキゾチックなコーラスとシンフォニックなアレンジがこれでもかと投入されるのはもちろん、全編にわたって濃密な熱気が立ちこめ、砂塵が吹きすさぶイメージをガンガン喚起させてくれます。ジャスミン革命からのインスピレーションを織り込んだ冒頭の"Jasmin" "Believer"の流れは決定的でした。「信じろ。そして進め」「歴史は続く」「君の勝利は永遠に生き続ける」といった、どこまでもポジティヴなメッセージが、ドラマティックな曲調とあいまって胸を打ちます。また、ゆらぎの節回しを効かせたザヒールのヴォーカルの朗々たる表現力は、"Nobody's Lives" "I Want to Die"のようなパワーバラードでさらに真価を発揮しています。チュニジア最高峰のプログレッシヴ・メタル・バンドの揺ぎなさをアピールするに余りある、ギッシリと詰め込まれた一枚です。




 余談になりますが、バンドがクラウドファウンディングで制作資金を募り、完成させた"Believer"のストーリー仕立てのMVはまことに素晴らしい内容であります。頭髪を剃ったことで大胆なイメチェンを遂げた(あまりの変わりように、てっきり新メンバーかと思いました)マレック・ベン・アービアがギターソロで「煙を弾いている」シーンだけで100000点あげたい。また、エンディングのクレジットには、BALANCE OF POWERをはじめ数々のバンドを渡り歩き、現在はILIUMで活動するランス・キングの名前もありますが、そもそも本作『Legacy』の北米圏でのリリースを受け持っているNightmare Recordsは彼が立ち上げたレーベル(昨年、設立25周年を迎えました)なのです。そういえば、数年前に同レーベルからリリースされたランスのソロアルバム『A Moment In Chiro』にはマレックがゲスト参加していたなということもふと思い出しました。

 最後に、製品として少し気になった点を。Nightmare Records盤を購入したのですが、"Jasmine"から"Believer"へとトラックが切り替わる際にシームレスな流れにならず、数秒ほどブチっと途切れています。どうもトラック切りに失敗しているように思えてなりませんし、興を削ぐ形になっているのがもったいない。キングレコードから3月23日にリリースされる国内盤では、そのあたりどうなるのかなと。


レガシー~遺産の伝承者
レガシー~遺産の伝承者
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ミラス
キングレコード (2016-03-23)
売り上げランキング: 36,244


Interview With Zaher Zorgatti, MYRATH:
“I think we brought something new to the metal scene”
(2016.02.22|metalshockfinland)

http://www.myrath.com/
https://www.facebook.com/myrathband/

2016年3月3日木曜日

DIY精神とポップセンスの胸躍る融合。スウェーデンのフォークトロニカ集団 ― WINTERGATAN『Wintergatan』(2013)


  スウェーデンのインストゥルメンタル・バンド ウィンターガタンのデビューアルバム。このバンドを紹介する前に、まず前身的バンドのDetektivbyrån(ディテクティヴビロン)について触れたいと思います。2005年から2010年にかけて活動を展開したDetektivbyrånは、グロッケンシュピールやアコーディオン、オルゴール、ドラムを主体としたトイポップ・トリオ。2006年~2007年にいくつかのシングル/EPと、2008年にアルバム『E18 Album』(シングル/EP収録曲の再録+α)、『Wermland』を発表(二枚とも、日本国内盤がP-VINEからリリースされております)。精力的なライヴ活動を展開し、スウェーデン本国の音楽賞へのノミネートもされるなど、これからの活動に期待がもたれていましたが、2009年2月にドラムスのヨン・ニルス・エマニュエル・エクストロームメンバーが脱退。残るマーティン・モリンとアンデルス・フランデルスでユニットとしての活動を続けるものの、翌年8月に活動停止がマーティンよりアナウンスされます。しかしマーティンは立ち止まることなく次なる作品の制作に取り組みはじめ、数年の雌伏を経て、2013年にWINTERGATANとして再出発を果たします。




 エレクトロ・ポップのシャープさやポストロックのダイナミズムも消化したことでさらにスケールアップしたサウンドは、まさにDetektivbyrånの正統進化ともいえるもの。バンド名よろしく、冬の時期に聴くとさらに真価を発揮する、澄んだ空気感とふんわりとした夢心地を兼ね備えた仕上がりです。琴線をつつくノスタルジックなサウンドの源泉にある煌びやかなポップセンスもさることながら、生活雑貨やタイプライターのタイプ音、映写機のシャッター音などを大々的にフィーチャーする姿勢からは、身近なものでも音楽は奏でられるという意気込みも伝わり、欲しい音がないなら自ら作ってしまうことも辞さないという旺盛なクリエイティヴィティもじつにまぶしいのであります。同年10月にはマカロニウエスタン meets サーフ・ロックなミクスチャーチューン"Tornado"をシングルリリース。また、12月にはテイチク/スマイルカンパニーより『Wintergatan』の日本国内盤がリリースされております。DVDが付属しているほか、前述の"Tornado"をボーナス収録したお得な内容。



Wintergatan(DVD付)
Wintergatan(DVD付)
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ウィンターガタン
Smile Company (2013-12-11)
売り上げランキング: 2,326


 バンドは2014年の後半よりライヴ活動が途絶えるのですが、その理由は、マーティンがオリジナル楽器の開発に着手し始めたため。制作の進捗状況はバンドのfacebookやYouTubeアカウントでこまめに報告されておりました。そして2015年12月、ついに完成。2016年3月1日付けでアップロードされた久しぶりの新曲で、その驚くべき全貌が明らかになりました。リールを回転させることで2000個のビー玉を次々に移動させ、ビブラフォンへ落下させることで音を奏で、同時にドラムのキックやベースのスラップの出音も可能というもの。日本では「ピタゴラ装置」でなじみの深い“ルーブ・ゴールドバーグ・マシン”のスタイルでつくりあげられたのが、このマルチ楽器「マーブル・マシン」なのです。





http://www.wintergatan.net
https://www.facebook.com/wintergatan
https://www.youtube.com/channel/UCcXhhVwCT6_WqjkEniejRJQ

2016年3月2日水曜日

この苦しみをアナタにも。オーストラリアの異種姦ジャズグラインドコア ― KURUSHIMI 『Kurushimi(苦しみ)』(2016)



 オーストラリア・シドニーのエクスペリメンタル・ジャズ・プロジェクト KURUSHIMI(苦しみ)のデビュースタジオアルバム。ジョン・ゾーンの考案したゲームスタイルによる即興演奏スタイル「COBRA」に共鳴するオーストラリアのミュージシャンからなる大即興集団「Violence in Action(ViA)」のいちメンバーであり、ベーシスト/コンポーザーであるアンドリュー・モーテンセンが、十代のころより構想していた「インプロヴィゼイションによるグラインドコア」を形にするべく、ViAの周辺メンバーとともに結成。影響元には始祖COBRAの他、PAINKILLER、BRUTAL TRUTH、NAPALM DEATH、SxOxB、ジョン・コルトレーン、オーネット・コールマン、チャールズ・ミンガス、ボアダムズなどを挙げております。2015年にプロジェクトの叩き台としてライヴ・レコーディング集『Live at The Record Crate』をリリース。同作をさらにブラッシュアップ(むしろデストラクション?)させたものが、本作『Kurushimi』です。サックスのメロウなブロウと、ヴァイオレンスなスピード感。フリージャズとグラインドコアを二本柱に、アンビエント、ダブ、ノイズ、エクスペリメンタル・ロックの諸要素をまぐわせた異種姦サウンドを展開。また、KURUSHIMIにはコンダクターのポジションが二名(バンドマスターのアンドリューと、GODWOUNDSのラクラン・ケール)いるところもポイント。ヴァイオレンスなカオスのなかで牽制し、制御し合うスタイルの妙が生まれております。基本的に楽曲は長尺ですが、わずか18秒のウルトラファストチューン"Dodomeki"は明らかにNAPALM DEATHへのリスペクトでありましょう。この苦しみを、ぜひアナタにも味わっていただきたい。

「KURUSHIMI – Revel in the anguish.」
(from AM FREQUENCIES|2015.09.30)
※インタビュー

https://www.facebook.com/viakurushimi
http://www.amfrequencies.com/

2016年3月1日火曜日

激しい叙情が染みいる、黄昏のプログレッシブハードフォークバンド ― 曇ヶ原『独言独笑』(2016)


https://soundcloud.com/kumorigahara

 かつてニューウェイヴバンド ピノリュックや歌謡ハードロックバンド ぐゎらん堂などにベーシストとして在籍していた石垣翔大氏によって結成された“日本語によるプログレッシブハードフォーク”バンド 曇ヶ原の1stアルバム。石垣氏の弾き語りソロユニットとして2010年6月より活動を開始した曇ヶ原は、2013年9月よりバンドスタイルへと発展。現在に至るまでコンスタントなペースで自主企画や対バンなどを行っております。また、初期には「例のK」(中学生棺桶の後身バンド)のヤミニ氏もギタリストとして在籍しておりました(その後、プログレッシヴハードコアバンド Emily likes tennisでも豪腕をふるうエンリケ後悔王子に交代)。






 本作『独言独笑』は全6曲。デモCD時代からの楽曲をふくめほとんどが7~11分に及ぶ長尺であり、タイトなリズム隊と暴れまくるキーボードが白熱の応酬を繰り広げるハード/プログレッシヴなパートと、黄昏た情景を喚起させるフォーキーなパートとが交互に展開される構成。変拍子アンサンブルのアグレッシヴな一体感に初期のKING CRIMSONやYESを、可変性に富みながらも時にハッとするような場面が到来する作風に、石垣氏が敬愛するプログレッシヴパンクバンド「痛郎」を彷彿とさせつつ、ふんだんに盛り込まれた展開をシームレスに噛み合わせていくバンドの手腕の巧みさも光ります。ハイライトは"うさぎの涙""砂上の朝焼け"といった大曲ですが、一方で、コンパクトな尺のなかで加速度的に起承転結が展開される"無風地帯"(石垣氏とエンリケ後悔王子の共作曲)も印象深いですし、ストレートな歌心をぶつけるピアノ主体のウェットなスロウバラード"雪虫"は、じんわりと染み入るラストを演出しています。




『独言独笑』

01. うさぎの涙
02. 午前三時
03. 無風地帯
04. 鉛色
05. 砂上の朝焼け
06. 雪虫


ジャケットデザイン:いとうかおす
録音・ミックス:ミツビシテツロウ(カタカナ)
マスタリング:中村宗一郎(ピースミュージック)
帯コメント:井手宣裕(痛郎)


《公式サイト》
http://kgh.lix.jp/
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